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プロポーズ
しおりを挟むあれから、桜田くんはすぐに仕事を辞めた。
突然の退職でみんなは驚いていたけれど、私だけが理由を知っている。
でも誰にも話すことはない。
隼人にも、彼は仕事をやめたから、これ以上するのはやめて欲しいと伝えた。
「美羽は優しいな」なんていいながら、今のところは言うことを聞いてくれている。
今のところは……。
そして私たちはというと……。
「美羽は明日結衣ちゃんと表参道でランチだっけ?」
「なんで知ってるの!?」
「なんでって、メッセージ見てるから」
「もう~隼人!」
相変わらず、隼人は私の私生活を全て頭に入れている。
もう、治らないと知っているし、それも彼の愛情表現なんだと思って私も受け入れている。
「男紹介されたら帰るって言うんだよ」
「もう、隼人と付き合ってるって結衣ちゃんには言ったからそんなことされないって」
「でも俺、結衣ちゃんに嫌われてるし」
「たぶんこのこと話したら別れなって言われると思う」
「別れる?」
「なんでそんなこと聞くの!」
私が口を尖らせると、隼人はにやりと笑った。
「美羽が意地悪言うから意地悪返しただけだよ。別れるなんて俺が許すわけないだろう?」
いつも通りの隼人で安心した。
「そういえば、今週の日曜日ってあけられる?」
「うん、もちろんだよ」
「じゃあ久しぶりにお出かけに行かない」
「本当に!?」
久しぶりのお出かけだ。
隼人は桜田くんの件があってからも、ちょくちょく家をあけていた。
大丈夫だと思いつつも、そのことはいつも引っ掛かっていて、でも聞けないまま。
日曜日、ゆっくり過ごせるならいつもどこに行っているのか聞きたいって思ってる。
そして日曜日。
「いい天気……」
ガラっとカーテンを開けるとよく晴れていた。
お出かけ日和だ。
今日は何をするつもりなのか、ワクワクしていた。
しかし……。
「隼人、まだ行かないの?」
「うん、もう少し家でゆっくりしよう」
彼は午後になってもなかなか出かける様子がなかった。
けっきょく日が暮れるまで家でゆっくりと過ごし、ようやく隼人が切り出す。
「そろそろ行こうか」
こんなに遅い時間から何をするつもりだろうか。
車に乗って、助手席に乗る。
「どこに行くの?」
そう聞いたけれど、隼人は教えてくれなかった。
私は、検討がつかず黙って車に乗っていた。
車を1時間ほど走らせると、彼は薄暗い森の中に車を停車させた。
「着いたよ」
周りは街灯がなく、暗くてよく見えない。
でもなんとなく、どこの場所なのか検討がついた。
「もしかしてここって……」
「分かった?」
私たちは車を降りる。
天井は満天の星空が広がっていた。
ここは、前私と隼人が来た長野の星が見えるところだ。
でも隼人はここには用がないみたいで、そのまま素通りすると私の手を引く。
あれ……?
「こっちだよ、美羽。足元気を付けてね」
せっかく来たのに、星は見ないのかな。
私の手をそっと引きながら、案内する。
隼人に案内されながら、3分ほど歩くと街灯がついていた。
その目の前には大きな家が建っている。
「美羽、入って」
隼人は扉をあけながら、私を誘導する。
家……?
コテージかな?
「どうしたの、ここ……借りたの?」
「借りたというか……買ったんだ」
「えっ!」
私は目を丸めた。
「ほ、本気なの?」
私が目を丸めると、隼人はニコっと笑った。
「本気だよ。今日からここが俺たちの家だ」
前に隼人が言っていた。
私が大学生の時、星の見える場所に住みたいと言っていたこと。
それを覚えていて、買ってくれたってこと……?
「なかなかいい条件のところがなくて、時間がかかっちゃったけどやっといいところ見つけたよ。屋上から星が見れるようになってるんだ」
隼人は私の手を引き、屋上に連れていく。
今でも信じられない。
この家を本当に買ったなんて……。
「じゃあ最近ずっと留守にしてたのって」
「そう、家を見に行ってたんだ。寂しい思いさせてごめんね」
そうだったんだ……。
良かった。
誰か他の女の子のところに行っちゃったわけじゃなかった。
モヤモヤした心が一瞬にして晴れていく。
屋上に出ると、机とイスが並べてあってそこに座りながら星が見られるようになっていた。
「キレイ……全部が見渡せる」
「そう。木とかが入らないようにしたいって要望しててやっと見つけたんだ」
キラキラと光る星。
あまりにキレイで涙が出そうになった。
「こんな素敵な家を本当に買っちゃうなんて……」
「欲しいね、なんて言ってるだけじゃ恰好つかないだろ?」
隼人には驚かさせることばかりだ。
私が歓喜余って話せなくなっていると、隼人はその場にひざまずく。
「隼人……?」
「美羽。結婚してください」
そしてまっすぐな言葉を私に向けてきた。
「すぐにとは言わない、美羽の準備が整ったからこの家でふたりで暮らそう」
2回目のプロポーズの言葉。
最初は怖くて、逃げ出してしまった。
彼のことを受け入れることは出来ないと思っていたけれど、今は違う。
隼人が隣にいてくれないと、私の人生は成立しない。
私もまっすぐに隼人の顔を見つめて答えた。
「はい……」
だって私の隣には隼人が必要で、側に隼人がいないとダメだから。
「ねぇ、美羽。俺の重たい愛も全部受け止めてくれる?」
「うん」
だってそれが隼人なんだって分かったから。
そして、私も隼人のその愛がないと不安になってしまうと気づいたから。
どっちもどっちで、けっきょく側に隼人がいてくれればそれでいいんだと思った。
「愛してるよ、美羽」
「私も……隼人のこと愛してる」
隼人が私の左手の薬指に指輪を付けてくれた。
「すごい、キラキラしてる」
「美羽と同じくらい輝いてるダイヤの指輪にしたかったんだ」
「私、そんなに輝いてないよ」
「俺から見たら輝きすぎて眩しいくらいだよ」
「もう……っ」
隼人の顔がゆっくりと近づいてくる。
私がそっと目を閉じると優しいキスが落ちてきた。
これから、私たちは私たちなりの愛を築いていく。
どんなに周りに否定されても、気味悪がられても…….
私たちはふたり向き合って生きていくだろう──。
「葉山美羽さん、あなたは病める時も健やかなる時も森山隼人さんを愛し続けることを誓いますか」
「誓います」
「森山隼人さん、あなたは病める時も健やかなる時も葉山美羽さんを愛し続けることを誓いますか」
「はい、永遠にどんなことがあっても誓います」
END
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