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会社での評価
しおりを挟むあれから1週間が経った。
営業部の社員の間で佐伯くんは、爽やかで感じのいい人という扱いだそう。
まぁ元々人辺りいい人だったし、そう思われるのも分からなくないけれど、この人がクズ野郎なんだってことはみんな知らない。
それに……。
「次の場所に移動するから」
「了解」
教育係として、彼とふたりで外周りに行かなくてはいけない日が続いており……正直ストレスが溜まる。
彼が運転をしながら、ぼやく。
「案外楽勝だな~この会社の営業」
彼の軽口は不快になるものが多い。
昔の私は彼のどこを好きになったのか。
男を見る目がなかったとしかいいようがない。
「そうやって思ってる人間に結果はついて来ないものよ」
「はいはい、相変わらず真面目だなぁ美和は」
私が助手席で冷たくそう返すと、彼はにやにやと笑いながらこちらを見た。
「あのさ、佐伯くん」
「はい?」
「ずっと思っていたのだけど、馴れ馴れしく名前で呼ばないで」
私は淡々と言い放った。
会社で名前でなんか呼んで欲しくない。
しかも私は上司だ。
仕事中は上司と部下の関係。
上から言うつもりはないけれど、それくらいは守ってほしい。
「えーいいじゃん別に。二人きりの時くらい」
彼は不満そうに口を尖らせる。
信号待ちで車が止まった時、彼はこちらを向いた。
「なんだよ、やっぱりあの時のこと怒ってるのか?悪かったって。謝るからさ……前みたいに仲良くやろうぜ」
彼はそう言うと、私の肩に手を置いた。
その馴れ馴れしい感触に全身の血が逆流するような不快感に襲われる。
「やめて」
──パシン。
私はその手を強く振り払った。
「なんだよ、あんだけ優しくしてやったのにさ」
優しく……ね。
この男の中では、私に優しくしたつもりでいるのか。
そりゃ話が通じるはずもない。
この男にはなにを言っても無駄なのだ。
私はもうなにも言わずただ窓の外を見つめていた。
その日の業務が終わり、私は帰り支度をしていた。
普段の業務にプラスして新人教育もあり、その相手が佐伯くんということもあり、かなり疲れを感じていた。
「はぁ……」
でもこれも今のうちだけだ。
彼が一人で動けるようになれば、関わりも減るだろうし……我慢しなければ。
課長という立場で仕事をしているのに、私情は挟めない。
会社のエントランスを出た時。
「お疲れ美和」
背後から馴れ馴れしい声がした。
振り返ると、そこに佐伯くんが立っていた。
最悪……。
思わず言葉に出してしまいそうなくらい最悪だった。
「せっかくだしさ、この後飯でもどう?昔話とかしたいじゃん」
変わらない笑顔を作ってそう言った。
昔話なんてしたくもない。
思い出したくもないのに。
「行きません」
「えっ」
「昔話なら誰か別の人とでもしてください」
私がそう言ってその場を立ち去ろうとした時、ぐいと強く腕を掴まれた。
「待ってよ、美和」
彼の声はまっすぐに私を見つめて言う。
「本当はさ、あの時のこと……後悔してたんだ。まさか美和に会うって思ってなくて、あんな別れ方しかなかったけど……本当は美和を選ぶっていう選択もあったんだ。それくらい俺はお前のこと大事に思ってた」
大事に思っていた?
そのあまりにも身勝手な言葉に笑いさえこみ上げてくる。
「どこの女が既婚者の男から、大事に思ってたって言われて喜ぶんでしょうね」
過去、傷つけられたあの日。
彼を既婚者だと知った時は、本当にショックで同時に自分の愚かさも呪った。
思い出したくもない過去を強制的に思い出さないといけない今、この時間が不快で仕方ない。
「業務以外で二度と私に話しかけないで」
私はそれだけを言い残し、足早にその場を立ち去った。
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