唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~

専攻有理

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第1章 異世界での目覚め

9 出会いと初めてのたたかい Ⅲ

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「……ツヴァイ、さん」
 教えた自分の名を呟く少女の声を背にしながら、ゴブリンと対峙する椿井の脳内は混乱を極めていた。
 当初の予定では既に少女を連れて緑色のゴブリンの死角をついた脱出ルートを走って逃げているはずだった。
 だが、現状、椿井はを構えて大量の青ゴブリン達と対峙し、まるでこれから本格的に戦闘を始めるかのような雰囲気になっていた。
 こうなってしまった理由は2つある。
 1つは少女の魔法の杖が奪われたことで状況が一気に悪くなって、ゴブリン達の隙を突く余裕が無くなってしまったこと。
 そしてもう1つは、武器を手に入れたことで逃げる以外に戦うという選択肢が増えた上に少女の危機的状況を目にして思わずその武器を鞘から抜いてしまったからだ。
 その2つの理由から椿井は考えていた逃走プランを鞘と共に投げ捨て、少女を助けるため青ゴブリンに突撃し、一時的にではあるが少女を守ることに成功した。
 完全に結果論ではあるが、今のところ椿井は致命的な失敗はしていないように思えた。
 だが。
 ……これから、どうする?
 この先が問題だ。と、突撃の興奮と混乱が落ち着いてきた頭で椿井は思考を始めた。
 現状はハッキリ言ってあまり良くはない。
 1体の青ゴブリンにダメージを与えたとはいえ、残りの青ゴブリン達は無傷であり、遠くにいる緑ゴブリンが命令すればすぐに襲ってくるだろう。
 幸いにも緑ゴブリンがいきなり現れた人間の存在を警戒してか命令を出していないが、このこうちゃく状態は一時的なもので長くは続かないと椿井は感覚的に察することができた。
  故に椿井は迅速に選択をしなければならなかった。戦うか逃げるかの選択を。
「……」
 可能ならば逃げる選択肢を選びたい。と椿井は強く思ったが、同時にそれは不可能だろうとも考えた。
 椿井の逃走プランはゴブリン達に自分が認識されていないことを前提にしたものであって、立ち合ってしまった今、その方法で逃げ切れる可能性は極めて低かった。
 ……こうなったら戦うしかないのか、で。
 野生の熊と戦うような絶望感を抱きながら椿井は少し視線を落として自分が手にする武器に目を遣り。
 ……まったく何で異世界でがドロップするんだよ……。
 わけがわからないよな。と、木の上から突然落ちてきた武器、日本刀の切っ先を眺めながら心の中でため息を吐いた。
 ……これが銃とかならきっともう少し……いや、現状はこれしか武器が無いんだ。この日本刀でどうにかするしかない。
 それによく考えれば扱いが難しい筈の日本刀を素人の自分が使って切れ味の鋭さを発揮できたのはかなりおかしい。だから、この日本刀は本物ではなく異世界物でよくある何でもスパスパ切れてこぼれもしないマジカル日本刀の類いであると思って使うべきだろう。と、椿井は自分の武器の分析をしつつ緑ゴブリンが行動を起こす前に先手を打つことにした。
 ……よし、それじゃあ、日本刀を振り上げて────絶叫するビーバーみたいにこれでもかってぐらい大声を出してみるか。
 武器を振り回し、大声を上げて威嚇する。それは知能の低い野生動物相手には効果がある時もあるが、知能が高そうな緑ゴブリンと知能が無さそうな青ゴブリン相手に効くかは微妙なところだと思いながらも椿井は戦闘を避ける最後の手段として大声を張り上げようとした。
 だが、その瞬間。
「────カバーに入らせてください……!」
 まったく想定外の人物から妨害を受けて声を掛けられ、椿井は声を出すタイミングを失った。
 ……え?
 椿井が驚きながら視線を横に向けると、そこには自分が助けた少女が立っていた。
 フードの少女は体力が回復したというわけでもなく先ほどまでと変わらず疲れ果てていたが、その目には希望の光が灯っていた。
「剣術のバックサポートは授業で習ったぐらいしか経験はないですけど槍術のサポートなら実戦経験もあります。絶対にお役に立てます……!」
 そして、椿井の戦いのサポートをしたいと少女は言ってきたが。
「……」
 肝心の椿井は少女の手に握られているモノに意識を向けてしまったため、その話をあまりよく聞いていなかった。
 少女が手に持っていたモノ、それは。
 ……これ、だよな? 予備があったのか? いや、でも……。
 つい先ほど巨大な虫に奪われた杖とまったく同じ杖だった。
 フードの下に隠していたとも思えない大きさの杖をいつの間にか少女が持っていることの不可解さに椿井が眉を寄せると、その椿井の表情を見た少女は少し気まずそうに視線を落とした。
「ご心配はわかります。リアの実力は全然ですから。けど、絶対に邪魔だけはしません。リア、とんでもなく強い人のサポートをするの、得意なんです」
 だから、お願いします。と、とんでもなく強い人のサポートをしたいという少女の言葉を聞いた椿井は2本目の杖からいったん意識を外し、少女の発言に対しての返答を考え始めた。
 ……ええっと、つまりこの子はサポートが得意なのか。うん、それは何となくわかる。さっきの魔法とかそんな感じだったもんな。けど……。
 そして、椿井は少女の顔をじっと見つめ。
「そのとんでもなく強い人ってのはどこにいるんだ……?」
 彼女の言葉の中で特に理解できない部分を訊ねた。
 少女が今サポートしようとしているとんでもなく強い人の姿を椿井は認識することができずにいた。なので、その人物がそれこそ魔法とかで姿を隠しているのなら今すぐ姿を現して助けて欲しいのだが……? という意味合いを込めた視線を少女に向けた。
 すると。
「え?」
 少女は椿井に心の底から信頼しきった瞳を向けながら、首を傾げ。
「ん?」
 椿井は椿井で、少女が今出会ったばかりの自分にまるで最愛の家族に向けるような信頼と愛情の籠もった表情を浮かべている理由がわからず、首を傾げ。
「……?」
「……?」
 2人は首を傾げたまま、しばらくの間、バカみたいに見つめ合っていたのだが……。
「────!」
 ……って、マズい……!
  自分たちが隙だらけなのはもちろん、その上かなり愚かなことをしている事に気づいた椿井が少女から視線を外し、遠くの岩場に目を向けた。
 今、椿井と少女はゴブリンとの戦闘中である。
 そして、当然、向こうからしてみれば2人の人間との戦闘中であり、その人間が武器である日本刀を片手で振り上げるために持ち直したり、奪ったはずの杖と全く同じ杖をどこからか取り出し構えているのだ。
 それはどう考えても……。
 ……こっちが完全に攻撃態勢を取ったように見えてるよな……!
 と、椿井が危惧した通り、遠くの岩場から椿井達の様子を窺っていた緑ゴブリン達は完全に興奮状態になっており、椿井と視線が合った瞬間。
 ────絶叫した。
 それはもう鳴き声とは言えない、獣の咆哮だった。
 そして、その叫びと同時に近くにいる青ゴブリン達が一斉に動き出した。
 緑ゴブリンの指示内容を椿井は理解することができなかった。だが、その叫びからは、殺すまで戦え……! と言っているような気迫が感じ取れた。
「……!」
 ……マズい、マズい、マズいマズい……!
 もう椿井には悩む余裕も考える猶予も残されていなかった。
 先ほどよりも更に速くなった動きで近づいてくる青ゴブリン達が接触するまでの時間は本当に僅かなものだと推測できた。
 そして、自分にできることは少女が生き残る可能性を少しでも増やすために1体でも多くの青ゴブリンを倒すこと以外ないと覚悟を決めた椿井は、早すぎる2度目の死がすぐそこに迫っていることを感じながらも臆することなく強く刀を握り締めた。
「……っ!」
 そんな絶望的な状況の中。
 どこからか、何の前触れも無く。 

「────いかずちよ、切り裂け。地上の綺羅きらぼしを守るために」
 
 声が響いた。
 ……え?
 願いと祈りを込めた呪文のようなその言葉が聞こえてきたのと同時に。
 
 天から落ちる雷が、大地をはしってきた。

「……!」
 森の木々を引き裂き、真横から趨ってきた雷が4体の青ゴブリンを呑み込み、その青ゴブリン達は一瞬で焼失した。
  そして、雷光に遅れて轟音が響き、オゾンの匂いが漂う中。
「──」
 真っ白の服に身を包んだ、1人の少女が椿井達の前に現れた。
 白銀の髪と宝石アメジストを連想させる紫色の瞳を持ち、銀に輝く槍を携えるその少女は、生き残るために懸命な姿を見せたフードの少女とは違い、神秘的で現実味を感じさせない不思議な雰囲気の少女だった。
「……」
 その白銀の少女は帯電する銀の槍を軽く振った後、椿井とフードの少女の方を見て。
「生きてる?」
 と、独り言のようにポツリとそんな言葉を呟いた。
 それは2人に、というよりフードの少女に向けられた言葉であり、その事に気づいたフードの少女が頷くと。
「そう」
 白銀の少女は安堵するように息を吐き、その後、チラリと椿井に視線を向けてから。
「すぐ終わらせてくる」
 まるで散歩に行くような軽い足取りで、残ったゴブリンの群れへと向かっていった。
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