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第2章 この世界を生きる人々
17 悪役令嬢(偽)
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夕暮れ時の穏やかな時間をぶち壊す、おーっほほほ! というお嬢様の声。
人の温かさや夕方の優しい雰囲気からこの異世界の街に憧れの昭和の匂いを感じていたツヴァイは、そんなノスタルジックな気分を完膚なきまでに叩き潰してくれた人物の顔ぐらい見てやろうとその声のする方へと足を進めた。
ただ、そのツヴァイの行動は本気で怒ったからというわけではなく、物見遊山、軽い気持ちからの行動だった。だから、ツヴァイはのんびりとリラックスしながら街を歩き。
「……おお」
辿り着いた先で全く想像していなかった光景が広がっていたことに驚き、目を丸くした。
ツヴァイが辿り着いた場所にはものすごい人だかりができていたのだ。
おーっほほほ! と言ってるお嬢様はこの世界の有名人か何かなのか? と思いながらツヴァイがその人だかりの中を覗くと。
「────」
大きなフード付きのマントを着た見覚えのある少女が誰かと向き合いながら申し訳なさそうに顔を伏せていた。
……っ!? リア……!?
共にゴブリンと戦った金髪碧眼の少女、リアが何故か人だかりの中にいたため、ツヴァイはすぐに彼女に声を掛けようとしたが、その直前にリアと向かい合っている人物の姿がツヴァイの視界に入り。
「な……」
……悪役、令嬢……。
一目見ただけでそう思ってしまうようなオーラを放つ人物がそこに立っており、ツヴァイは驚きから言葉を失った。
腰まで伸びる金の髪に綺麗な青い瞳が特徴的で、スタイルもいいその悪役令嬢はリアを見つめ、真剣な表情を浮かべていた。
……これは、いったいどういう状況だ?
この悪役令嬢とリアの間に何かトラブルでもあったのか? 同じ制服を着ているし学園がらみだろうか? というようなことを考えながらツヴァイが何か情報が転がってないだろうかと辺りを見渡すと。
……ん?
ツヴァイは悪役令嬢のすぐ後ろに2人の少女が立っていることに気がついた。リアよりも年下に見えるその2人は髪の色こそ違うが、顔や体型はそっくりで双子の姉妹であると推測できた。
あの双子は悪役令嬢の付き人か何かだろうか、とツヴァイがその双子の正体を推測している間に双子の片方がその手に持っているスピーカーのような機械のボタンを押した。
すると。
『おーっほほほ……!』
聞き覚えのあるお嬢様ボイスが大音量で再生された。
『おーっほほほ……!』
しかも連打したのでもう一回再生された。
「……」
……いや、本当にどういう状況だ?
リアと悪役令嬢の表情を見る限り、かなり真面目な場面に思えるのだが、双子の姉妹がおーっほほほ! ボタンを連発してるのがあまりにも無秩序であったため、ツヴァイが状況を掴みかねて困惑していると。
「────リアさん」
ツヴァイがここに来てから初めて悪役令嬢が口を開き、おーっほほほ! ボイスと同じ声でリアとの会話を始めた。
「子細は存じませんが、貴方は本日の昼頃に1人でカイカの森に行ったというお話がわたくしの耳に入ってきたのですが、それは本当ですか?」
「……はい、本当です」
「……あきれてものも言えませんわ。神名以外の学園の生徒は街の外に出る場合、最低でもツーマンセル、2人組以上での行動が義務付けられています。行き先が比較的安全だと言われているカイカの森だとしてもです。リアさん、貴方も知らない筈がないでしょう」
「……」
「この事は学園に報告し、今後このような間違いを起こさぬよう反省して貰わなければ道理が通りません。……が、既にモンスターの特例行動の発見者としてリアさんは学園に報告され、その功績から違反行動は不問となっているようですね。ソラさん辺りが気を回したのでしょうが、こういうやり方、わたくし嫌いですわ」
「……」
「それに結局は相も変わらずアストライアに助けて貰ったそうですが、貴方はいつまでアストライアに頼ってばかりいるんですの? アストライアが貴方の側にいつまでもいられるとは限らないのですよ?」
「あ、それは……」
「何です? 何か反論がありまして?」
「……何でもありません。……その通りです」
そして、悪役令嬢に責められ続けるリアを見てツヴァイは。
「……」
どうしたものかと二の足を踏んでいた。
……これは、判断が難しい。
あの悪役令嬢がもしリアに言葉ではなく手を出そうとしたらすぐに止めに行くが、今のところは会話をしているだけなのだ。悪役令嬢はかなり厳しい感じだが話の内容は理不尽なものではなく、悪意があるようにも思えないので、口の悪い先輩が善意から後輩を注意しているだけのように読み取れなくもないのが現状なのである。
もしその推測通りあの悪役令嬢が学友のリアの事を心配して注意をしているだけなら、この世界の常識を知らない自分が出て行っても的外れなことを言って場を混乱させるだけの可能性もある。
……流石にゴブリンの時のような命のやり取りをするような感じではないしな。
と思ってツヴァイがもう少し様子を見ようと考えたその時。
「リアさん、貴方は本当にまだまだですわね。このままでは貴方、虚言癖の妄執男と罵られたまま亡くなったお父様のように孤立し、取り返しのつかないことになりますわよ?」
ツヴァイが全く予想もしていなかった、最悪の言葉が悪役令嬢の口から紡がれ。
「────っ」
悪役令嬢のその言葉を聞いたリアの身体がビクンと震え、唇を力いっぱい噛み締めた、瞬間。
「────おい、やめろ」
ツヴァイは人だかりから飛び出していた。
リアの、悪役令嬢の、双子の、人だかりの、ここにいる人間全員の視線が自分に集中していることにツヴァイはすぐに気づいたが、注目されようがそんなことはどうでもよかったため、ツヴァイは気にせず歩き続けた。
「そこの偉そうなお嬢様。お前は言っていいことと悪いことの区別もつかないのか」
……この悪役令嬢。死者を、亡くなられているリアの父親を馬鹿にしやがった。しかも娘であるリアに向かって、直接、だ。
今の言葉はどんな世界であっても一線を越えている。許せるわけがない。優しいリアが怒れないというならば俺が代わりに怒るだけだ。と、そんな激しい怒りを胸に抱いたまま、ツヴァイは更に前へと進み。
「……どうして……」
ここに。と、自分の顔を見て驚いているリアを安心させるために穏やかな表情を作ってリアと視線を合わせた後、ツヴァイはリアの前に立ち、リアに見せた表情とは全く違う表情を浮かべ、悪役令嬢と向き合った。
「……」
「……」
そして、ツヴァイと悪役令嬢は暫くの間、無言で互いの顔を見つめていたが、ツヴァイを値踏みするように冷めた眼で眺めていた悪役令嬢が口火を切った。
「貴方、見ない顔ですけど、わたくしのことを知っていまして?」
「知らないな」
「そう。なら質問を変えます。貴方は────リアさんのお父様が何をしたのか、知っていまして?」
「知らないな」
「となると、何も事情を知らない部外者がわたくしに指図をしたということになりますわね」
「そうなるな」
「わたくしは寛大ですから、今すぐ頭を下げ、謝罪すれば許してあげなくもありませんよ?」
「……俺が謝罪? はっ、寝言は寝ていえ。────謝罪するのはお前の方だ。今すぐリアに謝れ」
ツヴァイはゴブリンを相手にした時にも見せなかった敵意を露わにし、その感情を隠すことなく悪役令嬢にぶつけ、リアに謝罪するように要求した。
だが、ツヴァイに怒りと敵意を真正面からぶつけられても、怯むどころか気にする様子すらない悪役令嬢は、ツヴァイの言うことが心底理解できないという表情を浮かべた。
「? わたくしが? 何故です?」
「っ……! ……本気でわからないのか。確かにお前の言うとおり俺は部外者で、お前の事情もリアのお父さんのことも何も知らない。だけどな、例え親が何か大変なことをしたとしても、その子供を責めること、その子供を傷つけるためだけに親の悪口を言うこと、それらの行いはどんな理由があろうとも、絶対にやってはいけないことだ……!」
「……」
「そんな人として当たり前のこともわからずに生きてきたのなら、今、理解しろ……!」
感情を露わにしたツヴァイが心のままにそう叫んだが悪役令嬢にはその言葉が届かなかったのか、悪役令嬢は顔色一つ変えず平然としていた。
だが。
……なんだ?
ツヴァイの言葉の後に何故か周りの人だかりが急にざわつきだし、そのことを不思議に思ったツヴァイが周りの人だかりに視線を向けた時。
「……ふふっ」
悪役令嬢は愉快げに、小さく微笑んだ。
だが、それは本当に一瞬だけの表情で、ツヴァイが視線を戻した時には悪役令嬢は笑みではなく先ほどまでよりも更に冷たい表情を浮かべていて。
「……いいでしょう。わたくしに向かって、よく吠えました。久しぶりに管理が必要な犬が出てきた。わたくし、そう判断しましたわ」
悪役令嬢はツヴァイを指差し。
「このフレグランス。貴方に────決闘を申し込みますわ」
ツヴァイに決闘を申し込んだ。
人の温かさや夕方の優しい雰囲気からこの異世界の街に憧れの昭和の匂いを感じていたツヴァイは、そんなノスタルジックな気分を完膚なきまでに叩き潰してくれた人物の顔ぐらい見てやろうとその声のする方へと足を進めた。
ただ、そのツヴァイの行動は本気で怒ったからというわけではなく、物見遊山、軽い気持ちからの行動だった。だから、ツヴァイはのんびりとリラックスしながら街を歩き。
「……おお」
辿り着いた先で全く想像していなかった光景が広がっていたことに驚き、目を丸くした。
ツヴァイが辿り着いた場所にはものすごい人だかりができていたのだ。
おーっほほほ! と言ってるお嬢様はこの世界の有名人か何かなのか? と思いながらツヴァイがその人だかりの中を覗くと。
「────」
大きなフード付きのマントを着た見覚えのある少女が誰かと向き合いながら申し訳なさそうに顔を伏せていた。
……っ!? リア……!?
共にゴブリンと戦った金髪碧眼の少女、リアが何故か人だかりの中にいたため、ツヴァイはすぐに彼女に声を掛けようとしたが、その直前にリアと向かい合っている人物の姿がツヴァイの視界に入り。
「な……」
……悪役、令嬢……。
一目見ただけでそう思ってしまうようなオーラを放つ人物がそこに立っており、ツヴァイは驚きから言葉を失った。
腰まで伸びる金の髪に綺麗な青い瞳が特徴的で、スタイルもいいその悪役令嬢はリアを見つめ、真剣な表情を浮かべていた。
……これは、いったいどういう状況だ?
この悪役令嬢とリアの間に何かトラブルでもあったのか? 同じ制服を着ているし学園がらみだろうか? というようなことを考えながらツヴァイが何か情報が転がってないだろうかと辺りを見渡すと。
……ん?
ツヴァイは悪役令嬢のすぐ後ろに2人の少女が立っていることに気がついた。リアよりも年下に見えるその2人は髪の色こそ違うが、顔や体型はそっくりで双子の姉妹であると推測できた。
あの双子は悪役令嬢の付き人か何かだろうか、とツヴァイがその双子の正体を推測している間に双子の片方がその手に持っているスピーカーのような機械のボタンを押した。
すると。
『おーっほほほ……!』
聞き覚えのあるお嬢様ボイスが大音量で再生された。
『おーっほほほ……!』
しかも連打したのでもう一回再生された。
「……」
……いや、本当にどういう状況だ?
リアと悪役令嬢の表情を見る限り、かなり真面目な場面に思えるのだが、双子の姉妹がおーっほほほ! ボタンを連発してるのがあまりにも無秩序であったため、ツヴァイが状況を掴みかねて困惑していると。
「────リアさん」
ツヴァイがここに来てから初めて悪役令嬢が口を開き、おーっほほほ! ボイスと同じ声でリアとの会話を始めた。
「子細は存じませんが、貴方は本日の昼頃に1人でカイカの森に行ったというお話がわたくしの耳に入ってきたのですが、それは本当ですか?」
「……はい、本当です」
「……あきれてものも言えませんわ。神名以外の学園の生徒は街の外に出る場合、最低でもツーマンセル、2人組以上での行動が義務付けられています。行き先が比較的安全だと言われているカイカの森だとしてもです。リアさん、貴方も知らない筈がないでしょう」
「……」
「この事は学園に報告し、今後このような間違いを起こさぬよう反省して貰わなければ道理が通りません。……が、既にモンスターの特例行動の発見者としてリアさんは学園に報告され、その功績から違反行動は不問となっているようですね。ソラさん辺りが気を回したのでしょうが、こういうやり方、わたくし嫌いですわ」
「……」
「それに結局は相も変わらずアストライアに助けて貰ったそうですが、貴方はいつまでアストライアに頼ってばかりいるんですの? アストライアが貴方の側にいつまでもいられるとは限らないのですよ?」
「あ、それは……」
「何です? 何か反論がありまして?」
「……何でもありません。……その通りです」
そして、悪役令嬢に責められ続けるリアを見てツヴァイは。
「……」
どうしたものかと二の足を踏んでいた。
……これは、判断が難しい。
あの悪役令嬢がもしリアに言葉ではなく手を出そうとしたらすぐに止めに行くが、今のところは会話をしているだけなのだ。悪役令嬢はかなり厳しい感じだが話の内容は理不尽なものではなく、悪意があるようにも思えないので、口の悪い先輩が善意から後輩を注意しているだけのように読み取れなくもないのが現状なのである。
もしその推測通りあの悪役令嬢が学友のリアの事を心配して注意をしているだけなら、この世界の常識を知らない自分が出て行っても的外れなことを言って場を混乱させるだけの可能性もある。
……流石にゴブリンの時のような命のやり取りをするような感じではないしな。
と思ってツヴァイがもう少し様子を見ようと考えたその時。
「リアさん、貴方は本当にまだまだですわね。このままでは貴方、虚言癖の妄執男と罵られたまま亡くなったお父様のように孤立し、取り返しのつかないことになりますわよ?」
ツヴァイが全く予想もしていなかった、最悪の言葉が悪役令嬢の口から紡がれ。
「────っ」
悪役令嬢のその言葉を聞いたリアの身体がビクンと震え、唇を力いっぱい噛み締めた、瞬間。
「────おい、やめろ」
ツヴァイは人だかりから飛び出していた。
リアの、悪役令嬢の、双子の、人だかりの、ここにいる人間全員の視線が自分に集中していることにツヴァイはすぐに気づいたが、注目されようがそんなことはどうでもよかったため、ツヴァイは気にせず歩き続けた。
「そこの偉そうなお嬢様。お前は言っていいことと悪いことの区別もつかないのか」
……この悪役令嬢。死者を、亡くなられているリアの父親を馬鹿にしやがった。しかも娘であるリアに向かって、直接、だ。
今の言葉はどんな世界であっても一線を越えている。許せるわけがない。優しいリアが怒れないというならば俺が代わりに怒るだけだ。と、そんな激しい怒りを胸に抱いたまま、ツヴァイは更に前へと進み。
「……どうして……」
ここに。と、自分の顔を見て驚いているリアを安心させるために穏やかな表情を作ってリアと視線を合わせた後、ツヴァイはリアの前に立ち、リアに見せた表情とは全く違う表情を浮かべ、悪役令嬢と向き合った。
「……」
「……」
そして、ツヴァイと悪役令嬢は暫くの間、無言で互いの顔を見つめていたが、ツヴァイを値踏みするように冷めた眼で眺めていた悪役令嬢が口火を切った。
「貴方、見ない顔ですけど、わたくしのことを知っていまして?」
「知らないな」
「そう。なら質問を変えます。貴方は────リアさんのお父様が何をしたのか、知っていまして?」
「知らないな」
「となると、何も事情を知らない部外者がわたくしに指図をしたということになりますわね」
「そうなるな」
「わたくしは寛大ですから、今すぐ頭を下げ、謝罪すれば許してあげなくもありませんよ?」
「……俺が謝罪? はっ、寝言は寝ていえ。────謝罪するのはお前の方だ。今すぐリアに謝れ」
ツヴァイはゴブリンを相手にした時にも見せなかった敵意を露わにし、その感情を隠すことなく悪役令嬢にぶつけ、リアに謝罪するように要求した。
だが、ツヴァイに怒りと敵意を真正面からぶつけられても、怯むどころか気にする様子すらない悪役令嬢は、ツヴァイの言うことが心底理解できないという表情を浮かべた。
「? わたくしが? 何故です?」
「っ……! ……本気でわからないのか。確かにお前の言うとおり俺は部外者で、お前の事情もリアのお父さんのことも何も知らない。だけどな、例え親が何か大変なことをしたとしても、その子供を責めること、その子供を傷つけるためだけに親の悪口を言うこと、それらの行いはどんな理由があろうとも、絶対にやってはいけないことだ……!」
「……」
「そんな人として当たり前のこともわからずに生きてきたのなら、今、理解しろ……!」
感情を露わにしたツヴァイが心のままにそう叫んだが悪役令嬢にはその言葉が届かなかったのか、悪役令嬢は顔色一つ変えず平然としていた。
だが。
……なんだ?
ツヴァイの言葉の後に何故か周りの人だかりが急にざわつきだし、そのことを不思議に思ったツヴァイが周りの人だかりに視線を向けた時。
「……ふふっ」
悪役令嬢は愉快げに、小さく微笑んだ。
だが、それは本当に一瞬だけの表情で、ツヴァイが視線を戻した時には悪役令嬢は笑みではなく先ほどまでよりも更に冷たい表情を浮かべていて。
「……いいでしょう。わたくしに向かって、よく吠えました。久しぶりに管理が必要な犬が出てきた。わたくし、そう判断しましたわ」
悪役令嬢はツヴァイを指差し。
「このフレグランス。貴方に────決闘を申し込みますわ」
ツヴァイに決闘を申し込んだ。
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