嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま

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魔炎妃ヴェザルナ

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 騎士団に捕らえられたリーナは、牢獄の冷たい石床にうずくまり、虚ろな瞳で闇を睨みつけ、繰り返し呟いていた。

「あのオッサン、必ずぶっ殺してやる……」

 リーナの脳裏に、遠い過去の記憶が蘇る。

「ラーナ、ヘレン、シンシア、そして……シャノン。あなたたちの仇は、私が必ず討ってみせるから!」



 * * *



 リーナとラーナの姉妹は孤児だった。親に捨てられたのか、両親が亡くなったのか、理由など知る由もない。ただ、物心ついたころには孤児院で暮らしていた。

 彼女たちが育ったのは、教会の孤児院『アルマの家』。表向きは慈善活動に力を入れていることで有名な孤児院だった。

 リーナとラーナは、一つ年上のシャノンと、年下のヘレン、シンシアと共に、仲良く楽しく暮らしていた。

 他の多くの孤児たちは、日の出から日没まで、畑を耕し、泥にまみれて過酷な農作業に追われていた。

 リーナたちを含む数名の少女は、屋外での過酷な仕事ではなく、屋内の軽作業をこなして過ごしていた。

 泥だらけになって働く子供たちを見て、自分たちは可愛いから特別扱いなんだ。

 リーナは幼い心に、そんな甘い幻想を持っていた。リーナが最初に異変を感じたのは、彼女たちの姉代わりでもあったシャノンの変化だった。

 ある日、シャノンが新しい仕事を与えられて、リーナたちと別の所で仕事をした。

 夜遅くに戻ってきたシャノンは憔悴しきっていた。

 いつも朗らかだったシャノンが、その日を境に笑わなくなった。夜ごと、布団の中で肩を震わせて泣く声が聞こえるようになった。

 何があったのかと尋ねても、シャノンはただ首を振り、唇を噛みしめるばかだった。

 しばらくして、シャノンは孤児院から姿を消した。その数日後、近くの森で首を吊った彼女の遺体が発見されたことを知った。自殺の理由は不明とされたが、リーナの胸中に違和感が残った。

 一年後、リーナにもその時がきた。化粧を施され、絹のドレスを着せられ、男の前に立たされた。そこで彼女は、すべてを悟った。シャノンに何があったのかと、自分たちが大切に育てられていた本当の理由を。

 孤児院の実態は、養っている少女に貴族や豪商の男どもの相手をさせていた。自分は『商品』だったのだ。

 『初仕事』を終えて、戻ったリーナは、夜の孤児院でラーナ、シンシア、ヘレンの寝顔を見つめた。無垢な息遣いが、リーナの心を焦がす。

 こんな場所に、この子たちを置いておけない。二度とシャノンのようにさせない。

 そしてリーナは決意する。厨房から油を盗み、床にばらまくと松明を灯した。

 炎は瞬く間に広がり、悲鳴が響き、煙が天井を覆う中、リーナは三人の手を引いて裏口から闇夜へ飛び出した。



 逃亡生活は過酷だったが、彼女たちは自分たちの武器に気付いた。それは、自分たちの美しさだ。自分たちを前にした男どもは、誰も彼もが鼻の下を伸ばして隙を晒す。

 もはや彼女たちにとって、男はただの獲物だった。哀れで、下劣で、欲望のままに生きるしかない生物。利用する価値はあっても、信じる価値はない。そうして四人は、色仕掛けで男を惑わし、騙し、盗み、殺した。

 生活の基盤が整っていくと、男に負けないために、より大きな力を求めた。

 シャノンを奪われたという復讐心が、彼女たちを鍛え上げた。剣術を身に着け、魔法を学び、いつしか有力な冒険者になっていた。



 * * *



 ふいに鉄格子から入ってくる月明かりに影が映った。その影はリーナに語り掛けた。

「貴方、素敵な魂の穢れをしているわね。私が力を授けてあげようか?」

 リーナはその影に視線を向けるも、口は閉じたままだ。影は続けて語る。

「私は黒炎妃ヴェザルナ。幽魔の最上位で、人間の分類でいうと、Sランクモンスターの一柱よ」

 リーナはフッと息を吐き、蔑んだ目で影を見る。

「あなたがSランクモンスター? 冗談でしょ。私は本物のSランクモンスターと対峙したことがある。あなたなんかとは比べ物にならないほどのプレッシャーだったわ」

 影は揺らめき形を変える。その動作は、まるで人が首を横に振っているかのようだった。

「今はまだ、封印から解かれたばかりだから。でも、あなたの闇に染まった妄執を私に注いでくれたら、再びSランクまで昇り詰めることができる……」

 大袈裟に抑揚をつけて話す影に、リーナは問う。

「……本来の力を取り戻したあんたなら、ブラッディマッシュにも勝てる?」

「勝てるとも! あなたと私が力を合わせれば、恐れるものなんて何もない!」

 リーナは狂気に満ちた表情で唇を震わせ、両手を広げて叫んだ。

「いいわ、私の中にあるこの黒い感情……、全てあんたにくれてやる! そして私に力をよこしなさい!!」


 
 この日、騎士団管轄の牢の一つが破壊され、一人の囚人が脱走した。



 * * *



 リーナが脱獄してから数日後。リーナと、黒炎妃ヴェザルナの様子。



 リーナは高台から遠巻きに孤児院を眺めていた。自身が幼い頃に過ごした『アルマの家』だ。あの夜、火を放って焼け落ちたはずの建物は、奇麗に再建されていた。

 美しい建物を囲う白壁は、まるで穢れを知らぬ子供たちを守っているかのようだ。リーナはそれを見て、唾を吐き捨てた。

「胸糞悪い。反吐が出る」

 あんなの見せかけだけだ。あの美しい建物も、汚らしい男どもの欲望を隠すための仮面に過ぎない。そこに商品として売られる子供たちがいるのかと思うと、胃の奥が灼けるようだった。

「あなたの思うように焼き尽くせばいい」

 ヴェザルナはリーナの影に潜んで、楽し気に揺れていた。

 リーナはヴェザルナから力を与えられていた。それは怨嗟と狂気に染まった魔力で燃え広がる漆黒の炎。

「ふん、あなたの力がどれくらい有用なのか、試させてもらうわ」

「この魔炎妃の力が使えるのだから、感謝して欲しいのだけれど……。まぁ、いいわ。せいぜい楽しみなさい」

 リーナが跳躍すると、背に黒炎の翼が広がった。翼を羽ばたかせて飛び、孤児院の門の前に舞い降りると、リーナは剣を抜いた。その刀身にも、禍々しいまでの黒い炎が宿っていた。

 門前に立つ警備兵たちは、剣を抜いて近づくリーナの姿を見て槍を構えた。

「なんだ貴様? 止まれ!!」

 だが次の瞬間、リーナの剣が閃く。黒炎の弧が彼らを薙ぎ払い、肉体を瞬時に燃やし尽くした。悲鳴すら上げられず、灰が風に散った。

 リーナは、臆することなく孤児院の中に踏み込んでいく。

 侵入者を排除すべく、続々と駆けつけ剣を振り上げる警備兵たち。リーナが舞踏のように黒炎の刃を振るうと、彼らは武装ごと斬り裂かれた。

 逃げ惑うスタッフも、命乞いをする院長も、『商品』を下見に来ていた貴族も、リーナの目に映る男たちは、すべて黒い炎に容赦なく焼かれた。

 蹂躙される男たちの絶望と苦痛を喰らって、ヴェザルナは力を増していく。

 リーナが奥歯を噛みしめながら、建物の中へと足を踏み入れると、怯える子どもたちの姿が目に映った。

 過去の自分とシャノンの影が重なって、リーナの胸の奥でかすかな痛みが走る。

「死にたくなかったら、さっさと逃げなさい!」

 リーナが通路を指し示すと、荒れ狂っていた黒い炎はスゥっと鎮まった。子供たちは一目散に逃げていく。

 子供たちが全員逃げたのを確認し、リーナはヴェザルナの力を開放した。黒炎が渦を巻き、建物全体を呑み込んだ。

 子供たちを逃がしたリーナに、ヴェザルナはからかうように囁いた。

「リーナは優しいのねぇ。子どもの悲鳴も、デザートくらいにはなるのだけれど」

 リーナは苛立たしげに肩を竦め、翼を広げた。

「ふん、ちんたらしていたら騎士団が来るでしょ? さっさと行くわよ!!」

 崩れ落ちる孤児院を一瞥し、リーナは夜空へ舞い上がった。彼女の背後には、黒い炎の残滓が尾を引いていた。


 * * *
 リーナのイメージ。
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