嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま

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 その男は俺たちに手のひらを向け「超鑑定」と声を放った。

 俺達はビクッとして一歩下がると、男は満面の笑みを浮かべ、ゆっくりと歩み寄ってきた。

「騎士団からの報告に、眉唾ものと思って出向いてみれば、本当にブラッディマッシュじゃないか。しかもかなりの美人さんに擬態してるね?」

 次いで男の視線が俺へ向けられる。

「あと、そっちのおじさんも興味深い。Bランク冒険者って聞いてたけど、Aランク相当の実力はあるね。さらに面白いのが、ブラッディマッシュの加護って鑑定に出たことだ。モンスターの加護ってなんだよ? 聞いたことないよ、そんなの」

 どうやら、おしゃべりな奴のようだ。見た目は若造だが、仕立てのよい上等な服を着ている。どこぞの貴族だろうか?

「お前、何者だ?」

「ああ、ごめんね。僕ばかりが勝手に話してしまって。あまりに珍しい事象だったから、つい興奮してしまったんだ」

 男は高貴な身分の人間がするような、優雅な動きで礼をした。

「僕の名前はアルス。この統一国家の王。君たちも『イセカイ王』って聞いたことくらいはあるんじゃないかな?」

 その言葉を聞いて、俺は息を呑んだ。目の前の若造は、得体の知れない威圧感を放っている。それは王と呼ぶのにふさわしい風格だと思えた。

「その王様が、俺ごとき冒険者になんの用で……?」

「ふ、分かってるくせに」

 アルスは片手をあげて俺達に向けた。

「魔獣召喚! いでよ、ヒュドラ! オルトロス! コカトリス!」

 地面に青い魔法陣が三つ浮かび上がり、そこから魔獣が姿を現した。

「ブラッディマッシュのベネットさんか、いい名前だね。君の力を見せてくれないか?」

 即座に臨戦体制になったベネットから菌糸が伸び、三体の魔獣は一瞬で喰われて消えた。それを見ていたアルスは嬉しそうに笑い声をあげている。

「凄いねー。Aランク三体を一瞬か! これは期待以上だ!!」

 アルスは子供のようにはしゃいでいる。剣を抜き放った。

「ウィルさん、少しだけベネットさんと遊ばせてもらうよ」

 アルスは地面を蹴って、一瞬でベネットに近づく。ベネットは振るわれた剣を、硬化させた菌糸で受け止めた。

「へぇ、硬いね。それに力も強い。手加減してるとはいえ、僕の一撃を止めるなんて驚きだ。さっき喰った三匹で、さらに力を付けたのかな?」

 ベネットは、余裕の表情で話すアルスに向かって、紫のブレスを吐いた。それをもろに喰らったアルスは後ろに跳んで距離を取る。

「さっき喰ったばかりのコカトリスの能力、石化ブレスを使ったのか!? 凄い! 凄すぎる!!」

 おいおい、石化ブレスってんなら、何でお前は石化しないんだよ……? 俺の疑問を察知したのかは知らないが、アルスは嬉しそうに口を動かす。

「せっかく石化ブレスを再現してくれたのに残念! 僕は状態異常が効かない体質なんだ。毒も麻痺も呪いも催眠もね。でも他にもまだいろいろできるんでしょ?」

 ベネットは歯噛みしながら、体から伸ばした菌糸をうねうねと動かす。すると空中に五つの魔法陣が現れ、火炎の槍が飛び出し、アルスに次々と命中した。

 着弾した炎の槍は炸裂して爆炎が上がり、夜空が赤く照らされた。

「おおー。今のは中々に効いたよ」

 全くダメージを受けていないどころか、服に焦げ跡一つついていないアルスが、煙の中から歩いて出てきた。

「ヒュドラの火炎のブレスと、オルトロスの発火能力を昇華させて、火槍を撃ち出す魔法を即興で創りだしたのか! なんて桁違いなセンスだ!」

 あの炎の中で無傷で笑っていられるとは……。俺が驚愕していると、アルスは魔法を発動させた。

「これは僕からのプレゼント」

 上空に魔法陣が現れ、そこから巨大な雷が落ちてきて、ベネットを直撃する。
 
 ベネットの悲鳴が響く。彼女は全身を焼かれ、黒こげになって地面に伏してしまった。

「ベネット!!」

 俺は慌てて駆け寄りベネットを抱き起した。俺の腕の中で、ベネットの焦げた部分が剥がれ落ちると、元の美しい姿を取り戻した。

「ウィル、ごめんね。服が燃えちゃった」

「んなもんはまた買えばいいんだ。それよりお前は大丈夫なのかよ?」

「全く平気って言うと嘘になる。でも心配しないで。あいつは私が何とかする。そしたら二人で一緒にスローライフしようね」

 ベネットは瞳を揺らして、俺の手を握った。

「でも、その前にちょっとだけ、ウィルの血が欲しいな……」

 俺はベネットに口づけ、舌を差し入れた。そんなことしなくても、ベネットはどこからでも俺の血を吸えるだろう、でも、今はこうしたかった。

「ありがとう、力が湧いてきた。ここからは私の本当の姿で戦うから、目を閉じていて欲しいな」

「俺を見くびんなって。どんな姿でもベネットだろ? お前を好きだって気持ちが、揺らいだりしねぇよ」

 ベネットは俺に抱き着いて、声を震わせた。

「うん、そうだったね。私、負けないから。見ててね、ウィル!」

 立ち上がったベネットは、俺から離れると全身から菌糸が噴き出し、瞬く間に高さ5mはある巨大なキノコの姿になった。

 その姿を見たアルスは歓声を上げた」。
 
「これがたった一体で騎士団一個大隊を壊滅させたと伝えられる、Sランクモンスターのブラッディマッシュか! その力、存分に僕に見せてくれ!」

 ベネットから放出された無数の菌糸が束ねられて、鋭い刃が付いた触手がいくつも形成され、一斉にアルスに襲いかかった。

 アルスはそれらをものともせずに切り払い、踏み込んでベネットに斬りかかった。

 ベネットは巨体ながら素早い動きで攻撃を躱すと、即座に反撃に転じている。

 アルスが強烈な魔法を放てば、即座にベネットも同等の魔法を撃ち返しそれを相殺した。

 戦況は互角か、ややベネットが押しているように見える。
 
 二人とも並の冒険者をはるかに凌駕した戦闘力だ。俺が割って入るなどは不可能だろう。速すぎて、二人の戦いをはっきりと目で追うことすらできない。魔法のぶつかる閃光と爆風、剣戟の音が激しく轟く。

 俺にはただ、ベネットの無事を祈ることしかできなかった。

 一際大きな爆音が響き渡ると、静かになって煙が晴れてきた。目を凝らすと二人の姿が徐々に見えてくる。

 ベネットの菌糸の刃が、アルスの体をいくつも貫いていた。どう見ても致命傷だ。この勝負ベネットの勝ちだ!

 ベネットは美女の姿に戻ると、その場にへたり込んでしまったので、俺は駆け寄って抱き起こし、上着をかけてやった。

「お疲れさん。あんなバケモノによく勝てたな」

「変なの。ウィルからしたら、アイツは同族で、私はバケモノでしょ?」

「違うって、ベネットは俺の大事な女で、アイツは凶悪なバケモノだ」

 ベネットは嬉しそうに笑う。

「ねぇ、ウィル。私、力を使い果たしたから、少し多めに血が欲しいな」

「いいぞ、好きなだけ飲んでくれ。俺は干からびたっていいからな!」

 俺とベネットが笑い合っていると、アルスがむくりと起き上がってきた。

「酷いな……、誰がバケモノだって?」

 振り向くと、アルスは棒立ちのまま不敵な笑みを浮かべ、俺たちを見ていた。
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