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公爵令嬢の予言
卒業まで 1
しおりを挟む卒業まで、あと2週間。
レティシアは卒業後のプランを練りながらも、友人達と残り少ない学生生活を惜しみつつ過ごしていた。
学園に入学した頃から仲良くしているミーナとソフィア。彼女達は卒業後は婚約者との結婚に向けての準備に入るという。
レティシアには婚約者はいない。……子爵家の令嬢といえど元平民と皆知っている。
そして、レティシア自身王子への淡い想いが破れてから他に好きな人は出来ず、まあ将来は職場恋愛とかがあるかも? とまだ呑気に構えている状況だ。とりあえず、父コベール子爵は今はレティシアに結婚について特に何も言わない。
レティシアは窓からチラリと外を見る。さっきから、令嬢達がはしたなくない程度に黄色い声を上げている。……こんな時にはだいたいそこに彼がいる。
視線の先に、関わらなくなってから久しい懐かしい方がいた。
――この国の王太子リオネル ランゴーニュ殿下。
その少しクセのある金髪に、ここからは見えないけれど空色の瞳。普段から鍛えられた騎士のような背筋の伸びた姿勢。
そんな彼が、側近の2人と一緒に校庭を歩いていた。
……私の胸が、キュッとなる。……切なくてほろ苦い、それでいてフワリと甘いあの時間を思い出す。
あれから約2年。全く関わらなかった私たち。……もう、姿を見ることが出来るのも残り少ない学生生活の少しの間だけなのだ。
この目に、焼き付けておこう。彼の姿を。目を閉じればすぐに浮かんでくるように。
――その時リオネル王子を熱い想いで見つめるレティシアを密かに見ている人がいる事に、私が気付くはずもなかった。
◇ ◇ ◇
「……では、よろしくね」
「はいっ! 任せてください! これからもこの畑をきちんと管理させていただきますね!」
レティシアは同じ農業系の後輩に、この学園の裏庭の畑の管理の引継ぎをした。入学してから勝手に始めた裏庭の畑。
……本来花壇だったここにカボチャを植えて、それをリオネル様に見つかって……。その後色々あったけれど、その後は友人達とたくさんの野菜を作り先生方にも認められて来た。レティシアにとってはとても大切な場所。
「レティシア先輩。そういえば管理棟に何か忘れ物があるらしいですよ」
レティシアは後輩への引継ぎを終え、あれから更に増えた畑の為の管理棟、……ほぼ物置になっているそこへ確認に行く。
「私の私物は大体運んだはずだけど……?」
そう不思議に思いながら管理棟に入ると、そこには1人の男子生徒が立っていた。
彼はこちらの気配に気付きゆっくりと振り向く。少しクセのある金髪に鍛えられた美しい姿勢。
……振り向かなくても、私は彼が誰だか分かった。
――リオネル王太子殿下。
レティシアは、あれからの2年で必死で身に付けたカーテシーをする。
「……レティシア?」
リオネル様は驚いた顔をされた。
……私に、会いに来てくださった訳ではなかったのね。分かっていたはずなのに、ここに来てくださっていた事で私は思わず愚かな期待をしてしまった。
「……はい。私は後輩から忘れ物があるようだと言われまして確認に参りました。すぐに、退室いたしますので」
……私は期待してしまった自分を恥ずかしく思いながらもそう言って、早々にこの部屋を立ち去ろうとした。
王太子殿下は王立学園卒業後ご婚約者の公爵令嬢とそう遠くない時期にご結婚されると聞いている。婚約者のいる方と学園内とはいえ室内で2人きりでいることなど許されない。……それは2年前に思い知らされたことだ。
「……そうか」
……少し寂しそうにも聞こえるその声を、私はこの耳に焼き付けて決して忘れない。私は顔を伏せたまま、急いで向きを変え扉に向かう。
「……レティシア」
……私は足を止める。
「あれから、随分と頑張ったのだね。……これからも、レティシアの活躍を楽しみにしている」
私は、後ろを向いたまま礼をし急いで部屋を出た。……振り向けなかった。
リオネル様は、あれからも私のことを気にかけてくださっていた。あの時の私の状況から一緒にいる事でこちらの立場が悪くなる事を分かっていたから、敢えて距離を置いてくださったのだ。……嫌われたからでは、なかった。
私のことを、考えてくださっての事だった。そして、あれからの私のことも気にかけて知っていてくださった。
…………それだけで、十分だわ。
私は裏庭の畑の陰にまで小走りで行き、そのまましばらくそこに座りうずくまっていた。
……溢れる涙を、止められなかった。
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