ヴォールのアメジスト 〜悪役令嬢の『予言』は乙女ゲームの攻略本から〜

本見りん

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公爵令嬢の予言

侯爵家の居候 2

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「あら? もしかしてそれがお母様の形見のペンダントとブローチなの? 素敵ね、少し見せてもらってもいいかしら?」


 ミーシャからの外出禁止令が出た為、私はベルニエ侯爵家のお屋敷で大人しく卒業パーティーの準備をしていた。
 最後に行った学園の帰り際にコベール子爵家に寄って、ドレスや必要な物を侯爵家に持って来て整理をしている。ちなみに王都の屋敷に1人残られている子爵夫人は茶会に出掛けていて不在だった。執事にくれぐれも夫人に宜しく伝えて欲しいとお願いした。


 そしてこの時に母の形見の『ペンダント』と『ブローチ』も持って来た。それをミーシャに見つかったのだ。


「……ええ。でも、ペンダントはきっとガラス玉だと思うわよ。私はアメジストがそんなに高価な宝石だったなんて知らなかったの」

 私はそう言いながら先にペンダントをミーシャに渡す。シャラリと重く揺れる豪華なペンダント。彼女は笑顔でそのペンダントを手に取りジッと見つめる。

 そして段々と怖いくらい真剣な顔になり、ゆっくりと真顔でこちらを見て言った。

「…………レティシア。私は宝石の目利きが出来る訳じゃないけれど……。おそらく、これは本物よ」

 ミーシャのその言葉にレティシアは驚く。

「…………え? でもこれ、結構な大きさよ? アメジストが高価な石でこれだけ綺麗で大きかったら、凄い高価なものってことになるんじゃないの? 我が家は……子爵家の領地はそんなに豊かな土地ではないわよ?」

「……ええ。知ってるわ。だけどこんな見事なガラス玉があるなら、もはや本物の宝石なんて必要ないじゃない」


 そのくらい、このアメジストらしきペンダントは見事な美しさで物自体の細工も素晴らしかった。

 2人で暫く悩んでいると、ミーシャは閃いた! とばかりに手を叩き目を輝かせてこちらを見た。


「……分かったわ! レティシア、貴女のお母様はヴォール帝国の元貴族だったのよ! コレはきっと帝国のお母様の実家で受け継がれたものだったのね。そして、貴女の父上であるコベール子爵と恋に落ちて、これを持って家を出た」

 どうだ! とばかりに意気込んでミーシャが話してきたけれど、私は苦笑して答える。

「私が物心ついた頃には母と私は王都の外れの街で2人で平民として暮らしていたけれど、その頃には父との関わりは全くなかったし母も帰る実家もない様子だったわ。子爵も夫人とご結婚されていてお義兄様もいらっしゃったし……。もし帝国の貴族だったなら隣の小さな王国の歳の離れた子爵の愛人になる為に家を出るなんて有り得ないと思うし、貴族だったなら別れた時点で実家に帰ろうとするんじゃないかしら」


 母は30代前半だった。コベール子爵は50代に入ろうかという年齢で2人は15歳程も歳が離れていた。そしてヴォール帝国とこのランゴーニュ王国の規模は比べるべくもない。この国は帝国の属国ではないものの力関係はそれに近い、と学園で学んだ。そんな大帝国の貴族の令嬢が親に命じられた訳でもなく歳の離れた小さな王国の子爵と、しかも妻子のいる男性と恋に落ち貴族でなくなるなんておそらくはあり得ない。


「うーん……。では、コベール子爵は本当の父親ではなく、事情があって亡命して来た帝国貴族の貴女達親子を匿って面倒を見ているのよ! そうだわ、だって20年程前はヴォール帝国は帝位継承を巡って争いが起こり、敗れた側の貴族は処刑になったり亡命をしたりして国が荒れていたと聞くもの。本当の父親は子爵の知人でその方に頼まれて貴女を守る決心をした! ……どう? これは自信あるわ!」

 ミーシャは自信ありげに二つ目の推理を披露した。


「……私が初めてコベール子爵家に行った時、私を見た周りの使用人達は「あー…。旦那様、やっちゃいましたね」って顔をしたの。……私は、子爵である父ととても良く似ていたから。おそらく親子で間違いないわ」


 色んな推理を披露してくれたミーシャだけど、私はそれを全て却下してしまった。……私もそれらは考えないではなかったのだ。母の出身が帝国貴族かはともかくとしてそれなりの家の出身ではなかったのかと。……母はとても美しく上品な女性だったから。


 推理を否定されたミーシャは見るからにガクリと肩を落とす。

「……そうなの? 二つ目はかなり自信があったのだけれど……。
でも帝国貴族かは別にして、貴女のお母様の実家はかなり裕福な帝国寄りの家だったという事は確かだと思うわ。そうでないとこのペンダントの説明がつかないもの。子爵家で用意するのは難しい見事な品だと思うわ」


 そこだけは譲れないといった様子のミーシャ。確かに子爵家の人間が渡すには高価すぎるペンダントを持っていた事実から、母は元は裕福な家の出ではあったのかもしれない。没落してしまったのか、本当にコベール子爵と恋に落ちて家を出てしまったのか。……それとも、別の男性から貰った可能性も考えられなくはないのだけれど。

 しかしどちらにしても自分とその母の実家はもう関係はない。もしその家の名が分かったとしても、今になって大昔に家を出た娘の子供ですなんて言って現れたら迷惑になるわ。
 現在進行形でコベール子爵夫人に迷惑をかけている自覚のあるレティシアは、ミーシャに気付かれないように小さくため息を吐いた。


「……けれど、レティシア。貴女は一度コベール子爵ときちんとお話をした方がいいわ。ペンダントの事も子爵とお母様との事も。
……貴女には、話を聞く権利があると思うの」


 ミーシャは先程までの探偵気取りをやめて、私を見て真剣な顔で言った。

 私は頷く。……コベール子爵家に来て4年近く経つけれど、肝心な所はお互いに触れずに来た。そして私は学園を卒業したら、あの家を出ようと考えている。

 この国で愛人を持つ貴族は珍しくはないようだけれど、コベール子爵は今まで愛妻家で通ってきた方なのだ。それなのに突然私が現れた事で周囲ではかなり騒がれたらしい。
 子爵夫人には不名誉な事でとても傷付かれたと思う。

 今更私が家を出たところでその不名誉がなくなる訳ではないだろうけれど……。でもこれからはコベール子爵令嬢として立派に『王立農業研究所』で結果を出し、少しでも恩返しがしたい。


 私はコベール子爵家を出て独り立ちをする前に、逃げずに全てを聞く決心をした。




ーーーーー


コベール子爵家に来てから、詳しい話を敢えて聞けずにいたレティシアでした。
初めは意地悪だった義母とは、今は少しぎこちなくも仲良くしています。
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