ヴォールのアメジスト 〜悪役令嬢の『予言』は乙女ゲームの攻略本から〜

本見りん

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卒業パーティー

それぞれの事情 2

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「――という訳で、王太后は愛妾のいた自分の夫によく似ているというただそれだけの理由で幼かったリオネルをいとい、そのあと出された『公爵令嬢の予言』で『浮気者の王太子』とされた事で更に過剰に反応し忌み嫌うようになったのだ」


 国王の執務室に呼ばれたリオネルとレティシアはお互いの気持ちを確認され、非公式ながら婚約を認められた。
 そしてその後に『公爵令嬢の予言』と『王太后との関係』について教えられたのだ。

 リオネルが子供の頃から『予言』の通りにいずれ罪を犯すと、してもいない罪で責められ辛い思いをしてきた事を知りレティシアはとても驚いたし胸が痛かった。

 
 ……確かに、乙女ゲームでのリオネル王子はかなり酷い印象ではあった。この国の王太子として何不自由なく甘やかされて育てられた美しいけれど傲慢な少年。それをよく覚えていたからフランドル公爵令嬢は容赦なくリオネル王子を攻撃し責めたのでしょう。

 だけど、『あなたは将来酷い罪を犯す』と何もしていない子供の頃にそれを責めるのは間違っているわよね。そんな罪を犯さないように諭すなどしていけたら良かったのだけれど。……そして実際、幼い頃から将来の罪を責められ自分を厳しく律するようになったリオネル王子は、ある意味あの『予言』のお陰で凄く良い青年になっていると思うのよね……。皮肉な話だけれど。


 レティシアは王家の現在の色んな事情が分かり、自分の知り得る乙女ゲームとの情報も併せて考えていた。

 すると国王から問いかけられる。

「レティシア嬢に少し聞きたいのだが……。君の母は平民だったと聞いている。しかし、15年ほど前に王都に来る前の事は不明であるようだ。レティシア嬢は母親の出身などを知っているのか?」

「……父上!」

 リオネルは父である国王を諌める。しかし確かにこれからリオネルと一緒になり王妃となるのなら、その母の素性は聞いておきたいところだろう。

「……私の母は3年半前に亡くなりました。けれど母は生前昔の事は何も教えてはくれませんでした。私は母が亡くなってすぐにコベール子爵家に引き取られお世話になってきましたが、学園卒業後は『王立農業研究所』で働き家を出るつもりでした。……そんな私はコベール子爵に母との事を何も聞かずに過ごしてきたのです」

 国王とリオネルは沈痛な顔をする。


「……そうであったか」

 リオネルの想い人であるレティシア コベール。国王はつい先程までフランドル公爵家との事がどうなるのか全く先が読めず、彼女レティシア嬢の事はまだ詳しくは調べられていない。
 王家派の者より彼女自身には問題がないようだと報告は上がっていたから、本当はベルニエ侯爵家辺りに養女としてもらえるよう頼むつもりであったのだ。

 
 ……しかしパーティーでの王太后の様子や妙にレティシアにこだわったクライスラー公爵を見ていて、帝国に何か縁のある女性だったのでは? という疑問が生まれている。ちなみに先程錯乱していた王太后は今はまだ薬で眠っている。目覚めた時に冷静に話が出来れば良いのだが……。



「……ですが……。もしかすると母は帝国の出身であったのかもしれないのです」


 ポツリと言ったレティシアの言葉に、国王とリオネルはギョッとする。

「……20年前の、帝位争いに負けた派閥の元貴族だったかもしれないと、昨日コベール家の義母から聞きました。コベール子爵は今領地へ戻っているのでまだ詳しくは話を聞けていないのですが……」


 ヴォール帝国の、元貴族……!

 しかも20年前のあの帝位争いの時、政争に敗れた元貴族。……前皇帝から当時敗れた現皇帝に変わった今ならば、その件でヴォール帝国と争いになる事はないということか、と2人は素早く考え安堵する。貴族の位を失い他国に亡命するほど現皇帝を支持していた家ということなのだから。


「では、コベール子爵が王都に戻り次第登城を促し詳しく話を聞くとしよう。……レティシア。君は今父であるコベール子爵と上手くいっていないのかい? 子爵夫人の事は『義母』と呼ぶのに実の父を『コベール子爵』と呼ぶなんて……。もうすぐ家を出るつもりとも言うし、子爵家でいるのは辛い?」


 先程からのレティシアの父であるコベール子爵への表現が、なにやら少し他人行儀に感じたのでリオネルは心配してレティシアに尋ねた。


「……ッ!? いいえ。お2人にはとても良くしていただいています。コベール子爵もとてもお優しくて……。……あ」

 ……コベール子爵は本当は父ではなく『伯父』。
 昨日義母から聞いた事実はそのあとの『予言』関連に紛れていたけれど、レティシアの心を深く傷付けていた。
 『予言』騒ぎがおさまり、いったん抑えられていた心の傷が顔を出したのだ。

 この事を話してくれた義母が悪い訳ではない。そして勿論伯父であるコベール子爵も。2人共、レティシアにとっての大恩人なのだから。


 ただ、大切な母を亡くしてからいつの間にか心の拠り所にしていた『父』という存在。それを急に無くしてしまい、気持ちが宙ぶらりんな状態になってしまっているのだ。
 レティシアは転生者で今は前世の記憶もある。しかしついさっきまでそれを知らずこの世界で懸命に生きてきた1人の普通の18歳の人間。……割り切る事は難しかった。


 ……そんなレティシアの瞳からホロホロと涙が溢れていた。

「……レティシア!? ……やはり、子爵がなにか酷いことを? 大丈夫だ、レティシア。なんなら今日からはこの王宮で過ごすといい」

 リオネルはレティシアの涙を見て慌てて慰めた。

「……待ちなさい。リオネル。まだこの段階で王宮に留めるのは外聞が悪い。確か今はベルニエ侯爵の所にいるのであろう? 暫くはそこで世話になるとして――」

 国王もレティシアを気遣いそう言ってくれたのだが、レティシアは慌てた。コベール子爵家は全く悪くない。このままでは大恩ある子爵家が悪者になってしまう。

「違うのです……! コベール子爵家の方々には言葉に出来ない程の恩があります。……家を出ようと思ったのは私がいる事で本来愛妻家の子爵にこれ以上悪い噂がたつのが嫌なので……」


「それは事実なのだからレティシアが気に病む事ではないと思うよ。そしてレティシアがそこまで思い詰めるような関係性だったという事なのだろう?」

 尚もリオネルは心配しそう言ってきたので、レティシアはついたまらず言ってしまう。

「違うのです。コベール子爵は本当の父ではなくて……。本当は子爵の弟が私の父だったそうなのです。コベール子爵は私の『伯父』だったのです。それなのに、子爵には不名誉な噂がたってしまった事が申し訳なくて……」

 きちんとコベール子爵に話を聞いてからリオネル王子に話をしようと思っていたのに。レティシアはしまった、と思う。


「……それはどういうこと? それならば初めから弟の子を預かる事にしたと公表すれば良いだけの話だよね。……子爵はどうしてそんな事を?」


 うん、為政者って色んな事にすごく頭がまわるのよね。サラッと流してくれればいいのに……。
 レティシアはそう思ったが、この2人の為政者はこの件を軽く流してはくれそうになかった。レティシアは仕方なく、昨日義母に聞いた事実を話し出した。




「――そうであったのか。良く話してくれたね、レティシア嬢。母君の事は本当に気の毒な事であった。そしてその母君をあの時期の帝国から守り連れて来た父君はとても立派な方であったのだな。……アラン コベール。学年は違ったが同時期に私は彼と同じ王立学園に在籍していた。成績優秀で有望な生徒であったと記憶している」


「父を……、ご存知でしたか」

 レティシアは顔を見たこともない父を思い涙が溢れた。国王は頷きながら更に言った。

「……そして、伯父であるコベール子爵夫妻も誠に立派である。自分が噂に晒されることも厭わず、姪であるレティシア嬢を守ってきたのだから」


 それを聞いてレティシアはまた涙が止まらなくなった。子爵夫妻が誤解されずに済んだ安心感と、少しでも実の父の話を聞けた喜びで……。


「レティシア……。
陛下。今はこの位で宜しいでしょうか。今日は色んな事があり過ぎました。彼女の身体も心も休ませるべきだと思います」

 リオネルは涙が止まらない様子のレティシアを案じ父に言った。国王も頷く。

「今日は子爵家に帰ってゆるりと身体を休めるが良い。しかし、慌ただしくて済まないが明日の昼にはまた登城して欲しい。
私としても気は進まないが、レティシア嬢はヴォール帝国のクライスラー公爵の養女となる事が決まっている。私から後で公爵に思い留まるようもう一度話をしてみるが……。おそらく公爵の意志は固い。レティシア嬢も一度は帝国に行かねばならないだろう」



ーーーーー


レティシアの父アランは学生の時からかなり優秀だったので国王は覚えていました。子爵家の次男という立場でも注目株な人でした。
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