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卒業パーティー
フランドル公爵邸
しおりを挟む「いったい全体、何がどうしてこんな事になったのだッ!!」
王都のフランドル公爵邸。
ランゴーニュ王国で王宮を除いて1番の大きさと豪華さを持つ、この屋敷の主人は荒れていた。
「――だから申し上げたでしょう、兄上。そのような身に過ぎた野望を持つべきでは無いと。今の国王陛下は決して愚かではなく、この王国の覇権を握ろうと企てるなどただの反逆という事になりますと!」
フランドル公爵の前でそう熱弁するのは今は王宮の官吏として働く公爵の弟。公爵の5人いた兄弟の末っ子だったこの弟には分ける爵位もなく、しかも伯爵家の次女で爵位を持たない令嬢と恋愛結婚した。その為この兄弟の中である意味唯一堅実に真面目に生きる常識を備えた人物でもあった。
「っええい! うるさいわ! ……そうだ……! こうなれば兵を集め王家に我が公爵家の力を見せ付けてやるわ! 少し脅してやれば王家の奴らも震え上がるだろう。我らの派閥の者達の力を結集させれば……!」
フランドル公爵は怒りのあまりに、決してしてはならない手段に出ようと言い出した。
それに対して弟は冷静に兄を諭す。
「……おやめになった方がいいでしょう。お気付きになられませんでしたか? 王都周辺の警備が厳しくなっている事を。私もこの公爵家に来る時に衛兵に止められ検問を受けました。私は公爵の弟で姪の卒業の祝いに来た、と言ってやっと通してもらえたのです。……おそらく公爵派の貴族達では通してもらえず、その報告だけが王宮に届くのでしょう。……そしてその貴族は確実に衰退させられるのです」
「……なッ!? まさか、陛下はそこまで我らを警戒して……!? パーティーがこうなる事も我らが何事かを起こすやもしれないとも予想し、先手を打たれていたというのか!?
それになんだ? その我らの派閥の貴族の衰退、というのは!?」
国王の迅速な動きに驚き弟を問い詰めるフランドル公爵。
「……フランドル公爵家の派閥の貴族達は、ここ最近要職を外されております。兄上が陛下からのローズマリーとアベル殿下の婚約話を断った辺りから、他の公爵派の者達も徐々に降格させられております。今や大臣級の貴族は公爵家の派閥の貴族にはいないでしょう」
そう淡々と話す弟に、フランドル公爵はそういえばと顔を青くした。
「いやしかし……! 我らはこの王国の最大派閥だぞ……? そう簡単にそのような事が出来るはずはない……」
「兄上や義姉上、ローズマリーが何事かを企んでいる中、王家も着々と物事を進めていたという事ですよ。……それにこれは私は既に何度か兄上にご進言申し上げていた話ですよ」
……確かにこの弟からその話を聞いていた。しかし……!
「我らはローズマリーの『予言』の通りにしていただけだぞ……! それに王太后様もアベル殿下も我らの味方。そのような国王の小細工など取るに足らん事だと思って当然ではないか!」
国王に対する余りにも不敬なその言い方に弟は眉を顰める。
「陛下のなさる事を『小細工』だなどと……!! それでは兄上はその『小細工』とやらに見事してやられたという事ですな。そして今日あの卒業パーティー後に大臣級の会議が行われたようです。……その会議に、フランドル公爵派の貴族は誰も入っておりません。……誰も、いないのですよ!? 筆頭公爵家のフランドル公爵家の派閥が王国の中枢の会議に出席出来る者が誰も居ない! 兄上でさえその中に入っていないのですよ!」
「私は仕方がないだろう! 陛下よりローズマリーとリオネル殿下の婚約を白紙にせよと何度もそう言われ、王太子でないアベル殿下との婚約を持ってくるものだから! 王家からの申入を断る為に私はいったん大臣の座を降りざるを得なかったのだ。リオネル殿下との婚約を先に白紙にしてしまっては『予言』が達成されないのだからな!」
多少罰が悪そうに言い訳をする兄に弟は呆れたように言った。
「ローズマリーとアベル殿下は想い合っていたのでしょう? それならば何故その時婚約させてあげなかったのです? 噂によるとアベル殿下は昨日の晩から陛下より謹慎を命じられていたそうです。しかもパーティーでの話を聞きつけたアベル殿下は部屋から抜け出そうとしたとして、今は『荊棘の間』に入れられているとか……」
「ッ!! ……やはり、アベル殿下はこちらに来られない状況にあったという事か……。しかし『荊棘の間』とは、陛下も酷な事をされる」
『荊棘の間』とは、王族や貴族用の貴族牢。フランドル公爵はアベル王子を哀れんで思わずそう呟いた。
しかし公爵のその言葉を聞いた弟はため息ながらに話す。
「……兄上。国王陛下の命令に背きしかも脱走しようとしたのですから処分は妥当です。それよりも、アベル殿下には新たな別の婚約話があるように聞きました。……よろしいのですね?」
寝耳に水の話に、公爵は目を剥いて驚いた。
「ッ!? な……!! そんな話は聞いていない!! 陛下はどういうつもりだ!? 息子の想い人との結婚を認めない気か!?」
おそらくは国王はもうアベル王子とローズマリーの結婚を決して認めない。フランドル公爵自身もそうは思ってはいるのだが、アベル王子自身が強く望まれればもしかして、という期待もまだあるのだ。しかもアベル王子はまだ王立学園の学生。卒業まであと一年猶予があるのだからその間になんとか情に訴える事が出来るのではと考えていた。……なんと言っても王太后がアベル王子に甘い。
ヒステリックに叫ぶ公爵を、弟はしらけた冷たい目で見た。
「……そもそも、兄上がアベル殿下とローズマリーの婚約話をお断りになられたのでしょう? 今更何を仰っているのか?」
「ッ違う!! リオネル殿下との婚約を卒業パーティーで破棄出来たなら新たにアベル殿下とのお話を受けるつもりであったのだ! アベル殿下は我が娘ローズマリーの恋人だ! 想い合う2人を引き裂こうなどと、陛下はなんと酷いことを!」
勝手な言い分を主張する兄に、もはや説得する気も失せた弟はとりあえず事実だけを述べる。
「……リオネル殿下を失脚させ、アベル殿下が王太子となられたらローズマリーとの結婚を認めるつもりであったと。そのような身勝手な国家を揺るがす恐ろしい考えを持っておられるからですよ。
残念ながらアベル殿下とローズマリーの2人にはもう未来はございません。
そしてこのような事態になった以上は可哀想ですがローズマリーにこれから良い縁談は望めないでしょう」
「な……ッ!! ローズマリーは美しく聡明な聖女とも崇められる筆頭公爵家の令嬢だぞ!? 良い縁談など引く手数多だ! それにローズマリーは本来は王妃となるべき者……、そうでなくともせめて相手は王家の者だ!」
そう叫ぶフランドル公爵達のいる部屋に、父の大声を聞いてやって来たローズマリーが呆然としてその話を聞いていた。
「……嘘……。アベル様が別な方と、婚約……? そんな……ッ! 嫌……嫌よ! 私は……私はアベル様と結婚するのッ! 私達は恋人なのよ!? どうして……!!」
そして……、ローズマリーはショックの余りに倒れてしまった。
「ローズマリーッ! く……ッ! 国王は、なんと酷い仕打ちを……! ……私は諦めん……ッ! 必ずローズマリーをアベル王子と結婚させてみせる!」
ローズマリーを侍医に診せ、怒りに震えながらもそう決心するフランドル公爵を、公爵の弟はため息をつきながら見ていた。
王家のフランドル公爵への本当の処罰はこれから為されるという事を王宮の官吏である弟は分かっている。それを伝える為、……今回の件を反省し誠実に次の手を打てるようにとやって来たというのに、兄一家はどこまでも愚かだった。……もはや弟である自分に出来る事はないだろう。
――重い処罰を受け、猛省してくれれば良いのだが。
そう願いながら、弟はこのフランドル公爵邸を去った。
ーーーーー
思った通りにいかず怒り狂う公爵と、それを諌める弟でした。
王都の警備が厳しく、他の貴族は公爵邸には集まる事は出来ませんでした。
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