39 / 89
卒業パーティー
帝国の公爵 2
しおりを挟む王宮の入り口に一台の馬車が到着した。
そして馬車の扉が開かれ、その前に待っていたリオネルはにこやかに挨拶をした。
「よくいらしてくださいました。コベール子爵。子爵夫人。……レティシア嬢。こちらからご挨拶に伺うべきところですのにご足労いただきありがとうございます。……さあ、こちらへ」
この国の王太子に丁重に出迎えられたコベール子爵夫妻は驚いたが、彼がレティシアと婚約したいという気持ちは本当なのだと納得した。
「こちらこそ、王太子殿下自らのわざわざのお出迎えいたみいります。本日は詳しいお話を伺うべく参上いたしました。どうぞ宜しくお願いいたします」
「お迎えいただきありがとうございます。殿下。本日は宜しくお願いいたします」
昨日のフランドル公爵家と打って変わっての至極まともな受け応えに、リオネルは笑顔で3人を国王との謁見の間に案内した。
◇ ◇ ◇
「良く来てくれた。コベール子爵、夫人、レティシア嬢」
部屋に入ると国王より歓迎の言葉をかけられ、コベール子爵はかなり恐縮した。当然ながら、子爵程度の立場では国王と直接話などした事がない。大勢の前で領地の経営についてお褒めの言葉をいただいた事がある位だった。
この小さな謁見室には衛兵はいるが、基本的には若い2人とその両親の6人だけだ。
まずどんな話から入るのかとコベール子爵は身を固くする。
「……此度は、突然の話に驚いた事であろう。まずは子爵に話をする前に勝手にレティシア嬢と我が息子の婚約という話になった事を許して欲しい。子爵の家の方針も何も聞かず話を決めてしまった。しかもその寸前までリオネルには婚約者が居た事は知っての通りだ。幾ら前の婚約者と不仲で『予言』でいつかは婚約は無くなるだろうとは言われていたとしても、だ」
国王はそう言ってコベール子爵夫妻に謝罪した。
コベール子爵は国王を畏れる気持ちを抑え、レティシアの父としてそして弟の大切な娘を預かる伯父として自分の意見を述べる事にした。
「……陛下。私達はレティシアが本当に望んだ事ならば反対するつもりなどはございません。
しかし、陛下も昨日レティシアから聞いて下さったかと思いますが、私どもはレティシアの本当の親ではございません。彼女は私の実の弟、アランの大切な娘でございます。その弟から預かった大切な娘である以上、私どもには大きな責任がございます。
生意気を申しますが、どうか陛下、王太子殿下。レティシアを必ず大切にして下さると、そう約束していただけますか」
コベール子爵は真っ直ぐ国王を見て言った。
子爵は決めていた。レティシアは弟の忘れ形見であり自分達の大切な娘。そして、両親の運命に翻弄された哀れな娘でもある。この大切な娘は例え相手が王家であったとしてもそれが軽いいい加減な気持ちからならば絶対に渡す訳にはいかないと。
国王は少し驚きつつコベール子爵を見た。
王家の、しかも王太子に望まれた婚約。普通ならば喜んで飛びつくだろう。あのフランドル公爵でさえ最初は喜んでこの話を受けたのだ。
それを、たかが子爵が娘の幸せを願い国王に対してこのように無礼とも言える返答をするなどと――。
しかしそれはそれだけこの子爵がレティシア嬢を思っているという事だ。
昨日のレティシア嬢の話にもあったではないか。この子爵は自分が噂の的になってでも姪であるレティシアを帝国から守ったのだと。……愛情深い、不器用な男だ。
コベール子爵夫妻もレティシアも、国王が少し黙ってしまった事で不興を買ってしまったかと思った。しかし……。
「……勿論だ。子爵の大切な姪であり娘を、我が息子の妻にいただくのだから。私は力の及ぶ限りレティシア嬢の力になり守ると約束しよう。
そして、コベール子爵よ。子爵の愛情の深さには頭の下がる思いだ。よくぞ不遇であった弟夫妻を助けその娘を守ってくれた。私はその子爵の思いを受け継ぎレティシア嬢を大切な娘として預かると誓おう」
「勿論、私リオネルもレティシア嬢を愛し守り続けると誓います」
国王は心から思いそう告げた。……そしてリオネルも。
コベール子爵夫妻とレティシアはホッとすると同時に、国王とリオネルのその思いに喜びが溢れた。
「陛下……! リオネル殿下! ありがとうございます。……どうか……どうかレティシアを宜しくお願いいたします」
コベール子爵はそう言って頭を下げた。部屋にいる者は皆笑顔に包まれた。
両家の話し合いはその後はスムーズに進み、結果ほぼ朝にクライスラー公爵が国王達に話していた通りとなった。
レティシアは約2週間後にクライスラー公爵の迎えの者達と共にヴォール帝国に行き、そこで正式にクライスラー公爵家の養女となる。そしてそこで帝国の淑女教育をしっかりと受け、10ヶ月後にランゴーニュ王国にリオネルの正式な婚約者として戻り1、2ヶ月後の佳き日に結婚式を行う、というものだ。
レティシアは話を聞きながら……内心冷や汗をかいていた。
……昨日、リオネル殿下から愛を告白されたばかりなのよ? それがもう次の日には結婚のだいたいの日取りまで決まるなんて……! とんとん拍子に話が決まり過ぎではないのかしら……。お父様やお義母様もお話をしてくださっているから、これは本当に現実……なのよね?
しかも2週間後にはヴォール帝国に行ってそこから10ヶ月もの間淑女教育! ……ハード過ぎる!
レティシアは色々不安に思っていると、正面に座るリオネルと目が合う。2人は苦笑し合った。彼もこの話の急展開に戸惑い、似たような事を考えていたのだろう。
そんなリオネルを見ながらレティシアは思う。
……帝国へ行ってしまったら約10ヶ月。リオネル殿下に会えなくなるんだわ……。ヴォール帝国へはちょっと行って公爵のご家族に挨拶する位だと思っていたのに……。
確かに、お母様の事を調べたりするにはその位帝国にいる方が好都合なんだけど……。
リオネル殿下と会えないのは辛過ぎる……。
2年前、学園で仲良くした時期もあったとはいえほんの短期間。しかもそれから2年以上も全く2人は関わっていなかったのだ。勿論それはフランドル公爵令嬢の『予言』に巻き込まない為との事情があったという事は分かってはいるが、その状態から結婚への流れが早過ぎる。
いきなり結婚して一緒になってみたら2人は合わなかった、なんて事になったらどうするのだろうと前世の余計な知識があり過ぎるレティシアは悩んだ。
……けれど、レティシアは2年前会えなくなってからリオネルへの気持ちを自覚し、その後ずっと彼だけを想っていた。他の男性など目に入らなかった。
だから、本当はもっと一緒にたくさん話をしていっぱい同じ時を過ごして……2人の気持ちを確かめ合いたい。そして彼をずっと間近で見ていたい。だって今までは遠く離れた所から眺めることしか出来なかったのだから。
でも今は、こんなに近くからリオネルを見る事が出来る。そして彼は自分に優しく微笑み返してくれる。……それがレティシアは嬉しくてたまらなかった。まだ、少し照れてしまうのだけれど。
それなのに、2週間後にはまた会えなくなってしまうなんて……。
レティシアは周りに気付かれないように小さくため息をついた。
ーーーーー
昨日の今頃はまだパーティー前でミーシャ達とパーティーがどうなるかと悩んでいたのに……。それがまさか一日経ってリオネル様との結婚が決まるなんて……。と、話の勢いに眩暈のする思いのレティシアです。
15
あなたにおすすめの小説
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
断罪ざまぁも冴えない王子もお断り!~せっかく公爵令嬢に生まれ変わったので、自分好みのイケメン見つけて幸せ目指すことにしました~
古堂 素央
恋愛
【完結】
「なんでわたしを突き落とさないのよ」
学園の廊下で、見知らぬ女生徒に声をかけられた公爵令嬢ハナコ。
階段から転げ落ちたことをきっかけに、ハナコは自分が乙女ゲームの世界に生まれ変わったことを知る。しかもハナコは悪役令嬢のポジションで。
しかしなぜかヒロインそっちのけでぐいぐいハナコに迫ってくる攻略対象の王子。その上、王子は前世でハナコがこっぴどく振った瓶底眼鏡の山田そっくりで。
ギロチンエンドか瓶底眼鏡とゴールインするか。選択を迫られる中、他の攻略対象の好感度まで上がっていって!?
悪役令嬢? 断罪ざまぁ? いいえ、冴えない王子と結ばれるくらいなら、ノシつけてヒロインに押しつけます!
黒ヒロインの陰謀を交わしつつ、無事ハナコは王子の魔の手から逃げ切ることはできるのか!?
いいえ、ただ私は婚約破棄されたいだけなんです!
鏡おもち
恋愛
伯爵令嬢ロニエ・エヴァンズには、ささやかな野望があった。それは、ハイスペックすぎて重すぎる愛を持つ婚約者、第一王子アレンから「婚約破棄」を突きつけられ、実家の離れで一生ダラダラと昼寝をして過ごすこと。
ロニエは学園入学を機に、あの手この手で「嫌われる努力」を開始する。
悪役令嬢発溺愛幼女着
みおな
ファンタジー
「違います!わたくしは、フローラさんをいじめてなどいません!」
わたくしの声がホールに響いたけれど、誰もわたくしに手を差し伸べて下さることはなかった。
響いたのは、婚約者である王太子殿下の冷たい声。
わたくしに差し伸べられたのは、騎士団長のご子息がわたくしを強く床に押し付ける腕。
冷ややかな周囲のご令嬢ご令息の冷笑。
どうして。
誰もわたくしを信じてくれないまま、わたくしは冷たい牢の中で命を落とした。
何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています
鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。
けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。
指示を出さない。
判断を奪わない。
必要以上に関わらない。
「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。
それなのに――
いつの間にか屋敷は落ち着き、
使用人たちは迷わなくなり、
人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。
誰かに依存しない。
誰かを支配しない。
それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。
必要とされなくてもいい。
役に立たなくてもいい。
それでも、ここにいていい。
これは、
「何もしない」ことで壊れなかった関係と、
「奪わない」ことで続いていった日常を描く、
静かでやさしい結婚生活の物語。
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?
悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません
れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。
「…私、間違ってませんわね」
曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話
…だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている…
5/13
ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます
5/22
修正完了しました。明日から通常更新に戻ります
9/21
完結しました
また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います
悪役令嬢は推し活中〜殿下。貴方には興味がございませんのでご自由に〜
みおな
恋愛
公爵家令嬢のルーナ・フィオレンサは、輝く銀色の髪に、夜空に浮かぶ月のような金色を帯びた銀の瞳をした美しい少女だ。
当然のことながら王族との婚約が打診されるが、ルーナは首を縦に振らない。
どうやら彼女には、別に想い人がいるようで・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる