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そして王国へ
レティシアへの想い
しおりを挟む「クライスラー公爵閣下。此度の事、誠に申し訳なく心より謝罪申し上げます。我がランゴーニュ王国の数々の無礼。帝国の方々に不快な思いをさせたばかりか、閣下に冤罪をかけるような事態を許してしまうなど……」
ランゴーニュ王国の王太子として、リオネルは誠心誠意心からの謝罪をした。
「クライスラー公爵閣下。此度の我ら王国の貴族の愚かな振る舞い、誠に申し開きのしようもございません。帝国の方々がお越しになる前にこのような国内の問題は治めるべきであったのですが、思いの外彼らは狡猾で証拠集めに時間がかかったのでございます」
王国の老ランベール公爵もそう謝罪をした。
「クライスラー公爵。ランゴーニュ王国の国王として私からも謝罪させていただきたい。今回の件、完全に我が王国の落ち度。……しかしながら、我が王国の大半の者達は帝国と平和で友好的な関係を心から願っておるのです」
ランゴーニュ王国国王が自ら帝国の公爵に謝罪した。この場にいる王国貴族達は一瞬驚いたものの、しかし大国であるヴォール帝国に今までこれだけの失礼と更に帝国の公爵に冤罪をかけるなどというとんでもない事態を起こしたのだ。ここは国王が謝罪しないと収まらないだろうと納得した。
――レティシアもこの大広間内の緊張感に、心配でリオネルを見た。彼は少し緊張の面持ちで父クライスラー公爵をジッと見ていた。
リオネルはこの10ヶ月、この事を調べて国内の安定の為に奔走してくれていたのだ。そして今彼はそれをやりきり、父クライスラー公爵の裁定を待っている。
王国の元フランドル公爵派の宰相達が起こした冤罪騒ぎは想定外だっただろうが、父はどのように返事をするのだろうか?
レティシアは恐る恐るといった風に父クライスラー公爵を見た。
クライスラー公爵は、全く感情を読ませない表情でランゴーニュ国王とリオネルを見ていた。
「ヴォール帝国から嫁がれたヨハンナ王太后を蔑ろにし、更に今また私の娘であるレティシア様を蔑ろにしようとしたのです。そしてこのように私に罪を着せようとした事も、はいそうですかと簡単に許す訳にはまいりません」
クライスラー公爵の冷静な声は、思ったよりもこの大広間に響いた。
そしてこの場の空気はピンと張り詰め、ピリリとした緊張感に包まれた。
王国の貴族達は今までの自分達の行いを思い返して、これからの帝国が王国に行うであろう罰に恐怖した。
……最悪の事態はこれを口実に王国が帝国の属国として組み込まれる事。そうなればこの国の大半の貴族達は税金やその待遇に随分と違いが出る事になる。少なくとも今までのようなこの王国の豊穣の実りに支えられた豊かな暮らしは享受出来ない。
いや、もっと最悪なのは属国になるよりも、帝国からの庇護が無くなった場合だ。この王国は過去の歴史書にある通り、再び豊かな実りを狙われこの王国は他国から狙われ争いの絶えない地となるだろう。
豊かな土地を狙った荒くれ者達に田畑を踏み荒らされ、実るものも実らせる事が出来なかったと伝え聞く、過去のような戦乱と混乱の時代に戻るのか?
その暗い未来を想像し青い顔をする王国の貴族達と、とりあえず次のクライスラー公爵の言葉を待つしかないランベール公爵や国王。リオネル王子もクライスラー公爵の反応を見極めるようにジッと見ていた。
……そして、それを心配そうに見守るレティシア。
その様子を見たゼーベック侯爵は何かを言おうとしたが、公爵のその表情を見て何事かを感じグッと抑えたようだった。
「……公爵閣下。お怒りはご尤もでございます。当然ながら我が国はお叱りも罰も受けましょう」
そこに、リオネルが言葉を発した。それは王国として勿論帝国側の課す罰を受けること。そして……。
「……ですが我が国は、……私は2度と大切なもの守らなければならないものを間違いません。どうか、もう一度チャンスをくださいませんか。そして私にレティシア様を一生愛し守り抜く事をお許し願いたいのです」
リオネル王子は、その真っ直ぐな気持ちをクライスラー公爵に向けて伝えた。
クライスラー公爵はリオネルに視線を向け、2人は暫し視線を交わす。
「偉大なる皇帝陛下の姪でもある大切な娘レティシアを、この期に及んで妻に欲しいと、そう仰るのか」
クライスラー公爵はどこか呆れたようにも聞こえる口調でそう尋ねた。
それにリオネル王子は即答する。
「はい。私は嬉しい時も苦しい時も……レティシア様と共に生きていきたいのです。リオネル ランゴーニュはレティシア クライスラー様ただお1人を愛しております」
リオネル王子は心からのその熱い想いを伝えた。
周囲の貴族達もその想いに感動しているようだった。
……そして、レティシアも。
胸から湧き出でるような温かい想いでリオネル王子を見詰めた。
そしてそこに父クライスラー公爵がレティシアを見て言った。
「レティシア様。貴女はどうなのですか? 王太后の時代から我が帝国を侮り続け、更に先程の愚かなこの王国の者達を見てもこのランゴーニュ王国にまだ嫁ぎたいと思われますか?
……そして、リオネル王子殿下と共に生きたいと願われるのですか?」
その言葉に、一気に人々の目はレティシアに向けられる。
けれど今、レティシアは周りの人々の事は全く見えてはいなかった。……レティシアの心はただ、リオネルへの想いで溢れていた。
「……私も。リオネル様ただお1人をお慕いしております。……レティシア クライスラーはリオネル ランゴーニュ様お1人を愛しております」
レティシアも、その熱い想いを溢れる想いのまま伝えた。そしてリオネル王子を見つめた。
リオネルは驚きと大いなる喜びでレティシアを見詰めた。――2人は想いが通じ合っている事を感じた。そして心の奥から溢れるほどの喜びの気持ちで見つめ合った。2人は頷き合いクライスラー公爵の方を見た。
大広間内は静まり返り、リオネル王子とクライスラー公爵はそのまま暫く真剣な顔で睨み合うように互いを見ていたが――。
不意にクライスラー公爵は目を閉じそしてククと笑い出した。
「クク……ッ! あぁ、リオネル殿下。今回は私の負けです。想い合うお2人に免じ、この度の事は一旦保留とし我らは引く事といたしましょう。
……しかし、それはあくまでも今回のみ。次に何か有ればその時は今回の件も含め全てを断じ、この王国はヴォール帝国と全面対決になるという事をゆめゆめお忘れなきように」
最初笑っていたクライスラー公爵は、最後には王国側の貴族に凍てつくような鋭い視線を向けて言った。
その視線に怯えながらも、王国の貴族達は一斉にホッと息をついたのだった。
――そして、リオネル王子とレティシアは離れた位置に居ながらも2人で視線を交わし合い、微笑み合った。
……そんなレティシアの元にゼーベック侯爵がやって来て、コッソリとレティシアにしか聞こえない小声で言った。
「レティシア様。……ようございましたな」
「ゼーベック侯爵。ありがとうございます。……貴方も父も、こうなるように動いてくださったのですね」
レティシアはこの半年で親しくなった親戚であるゼーベック侯爵に感謝の気持ちを持って尋ねた。
それを聞いた侯爵はまるで娘を見るような優しい目で見つめながら答えた。
「ふふ……。さぁ、どうですかな。レティシア様のご存知の通り、私とクライスラー公爵は水と油。犬猿の仲でございますからね」
「ゼーベックのおじさまったら……。この数日間、いいえ、この半年でお2人の気が結構合っている事を知っているのですからね。喧嘩もすごく息が合っていてまるで漫才のようですもの」
「……? 『マンザイ』とやらはよく分かりませんが、まあこれからも我らは喧嘩をするとは思いますがね。……ですが、レティシア様。貴女様を想う気持ちだけは2人は同じ。そこだけは気が合うという事です」
ゼーベック侯爵はそう言って苦笑いをした。『漫才』はこの王国の何かだと思ったようだったが。
しかし何より、レティシアはこの2人がそれほど自分を想い行動してくれたのだという事がとても嬉しく有り難かったのだった。
ーーーーー
リオネル王子とレティシアの想いが通じた形です。
勿論、クライスラー公爵やゼーベック侯爵、王国派のランベール公爵やベルニエ侯爵の協力のお陰でもあります。
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