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レーベン王国 アードラー子爵
しおりを挟む「2人とも、話の最中であったのに済まない。……しかし聞き捨てられない話が出てきたので詳しく教えて欲しいのだ。
……シルビア嬢に『封印』の能力があるとは本当か?」
ビリッ……。
何か、刺すような緊張感が走る。
ハインツは昔ラングレー侯爵家の家庭教師をしていたアードラー子爵と再会した。姉シルビアの『能力』について話をしていると通りかかったクリストフ王子に別室に連れて来られ、人払いをし今は部屋にこの3人だけだ。
ハインツは『封印』という能力の事は書物などで見た事はあるものの詳しくは知らない。クリストフ殿下がこんなに気にされる程の凄い能力なのか?
2人はアードラー子爵の答を待つ。
子爵は、何やら青くなり非常に困った様子だった。
「アードラー子爵よ。貴方を責めている訳ではない。ただ……、子爵も気付いたのだろう? その能力を持ってすれば先程言われていたように早いうちにダンジョンの封印が可能であっただろう。既にダンジョンから出た魔物は仕方がなかっただろうが、初期段階でダンジョンを封じておく事が出来たなら、あれ程の被害は出なかった」
アードラー子爵はますます顔色を悪くした。
そしてハインツは冷水を被せられた様な気持ちだった。……姉が隠していたかもしれない能力。それであの未曾有の大災害の被害が抑えられていたのかもしれない?
「……申し訳、ございませぬ……! 確かにシルビア様は7歳のあの時、かなり強い『封印』の能力に目覚めていらっしゃいました。しかし私はその後すぐに解雇されまして……。その後侯爵家の方々が能力の事をご存知ないなどとは思いもしなかったのでございます」
苦しげにそう謝罪するアードラー子爵を見てハッと現実に戻ったハインツは慌てて言った。
「殿下! アードラー子爵の仰る事は本当でございます。確かに子爵は私が5歳の時に我が家を辞されておりました」
そんな2人の様子を見てクリストフは少し困ったように笑った。
「私はアードラー子爵に真実を教えて欲しいだけだ。責めているのではない。
……シルビア嬢が、『封印』を、か……。子爵は、『封印』の力の他の使い方を知っておられるか?」
顔色を悪くした老人を見て、クリストフは優しく問いかけた。
アードラー子爵は少しホッとしたように表情を緩め、少し考えつつその問いに答える。
「他の……? 重要な場所を封じたり自分のいる場所を封印して身を守ったり……、目覚める前の能力を封じる事が出来る、などですかね……」
……目覚める前の能力を……。
…………ッ!!
ハインツはバッとクリストフを見た。
クリストスもハインツを見て頷いた。
「…………おそらくは、そういう事だろう。セリーナ嬢は本当の力を『封印』された。しかもそれは、実の姉シルビア嬢によって、だ」
「…………そ、んな……。まさか」
ハインツは愕然とした。
「……アードラー子爵。シルビア嬢はその力の使い道を知っていたと思われるか?」
クリストフは更に子爵に質問をした。
「……ご存知です。当時シルビア様はご両親がセリーナ様ばかりに期待をし可愛がる事に心を痛められておりました。ですからシルビア様に目覚めた『封印』の能力がどれだけ素晴らしいかをお伝えする為にその詳しい使い道などの説明をいたしました。ご本人に自信を持っていただきたかったのです。
……セリーナ様は、力を封じられていたのですか? もしや、それは……!?」
アードラー子爵は更に顔色を悪くした。手はブルブルと震えている。
「セリーナは2歳の頃に急に魔力が無くなったと我が家で大騒ぎになりました。……ちょうど時期も合います」
ハインツは震える声で言った。
「おそらくシルビア嬢は目覚めた『封印』で両親の期待を一身に受けるセリーナ嬢の力を封じそしてそれを知られぬ為に能力の事を知るアードラー子爵を遠ざけた。……そういう事ではないだろうか」
王子も眉を顰めながら言った。
「それで、能力の事を誰にも告げずその力も磨かぬまま……? なんという事だ……。貴重な『封印』の能力を悪き事にだけ利用し肝心な時に使えないままであったとは……!」
アードラー子爵はそう言って頭を抱えた。『封印』の能力の事をラングレー侯爵に告げないままだった事で自分を責めているのだろう。
一年前の魔物騒動では多くの人々が亡くなった。街や田畑にも大きな被害がありそれはまだ殆ど復興出来ていない。
勿論、この3人も大切な人達を失い、それまでの生活も一変した。
それを抑える手立てを持っていた人物が、その能力を私利私欲の為にだけ使っていたのだとは。
「……これは、もしも世間に知られれば大混乱になる。シルビア嬢はおそらく人々に吊し上げられ国としても放置出来ない状況になるだろう……。しかしこの事を知った以上私達だけの胸に納める事は出来ない」
クリストフ王子の言葉にハインツは重く頷いた。
「……分かっております。姉シルビアの事は殿下のご判断にお委ねいたします」
クリストフは苦しげなハインツを労るように肩に優しく手を置いた。
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