転生したので前世の大切な人に会いに行きます!

本見りん

文字の大きさ
30 / 62

19 教皇とセリ その壱

しおりを挟む

「……教皇さま!」

「おお! セリ様! よういらしてくださった! ちょうどお茶にしようと思っておりましたところですのじゃ。ささ、どうぞお座りくだされ!」


 教皇は部屋に転移して来たセリを熱烈歓迎し、側近に目配せをしお茶を用意させる。

 側近は「今日は立て込んでいると先程仰ってたのに……」と小さく呟きながらもお茶の準備をした。……チラとセリの様子を見ながら。

 そして側近は少し緊張しながらもお茶と昨日東の国から届いた餡の入ったお菓子を出した。セリは「ありがとうございます」と笑顔で側近に礼を言い、早速いただく。

「……! 美味しい……! 教皇さまのところにはいつもいろんな美味しいお菓子があるのですね。……あ、今日私達が持ってきたのはイルージャの街で最近流行ってる焼き菓子です! これも美味しいですよ。あとで側近の方達と仲良く分けて食べてくださいね」

「教皇様、思いっきりスルーしてますけど毎回俺もいますからね? お菓子もセリと2人で選んでるんですからね!?」

 ライナーが横から若干不満そうに言った。
 ここには大概セリとライナー2人で来ているのに、教皇はライナーにいつもこんな塩対応だ。

「なんじゃ、ライナーは気が効かんのう。せっかくセリ様と楽しく過ごせると思うたに。……また減点じゃな」

「……何の点数ですか?」

「セリ様に相応しい人間かを見定めた点数に決まっとるじゃろうが。このままだとライナーはマイナスになってしまうの」

「ちょっ……! 何大人気ねー事してんだよ! ……や、してるんですか!」

 こんなやり取りももはや定番だ。なんだかんだ言って教皇はライナーを随分と気に入ってるとセリは思う。

「ふふ……。相変わらず仲が良いですね。……あの、実は今日は教皇さまに相談したい事があるんです……」

 途中『仲良くなんてない!』と2人でハモりそうになったが、セリの言う『相談事』に教皇は素早く笑顔で反応した。

「なんですかの? セリ様が改まって相談事とは珍しい。この爺でよろしければなんでもお話をお聞きしますぞ?」


 セリはライナーを見て頷き合った。

「教皇さま。私……実はレーベン王国の出身なんです」

「……ほう」

「私は約一年半前にレーベン王国を出てきました。実はその時に国では大きな災害があって……、たくさんの魔物が国を襲ったんです。その時母が亡くなり、私は国を出る決心をしたんです。大変な災害でしたので、残された他の家族はきっと私の事を死んだと思っていると思って……」

「……ふむ。……お辛い事でしたな」

「私は今でこそ結構高位の魔法使いなんだと自覚してますが、当時は全くと言っていい程魔法を使えなかったんです。……だから誰も私を探すはずはない、とは思うんですけれど……」

 そう言ってからセリはチラとライナーを見た。

「教皇様もご存知だとは思うけど、今だにレーベン王国は復興の兆しがないようだ。おそらくは被害が大き過ぎたんだ。そしてかなりの魔法使い達もあの時命を落としたんだと思う…………います。だから、高位の魔法使いを喉から手が出るほど欲している、……んだと思います」

 ライナーはこの部屋の隅にいる教皇の側近から、『無礼な!』という厳しい視線を感じ、言葉尻を直しつつ語った。

「……そうじゃろうの」

 セリは申し訳なさそうに教皇に言った。

「それでご迷惑なのは承知の上で、このまま何事もなく過ごせる為に教皇さまのお知恵をお貸しいただけないかという相談なのです」

「……それは勿論」

 そこでライナーは思い切り頭を下げた。セリも慌てて頭を下げる。

「無理は承知の上で! 伏してお願いいたします!」

「……だから勿論と言うておろうが」

「…………え」

 セリとライナーは恐る恐る顔を上げ、まじまじと教皇を見た。

「ふふ。私が可愛いセリ様のお願いを断るとでも? しかもなんと可愛いお願いか! この爺を頼ってくださるとは、なんと嬉しい事であろうかのう!」

 そう言って喜ぶ教皇を2人はしばし呆然として見ていた。

「……あの。レーベン王国はほぼどの国とも国交がありません。もし、もしもレーベン王国側が強硬手段に出て教皇さまにご迷惑をおかけしたりしたら……」

 セリは大昔にレーベン王国がちょっかいをかけて来た隣国を攻め滅ぼしたという歴史を知っている。

 家族が自分を探すとは思えないが、もしも万一魔物を殲滅した魔法使いがセリだとバレたとしたら。レーベン王国は何がなんでも自分を連れ戻そうとするかもしれない。

「……セリ様。一つお聞かせくだされ。一年半前レーベン王国で起こった大災害。その時にセリ様のお力は目覚められたのですな?」

 教皇は真剣な顔でセリに問いかけた。
 ……教皇さまは、多分全てをご存知なのだわ……。


「……そうです。目の前で母が魔物に攻撃された、あの時に……」

 ……今でも、焼き付いて離れる事のないあの瞬間、母の顔。


「そうでございましたか。……お辛かったことでしょう。……その悲しみと衝撃でセリ様の奥の隠されたお力が目覚めた。それまではお力はそこまでお強くはなかったということですな」

「……はい。レーベン王国で私の家族は皆魔力がとても強かったのですが、その中で私だけが魔力が無かったのです。……ほんの少しの治療魔法しか、使えなかったのです」

「それは不思議な話ですな。多少の差異はあっても家族で1人だけが力が無かったとは……」

 少し考えるように言う教皇にライナーも頷く。

「俺もそう思います。たまに魔力の大きな子が普通の家から生まれる事もあるだろうけど、大抵その家の子供達の魔力は大体は同じくらいだと思う……ます。
それが後でお伽話でしかあり得ない『転移』を使える程の魔力が目覚めるなんて……、セリには何か呪いでもかかっていたんでしょうか?」

「呪い……」

「え。ちょっとライナー、怖い事言わないでよ。誰が私に呪いなんてかけるのよ」

「誰って……、だからそれが不思議な話で……」

「不思議と呪いを一緒にしないでよー」

 セリとライナーのやり取りを笑って聞きながらも教皇は考えていた。

 ……目覚める、という事は元々セリ様はその大きな力を持っていた、という事じゃ。そしてその力は封じられて……?

「ね!? 教皇さま! ライナーは酷いと思いません?」

「いや、だって力が目覚めなかったのは何か理由があるはずじゃねーか? 例えば墓石にイタズラしたとか……!」

「ライナーじゃあるまいし、そんな事する訳ないじゃない!」

「ははは……。セリ様はそのような事はなさいますまい。いや、ライナーよ。お前はそんな罰当たりな悪戯をしとったのか!」

「いや教皇様、子供の頃の話だから……」

「この罰当たり者! これで更に減点じゃ! もうマイナスじゃそ!」

「ええ! ちょっと教皇様……!」

 ライナーはかなり弱った様子になった。


 教皇は一つ息を吐いてから、改めて2人に向き合った。
 

「……実は私からもお話がありましての」


 急に改まった教皇に、セリとライナーもきちんと背筋を伸ばしてその話を待った。


 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ

⚪︎
恋愛
 公爵家の令嬢として傲慢に育った十歳の少女、エマ・ルソーネは、ちょっとした事故により前世の記憶を思い出し、今世が乙女ゲームの世界であることに気付く。しかも自分は、魔女の血を引く最低最悪の悪役令嬢だった。  待っているのはオールデスエンド。回避すべく動くも、何故だが攻略対象たちとの接点は増えるばかりで、あれよあれよという間に物語の筋書き通り、魔法研究機関に入所することになってしまう。  ひたすら静かに過ごすことに努めるエマを、研究所に集った癖のある者たちの脅威が襲う。日々の苦悩に、エマの胃痛はとどまる所を知らない……

【完結】 悪役令嬢が死ぬまでにしたい10のこと

淡麗 マナ
恋愛
2022/04/07 小説ホットランキング女性向け1位に入ることができました。皆様の応援のおかげです。ありがとうございます。 第3回 一二三書房WEB小説大賞の最終選考作品です。(5,668作品のなかで45作品) ※コメント欄でネタバレしています。私のミスです。ネタバレしたくない方は読み終わったあとにコメントをご覧ください。 原因不明の病により、余命3ヶ月と診断された公爵令嬢のフェイト・アシュフォード。 よりによって今日は、王太子殿下とフェイトの婚約が発表されるパーティの日。 王太子殿下のことを考えれば、わたくしは身を引いたほうが良い。 どうやって婚約をお断りしようかと考えていると、王太子殿下の横には容姿端麗の女性が。逆に婚約破棄されて傷心するフェイト。 家に帰り、一冊の本をとりだす。それはフェイトが敬愛する、悪役令嬢とよばれた公爵令嬢ヴァイオレットが活躍する物語。そのなかに、【死ぬまでにしたい10のこと】を決める描写があり、フェイトはそれを真似してリストを作り、生きる指針とする。 1.余命のことは絶対にだれにも知られないこと。 2.悪役令嬢ヴァイオレットになりきる。あえて人から嫌われることで、自分が死んだ時の悲しみを減らす。(これは実行できなくて、後で変更することになる) 3.必ず病気の原因を突き止め、治療法を見つけだし、他の人が病気にならないようにする。 4.ノブレス・オブリージュ 公爵令嬢としての責務をいつもどおり果たす。 5.お父様と弟の問題を解決する。 それと、目に入れても痛くない、白蛇のイタムの新しい飼い主を探さねばなりませんし、恋……というものもしてみたいし、矛盾していますけれど、友達も欲しい。etc. リストに従い、持ち前の執務能力、するどい観察眼を持って、人々の問題や悩みを解決していくフェイト。 ただし、悪役令嬢の振りをして、人から嫌われることは上手くいかない。逆に好かれてしまう! では、リストを変更しよう。わたくしの身代わりを立て、遠くに嫁いでもらうのはどうでしょう? たとえ失敗しても10のリストを修正し、最善を尽くすフェイト。 これはフェイトが、余命3ヶ月で10のしたいことを実行する物語。皆を自らの死によって悲しませない為に足掻き、運命に立ち向かう、逆転劇。 【注意点】 恋愛要素は弱め。 設定はかなりゆるめに作っています。 1人か、2人、苛立つキャラクターが出てくると思いますが、爽快なざまぁはありません。 2章以降だいぶ殺伐として、不穏な感じになりますので、合わないと思ったら辞めることをお勧めします。

【完結】ど近眼悪役令嬢に転生しました。言っておきますが、眼鏡は顔の一部ですから!

As-me.com
恋愛
 完結しました。 説明しよう。私ことアリアーティア・ローランスは超絶ど近眼の悪役令嬢である……。  気が付いたらファンタジー系ライトノベル≪君の瞳に恋したボク≫の悪役令嬢に転生していたアリアーティア。  原作悪役令嬢には、超絶ど近眼なのにそれを隠して奮闘していたがあらゆることが裏目に出てしまい最後はお約束のように酷い断罪をされる結末が待っていた。  えぇぇぇっ?!それって私の未来なの?!  腹黒最低王子の婚約者になるのも、訳ありヒロインをいじめた罪で死刑になるのも、絶体に嫌だ!  私の視力と明るい未来を守るため、瓶底眼鏡を離さないんだから!  眼鏡は顔の一部です! ※この話は短編≪ど近眼悪役令嬢に転生したので意地でも眼鏡を離さない!≫の連載版です。 基本のストーリーはそのままですが、後半が他サイトに掲載しているのとは少し違うバージョンになりますのでタイトルも変えてあります。 途中まで恋愛タグは迷子です。

笑い方を忘れた令嬢

Blue
恋愛
 お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。

【完結】悪役令嬢は何故か婚約破棄されない

miniko
恋愛
平凡な女子高生が乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった。 断罪されて平民に落ちても困らない様に、しっかり手に職つけたり、自立の準備を進める。 家族の為を思うと、出来れば円満に婚約解消をしたいと考え、王子に度々提案するが、王子の反応は思っていたのと違って・・・。 いつの間にやら、王子と悪役令嬢の仲は深まっているみたい。 「僕の心は君だけの物だ」 あれ? どうしてこうなった!? ※物語が本格的に動き出すのは、乙女ゲーム開始後です。 ※ご都合主義の展開があるかもです。 ※感想欄はネタバレ有り/無しの振り分けをしておりません。本編未読の方はご注意下さい。

本の通りに悪役をこなしてみようと思います

Blue
恋愛
ある朝。目覚めるとサイドテーブルの上に見知らぬ本が置かれていた。 本の通りに自分自身を演じなければ死ぬ、ですって? こんな怪しげな本、全く信用ならないけれど、やってやろうじゃないの。 悪役上等。 なのに、何だか様子がおかしいような?

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

処理中です...