転生したので前世の大切な人に会いに行きます!

本見りん

文字の大きさ
58 / 62

47 父への報告

しおりを挟む





「そうか……。私はいつ言われるのかと毎日ヒヤヒヤとしていたのだよ」


 ラングレー侯爵邸に帰り、父侯爵にセリーナとライナーが『結婚を前提に付き合っている』と報告すると、そうあっさりと返された。


「え。お父様も気付いてらっしゃったんですか?」

 セリーナは少し泣きたい気持ちで父に問う。


「……そりゃあ、気付くだろう。私もこういう事には疎い方だが流石に分かったよ」


 父は少し諦めたような困った表情で答えた。


「えぇ……。ホントですかお父様。誰も何も言わないし、そんなに風に見せていたつもりもなかったんですが……」


 真っ赤になってそう言ったセリーナに、侯爵は微笑みかけた。

「……あの辛い出来事の後、目覚めるとセリーナは行方不明で随分と心配したのだよ。力は持っていても世間知らずな貴族の令嬢なのだから。……良い方と巡り合っていてくれて、本当に良かった。
ライナー殿。どうかセリーナを、よろしくお願いいたします」

 侯爵は後半はライナーに向けて言い頭を下げた。


「……ッ! お嬢様を……、セリーナ嬢と力を合わせ必ず幸せにします! こちらこそ、どうぞよろしくお願いいたしますッ!」


 ライナーは緊張の極致だった。
 ライナーはセリの事を前世エリナの時からこの人一人と思い愛している。セリ以外は考えられない。

 しかし、セリはこのレーベン王国の侯爵令嬢。対して自分は異国の平民。本来ならば身分は全く釣り合わない、有り得ない組み合わせなのだと分かっていた。

 それなのに、侯爵は2人を許しなんと平民のライナーに頭まで下げてくれた。

 ライナーは、この方には一生逆らえない恩義が出来たと思った。





「……それで、2人は今後どう暮らしていくつもりだい? 私としては2人の意向に沿うようにしたいと思っているよ」

 セリとライナーは2人目を見合わす。そして仲間であるダリルとアレンを見た。4人で頷き合う。


「これから、レーベン王国へ少しずつ拠点を移してこようと思っています。今までの暮らしも気に入ってはいたのですが、こちらにもやり甲斐のある仕事があるようですし」

 まずライナーがそう言い、セリもそれに補足しつつ言った。

「まあ『転移』ですぐにこちらに飛べるから、本当に少しずつなのだけれどね。元の場所でも急に国一番の冒険者達が居なくなったら困ると思うし……」

 ダリルも微笑みながら言う。

「そして、我々もせっかくなのでこちらに来てみようかと。まあ、本来この国の人間ではありませんので合わないと思えば元に戻ります」

 そしてアレンは楽しみで仕方ない、という風に言った。

「僕も魔法使いの国って憧れもありますし、せっかくなので色々体験しつつ合えば定住も考えています」


 少し前から4人で話し合って出した答え。

 こちらで暮らす事に前向きでなかったセリに、まずダリルとアレンが『楽しそうじゃない!』『僕も暮らしてみたいかも!』と言い出し、ライナーも『ダメだと思ったら出て行けばいいんじゃないか?』と言って話がまとまった。

 なにせ、『転移』があるので引越しが楽々だ。そして彼等の能力ならばどこでも暮らしていける。


 ……そんな訳で。

「……お父様。ハインツ兄様。これからもどうぞよろしくお願いいたします」


 そう言ってセリは頭を下げた後、父と兄を見る。

「……え!?」

 そして、セリは驚いた。……何故なら、父と兄が泣いていたから。


「お父様ッ? ハインツ兄様?」

 慌てるセリを見ながら父は頷き涙を流しながら言った。


「……済まない、済まないセリーナ……。あれ程お前には辛い思いをさせたというのに、ここに戻ってくれるというのか……」

「……セリーナ。私は本当に不甲斐ない情けのない兄だった。本当に、済まなかった……。私はこれからセリーナの兄として恥ずかしくない相応しい人間であろうと思う。……この兄のこれからをよく見ておいてくれ……」


 涙を流し謝罪する父と兄にセリは最初驚いたが、側に寄りそっと自らの手を彼等の手の上に置いた。

 父と兄は一瞬目を見開きセリを見た後、3人で泣いた。


「ところでセリーナ。姉上の事なのだが……」

 暫くして、ハインツは目をこすりながら少し言いにくそうに話し出した。

「殿下のお話の通り、姉上は生涯教会での生活となる。……そして、教会では姉上のように訳アリで入信した者にはかなり厳しい。余程姉上が改心したと判断されない限りは家族でさえ面会は許されない」

 それを聞いた父も辛そうな顔で言った。

「……私はシルビアが王宮に幽閉された時から特別の許可を得て手紙のやり取りをしている。
……しかしシルビアは我が身の不幸を嘆くばかりで、自分のした事の重みを全く分かっていない。災害時に『封印』の力を使わなかった事も幼いセリーナに『封印』をかけた事も……。悪いのは全て自分を追い詰めた周囲だと思っている。おそらく教会も改心したとは判断すまい」

 という事は、シルビアは家族と面会出来る日はまだまだ来ないのかもしれない。


「そう、なのですか……」


 あれから、ハインツも父もクリストフも、そしてセリーナも皆それぞれ変わったというのに、シルビアだけは変わらないのか。
 セリーナは複雑な気持ちでそれを聞いた。

「それで、だ。姉上は教会に出発する際に幽閉されていた塔から出て馬車に乗り込むまでは外に出る。……その間だけ、家族や友人と会う事が出来るようだ。これは父上にだけ言うつもりだったのだが、セリーナに伝えもせずにいるのもどうかと思ってな」

 ハインツはセリーナの様子を窺うように言った。ハインツはきっとセリーナが少しでも嫌そうな素振りを見せたら途中でこの話は切り上げるつもりだったのだろう。

「私は行こう。……おそらく私はそれでシルビアとは今生の別れとなるだろうからね。セリーナは無理をしなくていい。シルビアがあの頃のままならばセリーナに何を言い出すか分からないからね」

「私は……」

 セリは悩んだ。自分はいったいどうしたいのだろう? 

 優しい時もあった……、ああでも、それも私を完全に見下していたんだわよね。
 私はお姉様を、恨んでる? 力を封じておいてあんな風に意地悪をしたり災害の時には安全な地下室から出るように言われた。あの時はなんとも思っていなかったけれど、後でハインツ兄様やライナー達にそれは明らかに私の命を奪う行為だったと諭された。

 そこまで私を憎んでいた姉に、私は会ってどうしたいのかしら?


 考え続けるセリーナを、父も兄もライナー達もただ黙って見守った。



 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ

⚪︎
恋愛
 公爵家の令嬢として傲慢に育った十歳の少女、エマ・ルソーネは、ちょっとした事故により前世の記憶を思い出し、今世が乙女ゲームの世界であることに気付く。しかも自分は、魔女の血を引く最低最悪の悪役令嬢だった。  待っているのはオールデスエンド。回避すべく動くも、何故だが攻略対象たちとの接点は増えるばかりで、あれよあれよという間に物語の筋書き通り、魔法研究機関に入所することになってしまう。  ひたすら静かに過ごすことに努めるエマを、研究所に集った癖のある者たちの脅威が襲う。日々の苦悩に、エマの胃痛はとどまる所を知らない……

【完結】 悪役令嬢が死ぬまでにしたい10のこと

淡麗 マナ
恋愛
2022/04/07 小説ホットランキング女性向け1位に入ることができました。皆様の応援のおかげです。ありがとうございます。 第3回 一二三書房WEB小説大賞の最終選考作品です。(5,668作品のなかで45作品) ※コメント欄でネタバレしています。私のミスです。ネタバレしたくない方は読み終わったあとにコメントをご覧ください。 原因不明の病により、余命3ヶ月と診断された公爵令嬢のフェイト・アシュフォード。 よりによって今日は、王太子殿下とフェイトの婚約が発表されるパーティの日。 王太子殿下のことを考えれば、わたくしは身を引いたほうが良い。 どうやって婚約をお断りしようかと考えていると、王太子殿下の横には容姿端麗の女性が。逆に婚約破棄されて傷心するフェイト。 家に帰り、一冊の本をとりだす。それはフェイトが敬愛する、悪役令嬢とよばれた公爵令嬢ヴァイオレットが活躍する物語。そのなかに、【死ぬまでにしたい10のこと】を決める描写があり、フェイトはそれを真似してリストを作り、生きる指針とする。 1.余命のことは絶対にだれにも知られないこと。 2.悪役令嬢ヴァイオレットになりきる。あえて人から嫌われることで、自分が死んだ時の悲しみを減らす。(これは実行できなくて、後で変更することになる) 3.必ず病気の原因を突き止め、治療法を見つけだし、他の人が病気にならないようにする。 4.ノブレス・オブリージュ 公爵令嬢としての責務をいつもどおり果たす。 5.お父様と弟の問題を解決する。 それと、目に入れても痛くない、白蛇のイタムの新しい飼い主を探さねばなりませんし、恋……というものもしてみたいし、矛盾していますけれど、友達も欲しい。etc. リストに従い、持ち前の執務能力、するどい観察眼を持って、人々の問題や悩みを解決していくフェイト。 ただし、悪役令嬢の振りをして、人から嫌われることは上手くいかない。逆に好かれてしまう! では、リストを変更しよう。わたくしの身代わりを立て、遠くに嫁いでもらうのはどうでしょう? たとえ失敗しても10のリストを修正し、最善を尽くすフェイト。 これはフェイトが、余命3ヶ月で10のしたいことを実行する物語。皆を自らの死によって悲しませない為に足掻き、運命に立ち向かう、逆転劇。 【注意点】 恋愛要素は弱め。 設定はかなりゆるめに作っています。 1人か、2人、苛立つキャラクターが出てくると思いますが、爽快なざまぁはありません。 2章以降だいぶ殺伐として、不穏な感じになりますので、合わないと思ったら辞めることをお勧めします。

【完結】ど近眼悪役令嬢に転生しました。言っておきますが、眼鏡は顔の一部ですから!

As-me.com
恋愛
 完結しました。 説明しよう。私ことアリアーティア・ローランスは超絶ど近眼の悪役令嬢である……。  気が付いたらファンタジー系ライトノベル≪君の瞳に恋したボク≫の悪役令嬢に転生していたアリアーティア。  原作悪役令嬢には、超絶ど近眼なのにそれを隠して奮闘していたがあらゆることが裏目に出てしまい最後はお約束のように酷い断罪をされる結末が待っていた。  えぇぇぇっ?!それって私の未来なの?!  腹黒最低王子の婚約者になるのも、訳ありヒロインをいじめた罪で死刑になるのも、絶体に嫌だ!  私の視力と明るい未来を守るため、瓶底眼鏡を離さないんだから!  眼鏡は顔の一部です! ※この話は短編≪ど近眼悪役令嬢に転生したので意地でも眼鏡を離さない!≫の連載版です。 基本のストーリーはそのままですが、後半が他サイトに掲載しているのとは少し違うバージョンになりますのでタイトルも変えてあります。 途中まで恋愛タグは迷子です。

笑い方を忘れた令嬢

Blue
恋愛
 お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。

【完結】悪役令嬢は何故か婚約破棄されない

miniko
恋愛
平凡な女子高生が乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった。 断罪されて平民に落ちても困らない様に、しっかり手に職つけたり、自立の準備を進める。 家族の為を思うと、出来れば円満に婚約解消をしたいと考え、王子に度々提案するが、王子の反応は思っていたのと違って・・・。 いつの間にやら、王子と悪役令嬢の仲は深まっているみたい。 「僕の心は君だけの物だ」 あれ? どうしてこうなった!? ※物語が本格的に動き出すのは、乙女ゲーム開始後です。 ※ご都合主義の展開があるかもです。 ※感想欄はネタバレ有り/無しの振り分けをしておりません。本編未読の方はご注意下さい。

本の通りに悪役をこなしてみようと思います

Blue
恋愛
ある朝。目覚めるとサイドテーブルの上に見知らぬ本が置かれていた。 本の通りに自分自身を演じなければ死ぬ、ですって? こんな怪しげな本、全く信用ならないけれど、やってやろうじゃないの。 悪役上等。 なのに、何だか様子がおかしいような?

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

処理中です...