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47 父への報告
しおりを挟む「そうか……。私はいつ言われるのかと毎日ヒヤヒヤとしていたのだよ」
ラングレー侯爵邸に帰り、父侯爵にセリーナとライナーが『結婚を前提に付き合っている』と報告すると、そうあっさりと返された。
「え。お父様も気付いてらっしゃったんですか?」
セリーナは少し泣きたい気持ちで父に問う。
「……そりゃあ、気付くだろう。私もこういう事には疎い方だが流石に分かったよ」
父は少し諦めたような困った表情で答えた。
「えぇ……。ホントですかお父様。誰も何も言わないし、そんなに風に見せていたつもりもなかったんですが……」
真っ赤になってそう言ったセリーナに、侯爵は微笑みかけた。
「……あの辛い出来事の後、目覚めるとセリーナは行方不明で随分と心配したのだよ。力は持っていても世間知らずな貴族の令嬢なのだから。……良い方と巡り合っていてくれて、本当に良かった。
ライナー殿。どうかセリーナを、よろしくお願いいたします」
侯爵は後半はライナーに向けて言い頭を下げた。
「……ッ! お嬢様を……、セリーナ嬢と力を合わせ必ず幸せにします! こちらこそ、どうぞよろしくお願いいたしますッ!」
ライナーは緊張の極致だった。
ライナーはセリの事を前世エリナの時からこの人一人と思い愛している。セリ以外は考えられない。
しかし、セリはこのレーベン王国の侯爵令嬢。対して自分は異国の平民。本来ならば身分は全く釣り合わない、有り得ない組み合わせなのだと分かっていた。
それなのに、侯爵は2人を許しなんと平民のライナーに頭まで下げてくれた。
ライナーは、この方には一生逆らえない恩義が出来たと思った。
「……それで、2人は今後どう暮らしていくつもりだい? 私としては2人の意向に沿うようにしたいと思っているよ」
セリとライナーは2人目を見合わす。そして仲間であるダリルとアレンを見た。4人で頷き合う。
「これから、レーベン王国へ少しずつ拠点を移してこようと思っています。今までの暮らしも気に入ってはいたのですが、こちらにもやり甲斐のある仕事があるようですし」
まずライナーがそう言い、セリもそれに補足しつつ言った。
「まあ『転移』ですぐにこちらに飛べるから、本当に少しずつなのだけれどね。元の場所でも急に国一番の冒険者達が居なくなったら困ると思うし……」
ダリルも微笑みながら言う。
「そして、我々もせっかくなのでこちらに来てみようかと。まあ、本来この国の人間ではありませんので合わないと思えば元に戻ります」
そしてアレンは楽しみで仕方ない、という風に言った。
「僕も魔法使いの国って憧れもありますし、せっかくなので色々体験しつつ合えば定住も考えています」
少し前から4人で話し合って出した答え。
こちらで暮らす事に前向きでなかったセリに、まずダリルとアレンが『楽しそうじゃない!』『僕も暮らしてみたいかも!』と言い出し、ライナーも『ダメだと思ったら出て行けばいいんじゃないか?』と言って話がまとまった。
なにせ、『転移』があるので引越しが楽々だ。そして彼等の能力ならばどこでも暮らしていける。
……そんな訳で。
「……お父様。ハインツ兄様。これからもどうぞよろしくお願いいたします」
そう言ってセリは頭を下げた後、父と兄を見る。
「……え!?」
そして、セリは驚いた。……何故なら、父と兄が泣いていたから。
「お父様ッ? ハインツ兄様?」
慌てるセリを見ながら父は頷き涙を流しながら言った。
「……済まない、済まないセリーナ……。あれ程お前には辛い思いをさせたというのに、ここに戻ってくれるというのか……」
「……セリーナ。私は本当に不甲斐ない情けのない兄だった。本当に、済まなかった……。私はこれからセリーナの兄として恥ずかしくない相応しい人間であろうと思う。……この兄のこれからをよく見ておいてくれ……」
涙を流し謝罪する父と兄にセリは最初驚いたが、側に寄りそっと自らの手を彼等の手の上に置いた。
父と兄は一瞬目を見開きセリを見た後、3人で泣いた。
「ところでセリーナ。姉上の事なのだが……」
暫くして、ハインツは目をこすりながら少し言いにくそうに話し出した。
「殿下のお話の通り、姉上は生涯教会での生活となる。……そして、教会では姉上のように訳アリで入信した者にはかなり厳しい。余程姉上が改心したと判断されない限りは家族でさえ面会は許されない」
それを聞いた父も辛そうな顔で言った。
「……私はシルビアが王宮に幽閉された時から特別の許可を得て手紙のやり取りをしている。
……しかしシルビアは我が身の不幸を嘆くばかりで、自分のした事の重みを全く分かっていない。災害時に『封印』の力を使わなかった事も幼いセリーナに『封印』をかけた事も……。悪いのは全て自分を追い詰めた周囲だと思っている。おそらく教会も改心したとは判断すまい」
という事は、シルビアは家族と面会出来る日はまだまだ来ないのかもしれない。
「そう、なのですか……」
あれから、ハインツも父もクリストフも、そしてセリーナも皆それぞれ変わったというのに、シルビアだけは変わらないのか。
セリーナは複雑な気持ちでそれを聞いた。
「それで、だ。姉上は教会に出発する際に幽閉されていた塔から出て馬車に乗り込むまでは外に出る。……その間だけ、家族や友人と会う事が出来るようだ。これは父上にだけ言うつもりだったのだが、セリーナに伝えもせずにいるのもどうかと思ってな」
ハインツはセリーナの様子を窺うように言った。ハインツはきっとセリーナが少しでも嫌そうな素振りを見せたら途中でこの話は切り上げるつもりだったのだろう。
「私は行こう。……おそらく私はそれでシルビアとは今生の別れとなるだろうからね。セリーナは無理をしなくていい。シルビアがあの頃のままならばセリーナに何を言い出すか分からないからね」
「私は……」
セリは悩んだ。自分はいったいどうしたいのだろう?
優しい時もあった……、ああでも、それも私を完全に見下していたんだわよね。
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そこまで私を憎んでいた姉に、私は会ってどうしたいのかしら?
考え続けるセリーナを、父も兄もライナー達もただ黙って見守った。
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