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ため息の嵐
しおりを挟む「……はぁ……」
公爵家の居間で、ツツェーリアはまた大きなため息を吐いた。
「ツツェ? 今日何度目のため息? 一日の最高ため息記録更新してるよ、きっと」
アロイスが心配そうにツツェーリアの顔を覗き込む。
「……普段はそんなにため息を吐いてないわよ。
……だって、ため息もでるでしょう……? せっかく殿下もその気になってくださったというのに、まさか国王陛下に却下されるなんて」
ツツェーリアはまた大きなため息を吐いた。
……
……婚約者であるアルベルトが隣国の王女に恋に落ちた瞬間を見た事で、ツツェーリアもアルベルト以外の男性に恋をしたと彼に告白した。よくよく話し合った2人は国王陛下に内密に拝謁を願い『婚約の解消』を願い出た。
───しかし、国王の答えは『否』。
例え隣国の王女との縁組が国の利になり得るといっても、当然リスクもあるし実際にはその後どう転ぶかは分からない。
しかしツツェーリアならば今までも国の為に尽くしこれまでも何の難もなく、2人の相性も良い。しかもこの国の筆頭公爵家の娘が王妃になる事は国の安定に繋がると皆が分かっているのだ。
そして一度決まった婚約を覆すのは国を乱す元になり得る。そんな悪い可能性がある事をわざわざ引き起こすべきではない。───それが国王の考えであった。
『愛だ恋だと騒ぐはほんのいっときのもの。それよりもお前達は、信頼という深い絆で結ばれておるのだ。それを一時の気の迷いで国を乱すリスクを犯してまで壊し突き進むべきではない』
国王の有無を言わさぬ言葉に2人はガクリと肩を落とした。
……
あの時の国王の言葉を思い出し、またため息を吐くツツェーリア。
そんなツツェーリアを見て自身も本当は相当落ち込みながらアロイスは言った。
「僕も本当に悔しいけれど……。
……陛下のお気持ちも分からないでもない。今殿下とツツェは上手くいってるのにわざわざ波風立てたくはないんでしょ。それに外国出身の王妃は今後の国の情勢次第でどう転ぶか分からないものね。王女の人となりもまだよくは分からないんだし。
……なまじツツェがよく出来るから、ツツェを手放した後で何かあったら貴族達から何を言われるか分からないだろうし」
「エディット王女は良く出来たお方だと有名らしいわ。私は……、この国の筆頭公爵家の娘だしある程度『忖度』はされているんだと思うわよ?」
アロイスは肩をすくめる。
「『忖度』、ねぇ……。案外ツツェは自己評価が低いよね。僕から見たらツツェ程王妃に相応しい女性は居ないと思うよ。忖度のしようもない位にね。
……だから陛下のお考えは正しいとは思うんだけれど……」
アロイスはそう言って俯いた。
一般論としてはそうだと分かっている。分かってはいるのだが……。
アロイスは初めて愛した人、ツツェーリアが自分を憎からず想っていてくれると知って天にも昇るほどに嬉しかった。
それなのに……。どうにもならない2人の立場というものにやるせ無い想いは募る。……アロイスは国王のダメ出しのその理由が理解出来るが故に、如何ともし難い気持ちだ。
───先日アロイスがツツェーリアに愛を告白した後、彼女が王宮に『王子妃教育』と称して出て行ってしまいアロイスは大いに落ち込んだ。……しかしこれで諦めがつくではないかと無理矢理に自分を納得させていた。
しかし、その後帰って来た愛する人は見るも無惨に落ち込んでいた。完璧な淑女の仮面を持っている彼女には大変珍しい事だった。
『なんでもない』と言い張るツツェーリアから何とか理由を問いただした。
───その内容は、『歓喜』と『落胆』。
愛する彼女も自分を愛していると分かり浮き上がらんばかりに『歓喜』し、それなのにその愛が決して叶う事は無いのだと思い知りどこまでも『落胆』した。
それはツツェーリアも同じらしく、2人して大きく『落胆』していたが、彼女はこれから『王妃』として立つべき身。そして自分も筆頭公爵家の後継として立たねばならない。……落ち込んでばかりはいられない。彼女を、愛するツツェーリアを支えていかなければ。……そうアロイスは決意した。
今は愛するツツェーリアを支えていくという強い思いだけでアロイスはなんとか自分の心を持ち堪えさせているのだ。
……そんな事を思い返してアロイスは目の前にいる愛しい人を見つめた。
そしてツツェーリアは辛そうに口を開いた。
「殿下もお辛いと思うわ。……仕方のない事なのだけれど、殿下のお気持ちを伝えられないままエディット王女は帰国されてしまったし……。もしかしたら、隣国ですぐに別の縁組が組まれてしまうかもしれないのですもの」
……そしてそれはアロイスも同じ。
まだ公爵である父からはそのような話はされてはいないが、公爵家の跡取りである以上いずれはアロイスも婚約者が定められる。
アルベルト殿下とエディット王女、アロイスとツツェーリア。……4人は両思いであるにも関わらず、この恋は叶わない。
どうにもならない事実であるから何の慰めを言う事も出来ず、2人の間に重い空気が流れた。
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