《完結》恋に落ちる瞬間〜私が婚約を解消するまで〜

本見りん

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セイラの企み

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 ……ドンッ


「きゃー! いたぁい!」


 ある日アロイスが自分の教室に向かって歩いていると手前の教室から女子生徒が飛び出し、まるで狙ったかのように体当たりをして来た。


 真っ直ぐな廊下を歩いていたアロイスが避ける間もない位の飛び出しだったが、相手はまるで自分が被害者かのように大袈裟に倒れ込み涙目でこちらを見て来た。


「───突然飛び出して人に体当たりとは。子供でもここまで考えなしの行動は取らないだろう」


 アロイスの友人も横にいて、呆れたようにそのぶつかって来た相手……セイラを見た。


「えぇ……? あいたたた……。ぅう……っ。足を、挫いたみたいー。手を貸してくれなきゃ歩けないわぁ」


 セイラは大袈裟に痛がってアロイスをチラリと見る。


「警備員を呼んでやろう。……医務室に行き何もないと分かれば学園から処分してもらうぞ」


 その冷たすぎる態度にセイラは一瞬ピクリとしたが、それでも気を取り直して上目遣いであざと可愛く言った。そしてさりげなくスカートの端を上げスラリとした美しい脚をチラリと見せる。


「えぇ~、でも痛くて動けないしぃ~~」


 アロイス達はセイラが高位貴族と知り合う為にこの様な手をよく使うことは知っている。
 現在アルベルト王子達と仲が良いというのに更にこの様な行いを続けるのは全く理解が出来ないが。

 しかし、アロイスは気付く。
 ……ああ、王子達と決定的な関係を結べないから保険として筆頭公爵家嫡男の自分や高位貴族に近付こうとしているのか、と。
 という事は愛するツツェーリアから聞いた計画通り、王子達は彼女とはあくまでも学園内でだけ友人として行動しているという事。

 絶世の美少年であるアロイスはその美しい顔に微笑を浮かべた。セイラも横にいた友人達も一瞬それに見惚れた。


「───殿下にこの事を報告されたくなければさっさと行け。義姉の婚約者に近付くこのアバズレが!」


 そしてその氷の彫刻の様な姿から発せられた同じく冷たい言葉に流石のセイラは凍りついた様に動きを止め……、それから悔しそうに顔を歪めて駆け出し去って行った。


「……足は痛めて無かった様だね」


 友人がセイラの後ろ姿を呆れた様に見つめて呟くと、アロイスも頷いた。


「……あの女の手口は知っているだろう? あちこちの目ぼしい高位貴族に近付こうとしているんだ。殿下の婚約者の弟にまで手を出そうとするとは、とんでもない女だ」


 今や高位貴族の令息達は、『要注意人物』としてセイラを認識していた。


「……まったく、理解出来ないね。殿下の愛妾の座を狙っているのかと思っていたのだが。あのようにあちこちの男性と関係を持とうとする様な者ではそれも無理だろう」

「……そうだな」


 愛するツツェーリアと王子の婚約を解消する為の計画の契約相手であるセイラ。

 本来なら彼女は今後『殿下の願いを叶える為協力した学園時代の友人』としての地位を確立出来たはずで、契約終了後はそれを利用し縁談などを有利にしていくべきなのだ。普通ならば王子達もそれに協力するだろう。
 ……しかしただでさえ人々に嫌われる役どころであるのに、今の様な行いをしていたらせっかくの『王子の友人』という立場さえ失う事になるというのに。

 いったいどうするつもりなのか……?


 そう考えかけたものの、アロイスはすぐにそれを考える事をやめた。彼女の行く末など彼には全く興味がなかったからだ。
 アロイスは愛する義姉ツツェーリアさえ傍にいてくれればそれで良いのだから。


 ◇


 悔しい、悔しい……っ!

 何だか全然上手くいかない。私の可愛さには男性は皆うっとりするというのに。何故高位の令息達にはそれが通用しないの?


 セイラは領地で一番可愛いと言われたこの美貌を使って、この王立学園で高位貴族を捕まえての結婚を目指していた。

 入学式にあちこちで情報収集していたら、この学園には王子様がいるらしいと知った。このクラスでの目ぼしい男子生徒もチェックしながら王子様も見にいってみたら。

 王子様は今まで見た事がないくらいに高貴で素敵な人だった。側近の2人もとっても素敵。
 絶対にこの3人の内の誰かをゲットしてみせるわ! と張り切ってアピールし続けた。最初の方は随分と拒否されたのだけれど、その内に彼らから『ある計画』を持ちかけられた。


 『婚約者と婚約解消をする為に協力して欲しい』? ……それが出来るまでの間ずっとセイラと一緒にいる? 
 『普通にしていればその後の『友人』としての立場は保証する』? ……要するに、婚約解消するまでの間にセイラの魅力で誰かと既成事実を作っちゃえばこっちのものじゃない? 簡単じゃない!


 快くオッケーして始まった王子達との友人関係は、確かに皆に羨ましがられ高位の貴族達にもマウントをとれてとても気分が良かったけれど……。
 すぐに誰かと関係を持てると自信があったのに、思ったより3人ともガードが固い。今まで誰とも2人きりになれる機会が全く無かったのだ。

 3人の卒業が近づく中、彼らとの関係は全く変わらない。3人とは人前でだけイチャつくだけ。


 このままではいけないと思ったセイラは、周囲の高位貴族達にも自分の魅力を分けてあげることにした。

 ───それなのに、それがまったく通用しない。
 

 ……どうして!? こんなに可愛いセイラが声をかけてあげているのに! 男の人なら鼻の下をのばしてセイラの言うことを聞いてくれるハズでしょう!?


 もしかして、あの人達は私が王子達と仲が良い事で警戒されているのかしら? 王子達が嫉妬してしまうと思って避けているの? それとも、もしかしたら……。これは王子達の婚約者達の嫌がらせ?


 ……もしそうなら許せないわ。そんな事だから王子達に『婚約解消したい』って思われるのよ!

 いいわ。
 セイラがあの女達に自分の身の程を分からせてやるんだから!


 セイラは歪んだ恨みをもって動こうとしていた。





 
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