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『平凡令嬢』との邂逅
しおりを挟むそして『平凡令嬢』の噂と同じように王太子とその側近の婚約者、つまりはツツェーリア達を憐れむような噂がある。
尚も好き勝手に『平凡令嬢』の噂をし続ける男子生徒達。……ツツェーリアはだんだん許せない気持ちになった。そしてつい、口を開いた。
「……なんですの? あなた方。女性を貶めるような事を言うなんて、恥ずかしくありませんの? 言わせていただけるなら、きっとその女性もあなた方のような男性を婚約者にとは望まないと思いますわ」
その発した言葉に、男子生徒達は初め少し惚けた後ツツェーリアを見てギョッとした。
「……ッ! アルペンハイム公爵令嬢!!」
最初睨むように声のする方を振り向いた男子生徒達は慌てて礼をする。
「いえ、僕たちは……! ただ、彼女は平凡過ぎて僕たちには合わないな、とそう思ったまでで……」
彼らの勝手な論理にカチンとくる。
「ですから、何故その方と付き合うのに困る、という前提の話になるんですの? 私何度もその話を聞いた覚えがございますけれど、あなた方はその方との縁談が出てらっしゃる訳でもないのですわよね?」
「……はい、縁談があるという訳では……」
「ではどういった了見ですの? そのお噂は今までずっと耳に入っておりましたけれどとても耳障りで。その方が普通で何が悪いと? あなたがたはその方に迫られて困っている訳でも無いのですわよね?」
すると1人の男子生徒が俯きながらも悔しげに言った。
「ミランダは……、彼女は平凡なくせして生意気なのです! 入学してすぐにせっかく僕が優しくしてやっていい雰囲気かと思ってたのに……他のやつにもいい顔をしていたんです! この僕が、あんな平凡な女に適当にあしらわれるなんて……!」
……は? なんですのそれ?
それではこの男子生徒はミランダ嬢に振られて逆恨みしているという事?
「まさかあなた、失恋したのが恥ずかしくてずっとミランダさんの悪口を言い続けていたという事ですの? ……まあ呆れた。それにそれを今も言い続けるているなんて、まだあなたは彼女の事が気になって仕方ないようですわね。けれどこんな事をしているようでは彼女に振り向いてなどもらえませんわよ」
さっきの男子生徒は青くなって俯いた。
その時、ガタンッ……と後ろの方から物音がした。
振り返ると、そこには件の令嬢ミランダがこちらを見て立っていた。
……男子生徒たちとツツェーリアはそこにミランダがいた事に気付く。
「……あ……」
ミランダを見たその男子生徒は赤くなりまた俯いた。
それを見たツツェーリアは、この男子生徒はまだミランダ嬢の事を諦めていないのね、と思った。彼女に失恋し諦めきれない中で聞いた『平凡令嬢』という噂に、この男子生徒はしがみついていたのだろうか。
そしてそう感じたのはミランダも同じだったようで、冷めた目でその男子学生を一瞥した後ツツェーリアに向き直った。
「アルペンハイム様。……庇っていただき、ありがとうございました」
ミランダは持っていた食事のトレーを近くの机にいったん置き、ツツェーリアに向かって心を込めたカーテシーをした。
男子学生は自分を見ずに公爵令嬢に礼を言うミランダを見て、彼女の心は自分に向くことはない事を悟ったようでショックを受けたようにまた青くなる。
……あの噂でミランダ嬢を貶めておきながら、それでも好きになってもらえると思っていたのかしらね? まったく理解出来ないわ。
マルクスといいこの男子生徒といい、恋する男は斜め向こうに考え過ぎてやしないか? 頭の痛い思いをするツツェーリアだった。
「……申し訳ありませんでした。彼は連れて行きます、もうこんな馬鹿げた噂はしませんので……!」
居た堪れなくなったのだろうその男子生徒を友人達は引き摺るようにして彼らは去っていった。
ツツェーリアはミランダと黙って彼らを見送り、そして言った。
「……私は貴女を庇ったつもりはなくてよ。本当に耳障りでしたの。なんの根拠もない、そんな無責任な噂が私は好きではありませんの」
……マズイわ。アルベルト殿下達と、学園内で彼らの婚約者や想い人には関わらないと決めたはずだったのよね。半分不可抗力だったとしても、今はこれ以上彼女に関わるのは良くないわ。
そう思ったツツェーリアは出来るだけアッサリとした態度で言った。
……だけど、あの噂を聞いて黙っていられなかったのだ。自分も何かと色々言われる事が多いから分かる。気にしていないつもりでいても、やはり心は傷付いているのだ。
「……それでも。公爵令嬢がお声を発してくださった事が、私にはとても嬉しかったのです。
……本当に、ありがとうございました」
出来るだけ突き放した態度だったというのに、ミランダは気持ちの籠もった御礼を言ってくれたのだ。……ツツェーリアはどきりとしてチラリとミランダを見た。
「……あなたの為になったのなら良かったわ」
ツツェーリアはそう言って口元に微笑みを浮かべると足早にその場を離れた。これ以上関わったらミランダを捕まえてアレコレ話をしたくなってしまう。
そのツツェーリアの去る後ろ姿を、ミランダは憧れと親愛の瞳で見つめていたのだった。
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