《完結》恋に落ちる瞬間〜私が婚約を解消するまで〜

本見りん

文字の大きさ
21 / 31

『平凡令嬢』との邂逅

しおりを挟む


 そして『平凡令嬢』の噂と同じように王太子とその側近の婚約者、つまりはツツェーリア達を憐れむような噂がある。



 尚も好き勝手に『平凡令嬢』の噂をし続ける男子生徒達。……ツツェーリアはだんだん許せない気持ちになった。そしてつい、口を開いた。


「……なんですの? あなた方。女性を貶めるような事を言うなんて、恥ずかしくありませんの? 言わせていただけるなら、きっとその女性もあなた方のような男性を婚約者にとは望まないと思いますわ」


 その発した言葉に、男子生徒達は初め少し惚けた後ツツェーリアを見てギョッとした。


「……ッ! アルペンハイム公爵令嬢!!」


 最初睨むように声のする方を振り向いた男子生徒達は慌てて礼をする。


「いえ、僕たちは……! ただ、彼女は平凡過ぎて僕たちには合わないな、とそう思ったまでで……」


 彼らの勝手な論理にカチンとくる。


「ですから、何故その方と付き合うのに困る、という前提の話になるんですの? 私何度もその話を聞いた覚えがございますけれど、あなた方はその方との縁談が出てらっしゃる訳でもないのですわよね?」

「……はい、縁談があるという訳では……」

「ではどういった了見ですの? そのお噂は今までずっと耳に入っておりましたけれどとても耳障りで。その方が普通で何が悪いと? あなたがたはその方に迫られて困っている訳でも無いのですわよね?」


 すると1人の男子生徒が俯きながらも悔しげに言った。


「ミランダは……、彼女は平凡なくせして生意気なのです! 入学してすぐにせっかく僕が優しくしてやっていい雰囲気かと思ってたのに……他のやつにもいい顔をしていたんです! この僕が、あんな平凡な女に適当にあしらわれるなんて……!」


 ……は? なんですのそれ?

 それではこの男子生徒はミランダ嬢に振られて逆恨みしているという事?


「まさかあなた、失恋したのが恥ずかしくてずっとミランダさんの悪口を言い続けていたという事ですの? ……まあ呆れた。それにそれを今も言い続けるているなんて、まだあなたは彼女の事が気になって仕方ないようですわね。けれどこんな事をしているようでは彼女に振り向いてなどもらえませんわよ」


 さっきの男子生徒は青くなって俯いた。


 その時、ガタンッ……と後ろの方から物音がした。


 振り返ると、そこには件の令嬢ミランダがこちらを見て立っていた。



 ……男子生徒たちとツツェーリアはそこにミランダがいた事に気付く。


「……あ……」


 ミランダを見たその男子生徒は赤くなりまた俯いた。


 それを見たツツェーリアは、この男子生徒はまだミランダ嬢の事を諦めていないのね、と思った。彼女に失恋し諦めきれない中で聞いた『平凡令嬢』という噂に、この男子生徒はしがみついていたのだろうか。


 そしてそう感じたのはミランダも同じだったようで、冷めた目でその男子学生を一瞥した後ツツェーリアに向き直った。


「アルペンハイム様。……庇っていただき、ありがとうございました」


 ミランダは持っていた食事のトレーを近くの机にいったん置き、ツツェーリアに向かって心を込めたカーテシーをした。

 男子学生は自分を見ずに公爵令嬢に礼を言うミランダを見て、彼女の心は自分に向くことはない事を悟ったようでショックを受けたようにまた青くなる。


 ……あの噂でミランダ嬢を貶めておきながら、それでも好きになってもらえると思っていたのかしらね? まったく理解出来ないわ。

 マルクスといいこの男子生徒といい、恋する男は斜め向こうに考え過ぎてやしないか? 頭の痛い思いをするツツェーリアだった。



「……申し訳ありませんでした。彼は連れて行きます、もうこんな馬鹿げた噂はしませんので……!」


 居た堪れなくなったのだろうその男子生徒を友人達は引き摺るようにして彼らは去っていった。



 ツツェーリアはミランダと黙って彼らを見送り、そして言った。


「……私は貴女を庇ったつもりはなくてよ。本当に耳障りでしたの。なんの根拠もない、そんな無責任な噂が私は好きではありませんの」


 ……マズイわ。アルベルト殿下達と、学園内で彼らの婚約者や想い人には関わらないと決めたはずだったのよね。半分不可抗力だったとしても、今はこれ以上彼女に関わるのは良くないわ。

 そう思ったツツェーリアは出来るだけアッサリとした態度で言った。

 ……だけど、あの噂を聞いて黙っていられなかったのだ。自分も何かと色々言われる事が多いから分かる。気にしていないつもりでいても、やはり心は傷付いているのだ。



「……それでも。公爵令嬢がお声を発してくださった事が、私にはとても嬉しかったのです。
……本当に、ありがとうございました」


 出来るだけ突き放した態度だったというのに、ミランダは気持ちの籠もった御礼を言ってくれたのだ。……ツツェーリアはどきりとしてチラリとミランダを見た。


「……あなたの為になったのなら良かったわ」


 ツツェーリアはそう言って口元に微笑みを浮かべると足早にその場を離れた。これ以上関わったらミランダを捕まえてアレコレ話をしたくなってしまう。


 そのツツェーリアの去る後ろ姿を、ミランダは憧れと親愛の瞳で見つめていたのだった。



 
 
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

【完結】私のことが大好きな婚約者さま

咲雪
恋愛
 私は、リアーナ・ムスカ侯爵子女。第二王子アレンディオ・ルーデンス殿下の婚約者です。アレンディオ殿下の5歳上の第一王子が病に倒れて3年経ちました。アレンディオ殿下を王太子にと推す声が大きくなってきました。王子妃として嫁ぐつもりで婚約したのに、王太子妃なんて聞いてません。悩ましく、鬱鬱した日々。私は一体どうなるの? ・sideリアーナは、王太子妃なんて聞いてない!と悩むところから始まります。 ・sideアレンディオは、とにかくアレンディオが頑張る話です。 ※番外編含め全28話完結、予約投稿済みです。 ※ご都合展開ありです。

婚約者から悪役令嬢と呼ばれた公爵令嬢は、初恋相手を手に入れるために完璧な淑女を目指した。

石河 翠
恋愛
アンジェラは、公爵家のご令嬢であり、王太子の婚約者だ。ところがアンジェラと王太子の仲は非常に悪い。王太子には、運命の相手であるという聖女が隣にいるからだ。 その上、自分を敬うことができないのなら婚約破棄をすると言ってきた。ところがアンジェラは王太子の態度を気にした様子がない。むしろ王太子の言葉を喜んで受け入れた。なぜならアンジェラには心に秘めた初恋の相手がいるからだ。 実はアンジェラには未来に行った記憶があって……。 初恋の相手を射止めるために淑女もとい悪役令嬢として奮闘するヒロインと、いつの間にかヒロインの心を射止めてしまっていた巻き込まれヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(写真のID:22451675)をお借りしています。 こちらは、『婚約者から悪役令嬢と呼ばれた自称天使に、いつの間にか外堀を埋められた。』(https://www.alphapolis.co.jp/novel/572212123/891918330)のヒロイン視点の物語です。

【完結】彼を幸せにする十の方法

玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。 フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。 婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。 しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。 婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。 婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。

【完結】私の愛する人は、あなただけなのだから

よどら文鳥
恋愛
 私ヒマリ=ファールドとレン=ジェイムスは、小さい頃から仲が良かった。  五年前からは恋仲になり、その後両親をなんとか説得して婚約まで発展した。  私たちは相思相愛で理想のカップルと言えるほど良い関係だと思っていた。  だが、レンからいきなり婚約破棄して欲しいと言われてしまう。 「俺には最愛の女性がいる。その人の幸せを第一に考えている」  この言葉を聞いて涙を流しながらその場を去る。  あれほど酷いことを言われってしまったのに、私はそれでもレンのことばかり考えてしまっている。  婚約破棄された当日、ギャレット=メルトラ第二王子殿下から縁談の話が来ていることをお父様から聞く。  両親は恋人ごっこなど終わりにして王子と結婚しろと強く言われてしまう。  だが、それでも私の心の中には……。 ※冒頭はざまぁっぽいですが、ざまぁがメインではありません。 ※第一話投稿の段階で完結まで全て書き終えていますので、途中で更新が止まることはありませんのでご安心ください。

釣り合わないと言われても、婚約者と別れる予定はありません

しろねこ。
恋愛
幼馴染と婚約を結んでいるラズリーは、学園に入学してから他の令嬢達によく絡まれていた。 曰く、婚約者と釣り合っていない、身分不相応だと。 ラズリーの婚約者であるファルク=トワレ伯爵令息は、第二王子の側近で、将来護衛騎士予定の有望株だ。背も高く、見目も良いと言う事で注目を浴びている。 対してラズリー=コランダム子爵令嬢は薬草学を専攻していて、外に出る事も少なく地味な見た目で華々しさもない。 そんな二人を周囲は好奇の目で見ており、時にはラズリーから婚約者を奪おうとするものも出てくる。 おっとり令嬢ラズリーはそんな周囲の圧力に屈することはない。 「釣り合わない? そうですか。でも彼は私が良いって言ってますし」 時に優しく、時に豪胆なラズリー、平穏な日々はいつ来るやら。 ハッピーエンド、両思い、ご都合主義なストーリーです。 ゆっくり更新予定です(*´ω`*) 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

王太子殿下が私を諦めない

風見ゆうみ
恋愛
公爵令嬢であるミア様の侍女である私、ルルア・ウィンスレットは伯爵家の次女として生まれた。父は姉だけをバカみたいに可愛がるし、姉は姉で私に婚約者が決まったと思ったら、婚約者に近付き、私から奪う事を繰り返していた。 今年でもう21歳。こうなったら、一生、ミア様の侍女として生きる、と決めたのに、幼なじみであり俺様系の王太子殿下、アーク・ミドラッドから結婚を申し込まれる。 きっぱりとお断りしたのに、アーク殿下はなぜか諦めてくれない。 どうせ、姉にとられるのだから、最初から姉に渡そうとしても、なぜか、アーク殿下は私以外に興味を示さない? 逆に自分に興味を示さない彼に姉が恋におちてしまい…。 ※史実とは関係ない、異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。

【完結】恋が終わる、その隙に

七瀬菜々
恋愛
 秋。黄褐色に光るススキの花穂が畦道を彩る頃。  伯爵令嬢クロエ・ロレーヌは5年の婚約期間を経て、名門シルヴェスター公爵家に嫁いだ。  愛しい彼の、弟の妻としてーーー。  

婚約破棄までの168時間 悪役令嬢は断罪を回避したいだけなのに、無関心王子が突然溺愛してきて困惑しています

みゅー
恋愛
アレクサンドラ・デュカス公爵令嬢は舞踏会で、ある男爵令嬢から突然『悪役令嬢』として断罪されてしまう。 そして身に覚えのない罪を着せられ、婚約者である王太子殿下には婚約の破棄を言い渡された。 それでもアレクサンドラは、いつか無実を証明できる日が来ると信じて屈辱に耐えていた。 だが、無情にもそれを証明するまもなく男爵令嬢の手にかかり最悪の最期を迎えることになった。 ところが目覚めると自室のベッドの上におり、断罪されたはずの舞踏会から1週間前に戻っていた。 アレクサンドラにとって断罪される日まではたったの一週間しか残されていない。   こうして、その一週間でアレクサンドラは自身の身の潔白を証明するため奮闘することになるのだが……。 甘めな話になるのは20話以降です。

処理中です...