《完結》恋に落ちる瞬間〜私が婚約を解消するまで〜

本見りん

文字の大きさ
20 / 31

悪い『噂』

しおりを挟む



「それでその時に先生が……」
「まあ、本当に?」


 ツツェーリアは友人達と話しながら昼食を取る為食堂へと向かっていた。
 そして食堂近くの廊下で、不意に声をかけられた。


「……ねぇ。アナタがアルの性悪婚約者なのぉ?」


 そこにはどちらかといえば小柄で細身ありながら出るところはかなり出ている、ピンクゴールドのフワフワとした髪に垂れ目気味で可愛く男性の庇護欲を誘うような女生徒。……セイラが立っていた。


 ツツェーリアの友人達も彼女が何者であるかを瞬時に察した。


「……貴女。ここが平等を謳う学園であっても失礼よ!」

「高位の貴族相手でなくてもその物言い、許されることではないわ」


 そう次々にセイラを断じた。
 
 ツツェーリアはセイラがどういう目的で自分のところに来たのか、これはアルベルトの作戦に関係のある事なのかを考えセイラの次の動きを見入る。


「ええ~? だって本当の事でしょう? 私がアルと仲が良いからって、私に酷い事してるでしょう? ……分かってるんだからね!!」


 セイラは最後闘争心剥き出しでツツェーリア達に噛み付いて来た。


「……? 私は貴女と関わったことはありませんが……?」


 ……殿下。これは、どういう目的の作戦なのでしょうか? この計画は婚約者の女性側に非がないようにと考えられていたはずなのだけれど……。


 ツツェーリアはそう考えながらも、全く身に覚えもないので否定する。
 

「とぼけるの!? 私のあることないこと、周りに言いふらしているんでしょう!? 私がアルに付き纏ってるとか! 他の男子生徒にも声をかけてるとか!」


 ……それ、全部事実よね?


 ツツェーリアも友人達も、騒ぎを聞き付けて集まりつつある野次馬もそう思った。


「私とアルは心から愛し合ってるのよ!? それを妬んで引き裂こうとしたり評判を落とそうとしたり、なんて悪どい酷い女なの! そんなだからアルに嫌われるのよ!」


 セイラは尚も興奮してそう叫び続けた。
 

「……私が貴女の噂をする事など有り得ませんわ。私は貴女と一切関わりがないのですから。知らない方の事をアレコレ言うことなど出来ませんもの」


 ツツェーリアは割と冷静に事実を述べた。……知らない事を言いふらすなど出来ないし、そもそもアルベルトの計画ではセイラとツツェーリアは関わらないはずなのだ。


「ッだからアンタが嘘の私の悪口を……」
「そこ、何をしている! ……また君か! 騒ぎばかり起こして今度こそ反省室行きだぞ!」


 そこに現れた教師を見て、セイラは慌てて退散して行ったのだった。


「いったいなんでしょう! アレは!!」
「許せませんわ! そもそも悪口も何もあの子が言ってた事は全て自分の事実ではありませんか!」


 ツツェーリアの友人達も見ていた周りの生徒達も一様にセイラに対して怒りを表したのだが……。


 
 しかし、それからもセイラは似たような事を何度も起こしてきた。

 するとその内人々の中にはツツェーリアが本当にセイラに嫌がらせをしているのでは? と面白おかしく言う者達も現れ出した。……おそらくは、ツツェーリアに元々嫉妬している者かアルペンハイム公爵家の違う派閥の家の者達か……。


 思わぬ悪い噂にツツェーリアは悩まされる事になった。



 そしてセイラはブルーノとマルクスの婚約者にも似たような騒ぎを起こしていったのだった。


 ◇


 そんなある日。

 友人と食事を終え教室に戻る途中、ツツェーリアは食堂にハンカチを忘れた事に気が付いた。


「……すぐですから、先に教室に戻っていてくださいな」

「まあツツェーリア様。私次の授業の係ですので申し訳ありませんがお言葉に甘えさせていただきますわ」


 そしてツツェーリアは友人と別れ食堂に戻り、目的のハンカチを見つけた。


 ……良かった。これ、お気に入りなのよね。


 そうして急いで教室に戻ろうとしたのだが。



「……そう、だからー、ミランダはダメだろー」

「そうだよな。落ちぶれかけの伯爵家より勢いのある子爵家の方が余程いいよな」


 何やら、小馬鹿にしたような物言いの男子生徒達の声が聞こえてきた。


 『ミランダ』……。ミランダ シュミット伯爵令嬢のこと……?


 ツツェーリアは思わず振り返り彼らの話に聞き入る。……するとやはり、彼らが話していたのはアルベルトの側近マルクスの思い人ミランダの話のようだった。
 ツツェーリアは非常に苦々しい気持ちになった。

 ……そもそもマルクスが婚約者マリアンネの攻撃から恋するミランダを守る為に言ったという言葉、『平凡令嬢』。
 今やその言葉は独り歩きして、こうしてあちこちで噂されるようになっている。


 『平凡令嬢』の噂は、今やこの学園でアルベルト達の噂の次に皆の話題になる話になってしまっているのだ。



しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

【完結】私のことが大好きな婚約者さま

咲雪
恋愛
 私は、リアーナ・ムスカ侯爵子女。第二王子アレンディオ・ルーデンス殿下の婚約者です。アレンディオ殿下の5歳上の第一王子が病に倒れて3年経ちました。アレンディオ殿下を王太子にと推す声が大きくなってきました。王子妃として嫁ぐつもりで婚約したのに、王太子妃なんて聞いてません。悩ましく、鬱鬱した日々。私は一体どうなるの? ・sideリアーナは、王太子妃なんて聞いてない!と悩むところから始まります。 ・sideアレンディオは、とにかくアレンディオが頑張る話です。 ※番外編含め全28話完結、予約投稿済みです。 ※ご都合展開ありです。

半日だけの…。貴方が私を忘れても

アズやっこ
恋愛
貴方が私を忘れても私が貴方の分まで覚えてる。 今の貴方が私を愛していなくても、 騎士ではなくても、 足が動かなくて車椅子生活になっても、 騎士だった貴方の姿を、 優しい貴方を、 私を愛してくれた事を、 例え貴方が記憶を失っても私だけは覚えてる。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ ゆるゆる設定です。  ❈ 男性は記憶がなくなり忘れます。  ❈ 車椅子生活です。

二人ともに愛している? ふざけているのですか?

ふまさ
恋愛
「きみに、是非とも紹介したい人がいるんだ」  婚約者のデレクにそう言われ、エセルが連れてこられたのは、王都にある街外れ。  馬車の中。エセルの向かい側に座るデレクと、身なりからして平民であろう女性が、そのデレクの横に座る。 「はじめまして。あたしは、ルイザと申します」 「彼女は、小さいころに父親を亡くしていてね。母親も、つい最近亡くなられたそうなんだ。むろん、暮らしに余裕なんかなくて、カフェだけでなく、夜は酒屋でも働いていて」 「それは……大変ですね」  気の毒だとは思う。だが、エセルはまるで話に入り込めずにいた。デレクはこの女性を自分に紹介して、どうしたいのだろう。そこが解決しなければ、いつまで経っても気持ちが追い付けない。    エセルは意を決し、話を断ち切るように口火を切った。 「あの、デレク。わたしに紹介したい人とは、この方なのですよね?」 「そうだよ」 「どうしてわたしに会わせようと思ったのですか?」  うん。  デレクは、姿勢をぴんと正した。 「ぼくときみは、半年後には王立学園を卒業する。それと同時に、結婚することになっているよね?」 「はい」 「結婚すれば、ぼくときみは一緒に暮らすことになる。そこに、彼女を迎えいれたいと思っているんだ」  エセルは「……え?」と、目をまん丸にした。 「迎えいれる、とは……使用人として雇うということですか?」  違うよ。  デレクは笑った。 「いわゆる、愛人として迎えいれたいと思っているんだ」

2度目の結婚は貴方と

朧霧
恋愛
 前世では冷たい夫と結婚してしまい子供を幸せにしたい一心で結婚生活を耐えていた私。気がついたときには異世界で「リオナ」という女性に生まれ変わっていた。6歳で記憶が蘇り悲惨な結婚生活を思い出すと今世では結婚願望すらなくなってしまうが騎士団長のレオナードに出会うことで運命が変わっていく。過去のトラウマを乗り越えて無事にリオナは前世から数えて2度目の結婚をすることになるのか? 魔法、魔術、妖精など全くありません。基本的に日常感溢れるほのぼの系作品になります。 重複投稿作品です。(小説家になろう)

貴方は私との婚約を解消するために、記憶喪失のふりをしていませんか?

柚木ゆず
恋愛
「レティシア・リステルズ様、申し訳ございません。今の僕には貴方様の記憶がなく、かつての僕ではなくなってしまっておりますので……。8か月前より結ばれていたという婚約は、解消させていただきます……」  階段からの転落によって記憶を失ってしまった、婚約者のセルジュ様。そんなセルジュ様は、『あの頃のように愛せない、大切な人を思い出せない自分なんて忘れて、どうか新しい幸せを見つけて欲しい』と強く仰られて……。私は愛する人が苦しまずに済むように、想いを受け入れ婚約を解消することとなりました。  ですが――あれ……?  その際に記憶喪失とは思えない、不自然なことをいくつも仰られました。もしかしてセルジュ様は………… ※申し訳ございません。8月9日、タイトルを変更させていただきました。

【完結】私の愛する人は、あなただけなのだから

よどら文鳥
恋愛
 私ヒマリ=ファールドとレン=ジェイムスは、小さい頃から仲が良かった。  五年前からは恋仲になり、その後両親をなんとか説得して婚約まで発展した。  私たちは相思相愛で理想のカップルと言えるほど良い関係だと思っていた。  だが、レンからいきなり婚約破棄して欲しいと言われてしまう。 「俺には最愛の女性がいる。その人の幸せを第一に考えている」  この言葉を聞いて涙を流しながらその場を去る。  あれほど酷いことを言われってしまったのに、私はそれでもレンのことばかり考えてしまっている。  婚約破棄された当日、ギャレット=メルトラ第二王子殿下から縁談の話が来ていることをお父様から聞く。  両親は恋人ごっこなど終わりにして王子と結婚しろと強く言われてしまう。  だが、それでも私の心の中には……。 ※冒頭はざまぁっぽいですが、ざまぁがメインではありません。 ※第一話投稿の段階で完結まで全て書き終えていますので、途中で更新が止まることはありませんのでご安心ください。

【完結】私の婚約者の、自称健康な幼なじみ。

❄️冬は つとめて
恋愛
「ルミナス、すまない。カノンが…… 」 「大丈夫ですの? カノン様は。」 「本当にすまない。ルミナス。」 ルミナスの婚約者のオスカー伯爵令息は、何時ものようにすまなそうな顔をして彼女に謝った。 「お兄様、ゴホッゴホッ! ルミナス様、ゴホッ! さあ、遊園地に行きましょ、ゴボッ!! 」 カノンは血を吐いた。

処理中です...