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悪い『噂』
しおりを挟む「それでその時に先生が……」
「まあ、本当に?」
ツツェーリアは友人達と話しながら昼食を取る為食堂へと向かっていた。
そして食堂近くの廊下で、不意に声をかけられた。
「……ねぇ。アナタがアルの性悪婚約者なのぉ?」
そこにはどちらかといえば小柄で細身ありながら出るところはかなり出ている、ピンクゴールドのフワフワとした髪に垂れ目気味で可愛く男性の庇護欲を誘うような女生徒。……セイラが立っていた。
ツツェーリアの友人達も彼女が何者であるかを瞬時に察した。
「……貴女。ここが平等を謳う学園であっても失礼よ!」
「高位の貴族相手でなくてもその物言い、許されることではないわ」
そう次々にセイラを断じた。
ツツェーリアはセイラがどういう目的で自分のところに来たのか、これはアルベルトの作戦に関係のある事なのかを考えセイラの次の動きを見入る。
「ええ~? だって本当の事でしょう? 私がアルと仲が良いからって、私に酷い事してるでしょう? ……分かってるんだからね!!」
セイラは最後闘争心剥き出しでツツェーリア達に噛み付いて来た。
「……? 私は貴女と関わったことはありませんが……?」
……殿下。これは、どういう目的の作戦なのでしょうか? この計画は婚約者の女性側に非がないようにと考えられていたはずなのだけれど……。
ツツェーリアはそう考えながらも、全く身に覚えもないので否定する。
「とぼけるの!? 私のあることないこと、周りに言いふらしているんでしょう!? 私がアルに付き纏ってるとか! 他の男子生徒にも声をかけてるとか!」
……それ、全部事実よね?
ツツェーリアも友人達も、騒ぎを聞き付けて集まりつつある野次馬もそう思った。
「私とアルは心から愛し合ってるのよ!? それを妬んで引き裂こうとしたり評判を落とそうとしたり、なんて悪どい酷い女なの! そんなだからアルに嫌われるのよ!」
セイラは尚も興奮してそう叫び続けた。
「……私が貴女の噂をする事など有り得ませんわ。私は貴女と一切関わりがないのですから。知らない方の事をアレコレ言うことなど出来ませんもの」
ツツェーリアは割と冷静に事実を述べた。……知らない事を言いふらすなど出来ないし、そもそもアルベルトの計画ではセイラとツツェーリアは関わらないはずなのだ。
「ッだからアンタが嘘の私の悪口を……」
「そこ、何をしている! ……また君か! 騒ぎばかり起こして今度こそ反省室行きだぞ!」
そこに現れた教師を見て、セイラは慌てて退散して行ったのだった。
「いったいなんでしょう! アレは!!」
「許せませんわ! そもそも悪口も何もあの子が言ってた事は全て自分の事実ではありませんか!」
ツツェーリアの友人達も見ていた周りの生徒達も一様にセイラに対して怒りを表したのだが……。
しかし、それからもセイラは似たような事を何度も起こしてきた。
するとその内人々の中にはツツェーリアが本当にセイラに嫌がらせをしているのでは? と面白おかしく言う者達も現れ出した。……おそらくは、ツツェーリアに元々嫉妬している者かアルペンハイム公爵家の違う派閥の家の者達か……。
思わぬ悪い噂にツツェーリアは悩まされる事になった。
そしてセイラはブルーノとマルクスの婚約者にも似たような騒ぎを起こしていったのだった。
◇
そんなある日。
友人と食事を終え教室に戻る途中、ツツェーリアは食堂にハンカチを忘れた事に気が付いた。
「……すぐですから、先に教室に戻っていてくださいな」
「まあツツェーリア様。私次の授業の係ですので申し訳ありませんがお言葉に甘えさせていただきますわ」
そしてツツェーリアは友人と別れ食堂に戻り、目的のハンカチを見つけた。
……良かった。これ、お気に入りなのよね。
そうして急いで教室に戻ろうとしたのだが。
「……そう、だからー、ミランダはダメだろー」
「そうだよな。落ちぶれかけの伯爵家より勢いのある子爵家の方が余程いいよな」
何やら、小馬鹿にしたような物言いの男子生徒達の声が聞こえてきた。
『ミランダ』……。ミランダ シュミット伯爵令嬢のこと……?
ツツェーリアは思わず振り返り彼らの話に聞き入る。……するとやはり、彼らが話していたのはアルベルトの側近マルクスの思い人ミランダの話のようだった。
ツツェーリアは非常に苦々しい気持ちになった。
……そもそもマルクスが婚約者マリアンネの攻撃から恋するミランダを守る為に言ったという言葉、『平凡令嬢』。
今やその言葉は独り歩きして、こうしてあちこちで噂されるようになっている。
『平凡令嬢』の噂は、今やこの学園でアルベルト達の噂の次に皆の話題になる話になってしまっているのだ。
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