玲子さんは自重しない~これもある種の異世界転生~

やみのよからす

文字の大きさ
160 / 384
第5章 クラーレスカ正教国の聖女

第5章第017話 アニマルセラピー

しおりを挟む
第5章第017話 アニマルセラピー

・Side:ツキシマ・レイコ

 次の日。さて、今日も今日とて小ユルガルムへ赴き、講義と研究ですね。

 本日はクラウヤート様も同行ということで。自動的にバール君も着いてくるのですが。
 なんかセレブロさんの後に引っ付いているんですよね、パール君。
 バール君、セレブロさんに気があるのですかね?

 「マーリア様、僕はありだと思うんだけど…」

 ペットの親密からアプローチですかっ?! なかなか高度な技を…
 だがしかし!

 「セレブロさんって、多分猫の仲間ですよ?」

 「「え?」」

 マーリアちゃんも驚いています。…うーん、セレブロさん、ぱっと見た目は狼かせいぜい狐の類いにしか見えないよね。

 セレブロさんは、周囲からはマーリアちゃんの護衛枠として認識されています。マーリアちゃん、れっきとして王族ですからね、お姫様ですからね。セレブロさん相手では、剣を構えていても一対一でいなせる自信がある騎士は、そういないでしょう。私だって面と向かって威嚇されたらビビると思います。

 バール君の方も、今ではすっかりクラウヤート様の護衛枠です。伯爵ご令孫ですからね。
 しかし… 地球の大型犬よりもデカくなりましたが…顔が優しいんですよね、バール君。対峙しても、この子に襲われるとかいう危機感を感じる人の方が少ないんじゃないかなと。
 そんなバール君は、行く先々で女性に大人気です。最初に出会った頃より二回りくらい大きくなり、サモエドからすらっとしたグレート・ピレニーズに昇格ですね。愛くるしい顔とモフモフの白い毛並みは、一度撫でたらもうメロメロです。…毎朝、屋敷の食堂でも大人しく伏せてクラウヤート様を待っているので、アイリさんとエカテリンさんがその都度襲撃しています。…たまに、屋敷の女中さん達も集団で絡まってます。

 ただ。セレブロさんは、それよりさらにでかいです。サイズ的に馬よりは小さいけど、ポニーより一回りデカい感じですか。
 流石にちょっと恐いのか、最初は誰も近づきませんでしたが。美少女のマーリアちゃんに従順に付き従っている様子と、白銀のその毛並みは、見る人を魅了します。こちらも毎朝、セレブロさんに慣れたアイリさんとエカテリンさんが襲撃するようになりました。

 セレブロさんは、寄ってくるバール君を嫌がったりはしませんが。こればっかりは成るようにしかならないでしょうが。

 「この狼は猫の仲間なんですか? またどういう理由で?」

 コッパーさんが食いつきましたね。博物学としてはむしろこちらが本領でしょう。
 とりあえず。手首の回転と爪の出し入れが、樹上生活の痕跡であると説明しました。

 「言われてみれば。同じ狩猟する動物なのに、猫と犬では前足の回り具合が違いますな。なるほど、猫のあれは樹を登るためでしたか」

 もっとも。セレブロさんの場合は、犬科の動物が樹上生活に適応して再度樹から下りた…という可能性もあります。赤井さんがこの星に来て三千万年ですからね。
 ただどちらにしろ、セレブロさんとバール君で子供が出来る可能性はかなり低いんじゃ無いかな… 犬と猫は当然として、狐と犬でももう交配できないくらいの種の差がありますからね。

 ちなみに。牛と馬は全然別の種だと言ったら、これまた驚いてました。実は種として馬から見ると、牛より犬猫の方が近いくらいです。
 さらに。鯨と牛は凄く近い親戚だと言ったら、これまたびっくりしていました。

 「えっ?えっ? なにがどう似ているって言うんですか? 牛と鯨でっ!」

 地球でもこれが確定したのは、分子生物学…遺伝子を直接調べられるようになってからですね。鯨目と偶蹄目は合体して鯨偶蹄目になりました。
 ただこれ以前にも。鯨は胃の数が牛と同様に多いのですが。肺への気管支の繋がり方が他の哺乳類と大きく違うところがありまして。人間なんかだと左右に一本ずつで分岐していますが、牛と鯨は右へは二本あるんですね。この辺の解剖学的見地から、近い生物なんじゃないか?とは思われていました。

 「はぁ…生物学も奥が深いですね…」

 これで恐竜あたりも絡められたら、ロマン溢れるんですが… この星にはいないですよね?恐竜。
 …レッドさんとか赤井さん、ベースは恐竜…ではないか。色々考えていますが、爬虫類ではないですね。うん、また後日熟考してみましょう。


 さて。今日の小ユルガルム行きには、リシャーフ様も同行です。私がネイルコードで何をしているのかを知りたい…とのことです。
 リシャーフ様は、正教国の聖女ってもありますが。小ユルガルムはネイルコード国にとっては要所ですので、見せられる範囲は制限されるのは致し方なし。護衛という名目の監視が領の護衛騎士から派遣されています。
 もともと、聖女から男性を排除する意味での女性護衛ですから、リシャーフ様はともかく護衛を辞任していた侍従さんたちは、最初は不満げでピリピリしています。

 そこでクラウヤート様にお願いしました。昨日はちょっと、聖女様一行をイジメ過ぎちゃいました。マウント取り過ぎました。
 昨日の会話を思い出すに、この人達はマーリアちゃんが言っていた拝金派よりはずっとマシに思います。いつぞやのクエッタのようなのが、そちらの派閥なのでしょう。聖女一行は、いきなり私を黒髪のガキ呼ばわりしてこないだけ、ずっとまともです。

 クラウヤート様が、バール君に何か指示しています。するとバール君がトトトと進んで、お三方の前でお座り。
 最初はでかい犬が迫ってくることにちょっとビビっていた三人ですが。ほらほら良く見て下さい、にこり笑ってハッハしているバール君ですよ。

 聖女様は二十代前半ってところかな? 侍従のタルーサさんがそれより年上。もう一人の若い方、昨日エカテリンさんに噛み付いていた方のトゥーラさんは、アイリさんと同じくらいの歳に見えます。
 若いトゥーラさんが、にっこりしているバール君を見て、あわわわしています。

 『モフモフしないの?』

 首かしげてつぶらな瞳で誘惑していくバール君です。あざといです。…なんかこの辺の女性の扱い方、エイゼル市の貴族街で鍛えられた感じですね。モフモフの後、お菓子でも貰っていましたか?

 「あの…巫女様…この狼…いえこの方?は何を?」

 「レイコです」

 「え?」

 「レイコと呼んでください」

 「いやしかし…」

 「レイコです。お父さんとお母さんが付けてくれた私の名前です」

 …こう言われて名前呼びを否定できる人は、そういないでしょうね。

 「…では…レイコ殿でよろしいでしょうか?」

 「はい。それでお願いします、リシャーフ様」

 「あ!あの、レイコ殿! 私のこともその、"様"は無しでお願いしたいのですが。」

 「そうですね。リシャーフさん…で良いでしょうか? あと、タルーサさんとトゥーラさんで」

 「「「はいっ! それでお願いします。」」」

 はい。…悪い人達じゃなさそうではあるんですよね。真面目なだけで。
 …次は僕の番だと、バール君の尻尾がちぎれそうに振られています。

 「バールは、かまって欲しいんだってさ。ほら、こんな感じに」

 エカテリンさんが、セレブロさんの首のモフモフに顔を埋めてぐりぐりしています。セレブロさん、ちょっと微妙な表情ですが、本気で嫌がっていたのなら、簡単に振りほどける子です。しかたないな…ってところでしょうかね。
 トゥーラさんが、バール君見てもう辛抱溜まらない感じです。

 「そ…それでは私が失礼して…」

 バール君の首に腕を回してぎゅっと。首元に頬を埋めます。

 「ああ神様… 私はいま堕落しました…」

 んな大げさな。
 …タルーサさんも、反対側からバール君を抱きしめます。

 「な…なるほど…楽園はこんなところにあったのですね…」

 正教国ってそこまで娯楽がないんですか?
 あ…リシャーフ様はセレブロさんにトライしてます。

 …トゥーラさんが、なんか泣いちゃってます。
 女性の味方バール君が、そんなトゥーラさんの顔をペロペロしてます。
 タルーサさんが慰めているのを聞くに。いわば敵地に乗り込んでの聖女様護衛と、ネイルコードを知るにつれて不利が明らかになる巫女勧誘の状況の悪さに、思ってた以上に神経がすり減っていたみたいですね。
 まだ高校生くらいの年齢で異国での聖女様護衛に抜擢されるくらいですから、優秀ではあるのでしょう。背負う物もあるのかもしれません。

 うーん…なんかこの人達を無碍に出来ない雰囲気が… アイズン伯爵もこちらを見て、やっちまったなと言う変な顔をしてます。
 どのみち、私が正教国に何もしないという選択はないのでしょう。どうすべきか、いろいろ考えておく必要がありそうです。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

倒した魔物が消えるのは、僕だけのスキルらしいです

桐山じゃろ
ファンタジー
日常のなんでもないタイミングで右眼の色だけ変わってしまうという特異体質のディールは、魔物に止めを刺すだけで魔物の死骸を消してしまえる能力を持っていた。世間では魔物を消せるのは聖女の魔滅魔法のみ。聖女に疎まれてパーティを追い出され、今度は魔滅魔法の使えない聖女とパーティを組むことに。瞳の力は魔物を消すだけではないことを知る頃には、ディールは世界の命運に巻き込まれていた。

【完結】竜騎士の私は竜の番になりました!

胡蝶花れん
ファンタジー
ここは、アルス・アーツ大陸。  主に5大国家から成り立つ大陸である。  この世界は、人間、亜人(獣に変身することができる。)、エルフ、ドワーフ、魔獣、魔女、魔人、竜などの、いろんな種族がおり、また魔法が当たり前のように使える世界でもあった。  この物語の舞台はその5大国家の内の一つ、竜騎士発祥の地となるフェリス王国から始まる、王国初の女竜騎士の物語となる。 かくして、竜に番(つがい)認定されてしまった『氷の人形』と呼ばれる初の女竜騎士と竜の恋模様はこれいかに?! 竜の番の意味とは?恋愛要素含むファンタジーモノです。 ※毎日更新(平日)しています!(年末年始はお休みです!) ※1話当たり、1200~2000文字前後です。

スキル素潜り ~はずれスキルで成りあがる

葉月ゆな
ファンタジー
伯爵家の次男坊ダニエル・エインズワース。この世界では女神様より他人より優れたスキルが1人につき1つ与えられるが、ダニエルが与えられたスキルは「素潜り」。貴族としては、はずれスキルである。家族もバラバラ、仲の悪い長男は伯爵家の恥だと騒ぎたてることに嫌気をさし、伯爵家が保有する無人島へ行くことにした。はずれスキルで活躍していくダニエルの話を聞きつけた、はずれもしくは意味不明なスキルを持つ面々が集まり無人島の開拓生活がはじまる。

王女の夢見た世界への旅路

ライ
ファンタジー
侍女を助けるために幼い王女は、己が全てをかけて回復魔術を使用した。 無茶な魔術の使用による代償で魔力の成長が阻害されるが、代わりに前世の記憶を思い出す。 王族でありながら貴族の中でも少ない魔力しか持てず、王族の中で孤立した王女は、理想と夢をかなえるために行動を起こしていく。 これは、彼女が夢と理想を求めて自由に生きる旅路の物語。 ※小説家になろう様にも投稿しています。

異世界で目が覚めたら目の前で俺が死んでました。この世界でオリジナルの俺はとっくに死んでたみたいです

青山喜太
ファンタジー
主人公桜間トオル17歳は家族との旅行中、車の中ではなく突然なんの脈絡もなく遺跡の中で目が覚めてしまう。 混乱する桜間トオルの目の前にいたのは自分と瓜二つ、服装さえ一緒のもう一人の桜間トオルだった。 もう一人の桜間トオルは全身から出血し血を吐きながら、乞う。 「父さんと、母さん……妹をアカリを頼む……!!」 思わず、頷いた桜間トオルはもう一人の自分の最後を看取った。 その時、見知らぬ声が響く。 「私のことがわかるか? 13人の桜間トオル?」 これはただの高校生である桜間トオルが英雄たちとの戦争に巻き込まれていく物語

処理中です...