玲子さんは自重しない~これもある種の異世界転生~

やみのよからす

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第5章 クラーレスカ正教国の聖女

第5章第031話 正教国の商業街セネバル

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第5章第031話 正教国の商業街セネバル

・Side:ツキシマ・レイコ

 ナズランの街に教都から押掛けてバルナ祭司をブラック企業採用していた祭司と赤い鎧の人達は、とりあえず拘束されました。
 街の原状復帰にはしばらく時間がかかりそうです。その辺はまたバルナ祭司にブラック勤務を強いてしまいそうで、強縮ですが。私達は教都に行かねばならないのです。

 街が困窮しているところに恐縮ではありましたが、教都までの道中の食料も幾ばくか進呈されました。…ありがたくちょうだいいたします。
 旅程は、あと二泊の後に教都に着く予定です。

 「…本当なら馬車で五日はかかる距離なのですが…」

 右手には、ナズランにも接していた河が流れています。このまま教都を嘗めて海まで続いているそうで。エイゼル市を流れるカラスウ河と同じく、正教国での水運も担っているようですね。河には、荷物を積んだ平らな河船が何隻か見えています。
 見渡すに、平野としての広さはエイゼル市からネイルコード国王都周辺より広大なようですが。農耕地やら農村や市街地の広さとなると、まだ開発途上という感じです。 それでも、広がる草原や林は、なかなかに壮観です。たまに通りかかる小高い丘から振り返れば、北の方角には遙か彼方に夏でも雪を頂いた山脈が伏せています。あの山脈の向こうが赤竜神の住処…とされているそうです。私が居た赤井さんの拠点も、多分あの辺なのでしょうね。陸路で行くのは相当大変そうですが。

 リシャーフさんも、私の側で馬を並走させ周囲を見渡しています。…国の広さに自分の責務を重ね合わせてみているのでしょうかね? 女性一人が背負うには、余りに広いです。



 最後に一泊する街にやっと着きました。セネバルという街だそうで、商業経済的にはこの街が正教国の中心地だそうです。
 河の桟橋にはたくさんの河船が繋がれて、荷物の降ろし積みで賑わっています。

 商業が盛んと言うことで、実質商会に統率されている衛兵もまともだそうで、今までの街よりはずっと安全だそうです。
 宿泊客が襲われるなんて心配をしなくていいのもありがたいですね。

 街の入り口には関があり、荷物を結構細かく調べています。税の計算とか計算は面倒そうですね。
 今回私達が払うのは、言ってしまえば街への入場料金のみだそうです。まぁ街のインフラを利用することになるわけで、そのインフラは街の人の税金で整備されているわけですから。入場料ってのもあながち間違ってはいません。
 エイゼル市には入場料はありませんが。払うべき入場料は街の中で金落して行け…って考えなのでしょうね。

 …ところが。セレブロさんが見咎められて街の入り口の関で、役人に止められました。
 生きた狼だから危険!…とかいう話ではなく、商品扱いで税払えと来ましたね。しかも関の役人が、これだけ立派な毛皮なら相当高値だろう…なんて言いだしたもんだから、マーリアちゃんは怒るし、怒ったマーリアちゃん見てセレブロさんも臨戦態勢。セレブロさんに威嚇された役人は衛兵を呼ぶし、怒っているセレブロさんを見た衛兵は槍を向けるし…

 「はぁったく… 私は正教国聖騎士団団長リシャーフだ。ゴルゲットを付けて荷物を背負っていて少女に従順なこの狼を商品扱いで税を払え? しかもよりによって毛皮にしたときの値段だと? 貴様、誰の命令でそんな無茶苦茶な徴収をしている? この関の責任者を呼べっ!」

 どうしたもんだと思ったら、リシャーフさんが身分を明かしてくれました。流石、騎士団長と聖女の肩書きです。
 件の役人は真っ青になって、今更の如く平伏しています。
 …どうも、一般人に難癖を付けては袖の下を取っていたようですね、この役人。私とマーリアちゃんの後ろにリシャーフさん達が着いていたのですが、徒歩の子供二人と騎乗した騎士三人が同行者とは思わず、これなら行けると思ったようです。

 関の責任者が来ました。祭司格の役人だそうです。こちらももう平身低頭です。
 件の役人は、教都の方からねじ込まれたそうで…これもダーコラ国案件ですか?
 あ、捕縛されて引きずられていきます。俺は教都に知り合いがいるんだぞ!…とか叫んでいますが。どんな人間か言わない時点で、その知り合いってのは教都に住んでいる一般人かもしれませんね。まぁ細かいことはもうどうでも良いですが。
 商人の力が大きいこの街で、関の役人が袖の下を要求するなんて街の醜聞もいいところです。あの連れて行かれた役人は一体どうなるのか…

 「…罰金なら、あの人の皮を剥いで、それを売ってね」

 マーリアちゃん、激おこです! …一応、冗談だと伝えておきました。この時代だと本気でやりかねないです。
 …地球でも、人の皮で装丁した本なんてものがありましたが… 本当に冗談ですよね?
 あ。入場料は負けてもらえました。お薦めの宿屋も教えてもらいましたので、街の中でなんか美味しいものでも食べましょう。



 セネバルの街の中に入りました。
 街の中央を幅広の街道が貫いていて、そのまま繁華街にもなっています。エイゼル市の中央通りに相当するところですが、あそこが貴族街に直結した高級店街だったのとちがい、ここは雑多な感じがしますね。エイゼル市の中央市場が通りに展開したら、こんな感じかも。

 「レイコ! プリンだってっ!」

 マーリアちゃんが一軒の店を見つけました。

 「天上の甘味プリン 正教国初お目見え!」

 こんな意味の文字が書かれた立て看板が立っています。

 「遙か東の国に顕現された赤竜神の巫女様が教会に奉納されたお菓子"プリン"だよ! 正教国初おお目見えだ! 今はここでしか食べられないよ!」

 呼び込みの店員が宣ってます。
 まあたしかに、教会に奉納されたレシピが、喜捨と共に教都に流れて来ても不思議ではありませんが。
 きちんと作られているのかちょっと不安ですが、試しに食べてみることにしました。

 ちょっとオレンジ…いや茶色っぽい?
 レッドさん曰く、分光計レベルでは特に毒成分は無いそうです。…まぁ毒が効かない私が最初に食べてみるしか無いでしょうね。

 ぱくっ。

 …うーん…甘い茶碗蒸し?

 「リシャーフさん達は、エイゼル市でプリンを食べたことあります?」

 「はい、伯爵邸での歓待していただいたおりに、デザートで出していただきました。あれは素晴らしかったのですが、しかしこれは…」

 …果物の汁に卵を白身黄身丸ごと溶いたものを混ぜて、容器に入れて蒸しただけ…って感じですね。牛乳無し、砂糖も入っていないかも? 好意的に言ってもマンゴープリン…ですが。さらに言えば冷えていない。ぬるい。せめて井戸水で冷やすくらいは…
 トゥーラさんも露骨にガッカリしています。

 「多分ですが。これを考えた人は本物を食べたことはあるのかもしれませんが。材料が全部思いつかず、砂糖は高くて買うことも出来ず、見た目だけの雰囲気をなんとか再現したってところでしょうか。教会に喜捨をすればレシピは手に入るのですから、その辺も無許可でしょうね」

 教都では流石に無理でも、ここらならまだ目が届かない…って感じでしょうか? 短期で売り逃げ商法ですね。
 まぁ、私が考えたわけでも無いレシピにいちいち目くじら立てる必要は無いですし、こういう失敗からなにか新しい物が出来るかもしれませんので、取り立て騒ぐつもりはないのですが。せめてオリジナルを越える気概は見せて欲しいところです。

 「牛の乳は確かにこの辺ではあまり見なかったわね」

 タルーサさん曰く、正教国では牛乳はあまり流通していないようです。乳飲み子のためのそういう商売はあるようですが、一般的に消費されるものではないようですね。
 この似非プリン、とりあえず火を通してあるけど、ここまでいいかげんだと、卵の鮮度とか他の部分がちょっと恐いですね。食べるのもそこそこでその店を出てきました。
 …そもそもあまり流行っていないですしね、この店。二度食べたいとは思わないでしょう。

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