玲子さんは自重しない~これもある種の異世界転生~

やみのよからす

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第6章 エイゼル市に響くウェディングベル

第6章第013話 ラーメン食べたい

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第6章第013話 ラーメン食べたい

・Side:ツキシマ・レイコ

 レイコです。
 今、ファルリード亭の食堂外、ここが護衛ギルトだったころの馬車留の隅にまだそのまま残っている倉庫の中にいます。広さは八畳くらいですかね? 古い馬具やら馬車の部品が隅に転がっておりますが。
 倉庫の中央には、ぐつぐつと煮立っている寸胴鍋が。はい、市場でボアを解体していたのを見て骨とかもらってきましたので、現在鍋で煮出しております。要は豚骨スープを作っているわけです。
 もちろん、骨はよく洗って一度良く焼いてから、香草野菜と一緒にぐつぐつと。もう三時間くらいですが、まだまだ煮込みたいところですね。

 「最初は酷い匂いだと思ったけど。慣れるとなんか良い匂いに思えてきた。巫女様が言うのなら、美味しい物になるんだろうけど」

 いつぞやに焼き鳥と焼きイカの屋台を手伝ってくれた男の子に市場近くで会ったので、手伝ってもらっています。
 彼の名前はグースキー・ストール君。来年にこの国での成人である十三歳になるので、ファルリード亭の厨房に来ることが決まっています。うん、イカの美味しさを理解できた彼は、良い調理師さんになることでしょう。
 鍋を見ていてもらう間に、厨房の方でボア肉のチャーシューも作らないと。


 麺の方はカヤンさんにお願いしています。かん水の代わりに灰汁、色づけに卵。あとはとにかく良く捏ねてコシを出してもらいます。引っ張って伸ばすのも良いですが、パスタマシーンを使ってもいいかもですね。その辺は臨機応変に。

 最初はスープ作りもファルリード亭の厨房で骨を煮ていたのですが。

 「…レイコちゃん、流石にその匂いを何刻もってのは、ちょっと辛いぞ…」

 匂いでカヤンさんから苦情が来ましたよ。厨房の匂いは食堂の方にも流れますからね。
 おかげでこうして、馬留の倉庫に退避してきたわけです。

 キャベツっぽい野菜も入手していますし。豆も入手していたのでもやしが作れないか試してみましたが、こちらも成功しました。湯冷ましの水を含ませた布に豆蒔いて、真っ暗な倉庫に寝かせて五日ほど。なかなか良い感じです。

 ぐつぐつと、煮詰まっては水を足しを繰り返し。うん、良い感じに白濁したスープが出来てきました。
 これを別の鍋に布で濾してと…とりあえずスープのできあがりですが。もうそろそろ夕食時ですね。


 ファルリード亭の厨房の方では、麺とチャーシューも出来ています。厨房のスープを使った醤油だれも準備完了。キャベツっぽいのをざく切りにし、もやしとニンニクっぽい風味の玉ねぎと茹でて、麺も茹でて。
 それでは1号ラーメン行きますかっ!。

 試食用にまずは小椀で作ります。醤油だれ、豚骨スープ、麺。そしてボアのチャーシューと野菜。…うん、今の私にはこれで丁度良いサイズかも。
 では試食です。私は自分用に作ってもらった箸を使ってますよ。

 「ズゾゾゾ」

 音を立てて啜った私に、周りがちょっとびっくりしていますが。

 「むぐむぐ… んむ。ラーメンはこうやって啜るのが食べ方なんですよ。熱いまま食べるから、自然にこうなったんだと思いますけど」

 まぁお行儀が悪いかもしれませんので、無理して真似しなくても良いですが。皆さんはフォーク使いますか? 火傷には注意してくださいね。
 …うん、ちゃんとラーメンになってます。パスタ機を使った太めの麺も、このスープの濃さなら丁度いいかな?

 「なるほど… ボアの骨なんかがいったいどうなるのかと思っていたが、こんなに濃厚な味に… まるで牛乳のようなコクが出るんだな。うん、これはうまいぞ」

 「ああ…おいしいけど…脂が…脂でギトギトのスープ…おいしいけど…これは太る…確実に太る」

 はい、アイリさんはその小椀で我慢して下さいね。

 「あの酷い匂いのスープを煮続けた苦労が報われた… こんな美味しいスープ飲んだことが無いです」

 手伝ってくれた少年グースキー君にも好評のようです。若いもんには、こういうガツンとくる味は堪らないでしょう。

 「私はこっちのラーメンの方がいいかな?」

 比較用に、ファルリード亭の厨房出汁と醤油を使ったラーメンも作ってみました。麺も細めに、魚介と野菜の醤油ラーメンって感じですね。マーリアちゃんとモーラちゃんは、こちらの方が良いようです。
 アライさんは猫舌なので、つけ麺風に。豚骨スープで割った醤油だれに、フォークで絡めた麺を漬けて器用に食べています。レッドさんもつけ麺の方を召し上がっています。

 「…まぁ万人受けする食べ物とは思えないけど。護衛とか人足とか、体が資本の奴らにはウケるんじゃないか? ちょっとそこらで何人か引っかけてくるよ」

 タロウさんが通りに出て行き、少しして三人ほど連れてきました。って覇王様たちですか? たまたま通りがかったところを、試作品の品評してくれればただで夕飯食べられるよ!と呼んできたそうです。

 「なるほど、新しいレシピを試食して欲しいと」

 「ヒャッハーっ! こりゃまたきつい匂いだな。でもなんか食欲そそるぜ!」

 彼らには本番用のどんぶりでの提供です。でかいスープ椀ですけどね。…ってカヤンさん、それ盛りすぎですよ?。

 「うん? こいつらなら食べきれるだろ?」

 野菜もりもりにでかいチャーシャーまで乗っています。うわぁ…見た目まんま○郎になっちゃったよ… 三千万年の時を超えて、まさか別の惑星で○郎が復活するとは、○郎さんも思っていなかっただろうな。○郎さん知らんけど。

 「ではいただこうか」

 ちゃんとあの特徴的なヘルメットは脱いで、野菜山盛りになっているラーメンに正対する三人。
 パスタみたいにフォークとスプーンで食べていきます。まぁこちらのカトラリーではこれしかない感じですか。
 最初は恐る恐る、そして今はガツガツズルズルと。

 「ヒャッハーっ! これはまた強烈だな。濃いな…ボアが濃いぞ! しかし!濃いけど体に染みてくる、ボアが体に染みてくるぜっ!」

 嫌な物が染みてきますね。
 麺、野菜、チャーシュー、スープと、初めてとは思えないペース配分で上手に食べて行きます。
 …私なら絶対食べきれないという量を、勢い途絶えること無く一気に食べてしまいましたよ、この三人。

 「ふぅ…満足した。 …女子供には無理だろう、まさに漢の食べ物だった。このメニューは今後もファルリード亭で饗されるのかな?」

 「うーん。スープを煮込むときの匂いで苦情が出ているから。今後出るかはまだ未定です」

 「それは残念だな…」

 他にも、入ってきたガタイの良いお兄さん達にも試食をお願いしました。評価は概ね良かったのですが…。
 数日後。

 「前に試食させてもらったあの"ラーメン"っての。もう一度食べたい!」

 試食を食べた人達から、リクエストが相次ぐことになり、一度復活させることにしました。
 その時はアイリさんが急いで奉納の手続きをとり、貴族街の教会から祭司の方を招待して…って、なんかこちらもすごくガタイの良い祭司…教会騎士というより僧兵みたいな人が来て召し上がっていただき、豚骨スープ…ならぬボア骨スープとして奉納としました。ボリュームがある食べものの奉納と言うことで派遣されたそうですが、覇王様系の雰囲気のごつい人でしたね。
 本来は廃棄物とされそうな部位のスープですから、文句でも出るかな?と思ったのですが。作ったのが私ともなると口には出せず。それでも食べ始めてからは夢中のようでしたね。
 最初の試食に参加していた人は豚骨ラーメンとの再開に狂喜し。仕事でエイゼル市を離れていて食べ逃した人は涙し。奉納なのに悲喜交々です。

 「頼む! 常駐メニューに入れてくれっ! 毎日…は無理でも、時間が経つと猛烈に食べたくなるんだ!」

 この日食べた人からも、常駐メニューにっ! という要望が相次ぐのですが。煮込むときの匂いがきついので、食堂の側とか住宅街では難しいです。

 いろいろ検討した結果。市場の端の川の側に小屋みたいな店をつくって。試食に参加した人の中に料理の経験がある人が居たので調理師として雇って。そこで豚骨ラーメン屋を開くことになりました。
 その小屋は元々市場の倉庫でして。ちょっと奥まった明るいとは言いがたい所にあり、女性一人ではちょっと近寄りがたい雰囲気の場所なのですが。ギルドの護衛職の間でクチコミで広がり、開店前には行列が出来る知る人ぞ知る店となったのです。
 …その調理師の方が、このラーメンのために兄の店から独立したとかで。店の名前は「次男」となりました。…まぁこちらの言葉なので、○郎と差は無いですね。 この豚骨ラーメンで世界を取る! と頑張っております。…移転するにしろ二号店建てるにしろ、場所に困りそうですけどね。

 私? 流石にこの体であの量は無理ですよ。
 自分で作っておいて何ですが、普段食べるラーメンなら、やはり鶏肉と魚で取ったスープのさっぱり系醤油ラーメンの方が良いですね。でも、たまに無性に食べたくなるのが豚骨ラーメン。…罪な食べ物です。
 春になったら、タケノコ掘ってメンマも作りましょう。キノコもでしたが、タケノコはこちらでは食されていないんですよね。勿体ない。


 …後日。ダイエット中のアイリさんがその店に並んだという事実が発覚しまして、エカテリンさんに説教されてました。休みの日に西の関まで往復のマラソンが決定です。

 「レイコちゃんが悪いっ!」

 知らんがな。

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