玲子さんは自重しない~これもある種の異世界転生~

やみのよからす

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第7章 Welcome to the world

第7章第043話 アイリさん出産

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第7章第043話 アイリさん出産

・Side:ツキシマ・レイコ

 昼間に、ちょっと護衛ギルドの方に顔出ししました。
 護衛ギルドと言っても、実態はキャラバン運航を中心にした人材派遣ギルトって感じで。私のやっている土木工事関係もこのギルドが窓口となってくれています。税金と手間賃取られますけど、この辺は受注管理してもらっている必要経費ですね。

 ギルドでの用事は、アイズン伯爵が秋にユルガルムに向かうスケジュールが確定したので、その護衛を了解した旨の通達です。契約書と誓約書のサインが必要なのです。
 ユルガルム家には、領館に住んでいる女性の親族がいませんので。ターナンシュ様の出産を助ける意味で母親のマーディア様が出向いています。蟻騒動のときにお連れしたまま向こうに居残ってますので、そのお迎えと。もちろんアイズン伯爵がお孫さんに会いに行くという非常に優先順位の高い目的があります。

 「お久しぶりです、覇王様っ!」

 「おお、レイコ殿。元気そうで何より」

 ギルドで、ちょうど覇王様とでくわしました。相変わらずのキリッとした佇まいですね。
 ヒャッハーさん達も含めて、相変わらずキャラバン護衛業が忙しそうです。

 「ヒャッハー。蟻の死骸を山積みで何往復だぜ… 仕事が盛況なのはいいけど、ちょっと飽きたよ」

 蟻の甲羅は、武具だけでは無く、いろんなところで需要があります。
 用途的にはプラスチックの代用って感じですか。軽くて堅くて削りやすくて、木目のような癖が無い。眼鏡のフレームにも最適な素材です。
 なにせあの騒動で大量にゲットしていますからね。一時的になりそうですが、エイゼル市から他国への輸出品にもなっています。

 「伯爵様の護衛か。多分キャラバンで混ぜられると思うから、俺達も参加する可能性は高いな」

 街道の東方向の開発があまり進んでいないタシニの街までは、魔獣の出現がたまにあります。
 道中、町や村の間がそこそこ離れているので。人気の無いところで盗賊なんて可能性も皆無ではありません。まぁ盗賊団なんて大規模なものは、あったとしてもすぐに軍に潰されるのですが。馬車一台とかだと、街から付けられて人目のつかないところで襲われる…なんて話はたまにあるそうで。目的地が同じ馬車は集団で移動した方が安全なのは変わらず。

 「そのときにはまたよろしくお願いしますね」

 「はははっ! 楽しみにしているよ。レイコ殿と一緒なら、退屈しないだろう」

 …いつぞやの巨大蛇みたいなのは勘弁ですよ。



 ミオンさんの出産から一月後の昼頃。アイリさんがついに産気づきました。
 ミオンさんに引き続きという事で、皆はある程度慣れてはいるのですが。旦那さんのタロウさんが無駄に慌てる様は、ミオンさんのときと同じですね。
 夕方にはジャック会頭とタロウさんのご両親も急遽来られました。王都から馬車を飛ばしてきたそうです。
 連絡と馬車は、アイズン伯爵が手段を貸してくれていたたそうです。伯爵権限で優先通行です。

 今回もまた、カーラさんとタロウさんの母親であるリマ・ランドゥークさん以外、産院を追い出されてます。
 カヤンさん達とアライさんはファルリード亭の営業に。私とマーリアちゃん、タロウさんと親族が家のリビングに詰めています。

 最初はリビングをうろうろしていたタロウさんですが。今はジャック会頭と将棋をしています。間でレッドさんが棋譜を眺めています。一見、これはこれで静かなのですが…

 「…アイリアイリアイリ… これで王手」

 「タロウ、おまえ怖いわ、もう少し落ち着け。…そんな手、"歩"を置いて防ぐだけだぞっと」

 ぶつぶつとつぶやいているタロウさん。ともかく別のことを考えていないとどうにかなりそう…ってところですか。

 「ククーックッ!!」

 「小竜神さま、どうなされた?…っておじいさま、それ二歩ですよ?」

 「…。あっ」

 落ち着いていないのは、ジャック会頭も同じようですね。



 朝もそろそろ明けると言う頃。産院から使いがやってきました。馬車も待たずに、タロウさんが駆け出して行きました。私も、レッドさんを抱えて走ってついて行きますよ。

 「アイリっ!!!」

 「タロウさん、まだ朝早いんだから静かにっ!」

 窘められたタロウさんが、早足の忍び足というよくわからない歩き方で部屋に向かいます。

 「女の子だわさ。母親もまぁ疲労はしているけど、今のところ母子共々問題ないようだね。おめでとうさん」

 こちらも疲れた感じの産婆さんが、二人の無事を告げます。

 「さっきまで元気に泣いていたけどね。産湯が済んだら気持ちよくなったのか、お乳飲んでいるうちに寝ちゃったわ」

 アイリさんの隣でスヤスヤしている赤ちゃん。タロウさんが覗き込みます。
 …にまにまと変な顔のタロウさん。抱っこしたいようですが、寝ているところを起こすことも無いでしょう。ここは我慢です。
 としているうちに。タロウさんのご両親とジャック会頭も到着です。

 「うーん、まだアイリさんとタロウのどちらに似ているかはわかんないな」

 「あなた、まだ早いわよ。タロウも生まれたばかりならこんなものだったでしょ?」

 「まぁアイリさん似なら、美人で頭もいいじゃろう。レイコ殿、小竜神様。この子に祝福をお願いできますかな?」

 ジャック会頭にお願いされました。
 寝ている赤ちゃんをそっと抱っこして…ミオンさんのところで経験しましたけど、産まれたばかりの赤ちゃんを抱っこするのは緊張しますね。
 肩によじ登っているレッドさんが、赤ちゃんの額に手を当てます。ん? もじもじとし始める赤ちゃん、起こしちゃったかな?
 はい。レッドさんから、"問題なし"だそうです。


 「レイコちゃん。お願いしていたレイコちゃんのお母さんの名前、この子に付けても良いかな?」

 「はい、よろこんで。アイリさん」

 「レイコ殿のご母堂の名前か。それは素晴らしいな。…なんか早い者勝ちって感じもするがな。ほら、カステラード殿下の奥方が欲しがらないか?」

 王都住まいのタロウさんのお父さんのご指摘。

 「三文字だと王族には短いんじゃないかな? あまり短い名前は使わないと聞いておるぞ」

 とジャック会頭。そんな慣習があるんですね。長めの名前をつけて愛称で呼ぶ…って感じだそうです。
 逆に、庶民が長い名前を使うことも無いそうです。一番長そうなエカテリンさんでも、こちらの発音だとエカ・テ・リンと三音だったりしますし。

 「ハルカちゃん。ハルカちゃんか…」

 「ハルカ…ハルカ。うん、いい感じだな」

 アイリさんとタロウさんが確かめるように繰り返します。

 「…あなたの名前はハルカよ。元気に大きくなってね…」

 赤ちゃんを受け取ったアイリさん。愛おしそうに見つめています。…絵になる光景ですね。



 次の週。王子妃アーメリア様、女児出産の報がネイルコード国に広がりました。
 トゥヴァレーヌ・バルト・ネイルコード。第二王子の長女ではありますが、王位継承権は五位のれっきとしたプリンセスです。

 さらに、ユルガルム領のターナンシュ様も無事女児を出産。早馬で連絡が届きました。
 こちらは、パリトゥエール様と名付けられました。パリトゥエール・ユルガムル・マッケンハイバーです。

 にしても。五人プラス三匹で、女の子率が八分の六と、女の子多いです。うん、まだ確率的にはあり得る範疇かな? 王家とかアイズン伯爵家とかは、今までは男率の方が高かったですしね、むしろこれでバランス取り戻してます。

 …姫孫誕生の報を聞いて、アイズン伯爵が早速ソワソワしていますね。

 「いやいや、孫じゃぞ姫じゃぞ。ターナンシュの子供の頃も可愛かったからな。会うのが楽しみじゃの」

 お忙しいアイズン伯爵。秋にユルガルム領に向かうためのスケジュールはもう建てたりします。
 夏はまだこれから。ベビーパウターは用意してありますよ。

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