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第8章 東方諸島セイホウ王国
第8章第006話 ・バッセンベル領の現状と、子供達のマナ能力
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第8章第006話 ・バッセンベル領の現状と、子供達のマナ能力
・Side:ツキシマ・レイコ
ネイルコード王国の鉄道網に関するついでに、バッセンベル領の現状についてです。
私がまだ来たばかりの頃、市場で私に切りつけてきて。その後、処刑されたサッコ・ジムールがいたバッセンベル領です。
ダーコラ国との国境紛争では、功を焦ったバッセンベル領のモンテス男爵が、三角州対岸の村で略奪なんてやらかしまして。同時に親のアトラコム・メペック・モレーロス伯爵の反逆も発覚と。…なにかと因縁のあった領なのですが。
もともとバッセンベル領は、ジートミル・バッセンベル・ガランツという人が納めていた独立国でしたが。ダーコラ国や正教国からの圧力に負けた結果、ネイルコード王国に併合。ジートミルも辺境候となりました。この辺、ユルガルムと同じような経緯ですが。
ジートミル辺境候が病気で、娘のトラーリ・バッセンベル・ガランツが辺境候代理となり。アトラコム伯爵が補佐を務めてましたが。
ジートミル辺境候は歴戦の武人とは言え、むやみに戦争を起こしたがるような人間でもなく。ネイルコード本国は、三角州を国境として堅実な防衛が出来ればそれでよしという方針でしたが。
このアトラコム伯爵というのが、悪しき慣習を引きずった貴族でして。領民は生かさず殺さず、足りなくなったら戦をふっかけて略奪と。いったいいつの戦国時代から来たんだというレベルの人間。
さらに。武人のジートミル辺境候から見ると、アイズン伯爵は内政…ってより、金儲けしか考えていないように見えて、伯爵を引き立てる王国には隔意を持っていたようで。その辺を勝手に忖度したアトラコム伯爵を筆頭とするバッセンベル領の貴族がいろいろちょっかいかけてくる…という状態だったわけです。
私が来たばかりの頃に発覚したアイズン伯爵の毒殺未遂。あれはバッセンベル領の貴族が裏で糸を引いていたことは分かっています。まぁその本人はモンテスのやらかしに同行していたので、ダーコラ国の方で賊として処刑されてうやむやになりましたが。
もともと辺境候は内政が得手とは言えず。領内の経済は他領に比べると見劣りしていて差は開くばかり。アイリさんのご両親が逃げ出してきたのもそんなバッセンベルの一領でした。
それでも貴族として見栄を張って、そのための税を徴収するもんだから、経済状態は悪化の悪循環。
略奪も侵略も封じられたアトラコム伯爵の起死回生の策というのが、国境紛争に紛れてネイルコード国の王族にして軍のトップであるカステラード殿下の暗殺を計画。そのままダーコラ国と正教国側に寝返って、あわよくばエイゼル領まで侵攻、その富を略奪する…なんて計画だったそうで。
さすがにこれはネイルコード王国に対する反逆と言うことで、アトラコム伯爵は処刑。バッセンベル領は領地を半分にまでに縮小。もともと体調を崩していたジートミル辺境候が亡くなり。娘のトラーリ・バッセンベル・ガランツさんが伯爵として新領主になりました。
まぁジートミル辺境候とは犬猿の仲とはいえ、実は認められていたと知ったアイズン伯爵の支援も始まり、ぼろぼろだったバッセンベル領の領政も希望が見えてきたころ。バッセンベル領にて代官も務めていたバーホリー・ナナ・スワーロ子爵の子息ナシラさんが、なんとトラーリさんと結婚とあいなりまして。
トラーリさんがエイゼル市での領政研修をしている間、バッセンベル領の代官だったバーホリー子爵は、代官からそのままトラーリ伯爵の補佐へ就任。ナシラさんもその仕事を手伝っていたので、いつのまにか親密になったようですね。
元とは言え王族である家をなくすわけには行かないということで、ナシラさんが入り婿となりますが。バーホリー子爵も賛成して喜んでいるようで。もう一人娘さんが居るようなので、スワーロ家の方はこちらも婿を迎えることになりそうです。
思い出しました、ナシラさん。あれですね、モンテスが三角州対岸の村を略奪したとき、命令拒絶して参加しなかった人ですね。
ネイルコードの鉄道事業は、ユルガルムの工業地域からユルガルム領都、テオーガル領、王都を経てエイゼル市へという、ネイルコードを南北に繋ぐルートが確定し、工事も進んでいます。まさにネイルコードの背骨といって良いラインですね。
王都ーエイゼル市路線については、もうすぐ開業します。テスト走行も始まっていて、毎度大勢の見物人が押し寄せています。
今のうちから、線路に近づくなという啓発の場にもなっています。線路に対する工作は、そのまま国家反逆罪に匹敵する罪となります。線路に石を置いた程度でもいたずらでは済みません。大人なら処刑も視野に入りますし、例え子供でも親を含めて大変な罰金が被さることになるでしょう。人が集まるところには、その辺の法律を書いた立て札やら、領兵がそれを説明したりという光景が見られます。
「いまのうちにやらかすバカが出てくれれば、良い見せしめになるんだがな」
とは、テストに立ち会ったカステラード殿下の言葉。恐いこと言わないでくださいよ。
路線はさらに、エイゼル市から東のアマランカ領を繋ぐ海岸線も予定されています。製紙や木材もですが、さらに東を開拓する計画もありますので。ここも重要な路線になるでしょう。
これと連動して、この反対方向である三角州脇の街のサルハラに至るルート。広大な三角州の開拓はまだまだ続きますので、有力な穀倉地になるのはぼ確定、鉄道も食糧輸送の主力として重要です。が、さらに重要なのが、隣国ダーコラやその先の正教国との接続計画です。
実際にダーコラや正教国が国内の鉄道敷設に動くのは、王都ーエイゼル市の路線が開通してそれを目の当たりにしてからになるとは思いますが。まぁ導入しない理由が無いでしょう。
国防的に言えば、大量輸送手段を他国に関与させるなんて弱点さらすどころの話ではなくなるので、その辺抵抗する人は出そうですが。正教国まで開通したとなれば、もう同じ経済圏として国同士で争うことは出来なくなると思います。
さらにさらに。国内の鉄道網整備として、ユルガルムからテオーガルを経て、王都方面の路線から分岐してそのまま南下、バッセンベル領を通ってサルハラに至る路線が計画されています。ユルガルムから正教国への直通陸上輸出ルートですね。
バッセンベル領救済が目的という訳ではありませんが。この辺うまく利用して発展して欲しいところです。
「ただいま~っ! あたし、いちば~んっ!」
そろそろ初夏の朝。
食卓の準備を手伝っていると、マーリアちゃんとセレブロさんたちの散歩に付き合っていたハルカちゃんが駆け込んできます。
「ハルカちゃん、やっぱはやいね…」
「ぬけがけではしりだすのはずるいよ…」
二着はベールちゃん。つづいてウマニ君。
「うふふ。みんなほんとに早くなったわね…」
付き添いのマーリアちゃん。そして…
「…ついて行けるわけ無いでしょ?、こんなの」
「アイリママ、大丈夫?」
セレブロさんに背負われて帰って来たアイリさん。心配するハルカちゃん。
「アイリはまだ鍛え方が足りないな」
護衛としてエカテリンさんが付いてくれました。さすがエイゼル領の護衛騎士第二席。カチ(徒歩)でついて行けたようです。
マーリアちゃんは、朝一にセレブロさんとケルちゃんの散歩に出かけるのが習慣ですが。今日はちょっと早起きできた子供達とアイリさんが一緒でした。
だいたいいつも河原の原っぱまでの往復ですが、帰りは競争になったようですね。アイリさんも運動量減らさずに過ごしてはいますが、幼児に追いつけないのはちょっとだらしないのでは?
カーラさんは畳の間でターダ君を抱いてのんびりしています。アライさんとカヤンさんは朝食の用意。
「ほらほら。ご飯の前にシャワー浴びるわよっ!」
マーリアちゃんには大したことのない運動量ですが。それでも身体強化を使っていると体温が上がります。水で冷やすのはエルセニムで一緒に走った時と同じですね。
子供達も…はい汗だくです。
「えーっ!おなかすいたーっ!」
「ヒャー。あさこはんのようい、もうちょっとかかるから。こともたちはキレイキレイにしてきなさい」
「はーい、アライママっ!」
「私もついでにシャワーいただいてこようかね」
子供達のシャワーはマーリアちゃんとエカテリンさんにお任せします。私も配膳手伝いますよ。
「私はターダのおっぱい終わってから浴びるわ」
ターダ君を受け取るアイリさん。アライさんがとりあえず飲み物出しています。
今日の朝ご飯は、トーストにスクランブルエッグ…目玉焼きは、卵のサイズからしてちょっと無理なのです。サラダにスープと。あとはお好みで、このサラダとスクランブルエッグをパンに挟んでソースをかければ、港サンドです。
シャワーから上がってきた子供達が頭を拭かれています。次はアイリさんがシャワーを浴びてきて、戻ってきたところで、それでは。
「「「いただきまーす」」」
アルプス一万尺、ご存じでしょうか? 二人で向かい合ってあの歌に合わせて手振りをするという遊びだけど。私が子供の頃に学校ではやったのです。それも変な方向にエスカレートして、超高速一万尺。
ハルカちゃんに歌と振り付けを教えたところ、これに填まりまして。護衛として詰めていたエカテリンさんが相手を請われます。
この遊び、慣れるほどにドンドン高速化するんですよね。五倍速くらいを越えた当たりでしょうが。私のマナ探知に反応があります。
…ハルカちゃん、身体強化使っている。身体強化で超高速アルプス一万尺…テンポにして300を越えています。三歳児が超高速、ちょっと怖いですね。
「レイコちゃん…私、ハルカの手が見えないんだけど…」
シュバババという音まで聞こえそうです。
「アイリさん、この子身体強化使ってます」
「うそっ?! 私もタロウもマナ術は使えないわよっ」
エカテリンさんも身体強化を始めてハルカちゃんの相手をしています。あれについて行っているエカテリンさんも凄いですね。実力主義の護衛騎士でやっていけるわけです。
「血筋で、発現、しやすくは、あるけど。一応、誰でも、使えるように、なる可能性は、あるかな。私も、そうだった、し。逆に、貴族でも、マナ術が、使えない、人も、けっこう、いるしね。あ、ミスった」
シュバババとハルカちゃんの相手をしながらエカテリンさんが説明してくれます。
今でこそ、内政能力の方が重視されるネイルコード国では、官職の面では不利にはなりませんが。それでも貴族当主になるにはマナ術が使える人の方が有利だそうです。逆に言えばその程度の価値でもありますが。
あ…ウマニにベールちゃんも始めました。こちらも凄い速度ですね。流石ミオンさんの子供達。そういえば、モーラちゃんとミオンさんも身体強化使えましたね。
どうりでアイリさんが駆けっこで追いつけないはずです。
「ター君も使えるようになるかしら?」
今年生まれた長男のタダフミ君をアイリさんがあやしています。お乳もらっておねむですね。
「…もしかしてだけど。レイコちゃんやレッドさんと一緒にいるって関係ある?」
アイリさんが推測します。
健康管理と防犯の一貫として、レッドさんがみんなのマナにそれなりに干渉はしていますが。
「どうだろ? 周囲に使える人がいると習得しやすいのかもしれないけど」
「私も使い方に目覚めたのは、ダンテ隊長に稽古を付けてもらってからかな」
マナが使える人が近くにいるとマナ操作を覚えやすいのかも…だそうです。
「? どうしたのアイリさん?」
まだアルプス続けているハルカちゃんを見ながら、アイリさんが考え込んでいます。
「いえね。私とタロウは特に不自由感じていないけど。マナが使えることでハルカの将来の選択が増えるのか、それとも狭まるのか。どちらがよいかちょっと判断しかねてね」
「一昔前なら、騎士に取り立てられたりとか、貴族の側室になったりとか、圧力あったと思うけど。戦争で功を上げる風潮はもう無いからね。希望するのなら騎士職に就きやすくなるって程度かな。文官は完全に頭勝負だからね…むしろアイリ達の子なら、そっちの才能がありそうだよね。私はマナが使えることで天職にありつけたと感謝しているけど、べつにマナにこだわった将来を考える必要は無いと思うよ」
エカテリンさんはマナが使えることで六六出身から護衛騎士にまで出世しました。護衛ギルドで行なっていた剣術指南に指導で来ていたダンテ隊長が、彼女の能力を見いだしてスカウトしたのです。
「まぁ、まだ三歳なんだから。将来はこれからいろいろ考えていけばいいわよね」
うん。何でも出来る。何にでもなれる。やりたい方向に才能伸ばしていけばいいよね。
…これが日本なら、スポーツ選手にでもとか考えるところだけど。この世界でスポーツ競技が広まったら、この身体強化はどう扱うんだろ? 剣術とかは実技として普及しているから、マナに関しては才能として扱われているけど。
身体強化をフルに使用した超人スポーツみたいなのも、見てみたい気がしますね。
「さて。チビ達三人は今日はお勉強ね。マーリアちゃんは領庁でお仕事。私は領庁でお仕事の打ち合わせ。それでは今日も元気にね」
「「「は~いっ」」」
こうして一日が始まりました。
・Side:ツキシマ・レイコ
ネイルコード王国の鉄道網に関するついでに、バッセンベル領の現状についてです。
私がまだ来たばかりの頃、市場で私に切りつけてきて。その後、処刑されたサッコ・ジムールがいたバッセンベル領です。
ダーコラ国との国境紛争では、功を焦ったバッセンベル領のモンテス男爵が、三角州対岸の村で略奪なんてやらかしまして。同時に親のアトラコム・メペック・モレーロス伯爵の反逆も発覚と。…なにかと因縁のあった領なのですが。
もともとバッセンベル領は、ジートミル・バッセンベル・ガランツという人が納めていた独立国でしたが。ダーコラ国や正教国からの圧力に負けた結果、ネイルコード王国に併合。ジートミルも辺境候となりました。この辺、ユルガルムと同じような経緯ですが。
ジートミル辺境候が病気で、娘のトラーリ・バッセンベル・ガランツが辺境候代理となり。アトラコム伯爵が補佐を務めてましたが。
ジートミル辺境候は歴戦の武人とは言え、むやみに戦争を起こしたがるような人間でもなく。ネイルコード本国は、三角州を国境として堅実な防衛が出来ればそれでよしという方針でしたが。
このアトラコム伯爵というのが、悪しき慣習を引きずった貴族でして。領民は生かさず殺さず、足りなくなったら戦をふっかけて略奪と。いったいいつの戦国時代から来たんだというレベルの人間。
さらに。武人のジートミル辺境候から見ると、アイズン伯爵は内政…ってより、金儲けしか考えていないように見えて、伯爵を引き立てる王国には隔意を持っていたようで。その辺を勝手に忖度したアトラコム伯爵を筆頭とするバッセンベル領の貴族がいろいろちょっかいかけてくる…という状態だったわけです。
私が来たばかりの頃に発覚したアイズン伯爵の毒殺未遂。あれはバッセンベル領の貴族が裏で糸を引いていたことは分かっています。まぁその本人はモンテスのやらかしに同行していたので、ダーコラ国の方で賊として処刑されてうやむやになりましたが。
もともと辺境候は内政が得手とは言えず。領内の経済は他領に比べると見劣りしていて差は開くばかり。アイリさんのご両親が逃げ出してきたのもそんなバッセンベルの一領でした。
それでも貴族として見栄を張って、そのための税を徴収するもんだから、経済状態は悪化の悪循環。
略奪も侵略も封じられたアトラコム伯爵の起死回生の策というのが、国境紛争に紛れてネイルコード国の王族にして軍のトップであるカステラード殿下の暗殺を計画。そのままダーコラ国と正教国側に寝返って、あわよくばエイゼル領まで侵攻、その富を略奪する…なんて計画だったそうで。
さすがにこれはネイルコード王国に対する反逆と言うことで、アトラコム伯爵は処刑。バッセンベル領は領地を半分にまでに縮小。もともと体調を崩していたジートミル辺境候が亡くなり。娘のトラーリ・バッセンベル・ガランツさんが伯爵として新領主になりました。
まぁジートミル辺境候とは犬猿の仲とはいえ、実は認められていたと知ったアイズン伯爵の支援も始まり、ぼろぼろだったバッセンベル領の領政も希望が見えてきたころ。バッセンベル領にて代官も務めていたバーホリー・ナナ・スワーロ子爵の子息ナシラさんが、なんとトラーリさんと結婚とあいなりまして。
トラーリさんがエイゼル市での領政研修をしている間、バッセンベル領の代官だったバーホリー子爵は、代官からそのままトラーリ伯爵の補佐へ就任。ナシラさんもその仕事を手伝っていたので、いつのまにか親密になったようですね。
元とは言え王族である家をなくすわけには行かないということで、ナシラさんが入り婿となりますが。バーホリー子爵も賛成して喜んでいるようで。もう一人娘さんが居るようなので、スワーロ家の方はこちらも婿を迎えることになりそうです。
思い出しました、ナシラさん。あれですね、モンテスが三角州対岸の村を略奪したとき、命令拒絶して参加しなかった人ですね。
ネイルコードの鉄道事業は、ユルガルムの工業地域からユルガルム領都、テオーガル領、王都を経てエイゼル市へという、ネイルコードを南北に繋ぐルートが確定し、工事も進んでいます。まさにネイルコードの背骨といって良いラインですね。
王都ーエイゼル市路線については、もうすぐ開業します。テスト走行も始まっていて、毎度大勢の見物人が押し寄せています。
今のうちから、線路に近づくなという啓発の場にもなっています。線路に対する工作は、そのまま国家反逆罪に匹敵する罪となります。線路に石を置いた程度でもいたずらでは済みません。大人なら処刑も視野に入りますし、例え子供でも親を含めて大変な罰金が被さることになるでしょう。人が集まるところには、その辺の法律を書いた立て札やら、領兵がそれを説明したりという光景が見られます。
「いまのうちにやらかすバカが出てくれれば、良い見せしめになるんだがな」
とは、テストに立ち会ったカステラード殿下の言葉。恐いこと言わないでくださいよ。
路線はさらに、エイゼル市から東のアマランカ領を繋ぐ海岸線も予定されています。製紙や木材もですが、さらに東を開拓する計画もありますので。ここも重要な路線になるでしょう。
これと連動して、この反対方向である三角州脇の街のサルハラに至るルート。広大な三角州の開拓はまだまだ続きますので、有力な穀倉地になるのはぼ確定、鉄道も食糧輸送の主力として重要です。が、さらに重要なのが、隣国ダーコラやその先の正教国との接続計画です。
実際にダーコラや正教国が国内の鉄道敷設に動くのは、王都ーエイゼル市の路線が開通してそれを目の当たりにしてからになるとは思いますが。まぁ導入しない理由が無いでしょう。
国防的に言えば、大量輸送手段を他国に関与させるなんて弱点さらすどころの話ではなくなるので、その辺抵抗する人は出そうですが。正教国まで開通したとなれば、もう同じ経済圏として国同士で争うことは出来なくなると思います。
さらにさらに。国内の鉄道網整備として、ユルガルムからテオーガルを経て、王都方面の路線から分岐してそのまま南下、バッセンベル領を通ってサルハラに至る路線が計画されています。ユルガルムから正教国への直通陸上輸出ルートですね。
バッセンベル領救済が目的という訳ではありませんが。この辺うまく利用して発展して欲しいところです。
「ただいま~っ! あたし、いちば~んっ!」
そろそろ初夏の朝。
食卓の準備を手伝っていると、マーリアちゃんとセレブロさんたちの散歩に付き合っていたハルカちゃんが駆け込んできます。
「ハルカちゃん、やっぱはやいね…」
「ぬけがけではしりだすのはずるいよ…」
二着はベールちゃん。つづいてウマニ君。
「うふふ。みんなほんとに早くなったわね…」
付き添いのマーリアちゃん。そして…
「…ついて行けるわけ無いでしょ?、こんなの」
「アイリママ、大丈夫?」
セレブロさんに背負われて帰って来たアイリさん。心配するハルカちゃん。
「アイリはまだ鍛え方が足りないな」
護衛としてエカテリンさんが付いてくれました。さすがエイゼル領の護衛騎士第二席。カチ(徒歩)でついて行けたようです。
マーリアちゃんは、朝一にセレブロさんとケルちゃんの散歩に出かけるのが習慣ですが。今日はちょっと早起きできた子供達とアイリさんが一緒でした。
だいたいいつも河原の原っぱまでの往復ですが、帰りは競争になったようですね。アイリさんも運動量減らさずに過ごしてはいますが、幼児に追いつけないのはちょっとだらしないのでは?
カーラさんは畳の間でターダ君を抱いてのんびりしています。アライさんとカヤンさんは朝食の用意。
「ほらほら。ご飯の前にシャワー浴びるわよっ!」
マーリアちゃんには大したことのない運動量ですが。それでも身体強化を使っていると体温が上がります。水で冷やすのはエルセニムで一緒に走った時と同じですね。
子供達も…はい汗だくです。
「えーっ!おなかすいたーっ!」
「ヒャー。あさこはんのようい、もうちょっとかかるから。こともたちはキレイキレイにしてきなさい」
「はーい、アライママっ!」
「私もついでにシャワーいただいてこようかね」
子供達のシャワーはマーリアちゃんとエカテリンさんにお任せします。私も配膳手伝いますよ。
「私はターダのおっぱい終わってから浴びるわ」
ターダ君を受け取るアイリさん。アライさんがとりあえず飲み物出しています。
今日の朝ご飯は、トーストにスクランブルエッグ…目玉焼きは、卵のサイズからしてちょっと無理なのです。サラダにスープと。あとはお好みで、このサラダとスクランブルエッグをパンに挟んでソースをかければ、港サンドです。
シャワーから上がってきた子供達が頭を拭かれています。次はアイリさんがシャワーを浴びてきて、戻ってきたところで、それでは。
「「「いただきまーす」」」
アルプス一万尺、ご存じでしょうか? 二人で向かい合ってあの歌に合わせて手振りをするという遊びだけど。私が子供の頃に学校ではやったのです。それも変な方向にエスカレートして、超高速一万尺。
ハルカちゃんに歌と振り付けを教えたところ、これに填まりまして。護衛として詰めていたエカテリンさんが相手を請われます。
この遊び、慣れるほどにドンドン高速化するんですよね。五倍速くらいを越えた当たりでしょうが。私のマナ探知に反応があります。
…ハルカちゃん、身体強化使っている。身体強化で超高速アルプス一万尺…テンポにして300を越えています。三歳児が超高速、ちょっと怖いですね。
「レイコちゃん…私、ハルカの手が見えないんだけど…」
シュバババという音まで聞こえそうです。
「アイリさん、この子身体強化使ってます」
「うそっ?! 私もタロウもマナ術は使えないわよっ」
エカテリンさんも身体強化を始めてハルカちゃんの相手をしています。あれについて行っているエカテリンさんも凄いですね。実力主義の護衛騎士でやっていけるわけです。
「血筋で、発現、しやすくは、あるけど。一応、誰でも、使えるように、なる可能性は、あるかな。私も、そうだった、し。逆に、貴族でも、マナ術が、使えない、人も、けっこう、いるしね。あ、ミスった」
シュバババとハルカちゃんの相手をしながらエカテリンさんが説明してくれます。
今でこそ、内政能力の方が重視されるネイルコード国では、官職の面では不利にはなりませんが。それでも貴族当主になるにはマナ術が使える人の方が有利だそうです。逆に言えばその程度の価値でもありますが。
あ…ウマニにベールちゃんも始めました。こちらも凄い速度ですね。流石ミオンさんの子供達。そういえば、モーラちゃんとミオンさんも身体強化使えましたね。
どうりでアイリさんが駆けっこで追いつけないはずです。
「ター君も使えるようになるかしら?」
今年生まれた長男のタダフミ君をアイリさんがあやしています。お乳もらっておねむですね。
「…もしかしてだけど。レイコちゃんやレッドさんと一緒にいるって関係ある?」
アイリさんが推測します。
健康管理と防犯の一貫として、レッドさんがみんなのマナにそれなりに干渉はしていますが。
「どうだろ? 周囲に使える人がいると習得しやすいのかもしれないけど」
「私も使い方に目覚めたのは、ダンテ隊長に稽古を付けてもらってからかな」
マナが使える人が近くにいるとマナ操作を覚えやすいのかも…だそうです。
「? どうしたのアイリさん?」
まだアルプス続けているハルカちゃんを見ながら、アイリさんが考え込んでいます。
「いえね。私とタロウは特に不自由感じていないけど。マナが使えることでハルカの将来の選択が増えるのか、それとも狭まるのか。どちらがよいかちょっと判断しかねてね」
「一昔前なら、騎士に取り立てられたりとか、貴族の側室になったりとか、圧力あったと思うけど。戦争で功を上げる風潮はもう無いからね。希望するのなら騎士職に就きやすくなるって程度かな。文官は完全に頭勝負だからね…むしろアイリ達の子なら、そっちの才能がありそうだよね。私はマナが使えることで天職にありつけたと感謝しているけど、べつにマナにこだわった将来を考える必要は無いと思うよ」
エカテリンさんはマナが使えることで六六出身から護衛騎士にまで出世しました。護衛ギルドで行なっていた剣術指南に指導で来ていたダンテ隊長が、彼女の能力を見いだしてスカウトしたのです。
「まぁ、まだ三歳なんだから。将来はこれからいろいろ考えていけばいいわよね」
うん。何でも出来る。何にでもなれる。やりたい方向に才能伸ばしていけばいいよね。
…これが日本なら、スポーツ選手にでもとか考えるところだけど。この世界でスポーツ競技が広まったら、この身体強化はどう扱うんだろ? 剣術とかは実技として普及しているから、マナに関しては才能として扱われているけど。
身体強化をフルに使用した超人スポーツみたいなのも、見てみたい気がしますね。
「さて。チビ達三人は今日はお勉強ね。マーリアちゃんは領庁でお仕事。私は領庁でお仕事の打ち合わせ。それでは今日も元気にね」
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