6 / 12
第6話:超絶テク
しおりを挟む
朝の喧騒が嘘のように、詰所内は静まり返っていた。
マシロは一人、黙々と手を動かしている。ロッテは別室で書類仕事だ。
「……よし、これで予備の鎧は全部磨き終わったかな」
彼は額の汗を拭い、満足げに並べられた鎧を眺めた。
錆びつき、手垢で曇っていた予備の胸当てやチェーンメイルたちは今、鏡のように磨き上げられ、夕日を反射して輝いている。
さらに、武器庫の剣はすべて砥石で研ぎ直され、革製品にはオイルが塗り込まれていた。
床は塵一つなく、空気中にはほのかに爽やかな香りが漂っている。
ガチャリ。
重厚な扉が開く音が響いた。
「ただいまー。……って、えっ? 何これ」
先頭で入ってきたアリサが、目を見開いて立ち尽くした。
続いて入ってきたガルド副隊長や他の衛士たちも、同様に口を開けて固まる。
「嘘……これが私たちの詰所?」
「眩しい……! 床が光ってるわ!」
「おい見ろよ、あの予備鎧! 新品か!?」
彼女たちは今日一日、王都の巡回警備に出ていたのだ。
埃っぽい路地を歩き、酔っ払いの相手をし、スリを追いかけ……心身共に疲弊して帰ってきた彼女たちを迎えたのは、かつてないほどの清潔な詰所だった。
「おかえりなさい! 疲れましたよね? 冷たいお水、用意してありますよ」
マシロが屈託のない笑顔で、冷えた水差しを差し出す。
その瞬間、衛士たちの瞳に怪しい光が宿った。
カァーン、カァーン、カァーン……。
王都全体に、定刻を知らせる鐘の音が響き渡った。
「……あら、もう定刻」
アリサの表情が緩む。
(やっと終わった……! これでマシロと二人きりで帰れる……!)
彼女の脳内はすでに、帰宅後の「マシロの手料理」と「イチャイチャタイム」で埋め尽くされていた。
その浮かれた思考のまま、彼女は致命的なミスを犯す。
「はい、みんなお疲れ様! 今日はもう解散! 報告は明日でいいわ!」
その言葉を待っていたと言わんばかりに、部下の女騎士の一人がガルド副隊長に近寄った。
「あ、そうです副隊長! さっき本部から伝令が来てましたよ。『至急、備品管理の書類を持ってこい』って」
「なっ、なんだとぉ!? あのクソ査察官め、このタイミングで……!」
ガルドは顔面蒼白になり、大慌てで鞄を掴んだ。
「俺は本部に行ってくる! お前ら、後は任せたぞ!」
「「「お疲れ様でありまーす!!」」」
ドタバタとガルドが出ていく。
邪魔な上官はいなくなった。
残されたのは、欲望に飢えた猛獣たちと、不用意に檻の鍵を開けてしまったアリサ、そして無垢な子羊だけ。
「……あれ? なんかみんな、目が怖くない?」
アリサが異変に気づいた時には、もう遅かった。
重い扉が閉まった瞬間。
第三警備隊の詰所に熱狂の幕が切って落とされた。
「ねえ、マシロ君!!」
「マシロ君、ちょっといい!?」
「あっち行ってよ泥棒猫! 私が先よ!」
ガタガタッ!
無数の椅子が弾き飛ばされる音と共に、隊の女衛士たちがマシロの席に殺到した。
その目は一様に血走り、荒い鼻息を吹きかけてくる。
彼女たちは皆、一日中重い鎧と兜を身に着け、王都の汚れた空気に晒され続けてきた「戦士」だ。
そのストレスと、肉体的な不快感は限界に達している。
「わ、わわっ!? なに、どうしたの皆!?」
マシロは椅子に座ったまま、四方八方から伸びてくる手に囲まれ、目を白黒させている。
迫りくる顔、顔、顔。
汗と脂と鉄の臭いが、津波のように押し寄せる。
「マシロ君、その『いい匂いのする布』、私にちょうだい! 銀貨5枚出すわ!」
「ズルい! マシロ君、私の武器も磨いて! なんなら私の鎧も! 中まで!」
「マシロ君、私、さっきの巡回ですっごい汗かいちゃって……匂い、嗅いでみて? 臭くない?」
カオスだった。
普段不衛生な環境で過ごす彼女たちにとって、マシロはまさに砂漠のオアシスであった。
普段は粗暴に振る舞っている彼女たちも、本能レベルでは「清潔さ」に飢えていたのだ。
「ちょ、ちょっと待って! 押さないで! あ、そこ触らないで!」
マシロが悲鳴を上げる。
どさくさに紛れて、二の腕を揉む手、お腹をさする手、さらには太ももを突っつく手が入り乱れている。
これはもう、セクハラというレベルを超えて普通に痴漢だ。
「離れろハイエナどもーーーッ!!」
バンッ!!
轟音と共に、マシロの机が揺れた。
アリサが立ち上がり、鞘に収まったままの剣を机に叩きつけたのだ。
「マシロは私のよ! ……じゃなかった、私の幼馴染よ! 許可なく半径1メートル以内に近づくんじゃないわよ!」
アリサが鬼の形相で威嚇する。
だが、隊員のひとりひとりも負けじと野次を飛ばしていた。
「えー、隊長ケチくさいー!」
「減るもんじゃないだろー!」
「減るわよ! マシロが穢れるでしょ!」
「いいじゃないですか。……そこのマシロ君だっけか」
女戦士は、強引に自分の頭をマシロに見せつけた。
兜の下に押し込めていた髪は、汗と脂でペッタリと張り付き、束になっている。
そして何より、兜の中の湿気で蒸れた、独特の酸っぱい臭いが漂っていた。
「一日中兜を被ってると、頭が痒くてたまらねぇんだ。……なんとかならねぇか?」
ボリボリと頭を掻きむしる女戦士。
その不潔な光景と、舞い散るフケを見た瞬間。
マシロの顔色がサァッと青ざめた。
「ひっ……!」
(……うわぁ。毛穴が脂で詰まってる。あれじゃ雑菌が繁殖して炎症を起こすよ。不潔だ……耐えられない!)
マシロは震える手で、リュックからスリムな金属缶を取り出した。
「……動かないでください。すぐに楽にしますから」
「あ?」
マシロは金属缶の底を『カチリ』と回し、内部で重曹と酸を反応させてガスを充填した。
『発泡冷感・ドライシャンプー』。
使用直前に炭酸ガスを発生させることで発生する、シュワシュワ泡の爽快感にこだわったアイテムだ。
ムクロジの実から煮出した天然の石鹸水に、高純度のアルコールとハッカ油を配合してある。
プシュシュシュシュッ!!
冷たい泡が、脂ぎった頭皮に直接噴射される。
「ひゃうっ!?」
女戦士が可愛らしい悲鳴を上げた。
「つ、冷めてぇ! ……でも、シュワシュワして……ああっ、なんか頭の中が弾けるぅぅ!」
「じっとしてて。今、揉み込みますから」
マシロは両手の指を広げ、彼女の髪の中に指を潜り込ませた。
細く、しなやかな指先が、的確な力加減で頭皮をマッサージしていく。
ワシャ、ワシャ、ワシャ……。
「あ……あぁ……っ♡」
女戦士の膝が崩れた。
目は虚ろになり、口元からは涎が垂れそうになっている。
完全に「キマって」いた。
「(……すごい。マシロ君の指、柔らかそう)」
「(あの指で……あんなふうに掻き回されたら……私、死んじゃうかも)」
「(頭の臭い嗅いでほしい......)」
周囲の騎士たちが、ゴクリと唾を飲む音が重なる。
「よし。これで汚れが浮いたよ」
マシロはタオルを取り出し、ワシャワシャと髪を拭き上げた。
そして、手櫛でサッと整える。
「どうですか?」
「は、はひ……」
女戦士は呆然としながら、自分の髪に触れた。
ベタつきは消え去り、ふんわりと空気を含んで立ち上がっている。
そして何より、頭皮を突き抜けるような爽快感と、シトラスミントの香り。
「す、すげぇ……。痒くない。軽い……」
彼女はマシロを拝むように見つめ、頬を染めた。
その目は、恋する乙女のそれだった。
「なぁ、マシロ。……俺と、結婚しねぇか?」
「えっ」
「俺の家は武門の名家だ。お前一人くらい、一生養ってやれる。毎日俺の頭を洗ってくれれば、他は何もしなくていい」
直球のプロポーズだった。
詰所がどよめく。
そして、そのどよめきは一瞬で「殺気」へと変わった。
「ちょっと! 抜け駆け禁止よ!」
「マシロ君! 私の頭も痒いの! 今すぐ洗って!」
「私なんか背中が痒いのよ! 鎧擦れで肌が荒れてるの! 服の中に手を入れて!」
「私のブーツの中の臭いを嗅ぎなさい!」
堰を切ったように要望が殺到する。
今や、詰所はマシロ・サロンの開店を待つゾンビの群れと化していた。
全員が自分の身体の不潔さをアピールし、マシロによる救済を求めている。
「ひぃっ! む、無理だ! 全員なんて手が足りない!」
マシロが涙目で後ずさる。
これ以上ここにいたら、体がいくつあっても足りない。
「逃げるわよ、マシロ!」
アリサがマシロの腕を掴んだ。
「ロッテ、援護して!」
「承知しましたわ。……ほら貴女たち、エサですわよ!」
ロッテはマシロのリュックから、試供品の『アロマ石鹸』を数個掴み出し、廊下の反対側へと放り投げた。
「あちらに高級石鹸が落ちてましてよ! 早い者勝ちですわ!」
「「「なんだってぇぇーーっ!!」」」
ドドドドド……!
地響きと共に、騎士の半数が石鹸に殺到する。その浅ましさは、もはや人間のそれではない。
「今のうちに!」
アリサとロッテは、マシロを引きずって詰所から脱出した。
†
「はぁ、はぁ……。し、死ぬかと思った……」
人気の少ない渡り廊下の陰で、マシロは膝に手をついて息を切らせていた。
服は引っ張られて乱れ、ボタンが一つ飛んでいる。鎖骨が露わになったその姿は、確かに「襲われた後」のようで、妙に艶かしかった。
「ねえ、アリサ。王都の職場って……みんなあんなにアグレッシブなの?」
マシロが怯えた目で聞いてくる。
「ええ、そうよ。ここは戦場なのよ。だから言ったでしょ、警戒しなさいって」
アリサの言葉に、マシロは深く頷くほかなかった。
マシロは一人、黙々と手を動かしている。ロッテは別室で書類仕事だ。
「……よし、これで予備の鎧は全部磨き終わったかな」
彼は額の汗を拭い、満足げに並べられた鎧を眺めた。
錆びつき、手垢で曇っていた予備の胸当てやチェーンメイルたちは今、鏡のように磨き上げられ、夕日を反射して輝いている。
さらに、武器庫の剣はすべて砥石で研ぎ直され、革製品にはオイルが塗り込まれていた。
床は塵一つなく、空気中にはほのかに爽やかな香りが漂っている。
ガチャリ。
重厚な扉が開く音が響いた。
「ただいまー。……って、えっ? 何これ」
先頭で入ってきたアリサが、目を見開いて立ち尽くした。
続いて入ってきたガルド副隊長や他の衛士たちも、同様に口を開けて固まる。
「嘘……これが私たちの詰所?」
「眩しい……! 床が光ってるわ!」
「おい見ろよ、あの予備鎧! 新品か!?」
彼女たちは今日一日、王都の巡回警備に出ていたのだ。
埃っぽい路地を歩き、酔っ払いの相手をし、スリを追いかけ……心身共に疲弊して帰ってきた彼女たちを迎えたのは、かつてないほどの清潔な詰所だった。
「おかえりなさい! 疲れましたよね? 冷たいお水、用意してありますよ」
マシロが屈託のない笑顔で、冷えた水差しを差し出す。
その瞬間、衛士たちの瞳に怪しい光が宿った。
カァーン、カァーン、カァーン……。
王都全体に、定刻を知らせる鐘の音が響き渡った。
「……あら、もう定刻」
アリサの表情が緩む。
(やっと終わった……! これでマシロと二人きりで帰れる……!)
彼女の脳内はすでに、帰宅後の「マシロの手料理」と「イチャイチャタイム」で埋め尽くされていた。
その浮かれた思考のまま、彼女は致命的なミスを犯す。
「はい、みんなお疲れ様! 今日はもう解散! 報告は明日でいいわ!」
その言葉を待っていたと言わんばかりに、部下の女騎士の一人がガルド副隊長に近寄った。
「あ、そうです副隊長! さっき本部から伝令が来てましたよ。『至急、備品管理の書類を持ってこい』って」
「なっ、なんだとぉ!? あのクソ査察官め、このタイミングで……!」
ガルドは顔面蒼白になり、大慌てで鞄を掴んだ。
「俺は本部に行ってくる! お前ら、後は任せたぞ!」
「「「お疲れ様でありまーす!!」」」
ドタバタとガルドが出ていく。
邪魔な上官はいなくなった。
残されたのは、欲望に飢えた猛獣たちと、不用意に檻の鍵を開けてしまったアリサ、そして無垢な子羊だけ。
「……あれ? なんかみんな、目が怖くない?」
アリサが異変に気づいた時には、もう遅かった。
重い扉が閉まった瞬間。
第三警備隊の詰所に熱狂の幕が切って落とされた。
「ねえ、マシロ君!!」
「マシロ君、ちょっといい!?」
「あっち行ってよ泥棒猫! 私が先よ!」
ガタガタッ!
無数の椅子が弾き飛ばされる音と共に、隊の女衛士たちがマシロの席に殺到した。
その目は一様に血走り、荒い鼻息を吹きかけてくる。
彼女たちは皆、一日中重い鎧と兜を身に着け、王都の汚れた空気に晒され続けてきた「戦士」だ。
そのストレスと、肉体的な不快感は限界に達している。
「わ、わわっ!? なに、どうしたの皆!?」
マシロは椅子に座ったまま、四方八方から伸びてくる手に囲まれ、目を白黒させている。
迫りくる顔、顔、顔。
汗と脂と鉄の臭いが、津波のように押し寄せる。
「マシロ君、その『いい匂いのする布』、私にちょうだい! 銀貨5枚出すわ!」
「ズルい! マシロ君、私の武器も磨いて! なんなら私の鎧も! 中まで!」
「マシロ君、私、さっきの巡回ですっごい汗かいちゃって……匂い、嗅いでみて? 臭くない?」
カオスだった。
普段不衛生な環境で過ごす彼女たちにとって、マシロはまさに砂漠のオアシスであった。
普段は粗暴に振る舞っている彼女たちも、本能レベルでは「清潔さ」に飢えていたのだ。
「ちょ、ちょっと待って! 押さないで! あ、そこ触らないで!」
マシロが悲鳴を上げる。
どさくさに紛れて、二の腕を揉む手、お腹をさする手、さらには太ももを突っつく手が入り乱れている。
これはもう、セクハラというレベルを超えて普通に痴漢だ。
「離れろハイエナどもーーーッ!!」
バンッ!!
轟音と共に、マシロの机が揺れた。
アリサが立ち上がり、鞘に収まったままの剣を机に叩きつけたのだ。
「マシロは私のよ! ……じゃなかった、私の幼馴染よ! 許可なく半径1メートル以内に近づくんじゃないわよ!」
アリサが鬼の形相で威嚇する。
だが、隊員のひとりひとりも負けじと野次を飛ばしていた。
「えー、隊長ケチくさいー!」
「減るもんじゃないだろー!」
「減るわよ! マシロが穢れるでしょ!」
「いいじゃないですか。……そこのマシロ君だっけか」
女戦士は、強引に自分の頭をマシロに見せつけた。
兜の下に押し込めていた髪は、汗と脂でペッタリと張り付き、束になっている。
そして何より、兜の中の湿気で蒸れた、独特の酸っぱい臭いが漂っていた。
「一日中兜を被ってると、頭が痒くてたまらねぇんだ。……なんとかならねぇか?」
ボリボリと頭を掻きむしる女戦士。
その不潔な光景と、舞い散るフケを見た瞬間。
マシロの顔色がサァッと青ざめた。
「ひっ……!」
(……うわぁ。毛穴が脂で詰まってる。あれじゃ雑菌が繁殖して炎症を起こすよ。不潔だ……耐えられない!)
マシロは震える手で、リュックからスリムな金属缶を取り出した。
「……動かないでください。すぐに楽にしますから」
「あ?」
マシロは金属缶の底を『カチリ』と回し、内部で重曹と酸を反応させてガスを充填した。
『発泡冷感・ドライシャンプー』。
使用直前に炭酸ガスを発生させることで発生する、シュワシュワ泡の爽快感にこだわったアイテムだ。
ムクロジの実から煮出した天然の石鹸水に、高純度のアルコールとハッカ油を配合してある。
プシュシュシュシュッ!!
冷たい泡が、脂ぎった頭皮に直接噴射される。
「ひゃうっ!?」
女戦士が可愛らしい悲鳴を上げた。
「つ、冷めてぇ! ……でも、シュワシュワして……ああっ、なんか頭の中が弾けるぅぅ!」
「じっとしてて。今、揉み込みますから」
マシロは両手の指を広げ、彼女の髪の中に指を潜り込ませた。
細く、しなやかな指先が、的確な力加減で頭皮をマッサージしていく。
ワシャ、ワシャ、ワシャ……。
「あ……あぁ……っ♡」
女戦士の膝が崩れた。
目は虚ろになり、口元からは涎が垂れそうになっている。
完全に「キマって」いた。
「(……すごい。マシロ君の指、柔らかそう)」
「(あの指で……あんなふうに掻き回されたら……私、死んじゃうかも)」
「(頭の臭い嗅いでほしい......)」
周囲の騎士たちが、ゴクリと唾を飲む音が重なる。
「よし。これで汚れが浮いたよ」
マシロはタオルを取り出し、ワシャワシャと髪を拭き上げた。
そして、手櫛でサッと整える。
「どうですか?」
「は、はひ……」
女戦士は呆然としながら、自分の髪に触れた。
ベタつきは消え去り、ふんわりと空気を含んで立ち上がっている。
そして何より、頭皮を突き抜けるような爽快感と、シトラスミントの香り。
「す、すげぇ……。痒くない。軽い……」
彼女はマシロを拝むように見つめ、頬を染めた。
その目は、恋する乙女のそれだった。
「なぁ、マシロ。……俺と、結婚しねぇか?」
「えっ」
「俺の家は武門の名家だ。お前一人くらい、一生養ってやれる。毎日俺の頭を洗ってくれれば、他は何もしなくていい」
直球のプロポーズだった。
詰所がどよめく。
そして、そのどよめきは一瞬で「殺気」へと変わった。
「ちょっと! 抜け駆け禁止よ!」
「マシロ君! 私の頭も痒いの! 今すぐ洗って!」
「私なんか背中が痒いのよ! 鎧擦れで肌が荒れてるの! 服の中に手を入れて!」
「私のブーツの中の臭いを嗅ぎなさい!」
堰を切ったように要望が殺到する。
今や、詰所はマシロ・サロンの開店を待つゾンビの群れと化していた。
全員が自分の身体の不潔さをアピールし、マシロによる救済を求めている。
「ひぃっ! む、無理だ! 全員なんて手が足りない!」
マシロが涙目で後ずさる。
これ以上ここにいたら、体がいくつあっても足りない。
「逃げるわよ、マシロ!」
アリサがマシロの腕を掴んだ。
「ロッテ、援護して!」
「承知しましたわ。……ほら貴女たち、エサですわよ!」
ロッテはマシロのリュックから、試供品の『アロマ石鹸』を数個掴み出し、廊下の反対側へと放り投げた。
「あちらに高級石鹸が落ちてましてよ! 早い者勝ちですわ!」
「「「なんだってぇぇーーっ!!」」」
ドドドドド……!
地響きと共に、騎士の半数が石鹸に殺到する。その浅ましさは、もはや人間のそれではない。
「今のうちに!」
アリサとロッテは、マシロを引きずって詰所から脱出した。
†
「はぁ、はぁ……。し、死ぬかと思った……」
人気の少ない渡り廊下の陰で、マシロは膝に手をついて息を切らせていた。
服は引っ張られて乱れ、ボタンが一つ飛んでいる。鎖骨が露わになったその姿は、確かに「襲われた後」のようで、妙に艶かしかった。
「ねえ、アリサ。王都の職場って……みんなあんなにアグレッシブなの?」
マシロが怯えた目で聞いてくる。
「ええ、そうよ。ここは戦場なのよ。だから言ったでしょ、警戒しなさいって」
アリサの言葉に、マシロは深く頷くほかなかった。
10
あなたにおすすめの小説
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…
アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。
そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!
勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。
克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。
没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで
六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。
乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。
ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。
有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。
前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。
異世界で目が覚めたら目の前で俺が死んでました。この世界でオリジナルの俺はとっくに死んでたみたいです
青山喜太
ファンタジー
主人公桜間トオル17歳は家族との旅行中、車の中ではなく突然なんの脈絡もなく遺跡の中で目が覚めてしまう。
混乱する桜間トオルの目の前にいたのは自分と瓜二つ、服装さえ一緒のもう一人の桜間トオルだった。
もう一人の桜間トオルは全身から出血し血を吐きながら、乞う。
「父さんと、母さん……妹をアカリを頼む……!!」
思わず、頷いた桜間トオルはもう一人の自分の最後を看取った。
その時、見知らぬ声が響く。
「私のことがわかるか? 13人の桜間トオル?」
これはただの高校生である桜間トオルが英雄たちとの戦争に巻き込まれていく物語
異世界へ転生した俺が最強のコピペ野郎になる件
おおりく
ファンタジー
高校生の桜木 悠人は、不慮の事故で命を落とすが、神のミスにより異世界『テラ・ルクス』で第二の生を得る。彼に与えられたスキルは、他者の能力を模倣する『コピーキャット』。
最初は最弱だった悠人だが、光・闇・炎・氷の属性と、防御・知識・物理の能力を次々とコピーし、誰も成し得なかった多重複合スキルを使いこなす究極のチートへと進化する!
しかし、その異常な強さは、悠人を巡る三人の美少女たちの激しい争奪戦を引き起こすことになる。
ホームレスは転生したら7歳児!?気弱でコミュ障だった僕が、気づいたら異種族の王になっていました
たぬきち
ファンタジー
1部が12/6に完結して、2部に入ります。
「俺だけ不幸なこんな世界…認めない…認めないぞ!!」
どこにでもいる、さえないおじさん。特技なし。彼女いない。仕事ない。お金ない。外見も悪い。頭もよくない。とにかくなんにもない。そんな主人公、アレン・ロザークが死の間際に涙ながらに訴えたのが人生のやりなおしー。
彼は30年という短い生涯を閉じると、記憶を引き継いだままその意識は幼少期へ飛ばされた。
幼少期に戻ったアレンは前世の記憶と、飼い猫と喋れるオリジナルスキルを頼りに、不都合な未来、出来事を改変していく。
記憶にない事象、改変後に新たに発生したトラブルと戦いながら、2度目の人生での仲間らとアレンは新たな人生を歩んでいく。
新しい世界では『魔宝殿』と呼ばれるダンジョンがあり、前世の世界ではいなかった魔獣、魔族、亜人などが存在し、ただの日雇い店員だった前世とは違い、ダンジョンへ仲間たちと挑んでいきます。
この物語は、記憶を引き継ぎ幼少期にタイムリープした主人公アレンが、自分の人生を都合のいい方へ改変しながら、最低最悪な未来を避け、全く新しい人生を手に入れていきます。
主人公最強系の魔法やスキルはありません。あくまでも前世の記憶と経験を頼りにアレンにとって都合のいい人生を手に入れる物語です。
※ ネタバレのため、2部が完結したらまた少し書きます。タイトルも2部の始まりに合わせて変えました。
美醜逆転世界の学園に戻ったおっさんは気付かない
仙道
ファンタジー
柴田宏(しばたひろし)は学生時代から不細工といじめられ、ニートになった。
トラックにはねられ転移した先は美醜が逆転した現実世界。
しかも体は学生に戻っていたため、仕方なく学校に行くことに。
先輩、同級生、後輩でハーレムを作ってしまう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる