結婚相手は、初恋相手~一途な恋の手ほどき~

馬村 はくあ

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第1章~2人の奇妙な関係~

なんもねぇよ

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夜。
学くんが帰ってきたのは、日付が変わるか変わらない頃だった。

事前に〝接待があるから遅くなる〟とはメッセージがきてたけど。

あたしには、また北条さんと……という考えしか浮かんでこなくて。
〝先に寝てていい〟と言われたけど、寝れるはずもなかった。



「ちとせ。まだ起きてたのか?」


お昼のことなんてなんでもないように、ネクタイを緩めてあたしの隣に座る。



「もう寝るとこ」



帰ってきたならいい。

それにやっぱり、学くんの顔を見ることなんてできない。



「おい」



立ち上がったあたしの腕を引いて、もう一度ソファーに座らせる。



「なんなんだよ。いい加減に俺を見ろよ」



はぁっとため息をついて、あたしの顔を覗き込む。



「もういいよ」



覗きこまれた瞳が真剣で思わず目をそらす。



「北条のことだろ?」



ふぅっと1度、息を吐いてあたしの顔をもう一度見つめる。



「わかってるならいいじゃん」


「何を怒ってる?」


「怒ってなんかいない」



そうだよ。
あたしは、この人の妻だけど。
この人はあたしに気持ちなんてないんだよ。

そうだった。
料理を作ってくれたりなんだかんだ優しかったから勘違いしてしまうところだった。

あたしのことをちゃんと見てくれてるって。

勘違いしそうになってたあたしがバカだったんだ。



「じゃあなんで、俺の方を見ようとしないんだ」


「……っ」



いま、見てしまったら。
確実にあたしは……。



「怒ってないなら見ろよ」



あたしの頬を両手で包み込んで無理やり自分のほうを向かせる。

いつも強気で。
自分勝手で。
自分の都合のいいように考えてて。

それでも、あたしは……。
どうしょうもないくらいこの人がすきだ。

学くんを視界に入れた瞬間。
瞳から暖かいものが零れ落ちた。



「なんで、泣くんだよ……」



眉が下がって、困ったような顔になる。



「あたしが、学くんのことを好きだからだよ」


「……っ」



好きな人と結婚ができたのに。
どうしてこんなにも冷たい気持ちでいるのだろう。

でも、たとえ学くんがあたしのことをすきじゃなくても。
それでも隣にいられるならと思った。

でも、一緒にいればいるほど好きになっていく。
欲張りになっていくんだ。



「あたし、学くんのことがすごく好き」


「……言うなって言ったろ」


「学くんにそんな事言われても、あたしは言いたい」



好きなんだから。
目の前にその相手がいるのに隠しておくなんてもったいない。



「勝手にしろ……」



はぁっとため息をついて立ち上がってあたしに背を向ける。

そんな彼の耳が少し赤くなってる。

……なんだ。
照れてるんじゃん。

それだけであたしは十分だよ。



「うん、勝手に好きでいる」



あたしがそういうと、クルっとあたしの方を向いて。



──チュッ



あたしが瞬きをするのも忘れるくらいのスピードで
唇を重ねた。



「なんもねぇよ」



そのままグイッと引き寄せられた。



「え?」


「北条とはなんもねぇ」



耳元で聞こえるその声に。
彼が話す度に吐息が耳にかかって、ドキドキが加速してく。



「そっか……」



学くんが何も無いと言うのであれば、それを信じる。
本当は違うのかもしれない。
でも、学くんのことが好きだから。

あたしは君を信じるよ。



「お前が俺の横にいるうちは、俺は他の誰かと……とかは考えてねぇよ」


「……え?」



どうしてだろう。
あたしのことを好きなんかじゃないのに。



「俺は結婚した以上、他の誰かを見るなんてありえねぇと思ってる」


「うん……」


「いくら愛がなくても、俺は親父みたいにはなりたくねぇ」



そのままあたしをきつく抱きしめた。

〝愛がない〟ってことばも。
〝親父みたいに〟ってことばも。

胸のつかえがとれないけど。
でも、今は学くんを信じてついていくしかない。

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