結婚相手は、初恋相手~一途な恋の手ほどき~

馬村 はくあ

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第1章~2人の奇妙な関係~

アイツを傷つけていいのは

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「副社長、午後のスケジュールですが……」



昼休みあけのこと。

あんな態度をとったちとせが意味がわからなくて、イライラしながら副社長室に戻る。



「わかってる。K商事の工藤さんと14時から、SSSの斎藤さんと16時からだろ」



自分のスケジュールは自分で管理できる。
俺に秘書なんていらないのに親父がつけやがる。



「さすがですね。秘書なんていらないのにどうしてつけるんでしょう?」



俺の秘書である北条がふふっと笑う。



「さぁ、なんか世間体でも気にしてんじゃねーの。ついてる秘書がいたほうが格好がつくだろ」



親父の考えてることなんて、世間体だけだ。
俺は知ってる。
世間体だけで、俺の母親と結婚したことも。
親父にはずっと別の好きな女がいることも。

でも、世間体のために親父は亡き妻を想って1人でずっといい理想の旦那像を演じてる。

ほんとにくだらねぇ。



「さっきはグッスリ寝てたみたいだから、遅れたらどうしようなんて思ってましたよ」



クスッと笑う。



「……さっき?」


「えぇ。さっき、一緒に寝てたじゃないですか」


「一緒……?」



俺は、たしかにベッドで寝てたけど。
ちとせのところに行こうとしたら、アイツがいなくて。



「あの人、副社長の奥様ですよね?」


「は?あの人?」



俺はまだ、社員にちとせと結婚したことを話していない。
お披露目パーティをしてから公表しても遅くないと親父の判断だ。



「保健師さん」


「お前……もしかして……」



さっき、ちとせの様子が変だったのはこいつのせいか?



「副社長でもそんな顔するんですね?ずっと冷徹なのかと思ってました」


「あいつのこと傷つけるのであれば、即刻お前をクビにするぞ」


「あら、好きな女のことになると……副社長もだまってはいないのね」



こんなに嫌なやつだったか?
北条は、俺が入社したときから俺についてくれて。
俺が1番信頼している秘書だっていうのに。



「あいつを傷つけていいのは俺だけだ」



他の誰かが傷つけるなんて絶対に許さねぇ。



「保健師さん、傷ついてたんですか?」


「傷つかないわけねぇだろ……くそっ」



俺はなんでもっと話を聞かなかったのか。
いま、俺が何を言ってもきっとあいつは聞く耳を持たない。

帰ったら聞いてくれるだろうか。



「副社長、今日の夜は接待ですからね」


「わかってる」



俺の考えを読み取るような北条にムカついた。

しかし、仕事には穴はあけられない。



「ふふ、あたしが出てきたあとに副社長がでてきてびっくりしたでしょうね」


「さぁな。お前は一体なにをしたんだよ。あいつに」


「うーん。ちょっとボタン外して服を乱れさせてみました」


「はぁ!?」



そんなんじゃ勘違いされて当然だろう。
ちとせがあの態度だったのも頷ける。

でも、俺はバカだから。
ちとせがこの状況を勘違いして怒ってることに快感を感じてる。


……俺はあいつが憎いから。
だから、愛して愛して愛して、突き放すんだ。

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