側妻になった男の僕。

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#8

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「ば、バラード?!」
「ウィル!久しぶりだな!!」
初めて見るバラードのスーツ姿。ちょっと見慣れなかった。
「なんでバラードがここに居るんだよ!」
僕が困惑していると、彼はやけに誇らしげで、眩しすぎるくらいの笑顔で言った。
「お前に逢いに来た!!」

・・・

とりあえずティーカップに紅茶を入れてバラードに出す。軽くサンキュー、といってそれに口を付けた。
「中央棟かあ~ほんと豪華だな。同じ棟でも厨房棟とはやっぱりちげえ。」
「そうだよね。僕も最初来た時はめちゃくちゃびっくりした。」
僕はバラードを真似るように少しだけ紅茶を飲んだ。
それから僕達は他愛ない話を沢山した。
新らしく入ってきた女の子が可愛いだとか、仕入れ数を間違って厨房に入り切らないような大量のりんごが入ってきて、その日はアップルパイやらアップルティーやら、りんご祭りだったとか、料理長がやっと結婚しただとか。……そんな話をきいて、ちょっとだけ厨房が恋しくなった。
僕からも話をした。
部屋がとんでもないくらい広いこと、初めて舞踏会に参加して、初めてルスティカーナ帝国のエレナ女帝を目にしただとか、そんな事をはなしてお互いに沢山笑った。
「はははは、やっぱりウィルといると楽しいよ。……そうだ。一週間くらい前、セレンが俺のとこに来たぞ。」
僕は恐る恐る聞く。「……なんて言ってた?」
バラードは思い出すように空中を見上げながら、考えた後にこう言った。
「俺の家にわざざ来てくれて、『うちにこんなものが送られてきたんです!兄はどこですか!』ってよ。」
「…… …… …… …… まじか。」
次セレンに会ったら、軽く5時間くらい説教されそうな気がした。
「まあそんなに気に病むなよ?『あの馬鹿なお兄ちゃんならきっとどとかで上手くやってますよ』って呆れてたからな。はははは。」
「……セレンには変わりなかった?」
「うん!相変わらず綺麗だったぜ。お前に似て。」
「いや、綺麗って……。僕とセレンは似てないんだって。」
バラードははにかむように、そうか?と言った。
僕は超絶母親似だ。モカブラウンの柔らかい髪質に焦げ茶色の瞳。母は元々太れない体質だったらしくて、それれも似てしまったのか男に生まれた僕も全く太れず終いだ。……いつかセレンに、『僕、太れない体質みたいなんだよね。(決して悪気はない)』と言ってしまい、フリード家最大の兄妹喧嘩になった事もあるくらいだ。
セレンは僕とは逆に、父親似。若干ウェーブのかかった金髪に、蒼い瞳。それにあんなに気が強いのに、なんで嫁に貰われたんだ?多分、一生の謎だ。……でも世話好きの妹にして見れば農家って天職なのかもしれないなあ、なんて余計なことを考えた。
とりあえず、一般的にみて僕とセレンは比べ物にならない。セレンの方が圧倒的に美形だ。年々、僕よりセレンの方がしっかりしてきている。……もしかしたら、兄妹じゃなくて姉弟になった方がいいのか?
「にしても、その服装と……聞く限りウィルは、今は執事かなんかしてるのか?」
……その質問、絶対来ると思った。
返答にだいぶ困って、目が泳ぎまくる。ふと、時計が目に止まって無意識に時刻を確認してしまう。
バラードがここへ来てから40分程立っていた。
もうこの質問からは逃げられない。
正直に言うしかないと思う。
「…… ……バラード、これから僕が言うことに一切嘘はないからね。」
「お、おう。」
「冗談じゃないからね?」
「……おう。」
「絶対誰にも言わないで死ぬまで秘密にしてくれる?」
「え、そんなに重い話なの?ちょっとまって今心の準備してるから。」
バラードは少しの間目をつぶって黙った。
「……いいぞ。」
「いいの?……じゃあい言うよ。」 
今更、口の中が少し粘着く。まるで、僕の体が言葉を発するのを拒んでるみたいだった。
「僕はね……」
「私の側妻だが?」
「そう、側妻……え?」
僕もバラードも勢い良くその声が聞こえた方向を見た。
「こっ国王……!!」
そこに居たのは、冷気が放たれそうなくらい冷たい目をしたルイスがいた。
こんなルイスは久々に見た気がした。
「ルイス、なんでここに?!」
「ふん、お前が中々帰ってこないから見に来てみたらこれか。」
何故か呆れるようにため息をついてから、オッドアイでバラードを睨むように捕らえた。
流石のバラードも、突然出てきた国王に驚きを隠せない様子だった。
「バラード・シュナイダーと言ったな。」
何故自分の名前を知っているのか、といった顔を一瞬してから、すぐにキレのいい声で、返事をした。
ルイスの顔がこっちを向く。
「え?」
僕の顔とルイスの顔が必要以上にちかくなっていく。
まって、このままじゃ……!!!!
「……んっ」
「は……?」
僕はルイスと初めてキスをした。しかもバラードの目の前で。
バラードは呆気に取られたような、まるで空と海が逆転した世界を初めて目にしたようななんとも言えない、吸い込まれるような小さな悲鳴を上げた。
僕の閉じた唇をルイスが舌で舐める。
そこから歯をこじ開け、僕の口の中に彼の下が完全に入り込む。
吸い付いて、強引なキスは、少し乱暴に感じた。
「……んうっ……はっ……」
ルイスの舌が甘いローズヒップティーの味がする。上手く呼吸ができない。
だんだん腰の力が抜けていく僕。逃がさない、とも言わんばかりにルイスは僕の腰に手を回す。
ルイスの腕の中に収まる僕。そもそも恥ずかしいし、僕は人とキスをするのは初めてだった。……しかも、こんな大人なやつ。
苦しさと恥ずかしさなんかがぐちゃぐちゃに混ざって、混ざって涙が込み上げてきた。
「はっ……んっ…… ……る、ルイス……苦しい…… ……」
僕がそういうと、あっさりその唇を離した。
その瞬間、僕とルイスの間に細い銀の糸が引いた。僕はそれをみて、何故かドキッとする。
「分かったか、バラード・シュナイダー。ウィルは私の側妻だ。手を出すな。」
まだまだ息が整わない僕の肩をグイッと自分に寄せてルイスがそう言った。
「ウィル、行くぞ。」
僕はバラードに何も言えずに、バラードは僕に何も言えずに、強制的にその場を立ち去ることになった。
僕とルイスはエレベーターに乗った。
2人だけの空間になる。
やっと冷静になってきて、僕の中にはどこに向ければいいのかわからない怒りが込み上げてきた。
「なんで、バラードの前でキスしたんですか……!!」
17歳男子。この年になって恥ずかしいけど、泣いた。
ルイスもルイスで、何かを言おうとしてたが、僕はそれを無理矢理遮った。
初めて見る、ルイスの困った様な表情。
「僕…… ……キスするの、初めてだったんです……それをなんで……」
遂に涙が瞼から零れた。
エレベーターが最上階に着いた。その場から動こうとしない僕を、ルイスは軽々と持ち上げた。
「うっ……!やめてください!!……っはなせっ……!!!」
バタバタと暴れるけど、無意味に等しかった。
僕は担がれたまま王室に入った。抵抗するのも、馬鹿馬鹿しくなって僕は黙ってルイスのされるがままになった。
いつかのように、ベッドに置かれた。でも、今日は投げずに優しく、僕を置いた。
「すまなかった。」
ルイスは苦しいくらい僕を抱きしめた。
その顔はバラードを見下す様な非人道を生きるルイスの顔ではなく、僕やノアさんにいつも見せるあの温かい眼差しだった。
「……謝るくらいなら、しないでください。」
ルイスにこんなに大きな態度取ったのは初めてだった。でも、今はもうそんなことどうでも良かった。
ボクを正面から捉えようとするルイスから顔を逸らした。
ノアさんは仕事をこなしたのか、もうここには居なかった。天気は曇りで王室には光が差し込んでこない。
電気の灯らない薄暗い王室で、僕はベッドに座り込み、ルイスもベッドの淵に腰をかけた。
「バラード、という男はお前の友人か。」
「……そうですよ。調査して、知っているんでしょ?」
半分やけくそになって、鼻をグズグズさせながら言った。
「…… ……あの男はお前を愛している目をしていた。もちろん、恋愛感情としてだ。」
「……愛してる目……?」
ルイスは静かに頷いてから、後ろに倒れた。その弾みで、少しベッドが揺れる。
「ウィル、あいつに何か言われたことはないのか?」
僕は、はっと思い出した。
中央棟に行った帰り、バラードは僕に好きだ、と言ったはずだ。
でもそれをルイスに言う気にはならなかった……から僕は黙った。
「お前は私の側妻。且つ私の唯一の癒しである存在だ。」
そうか、バラードは僕に恋愛感情を持っていたんだ。
いつか有耶無耶になって分からないまま蓋をしていた感情に納得が付いた。
2年間バラードと一緒にいたはずなのに、僕はその感情に気づけなかった。悪い気もしたし、それと同時に、僕なんかのどこを好きになったんだろうと思った。
なんかもう、驚かなかった。その代わり、なんでその愛情表現とか気持ちに答えられなかったんだろう、と思った。
「ウィルは誰にも譲れない。絶対にだ。」
そう言って、僕の手を握った。
「だから、キスをした。」
ルイスは言葉を続けた。
「……シュナイダーに、ウィルは私の物だと見せつけたかったんだが……。少々強引すぎた。申し訳ない。」
「…… ……素直なんですね。」
僕はルイスに握られた手を自分の頬に持ってきた。
「キス、して下さい。もう1回。」
自分でも、何を言っているのかよく分からなかった。でもいまはルイスとキスしたかった。したくてしょうがなかった。
分かった、と言ってルイスは優しく僕の髪を耳にかけた。それから、僕の唇に彼の唇を付けた。
優しい、の一言だった。
「……はあっ……んっ…… ……」
僕からルイスの首に手を回した。それに応えるように彼は僕の背中に手を回した。
まるで僕の呼吸に合わせるように、ルイスは僕の舌に絡めた。
誰かとキスする事が、こんなに幸せな事だなんて思ってもみなかった。
初めて僕を、癒しといってくれたベランダでのことを思い出す。それが何故か今、じわじわと心に幸せとして広がって行くのを感じている。
僕はきっと、ルイスに愛されている。
そして僕も、ルイスを愛している。
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