側妻になった男の僕。

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#9

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僕は昨日、あのまま眠ってしまった。
起床時刻は既に午前10時を回っていて、隣にルイスは居なかったけど、そのかわりに王室はいつもよりも賑やかそうだ。
純粋に、誰が来ているのだろう、と気になり見にきさ行くことにした。……でももちろん、こんな寝起きのまま行くわけには行かないから一応シャワーを浴びていつものスーツ姿で王室へ続く廊下をあるいた。
「ウィル、起きたか。」
「ウィル様、おはようございます。」
「……おはようございます……。」
とりあえず挨拶をした。
そこにはやけに機嫌の良さそうなルイスと、いつも通り爽やかなノアさん……それから、めちゃくちゃ体格が良い男達3人がルイスの机の前に立っている。誰???
「お、噂をすればウィルじゃん!」
「はあ?お前なに呼び捨てで読んでだこのバカ。少しは慎め。」
「落ち着けこの馬鹿共。少しは静粛に出来ねえのか。」
「うっせえよ。死ぬしか脳の無えこのジジイがよ。」
「てめえと4つしか違わねえって何回言わせんだ?」
え…… ……なんだこれ怖い。単純に怖い。
こんな大男た達がすごい勢いで言い争っているのを隣で眺めてるなんて無理だ。いつか僕にも理不尽な飛び火が飛んできそうで、心臓に悪い。
「の、ノアさん……。」
僕はばれないようにそそくさとノアさんの影に隠れる。
おやおや、とノアさんは僕をかくまうように頭を撫でてくれた。
「ウィル、紹介する。我が国の陸海空軍の最高責任者達だ。」
「さっ最高責任者?!」
そんな凄い人達がこの部屋に集まっているのか……?!
「お、俺が……さっ最高責任者?!」
「気持ちわりぃ何今更驚いていやがる。3年前から最高責任者だろうが。つーかウィル様の真似してんじゃねえ汚らわしい。」
な、なんでいちいち喧嘩腰なんだ……?
「本当にお前達は騒がしいな。」
ルイスも困り果てたような顔をしている。あのルイスを困らせるなんて……。一体どんな人達なんだ?

・・・

「アルヴァマー帝国陸軍最高責任者、ゼリム・バリヤードだ!よろしくな、ウィル。」
友達みたいなノリだなあ。差し出された手は、銃をいつも握っているせいなのか、僕の手の形とはだいぶ違っていて、それでいて傷だらけだった。
ゼリムさんは高身長で、深みのある赤い色をした髪が特徴的な人だ。
そ、それにしても……。
「あ、さてはその視線の先……。俺の頭見てんな?」
ニヤリと悪魔のように笑った。僕はバレた、と思い、正直にすみません、と謝った。
「ぶは!!!いや、そんな謝らせようなんて思ってないって!!かわいいーー!!まじでかわいい。これは流石のルイス国王も側妻に見受けるわけだぜ。」
色々言いたいことはあるけど、それでもまだ僕はゼリムさんの頭に釘付けになっていた。
右側の頭には髪の毛や眉毛などの体毛が一切生えていない。それに、肌には赤みがかった跡がある。きっと、毛根が死滅するくらいの大火傷を負ったんだろう。
それでも、ゼリムさんの左側の頭にはちゃんと髪の毛が生えているから、顔付き的にいい感じにワイルドに見える。
ぶははははと豪快に笑いながらゼリムさんは、ノアさんにくっつく僕に手招きをした。
ノアさんも、『いっておいで』みたいな感じで僕の背中をポンポンと叩くから、仕方なく(怖すぎて近づけない)ゼリムさんの方に寄る。
「うわあ!!!」
肩が外れる!(実際に外れたことは1度もない)という勢いで僕の腕が引っ張られる。
「いやあ、ウィル近くで見れば見るほどほんとにかわいいわあ~。ちっちえし、細え!」
珍しいものを見るように僕をマジマジと見つめている。
……普通に恥ずかしい。
「ゼリム、その汚らしい手を離せ。それとウィル様を呼び捨てで呼ぶな。」
僕の二の腕をがっちりと掴むゼリムさんの手を振り払った……のは、もちろん僕なんかではなく、隣に立っていた人だ。
「いってえ。こんのクソゲルガー!」
ゲルガーさんは大丈夫ですか、と掴まれていた二の腕を摩った。
「だ、大丈夫です……えっと、あなたは……?」
「申し遅れました。アルヴァマー帝国空軍最高責任者、ゲルガー・レムと申します。以後お見知り置きを。」
ゲルガーさんはゼリムさんと比べて、大人しくて冷静だけど非常に毒舌だ。
アルヴァマー帝国国内では結構珍しい銀髪をしている人だった。それに、透き通るような空色の瞳。吸い込まれそうだ。
「……可愛いですね。」
「はい?」
いや、お前もかよ。とつい言葉にしてしまいそうだった。僕も当然男だから、かわいい、よりもかっこいいと言われた方が嬉しいんだけど……。
ゲルガーさんはハッとしたように「大変失礼致しました。」と顔を赤らめて悔しそうに言った。
それを煽るように横からゼリムさんが、「ほら、お前も思ってたんだろうが。この嘘つき野郎!」と言った。
挑発(?)にまんまと乗っかってしまったゲルガーさんはうるせえぞてめえ、と硬そうなブーツでゼリムさんを蹴った。
「ウィル様、このとなりのジジイも構ってやってください。」
「てめえゲルガー。だからお前と4つしか違わねえって言ってんだろうが。てめえらは25で俺は29だ。」
食って掛かるように言い返すと同時に、ジジイと呼ばれたこの人はゲルガーさんの頭をグーで殴った。ゴツッと鈍い音がして、ゲルガーさんは痛てっと殴られた方の頭を撫でた。
それを見て爆笑するゼリムさん……なんだこれ。
「俺はゼルダ・サイライトです。ウィル・フリード様、お会いできて光栄です。」
「い、いえ……僕はそんな……。」
ゼルダさんは、ゼリムさんの様なワインレッドっぽい色の髪をしていて、もみ上げや後頭部を刈り上げているようだった。
「……ん?これって……。」
ゼリムさんの左耳に、平べったい鉄の様なものがぶら下がっている。……ピアスか何かか……?
「これは、認識票ですね。」
そこには、筆記体で『Zelda』と書かれている。
「ぶはははは!!ウィル、それドッグタグとも言うんだぜ!人間が迷子にならねえようにネームタグ耳にくっつけてるとかまじで笑えるんだけど。ぶはははははは!!!」
真顔を極めていたゲルガーさんもつられてぷっと笑う。
「うるせえよガキ共、喋りすぎだ。海軍ではこれ身につけるルールになってんだよ。」
また3人でぎゃーぎゃーと言い合いをしている。
「……ウィル。この3人が揃うとやかましいだろ。」
このやり取りを黙って聞いていたルイスは口元を手で抑え、楽しそうに鼻で笑った。
ノアさんは、ふふ、と声に出して笑っていたる。
「流石はルイス国王が選んだ側妻です。本当にお美しい方です。」
ゲルガーさんがそう言うと、ルイスは自慢げに「だろ?厨房棟から見つけてきたんだ。」と言った。
それに3人は、笑いながら「やっぱり国王はおもしれえ」なんて言っていた。(特にゼリムさん)
「ウィル様だけこんなにそばに置いておいて、ほかの側妻達は大丈夫なんですか?」
たしかに。
たしかに!!!!!
「そうだ、そうですよ……!ノアさん、ルイスの側妻は45人いるはずなんですよね?!」
僕が側妻になってから、1ヶ月以上経っているのに超今更気がついた。
ルイスはほぼ毎日僕と一緒だ。僕が側妻になって以来、そかの側妻と絡んでいるところを見たことがない。……いや、僕の目が節穴なだけか?
「ウィル様、落ち着いてください。」
「そうか、ウィルには言っていなかったな。あの側妻達のことを。」

・・・

「は、はあ……。」
つい、アホみたいな声を漏らしてしまった。
僕はノアさんから聞いた話を一旦整理する。
「えっと、今この城に居る側妻さん達はみんな自分の意思で来た、ということですか……?」
「ええ。そうです、ウィル様。」
客用のソファーに座った3人の各軍最高責任者達は、ノアさんに出されたレモンティーを飲みながら、なんだ、ウィル様知らなかったのか。……なんて言っている。
「本当に気の毒なものだ。私が国王に即位した途端、各国から沢山の王女やらプリンセスが来て大変だった……。私は子孫など残すつもりは無いし、誰も正妻にするつもりは無いのにな。」
心底だるそうに、ルイスはそう言う。全部自分の事なのにどこか他人事のような雰囲気を感じた。
そうだったのか……。
ルイスが言ったその言葉からは、寂しさと悲しさ、それと自傷しているようにも聞こえた。ちょっとサイコパスな感じがした。
ルイスは一人っ子(?)で兄弟は1人もいない。ルイスの母も父も、もう死んで居ない。
唯一の王族の血を継ぐ者で天涯孤独の身なのに、どうして子孫を残さないんだろう?
「はあ~俺も言ってみてえ。『沢山プリンセスが来て大変だった』だってよ。ゼルダも憧れてんだろ?」
「いや、なんでもそうやって俺になすりつけてくんの辞めろよ。」
めちゃくちゃにダル絡みをするゼリムさん。
死ぬほど嫌そうな顔をするゼルダさん。
それすらを一切無視してレモンティーを楽しむゲルガーさん。個性豊か極まりない。
「ウィル、私は来週陸軍と共に遠征に行ってくる。」
何かを書き留めていた手を止めて、僕の顔を見てルイスはそう言った。
「遠征、ですか。」
ルイスが僕の隣に居ないのか、そう考えるだけで少し心細さをかんじた。
「大丈夫です。今回の遠征は5日程で戻る予定ですから。」
ノアさんが微笑みながらそう言った。
「そうなんですか……分かりました。」
自分がこんなにもルイスが愛おしく感じるなんて、ありえないと思ったけど、実際僕はだいぶ気持ちがシュンとした。
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