虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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南国編 三章:マシラの秘術

女達の戦い

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マシラ共和国、王宮内の一角。
そこは闘士達が寝食を迎える為の建物であり、
首都内に滞在する闘士達が集まる場所でもある。

その建物内の通路を歩くのは、
王宮内に似つかわしくない軽装の服と皮防具を纏い、
左腰に長剣を、右腰に小剣を携えた女性。
赤髪のケイルが王宮内を一人で歩き、
何処かに向かって歩み続けていた。

その行く手を阻むように現れたのは、
黄色い服を纏いつつも、
その下に包帯を幾らか巻いた姿を見せた、
闘士部隊の序列二位、闘士次長のエアハルトだった。

しかしケイルはエアハルトを一瞥しただけで、
それを無視するように横を通り過ぎようとした。

そして通過する前後に鼻を動かし、
匂いを嗅いだエアハルトは呟いた。


「それが、お前の素顔だったのか。ケイティル」

「……久し振りですね。エアハルト」


ケイルの本名で語り話すエアハルトに、
すれ違い背中を見せる中で立ち止まったケイルは、
背中合わせに会話は続けられた。


「この五年間、姿を見せずに何をしていた」

「貴方には関係ないことです」

「ゴズヴァールや俺にも連絡を寄越さずに、関係ないで済ませるのか」

「私は貴方達と違い、ゴズヴァールと親しくもなければ、彼を尊敬し忠誠を誓っているわけでもない。私は私の目的の為に、闘士の四席に身を置いただけのこと」

「……そうだな。貴様は元々、マシラ王国側の人間だ。俺達とは違う」


棘を残す言い方をしながら、
互いに背中合わせで停止していた中で、
再び通路を歩み始めたケイルに対して、
エアハルトが振り向いてケイルに告げた。


「貴様の部屋はそのままだ。そんな格好でうろつくな。俺以外は貴様だと分からない」

「そうですか。ご親切にどうもありがとう」


短い受け答えで会話を済ませた二人が、
互いに別々の方向へ進み歩んだ。

そしてとある部屋に辿り着いた時、
懐に忍ばせていた鍵を手に取ると、
その部屋の扉に施錠された鍵を差し込み、扉を開けた。

その扉の先にある室内は空気が留まり、
埃がやや滞留していながらも、
ケイルはそれさえ気にせず部屋の中を歩み、
部屋の中に備わっていたクローゼットを開けた。

そこの中にあった黄色い服を取り、
そして置かれていた赤い仮面を手に取った。

黄色い服と仮面の埃を払いながら、
部屋の中で黄色い服を纏ったケイルが、
仮面を顔に身に付けた。

赤い仮面を被り、黄色い服を纏った双剣の闘士。
闘士の序列、第四席ケイティルが、
五年振りにその姿を見せたのだった。

その姿のまま部屋を出たケイルが目指したのは、
少し離れた先にある、同じ扉をした部屋。
そこの扉の前に立ったケイルが、
扉を軽く叩いてノックをした。


「はーい。勝手に入っていいよー」


それに反応し、中から声が発せられた。
ケイルはその声に応じるように扉を開け、
部屋の中で窓際に座り、
本を見みている人物を確認した。

その人物は、アリアを襲い助けた少年闘士マギルスだった。


「第三席、マギルスですね」

「んっ、そうだよ。……赤い仮面だ。もしかして、噂の四番目の人?」

「私は第四席、ケイティルです。会うのは初めてですね」

「そうだね。四番目の人は五年くらい前にいなくなったんだっけ。僕は三年前に入ったから、初めましてだね」


ケイルの挨拶に思い出すように応じるマギルスは、
窓際から離れて椅子に腰掛けた。


「皆が噂してたんだ。四番目の人が戻って来たって。僕も会ってみたかったんだ」

「そうですか」

「本当に赤い仮面を付けてるんだね。どうして顔を隠してるの?」

「事情があるのです」

「へぇ、そっか。それで、挨拶だけしにワザワザ来たわけじゃないよね。謹慎中の僕に、何か用なの?」


マギルスはそう疑問を呈して会話を進めた。
ケイルはそれに応じるように、話を進めた。


「ある人から、貴方を紹介されました」

「ふーん、誰から?」

「アリアという名前に、心当たりは?」

「へぇ、お姉さんから。お姉さんどう、元気にしてる?」

「ええ」

「そっかぁ、アリアお姉さんって面白いよね。あんなに見てて飽きない人って、初めて会ったんだ」

「そのアリアから、貴方なら協力してもらえるかもしれないと、頼みを預かってきました」

「何かするの?」

「はい」


マギルスはケイルの話を聞いた。

それを聞いたマギルスは驚きつつも、
笑みを零しながら頭を頷かせた。


「分かったよ、僕も協力してあげる。でも僕、今は謹慎中なんだ。アリアお姉さんを逃がしちゃったのとか、兵士達を殴っちゃったのがバレちゃって」

「その点はご心配なく。近い内に謹慎を解くよう命じられるはずです」

「そうなんだ。四番目の人ってそんな事も出来ちゃうの?」

「ええ。それでは、後日迎えに来ますので」

「うん。待ってるねー!」


無邪気な笑顔で見送るマギルスは、
そのまま部屋を出たケイルが話した事を思い出し、
含み笑いをしつつ立ち上がって気伸びをした。


「やっぱり、アリアお姉さんって面白いなー!」


そう喋るマギルスは部屋の中にある人形を弄りつつ、
無邪気な子供遊びを始めた。

一方その頃。

拘束術式の敷かれた部屋に幽閉されたアリアが、
魔法の師匠であるガンダルフを呼んでいた。


「何用か?」

「師父ガンダルフ。貴方と交渉をしたいのです」

「交渉じゃと。何の為に?」

「師父ガンダルフが抱える難題を、私が解決させて頂く為に」

「……はて。何の事じゃ?」


とぼけるような仕草を見せるガンダルフに、
アリアは整然とした言葉を並べて話し始めた。


「師父ガンダルフ。貴方の気性を考えるに、長く一国に留まることは避けるはず。元々は魔法の研究にしか興味が無い貴方が、どうして私を拘束したまま、これほど長くこの国に留まっているんでしょうか」

「……ふむ。儂の性格から事態を察したか」

「ええ。とすれば、貴方がこの国に留まっている理由は、四大国家の意向があるはず。そうですね」

「……」

「『青』の【七代聖人セブンスワン】たる師父ガンダルフがこの国に赴いた理由。それこそがまさに、この国に今現在起こっている、難題の為ではないでしょうか」

「……」


そう突きつけるように話すアリアに、
ガンダルフは何も答えずに溜息を吐き出した。


「それで、アルトリアよ。お前はその難題を解けると申すか?」

「ええ。貴方が私を拘束している理由が、まさに私を必要とする難題であると察するからです」

「どうしてかね」

「元々、マシラ共和国の罪人として私は拘束されるべきところを、師父ガンダルフ直々に拘束されているからです」

「普通の監獄など、御主はすぐ逃げ出すじゃろ」

「はい。だから初めは、師匠が私を拘束する事に疑問はありませんでした。しかし、マシラ共和国にとっての罪人である私を、ワザワザ師匠直々に拘束する理由が無い。例え七代聖人であり、幼い頃の私と所縁のある貴方でも」

「……」

「だからこそ、私はこう思いました。師匠は私を必要とする事態の為に、私を自分の監視下で拘束しているのだと。違いますか?」

「……なるほど。多少の突拍子さはあるが、理性的な思考ではある。確かに儂は、マシラという国の為にお前さんを拘束する義理も義務も無い」


ガンダルフは僅かに口元を吊り上げ、
ゆっくりとアリアに歩みながら話を続けた。


「それで、儂との交渉とは?」

「私はこの旅で、とある遺跡に立ち寄りました。その遺跡は恐らく、帝国は勿論、どの国の魔法機関で研究が成し得ていない場所です」

「!」

「私はその遺跡内に書き記された秘跡を読み、そこに記された魔法も読み解きました」

「……その遺跡とは?」

「その遺跡には外部の介入を良しとしない現地人が居た為、御教えする事は憚られます」

「……」

「私が提示できる交渉材料は、その遺跡内に記された秘跡の内容と新たな魔法式。それで師匠と取引をしたいと思っています」


センチネル部族が棲む樹海の遺跡。
そこに記された内容を交渉材料としたアリアは、
師匠であるガンダルフに交渉を持ち掛けた。

ガンダルフはそれを聞き終え、
沈黙を残しつつ鼻で大きな溜息を吐き出した。
しかし数秒の思考後、自身の髭を触りながら話し始めた。


「ならば、儂も御主に提示せねばなるまい。その交渉材料に見合った対価をな」

「……その対価とは?」

「今回の事件の根幹にある、とある血族の秘術のこと。そしてそれに纏わる、この国の成り立ちじゃよ」

「!」

「御主を拘束しておったのも、御主自身に罪科を払わせる為よ。アルトリア、今の御主の力量で成し得るかは、分からぬがな」

「成し得てみせます。何せ私の師匠は、人間大陸屈指の大魔導師ですから」

「ふっ」


そう話すガンダルフとアリアは、
互いに渡す対価の内容に了承した。
そしてエリクを救う為の方法をアリアは聞き、
同時にガンダルフが抱える難題の内容を擦り合わせる。

それを改めて聞いたアリアは、
やや不機嫌な面持ちを見せながら呟いた。


「……そういう理由でしたか」

「うむ。どうやらこの国の元老院とやらも、意見と意思の分裂が激しいようじゃ。四大国家の意向と言えど、儂に介入されたくない者達が多いらしい」

「聞いていて、情けない話ですね。これがマシラ共和国の実態ですか」

「うむ。儂もいい加減、早く帰って研究に戻りたいんじゃよ。じゃが依頼された以上、果たさぬまま帰れば、彼奴等が煩いからのぉ」

「師匠は、マシラ王と既に謁見を?」

「いいや。一部の元老院の反対もあって、謁見は見送られ続けておる。その病とやらの症状すら確認できぬ」

「……既にマシラ王が死んでいるという可能性は?」

「あるかもしれぬ。そうなれば、エリクという男を公的に救い出す事は、不可能になるだろうて」

「……」


それを聞いたアリアは少し沈黙しながらも、
数秒後に青い瞳を開いて決意をした。


「……まだマシラ王は生きている。その前提で行動します」

「そうか。しかし儂は手を貸せぬ。御主が勝手に行う事が条件じゃ。拘束も手を緩めぬ。儂の責任問題にされても面倒じゃからの。勝手にやれい」

「はい、分かりました」


そう告げたガンダルフにアリアは意に介さず頷き、
それを見たガンダルフが口元を吊り上げながら不敵に笑い、
そのまま部屋を出て行った。

勿論、部屋の拘束術式は再び展開された。

その中でもアリアは思考を巡らせて考え続ける。
様々な状況になっても対処できるように。
あらゆる可能性を考え尽くすように思考し続けた。

こうしてエリクを救う為に、女達の戦いは始まった。



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