虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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結社編 一章:ルクソード皇国

次の大陸へ

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 その日の夜。
 目を覚ましたアリアと情報収集を終えたケイルが、エリクを部屋に呼んだ。
 必然としてマギルスも付いてきたが、アリアは溜息を吐き出し入室を許可する。

 そしてケイルが得た情報を、三人は聞いた。

「西へ向かう船は、明日の昼頃に出発する。乗船の申請しといたぜ。一応、マギルスも含めてな」

「やったー! ありがと、ケイルお姉さん!」

「……申請しなくてよかったのに」

 喜ぶマギルスと小声で愚痴るアリアを見ながら、ケイルは溜息を漏らして続きを話した。

「フォウル国に向かうまでには、最低でも二つの大陸を跨がなきゃならない。アタシ達が次に向かうのは四大国家の一つが統治している大陸だ。くれぐれも問題満載の御嬢様が厄介事を起こしたり、無茶する大男が暴走しないようにしろよ?」

「私、厄介事なんて起こしてないわよね? 向こうが巻き込んで来ただけよね?」

「うっせぇ。エリク、お前も暴走すんなよ。分かったな?」

「ああ、分かった」

 注意喚起に異なる反応を返す二人とは別に、ケイルはマギルスを見て注意をした。

「マギルスも付いて来るなら、トラブルは控えてくれよ。ただでさえ厄介なトラブルメーカーばっかりなんだからな」

「はーい。 お姉さん達が遊んでくれるならいいよ!」

「……アリア。一回くらい遊んでやれよ」

「えー、嫌よ」

「ひどい! 約束破るの!?」

「私がした約束じゃないもの! ケイル、貴方が約束したんだから貴方が遊んであげてよ!」

「……ダメだ、この御嬢様。精神年齢がガキと変わらねぇ」

 再び揉め始めたマギルスとアリアにケイルは呆れを見せると、黙って聞いていたエリクが口を開く。
 その内容に、ケイルとアリアは驚いた。

「俺が、その遊びをやろう」

「!」

「エリク!?」

「おじさんが遊んでくれるの? やったー!」


 喜ぶマギルスを尻目に、アリアはエリクに顔を近づけて呟いた。


「ちょっとエリク。コイツの遊ぶは、戦うって意味なのよ?」

「戦うくらいなら別にいい。樹海でパール達や、君とも何度か訓練をした」

「それは、そうだけど……」

「それに、あの子供も俺を助ける為に協力をしたなら、俺が相手をすればいいだけだ」

「……分かった。貴方がマギルスの相手をして。でも、重傷を負ったりするのはダメだからね?」

「分かった」

 アリアは承諾し、改めてマギルスを見る。
 マギルスは嬉しそうな表情を浮かべるが、アリアは言葉で釘を刺しておいた。

「マギルス、エリクと遊ぶのは次の大陸に行ってから。船の上で戦うなんて絶対にダメだからね」

「分かってるよぉ、そのくらい」

「あと、重傷とか負ったり負わせたりとかしないでよ。旅に支障が出るんだから」

「僕等だったら、怪我してもすぐ治るよ?」

「アンタはそうでも、エリクはまだ魔人の力を完璧に使いこなせないんだからね? 表面くらいだったら私が治せるけど、内臓まで届くダメージは私じゃ治せないのよ」

「そういえば、おじさんは誰にも力の使い方を教えてもらってないんだっけ? なら、僕が教えようか?」

「……え?」

「力の使い方だよ。次の大陸に行くまでにおじさんに教えるから、それならおじさんと思いっきり遊んで良いでしょ?」

「い、いや。でも……」

「ねぇ、いいでしょ?」

 マギルスの予想外の提案にアリアは驚き、二人はエリクに顔を向ける。
 表情で問われるエリクは数秒ほど考え、そして答えた。
 
「……フォウルという国で魔人の力を教わる前に習えるなら、その方がいい」

「じゃあ決まりだね! 僕がおじさんに力の使い方を教えるから、次の大陸に上がったら思いっきり遊ぼう!」

 教わる事を承諾したエリクと、子供らしく微笑むマギルスが顔を見合わせる。
 アリアは不服に思いながらも当人達の決めた事には深入りせず、ケイルは溜息を吐き出して事が穏便に済む事を願う。
 揉める話はこうして終わり、朝に宿を出て旅の入用な物を買い揃える事を決めると、全員が部屋に戻った。

 そして次の日。
 買出しを終えた一行は、次の大陸に渡る為の船に乗る。
 マギルスの馬は姿を消しているが、傍で同行をしているらしい。
 本来は馬を乗せるにも手続きが必要だったが、その点は便利だとアリアは呟いたりもした。

 そして今回、乗船した船は何事もなく無事に出発した。
 それに安堵を漏らすアリアは、周囲を用心深く見渡した。

「……今回、ログウェルは襲って来なかったわね」

「流石に来ないだろ。こんなとこまで」

「分からないわよ? ログウェルじゃなくても、誰かが襲って来るかもしれないし」

「まぁ、隠れながらこの港まで来たおかげで、傭兵ギルドも共和国の連中もこんな大陸端の港までは警戒を広げてなかったみたいだな。マギルスの馬が速すぎて、追っ手を出そうにも来れないんだろ」

「そうね。そういう意味では、あの馬には感謝しなきゃ。便利よねぇ、精神生命体の馬。私も欲しい」

「もう馬は飼わないって、言ってなかったか?」

「精神生命体は不死の存在と言われてて、殺すのは不可能だと言われてる。特殊な武器や兵装、特殊な魔術や魔法を使えば仮初の肉体を崩壊させる事は出来るけど、本当の意味で殺す事はできない。そういう存在を使役できれば、便利性は飛躍的に高くなるでしょ?」

「……見えない奴を使役ねぇ。例え便利でも、不気味さの方が大きくなりそうだけどな」

「そうね。実際、そう思われたから契約者は増えずに途絶えたんでしょうね」

「途絶えた?」

「古代の精神生命体は、人間や魔族だけじゃなく魔獣とも契約して日常的に交流していた種族だと伝えられているの。でも人間や魔族達が醜く争い、それに巻き込まれた魔獣達が多種族に対して敵意を向けて荒んだことが原因で、精神生命体は誰とも契約しようとせず、秘境で静かに暮らし始めたと云われてる」

「へぇ」

「物語や童話で知られてる妖精も精神生命体で、確認されたのは五百年以上前らしいわ。悪魔は魔大陸で魔神王の下に集まってるらしいし」

「魔神王? なんだ、それ」

「悪魔達の親玉よ。でも五百年前の逸話では、その魔神王が悪魔達を使役して天変地異から人間達を守ったらしいのよね。眉唾だけど」

「悪魔が人間を守る? なんだそりゃ。悪魔ってやばい奴等じゃねぇのか?」

「その通り、悪魔は危険よ。力が強大な者ほど高い爵位を持つ。そして一国を片手で滅ぼせる悪魔が魔神王の下に数体以上も仕えてるのよ。ほんと、魔大陸は異常な環境も危険だけど、そこに平然と棲んでる魔族達が一番危険なのよね。特に、魔大陸で名を馳せる王者達はね」

「王者……?」

「過去の逸話で有名だったのは、始祖の魔王ジュリア。ジュリアと同じハイエルフの女王ヴェルズェリア。その配下の悪魔公爵バフォメット。最強の戦士ドワルゴン。魔大陸の南を統べてた鬼神フォウル。彼等は特に危険で、人間と魔族が起こした第一次人魔大戦では、たった一名で数十万人以上の人間を殺したらしいわ。王級魔獣が可愛く思えるくらいの脅威よ」

「過去って事は、もうそいつ等は死んでるんだよな?」

「ええ、ほとんどは五百年前の天変地異の影響で死んだと伝えられてる。でも新たな王者達が君臨してる。新たなハイエルフの王ジークヴェルト。双子の巨人王キュプロス・ガルデ。鬼神の孫フォウス。そして魔神王ジャッカス。他にも名無しの強者達が覇を競い合いながら頂点を極めようと、魔大陸を根城に支配勢力を拡大してる。人間大陸こっちの人間達が起こすイザコザなんて、魔大陸あっちに比べたら些細なものよ」

「普通の人間から言わせて貰えば、そんな連中と関わり合いになりたくないけどな」

「同感ね」

「お前は人外側だろ?」

「違うわよ!」

 そんな会話を行うアリアとケイルを他所に、船は大海原を進み続ける。
 渡航中はそれぞれが各自で行動し、着くまでの暇を潰した。
 アリアは船酔いに苦しみ、ケイルは潮風を受けて地平線を見ながら赤い髪を靡かせる。

 そしてエリクは三度目となる大海原の旅路を、船室でマギルスと向き合いながら修行に費やした。

「それじゃあ、まずは魔力の使い方だね」

「ああ」

「こう、ギューって腕を握って、もっと硬くなれーって思うでしょ?」

「……あ、ああ」

「そうすると、魔力が腕に集まったから、叩きたい相手に撃つの!」

「……あ、ああ?」

「それからねぇ。足に力を溜めて、もっと高く跳びたいなぁって思ったら――……」

「……?」

 マギルスの抽象的な教え方にエリクは困惑する。
 この船旅で思わぬ苦労を強いられたのは、予想外にもエリクだった。
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