虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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螺旋編 四章:螺旋の邂逅

子供の買い物

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 初めて傭兵としての報酬を貰った幼いエリクは、翌日にワーグナーと共に王都の貧民街の中を歩いている。
 隣を歩くワーグナーは上機嫌であり、手に収めている革袋の中には昨日の報酬が握られいた。

 その革袋の中から僅かに聞こえる硬貨と硬貨が擦れ当たる音を聞くと、ワーグナーは口元をニヤけさせている。

「――……へへっ」

「?」

「ん? いや、だって嬉しいだろ。初めて傭兵らしいことして稼いだ金だぜ?」

「そうか」

「お前、嬉しくないのか?」

「わからない」

「わかんないって……。まぁ、そうか。今日はその為に、おやっさんに頼まれたもんなぁ」

 そう呟くワーグナーは、少し前の事を思い出す。

 報酬を貰った後、上機嫌で部屋の床に硬貨を並べてニヤけていたワーグナーと、同じく隣で金貨を眺めて呆然としているエリク。
 そこに団長ガルドが訪れ、ワーグナーに命じた。

『――……おい、ワーグナー!』

『は、はい!?』

『お前、明日はエリクを連れて出掛けろ』

『え?』

『そいつ、金の使い方もろくに知らねぇし、金の計算も出来ねぇ。ワーグナー、お前は計算は出来たよな?』

『え、ええ。まぁ少しは』

『だったら、兄貴分としてそいつに金の使い方を教えろ。そのまま金貨を使わずにいたら、他の団員連中が盗んじまおうなんて考えないとも限らないからな』

『え、ええ!?』

『これは団長命令だ。エリク、お前も明日はワーグナーと一緒に、金貨を持って色々と買って来い』

『?』

 そう命じられたワーグナーとエリクは、翌日に否応なくガルドに詰め所から叩き出されてしまう。
 仕方無いと思いながらも、ワーグナーも初めて貰った報酬で何か買いたいとは考えていたので、そのままエリクを連れて王都の中に繰り出した。

 そんなワーグナーとエリクを連れて真っ先に訪れたのは、王都の中にある武具店。
 大きな看板に剣と盾の模様が刻まれた店を見て、ワーグナーは頷きながらエリクに話した。

「――……やっぱ、傭兵としては武具をちゃんと揃えたいよな!」

「?」

「いや、だって。基本的に傭兵団にあるのは、兄貴達が使ってボロボロな中古品とか、戦利品で掻っ攫った物だろ? おやっさんも活躍してた他の団員も、武具は自分で買った奴を使ってるんだ」

「……?」

「とにかく! 自分の武器と防具を持つってのは、傭兵としちゃ常識なんだよ。いつまでも借り物で戦うのは嫌だし、俺もお前も、自分の武器を買おうぜ!」

 そう言いながら、ワーグナーはエリクを連れて店の中に入る。

 店内のは棚や樽の中に収められた武具が幾つかあり、木の板に値札が刻まれていた。
 しかし思ったより飾られている武具は少なく、エリクは辺りを見回しながら呟いた。

「……すくない」

「当たり前だろ? こんな所に武器を多く飾ってたら、誰かが盗んじまうんだから」

「ぬすむ?」

「大抵の店はこんな風に、盗んでも問題の無いような品だけを飾って、店長が店の奥に閉まってる品を売るんだよ」

「……?」

「所謂、お得意さんだけに売るって方法やつだな。ほら、ここに飾られてる武具もの、安いだろ? 石銅で作ってたりで、鉄とかで作られてる奴がほとんど無いからな」

 そう言いながらワーグナーは指を向け、飾られている武器をエリクに見せる。

 そこには確かに鉄で作られた武器などは無く、基本的に素材として安く重い石銅などで作られた石剣や石槍などが飾られていた。
 それと同じように盾や防具も木製で作られた物が多く、高い皮革や鉄の防具などは飾られていない。

 一見すれば粗悪な武具屋に見えたが、ワーグナーはそれを見ながら口元をニヤけさせていた。

「おやっさんが、ここの店を紹介してくれたんだ。『俺の名前を出せば、ちゃんとした物は売ってくれるだろ』ってな」

「そうか」

 そんな話をしていると、店の奥から音が鳴る。
 それに気付いた二人はそちらを向くと、一人の厳つい老人が店奥のカウンターから姿を現した。

「――……なんだ、ガキじゃねぇか。冷やかしか? それとも盗みにでも入ったか?」

「え、あっ。ち、違いますよ! 俺等、傭兵っす!」

「傭兵だぁ? ……まだガキじゃねぇか」

「が、ガキでも傭兵っす! 俺等、ガルドのおやっさんの紹介でここに――……」

「ガルドだとぉ……!?」

「ヒィ!?」

 ガルドの名をワーグナーが口にした途端、老人の表情は訝し気なモノから一変して憤怒の表情に変わる。
 それに気圧されたワーグナーは怯えるように腰を引かせ、エリクの後ろへ隠れるように身を引いた。

 そんな二人を睨む老人は、怒りの表情を捨てるようにワザとらしい程に大きなため息を吐き出す。
 そして改めて二人を睨み見ると、刺々しい口調で言い放った。

「……で、何が欲しい?」

「え、えっ?」

「どんな武具が欲しいのかって、聞いてんだよ」

「あ、ああ。えっと、俺等に合う武器があればなぁって……」

「あぁ?」

「い、いえ! その……」

「……ちょっと待ってろ」

 そう言いながら老人は険しい表情のまま飾られた武具がある方へ歩み出し、そこから幾つかの品を睨みながらエリク達も見る。
 その険しい顔に腰を引かせるワーグナーと、首を傾げるエリクに対して、老人は更にワザとらしい溜息を吐き出しながら飾られた武具を幾つか抱え、そしてボロボロながらも頑丈なカウンターの机に置いた。

「――……これだ」

「えっ」

「これが、今のお前等にはお似合いだっつってんだろうが」

「えっ。いや、でも。コレ……」

「なんだ?」

「ほ、ほとんど木製の防具に、石銅の小剣じゃないっすか。こんなのより、鉄で出来たのとか――……」

「俺が作った武具に、文句があるってか?」

「い、いえ! そういうワケじゃ……」

「お前等みたいなガキがそんなモン買っても、身の丈に合うわけがないだろうが。年相応のモンを身に着けやがれ」

「そ、そんな……。確かに俺等はガキですけど……」

「……ったく。説明しねぇと分からないのか」

 そう言いながら厳つい老人は、エリクの方を睨む。
 そして視線が合うエリクに対して、老人は問い質した。

「……お前、歳は?」

「?」

「歳だ、歳。十五か十六か?」

「……」

「あっ、えっと。エリク、多分まだ十歳くらいだって、おやっさんが言ってました」

「十歳だぁ!? ……やけに身体ガタイが良いな」

「俺もそう思います」

「……これで十歳なら、まだ伸びてデカくなるだろう。違うか?」

「えっ? あ、そうっすね……。確かに」

「お前もお前で、まだガキだ。背も伸びるし、体格も大きくなるだろ。……そんなお前等が鉄の防具や重い武器を持ったら、どうなると思う?」

「え?」

「成長を邪魔すんだよ。重すぎるモンを持って筋肉が鍛えられ過ぎると、背が縮んだままになるんだ」

「えっ、そうなんっすか?」

「それに成長するって事は、武具がすぐに合わなくなるって事でもある。体がデカくなって合わずに、調整が効き難い鉄の鎧だのを着込んだら、いざ戦う時に邪魔にしかならないだろうが」

「え……」

「お前等はガキだ。もっと歳とってデカくなってから、まともな武器と防具を買え。それまでは、こういう使い捨てが効く武具でいいんだよ」

「そ、そういうことっすか……」

 老人が話す事に、ワーグナーは理解する。

 成長期にある自分ワーグナーやエリクが重たく大きさの調整がし難い鎧などを身に付ければ、成長した時にその防具が合わなくなるだろう。
 その都度、防具の調整を行ってしまえば金が掛かり、結果的に余計な出費をし兼ねない。

 更に重い防具や武器がそうした成長を阻害すれば、結果的に戦いを有利に運べない傭兵が出来上がる。
 そうして調整が効き難く成長の邪魔となる武具を購入するくらいなら、今はこうして用意された使い捨てが効く武具の方が良い。

 老人がそこまで察して自分達に武具を選んでくれた事に気付いたワーグナーは、選んでもらった武具を見て考えた。

「……分かりました。これ、お願いします!」

「おう。着ていくか?」

「え、いいんっすか?」

「別に全裸になるわけじゃなし。ここで着ていくなら、ある程度は合わせてやる」

「ほ、本当っすか? ありがとうございます! ほら、エリクも礼だよ!」

「……ありがとう?」

「ふんっ」

 二人に頭を下げれ感謝された老人は、厳つい表情を崩さずに鼻で溜息を吐き出す。
 そして二人の為に武具を取り付ける縄や皮のベルトを調整し、更に黒地に染められたマントも渡した。

 そのマントを手渡されたワーグナーは、驚きながら老人を見る。

「えっ。これって……」

「ガルドの紹介だろ。なら、それが黒獣ビスティア傭兵団のマントだ」

「!?」

「なんだ、何も聞いてないのか? 俺に紹介するって事は、お前等が正式に黒獣傭兵団で一端の傭兵として認められたってことだぞ」

「そ、そうなんっすか!?」
 
「ああ。ガルドの紹介って事は、それを渡せって事でもある」

「し、知らなかった。でも、確かに他の兄貴達も羽織ってたマントだ」

「それが黒獣傭兵団の、傭兵としての証だ」

「……へへっ、やったな! エリク!」

 そう言いながら喜ぶワーグナーと、マントの着方が分からず布をグルグルと回すエリクを、老人は静かに見ていた。
 そして二人が礼を述べながら金銭を払って店から出ると、老人は小さく呟く。

「……ガキを傭兵に、か。……ガルド、何を考えてやがんだか……」

 そう言いながら、老人は再び店の奥へ戻る。
 こうして若いワーグナーと幼いエリクは、改めて黒獣傭兵団の傭兵として認められた事を知った。
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