虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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螺旋編 四章:螺旋の邂逅

善行の広まり

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 教会に寄付したエリクは初老の修道女シスターと子供達に泣かれ、困惑しながらも帰ろうとしたところを引き留められてしまう。
 教会内の応接室らしき部屋に通され、その部屋の椅子に座らされて待つようシスターに懇願されてしまうエリクは、仕方なく待つ事となった。

 シスターが応接室を出ると、少女達がシスターに付いて行く。
 その間、少年達に囲むように見られるエリクは、表情とは裏腹に馴染みの無い状態に秘かに困惑していた。

 そうして十分程の時間を待たされ、シスターが女の子達を伴い戻って来る。
 その手には紅茶などを入れる陶器のポットが持たれており、子供達は何も入っていない陶器のカップと、茶紙に包まれた麦菓子を持ってきた。

「お待たせして、申し訳ありません」

「いや……」

 シスターが微笑みながらそう話し、エリクの正面にある椅子へ座り、机の上に陶器のポットを置く。
 そして女の子達は慎重にエリクの前に陶器のカップを置き、シスターはその器にポットの中身を注いだ。

 注いだ液体は僅かに湯気を立たせ、エリクの鼻に仄かな香りを漂わせる。
 そして茶紙に包まれた麦菓子も傍に置かれ、エリクは持て成されている事を理解した。

 そしてエリクがシスターの顔を見ると、微笑みながらも申し訳無さそうな表情で謝られてしまう。

「貧相な物しか御用意できませんが……」

「いや。そういうのは、気にしなくていい」

「ですが、あれほどの大金を寄付して頂いた方を、無下に帰せません」

「……そ、そうか?」

「はい。貴方のおかげで、借金の返済を行えました。本当に、ありがとうございます」

「ありがとうございます!」

 そう礼を述べるシスターが頭を下げると、子供達も礼を言いながら謝意を伝える。
 その慣れない光景にエリクは困惑して頭を掻きながらどうしたものかと悩んでいると、顔を上げたシスターに改めて尋ねられた。
 
「……それで、あの。本当にあれ程の大金を、この教会に……?」

「ああ」

「しかし、どうして……?」

「ガルドという男を、知っているか?」

「!!」

 ガルドという名を聞いた瞬間、初老の女性は目を見開く。
 そして思わず腰を上げ、初老に似合わず声を張り上げて聞いた。

「ガルド様の、お知り合いですか!?」

「あ、ああ」

「そうですか! ……そうでしたか。やはり神は、私達をお見捨てにはなっていませんでした……」

「……?」

 椅子に座り直したシスターは、手を合わせ祈るように目を閉じる。
 突拍子も無い様子にエリクは困惑し、今度はエリクから聞いた。 

「ガルドを、知っているのか?」

「はい。ガルド様はよく、この教会に来て頂いていたのです」

「そうか」

「ガルド様は月に一度ほど参拝にいらっしゃり、幾らかの御布施を頂いておりました。それに、子供達でも出来る簡単な仕事を紹介して頂き、金銭の得方や商売の方法、それに子供達に身体の動かす習い事を教えてくれていました」

「ガルドが……?」

「はい。この孤児院を出た子供達の中には、ガルド様が紹介してくれた仕事などに就いて暮らせるようになった子供達も多いのです。本当に、ガルド様には大変お世話になっておりました」

「……そうか」

 エリクはシスターの話に半分も理解できず聞き流していたが、大まかな事は理解する。

 ガルドはどうやら、定期的にこの教会に通っていたらしい。
 その度に御布施を渡し、更に孤児の子供達と戯れに近い身体の動かし方を教え、更にそれなりの年齢の子供達には仕事も紹介していたそうだ。
 それが教会と孤児院の運営を助け、慎ましい生活ながらもシスターと子供達がこの王都で暮らせるだけの生活を送れていたという。

 しかし、ガルドが死んでから状況が変わった。

「しかし十年程前にガルド様が参拝に訪れなくなり、お仕事が忙しいのだと始めは思っておりました。しかし何ヵ月もお尋ねにならず、ガルド様が死んでしまったという話を耳にしました」

「……」

「ガルド様の死は、私達にとってとても悲しい知らせでした。子供達の中には、ガルド様を慕っていた子達も多かったので……」

「……そうか」

「それから私や子供達は、ガルド様に教えて頂いた事を続け、子供達は子供でも出来る仕事を、私も内職をして、何とかその日を暮らせるようにしていたのです」

「……」

「しかし昨年に、病気をした子の為にも高額の薬が必要となり、先程の男達に金銭を借りました。それで薬が買えて子供は救われましたが、代わりに莫大な利息が借金に加わってしまい……」

「……そ、そうか」

「そして教会の土地をかたとして引き渡すしかないと、そう思っていたところで、貴方様が尋ねて救って頂けました。……本当に、ありがとうございます」

「そうか」

 改めてそう謝意を述べて頭を下げるシスターに、エリクは頭を掻きながら曖昧に声を返す。
 そして顔を上げて微笑むシスターは、エリクに尋ねた。

「貴方様も、ガルド様のお知り合いですか?」

「ああ」

「そうですか。どのようなお知り合いか、聞いても?」

「同じ仕事をしていた」

「そうなのですか。けれど、どうして教会に寄付を……?」

「ガルドが生きている時に、ここに『おふせ』というものをしていると聞いた。だから、代わりにしようと思った」

「え……?」

「ガルドがしていた事は、俺達がする。そう決めていた」

 そう話すエリクは陶器のカップを摘み、中に注がれていた御茶を飲む。
 相変わらず舌が効かないエリクは飲み尽くすと、麦菓子を一つ摘まむ。
 それと同時に、子供達が麦菓子をじっと見ながら物欲しそうにしているのを察した。

「……お前達で食べろ」

「え?」

「食べろ」

「い、いいの?」

「ああ」

「やったぁ!」

 エリクは茶紙の包みごと麦菓子を子供に渡し、子供達はそれを喜びながら摘み取る。
 そしてそれを美味しそうに食べる子供達を見て僅かに口元を微笑ませ、席を立った。

「俺は、そろそろ行く」

「お、お待ちください。お名前を聞いても……?」

「俺は、エリクだ」

「エリク様……」

「時々、裏の墓地にも来る。そのついでに、また来る」

「は、はい! ありがとうございます……」

 そう言いながらエリクは教会を出て行き、シスターや子供達はそれを頭を下げて見送る。
 そして去り行くエリクに、シスターは祈りを込めて手を重ね合わせた。

「……神よ。この巡り合わせに、そして繋がりに、感謝いたします……」

 そう涙を流し祈るシスターを見て、子供達も真似るように祈る。

 それから教会は、エリクから渡されたお布施を使い、慎ましくも子供達のお腹や衛生面を気遣えるだけの余裕を持つ暮らしを行えるようになった。
 更に得られた金銭を少しずつ使い、以前まで行えていた他の孤児や貧民である者達に炊き出しを行えるようになる。

 シスターをそれを行う都度、人々にこう話す。
 エリクという心優しき者が、自分達とこの教会を救ってくれた事を。

 それは貧民街の中で口々に伝わり広まり、エリクの名が王都の貧民街に広まった。
 そしてエリクという人物が黒獣傭兵団の団長であり、また帝国軍の侵攻で大活躍をしたという話も伝わる。

 エリクの善行と活躍は、こうした形で王都の中で、そして王国の中で拡がり続けた。
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