虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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螺旋編 四章:螺旋の邂逅

地下の出口

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 地上に暴徒達に対して、シスターが時間稼ぎを行っている頃。
 地下へ通じる階段を下りる黒獣傭兵団は、暗闇の中を照明器具カンテラに灯る魔石の僅かな光を頼りに進んでいた。
 階段の幅は二人分が通れる程には広く、また下りる距離も既に二十メートル近くに達している。

 そうした中で殿しんがりとして後ろを歩くエリクとワーグナーに、団員達が不安の表情を見せながら声を掛けた。

「――……いいんですかね?」

「ん?」

「シスター達だけ残して、俺達だけ降りちゃって……」

「連中、俺達を探す為に手荒い事もやるんじゃ……」

 残してきたシスター達の安否を心配する団員達は、二人にそう尋ねる。
 それを聞いたワーグナーは口元を微笑ませ、鼻で溜息を吐きながら呟いた。

「まぁ、大丈夫だろ。あのシスターなら」

「え?」

「で、でも……」

「あのシスター。見た目はあんなだが、俺より強いぞ?」

「へ?」

「いやいやいや、副団長より強いってありえないでしょ!?」

「見る目があれば、すぐに分かるさ。それにあの孤児院の子供達な、シスターに習い事染みた訓練をさせられてるんだが。その訓練方法が、俺やエリクがおやっさんにやらされてたやり方に似てるんだわ」

「え……?」

「子供だから優しい教え方だが、アレを見て色々と合点がいった。おやっさんが俺達に仕込んだ訓練のやり方は、あのシスターの訓練方法を参考にしてたんだ」

「え、えぇ……?」

「それ、マジっすか?」

「ああ。おやっさんが教会あそこに出入りしてたのも、シスターの世話になってたってことさ」

 そう述べるワーグナーに、聞いていた団員達が疑惑的な表情を見せる。
 老齢で普段から優しく微笑み気の優しいシスターが、ワーグナー以上の実力者であるという話がどうにも信じられない様子だった。
 
 そんな様子を見せている団員達に、ワーグナーは喝を入れるように声を掛けた。

「……それより今は、俺達の事だけを考えろ」

「!」

「ここが外に繋がってないようだったら、外に逃げる手立てを考え直さなきゃならん。下手すりゃ、ほとぼりが冷めるまでここで隠れながら暮らす事も視野に入れた方がいい」

「……」

「シスターが言ってた通路と交差路以外には、地下の環境がどうなってるのか分からん。注意を払って進むぞ」

「了解」

 ワーグナーの言葉で全員が気を引き締めなおし、慎重に階段を降りていく。
 それから数分間、慎重に階段を下りて三十メートル程の距離を潜ると、広い平面の空間に一行は辿り着いた。

 照明器具カンテラを持つ数人が周囲に光を照らし、地下の状況を確認する。
 埃っぽい様子ながら周囲は石畳の通路となっており、周囲もしっかりとした石壁があった。

 そして壁の端々には団員達が見た事の無い文字で刻まれた跡があり、それを見てワーグナーが呟く言葉をエリクは聞く。

「……地下の通路ってより、まるで遺跡みたいだな」

「いせき?」

「古代の文明がどうとかで、よくあちこちに埋まってる奴だ。金目の物もたまに掘り返されるってんで、遺跡がある領地では発掘とかやってるらしい」

「……そ、そうか」

「分かってねぇな? ……となると、王都はこの遺跡の真上に立てたのか。なるほど、大昔の教会はそれを利用して通路を作ったってわけだな」

「出口は、あると思うか?」

「俺がこういうのを作るよう命じる側だったら、出口は必ず作る。ある可能性は高い」

「そうか」

「――……こっちに、道がありますぜ!」

「そうか。……よし、行くぞ」

 ワーグナーは周囲の様子を見て、王都から出る為の出入口がある事を期待する。
 そして先に歩いていたマチスが奥で横道を見つけ、一行はその道を進んだ。

 三名程が横並びで歩いても問題の無い程度に整えられた道を、傭兵団は隊列を組みながら歩く。
 そして周囲を照らしながら慎重に進み、前後を警戒しながら進んだ。

 地下通路を歩き、二十分前後が経過する。
 何も無い一本道ではあったが、各所に後付けで備えられた照明器具などがある場所を見つけ、人の手が加わる場所に近付けている事を一行は期待していた。
 そして道の先がついに開け、再び広い空間となっている事に先頭を歩くマチスが気付くと、先を照らしながら後方に伝える。

「――……ありましたぜ!」

「!」

「地下通路の交差路……。ここか!」

 全員が広がる空間に足を運び、周囲を照らしながら確認する。
 その空間には幾つもの横道が存在し、王都の位置と照らし合わせて各所へ繋がる通路である事が一行には分かった。

 そして耳を澄ましていたエリクがある音に気付き、横道を指差しながらワーグナーに知らせる。

「……ワーグナー」

「ん?」

「こっちから、水の音がする」

「……本当だ、確かにする。……こっちに一人、明かりをくれ! もしかして……」

 ワーグナーは水が流れる音を聞き、照明器具カンテラを持つ団員を読んで水流が聞こえる横道を一緒に調べる。
 すると少し進んだ先に古く分厚い木製の扉があり、ワーグナーは扉に掛けられている錠前を呼んだ団員に外させ、全員を呼んで扉を開けた。

「――……やっぱり、ここは水路か!」

「!」

 ワーグナーが見つけたのは、水流が見える石畳の水路。
 これは王都内に築かれている水路の一つであり、これによって王都の各所では水を用いる施設などが築かれている。

 ワーグナーは扉を開けた後、水路に歩み出てる。
 それと同時に水流の他に気配を感じると、地下にいる鼠らしき動きをする動物の姿を見かけた。
 他の団員達も水路を見ながら石畳を歩み、周囲を照明器具で照らす。 

 すると団員の一人が、見つけた物を知らせた。

「――……ここに、上に登れる階段があります!」

「!」

「あっ、天井に扉も!」

 見つけて伝えた団員は、階段を上がり扉の前に移動する。
 そして天井にある扉に手を伸ばそうとした時、その先から聞こえる音で思わず手を引いた。

「!!」

「どうした?」

「……副団長。少し遠いですけど、足音が聞こえたような……」

「!?」

 団員がそう述べると、エリクとワーグナーは共に階段を上がり天井の扉に近付く。
 そして耳を傾けると、確かに慌ただしく動く足跡が聞こえた。

「……この足音。……まさか、兵士の鉄靴か?」

「!」

「だが、やけに音が遠いし、そして多い。……もしかして、ここは……」

「副団長……?」

「……まさか……」

「……?」

「ここは、兵士達が詰めてる壁門の中か……!」

「!?」

 ワーグナーは自分達が歩いた通路の距離から地上の位置を考え、そしてここが何処の水路なのかを理解する。
 地下通路の出入口が設けられていたのは、まさに出口一歩手前である壁門の内部だった。
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