虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ

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螺旋編 五章:螺旋の戦争

奇蹟の実り

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 聖人ユグナリスは『神』に敗北し、黒い閃光に飲まれて消える。
 しかし箱庭の防衛機能システムが何者かに乗っ取られ、静寂を求める『神』の目的を阻むように溢れ出ていた黒い人形を完全に停止させた。

 その時、疲弊しながらも戦っていた者達が、突如として倒れ伏していく黒い人形達を見て様々な反応を示す。

「――……なに? どうしたの?」

「人形達が……」

「なんだぁ……? いきなり倒れていきやがる……」

「これは……何が起こったのだ……?」

 フォウル国の干支衆とゴズヴァールを含む魔人達は、突如として倒れ動かなくなる黒い人形達を怪訝に見下ろし警戒を解かない。
 それは箱舟ノア周辺で戦っていたシルエスカも同様であり、動かず倒れて行く人形達の姿を見渡した。

「――……これは……。……アルトリアを倒した、というわけではなさそうだな」

 シルエスカは周囲を見渡し、都市中央部で赤く光る巨大な黒い塔へ目を向ける。
 その頭頂部には微かに黒い翼が見え、『神』がまだ健在である事を確認した。

 更に中央部付近で戦っていた武士サムライブゲンと忍者シノビトモエも、襲い来る波のような黒い人形達が倒れていく姿を見渡す。

「――……どうやら、絡繰からくりは止まったらしい」

「そのようですね……」

「これで心置きなく、奴と相対せると言うもの」

「はい」

 ブゲンとトモエはそう言いながら、少し先に立つ『黄』の七大聖人セブンスワンミネルヴァを見る。
 しかしミネルヴァは他の者達と違い、倒れ伏していく黒い人形達を見て驚愕し動揺していた。

「――……馬鹿な。……穢れた罪人達の裁きを、神が止めた……? いや、そんな……。まだ穢れた者達の浄化は、済んでいないはず……!」

 そう口から漏らしながら精神を動揺させた為に周囲の分身体シャドウが解かれ、上空を見たミネルヴァは『神』が居る中央の黒い塔を見る。
 そして『神』の下へ馳せ参じるようにミネルヴァは駆け出し、瓦礫の上を跳びながら向かおうとした。

 しかしミネルヴァの真横から凄まじい跳躍で近付くブゲンと、更に上下左右を囲み襲うトモエの影分身達が襲い掛かった。

「何処へく!」

「逃げさぬ!」

 そう叫びながらブゲンとトモエは刀を振り、ミネルヴァを襲い斬る。
 しかし刀が当たる直前にミネルヴァは消失し、その場から姿を消した。

「!」

「またか!」

 ブゲンとトモエ達は空振りして瓦礫の上に着地し、周囲を見渡しながらミネルヴァを探す。
 しかし先程と違い、ミネルヴァはブゲン達の周囲から完全に消えていた。

「……チッ、逃げられたのか」

「親方様、追いますか?」

「うむ。……トモエ、消耗はどの程度か?」

「正直に申せば、影分身はもう使えませぬ」

「儂も、ちと刃が欠けてしもうとる。……しかし、行かねばならぬ」

「はい」

 ブゲンは刀身が僅かに欠けた刃を鞘に戻し、トモエも影分身を全て解除して一人に戻る。
 そして二人は同じ方向に目を向け、破壊した建築物の瓦礫を踏みながら都市中央の黒い塔を目指した。

 更に視点は変わり、都市中央の巨大な黒い塔の根本で戦っていたケイルとマギルスになる。

 二人はエリクの死体を中心に置いて黒い人形達と戦っていたが、停止し倒れて行く黒い人形達を目撃していく。
 それにケイルは驚きを浮かべたが、マギルスは全ての人形が倒れた後に大きく息を吐き出しながら背中から地面へ倒れ、大の字になって地面へ寝転んだ。
 その傍に青馬が歩み寄り、鼻を鳴らす。

「ブルルッ」

「――……ふぅ! やっと止まった!」

「これは……?」

「あの子が止めてくれたんだよ!」

「あの子……? ……まさか……」

 マギルスは顔を動かし疑問を漏らすケイルの方を見ると、微笑みながら教える。
 それを聞いたケイルはマギルスにこう言わせられる程の人物を思い出し、この状況を覆せる可能性を持つ人物を頭に閃かせた。

 その時、二人の近くにそびえ立つ中央の黒い塔から不自然な音が鳴る。
 それを聞きマギルスは跳び起き大鎌を構え、ケイルもすぐに両手に握る大小の剣を構えさせた。

 音が鳴った黒い塔の場所には、まるで塔の入り口のような窪みが生まれている。
 そしてそこから足音が聞こえる中で二人と青馬は警戒し、静かに足音の正体を探った。

 そして足音を鳴らす人物が、その入り口から出て来る。
 その人物を見るとマギルスは構えをすぐに解いて笑いながら駆け寄り、ケイルは驚きながらその名を呼んだ。

「――……クロエ!」

「クロエだぁ!」

「――……やぁ、二人とも」

 入り口から出て来たのは、藍色の帽子とコートを纏った黒い髪の女性。
 『黒』の七大聖人セブンスワンのクロエが、誰にも破壊できず侵入を許されなかった黒い塔から悠々とした様子で出て来たのだ。

 マギルスは大鎌を背の鞘にしまいながら駆け寄り、クロエに抱き着く。
 クロエもそれに応えるように抱擁を交えながら、互いに会話を交えた。

「もう、遅いよ!」

「意外とこの箱庭、広くてね」

「その箱庭っての、制御は出来たの?」

「ある程度はね。もうあの黒い人形達は、襲って来ないよ」

「やったぁ!」

 クロエとマギルスはそう話を交えて、互いに微笑み合う。
 そうした二人は見ながらケイルは歩み寄り、クロエに声を掛けた。

「――……どういうことだよ?」

「やぁ、ケイルさん。貴方も無事で良かった」

「無事じゃねぇよ! ……エリクが……」

 ケイルは怒鳴った後に、悔いる表情で顔を逸らす。
 そして逸らした方向へクロエが顔を向けると、そこでエリクが死んだ状態で倒れている姿を確認した。

「……やっぱり、未来は変えられなかったんだね」

「……ッ」

「なら私も、未来の為に運命に従おう」

「……運命?」

「クロエ……?」 

 クロエは抱擁していたマギルスを離し、エリクが倒れている方角へ歩み出す。
 その後を首を傾げたマギルスが追い、ケイルもその後に付いて行った。

 そしてエリクの近くへ辿り着いたクロエは、屈みながら右手を動かし、何も無い右側に腕を伸ばす。
 するとそこから時空間魔法で生み出した『収納チェスト』の穴を作り出し、右手を差し込んだ。

「!」

収納チェストの魔法……?」

「……私はエリクさんが死んだ未来の可能性を視た。つまり私が、彼の死体をこうして見る未来が訪れる事は、既に決まっていたんだ」

 そう話すクロエは右手を収納チェストから引き抜き、その手に何かを握る。
 それは小さな小瓶であり、中には透明ながら澄んだ赤い液体が詰められていた。

「……それは、魔力薬液エーテルか?」

「エーテルがどういうものか、ケイルさんは知ってるかい?」

「……確か、魔力を液状化させたものだろ?」

「一般的にはそうだね。箱舟ノアに使われているのもそれだ。……でも、実は違う」

「?」

「君達の知ってる魔力薬液エーテルは、あくまで魔力を含んだ薬液を混ぜ合わせただけの混合液。魔力マナだけを液状化させた純粋な液体ものじゃない」

「純粋じゃない……?」

「でも、とある大昔に。その純粋なエーテルをとある実で作り出した女性がいる。……それが、私の親友だった」

「……!」

「作ったと言っても、成った実を果汁のように絞り出すだけ。でもその実に触れる事すら叶う人は、かなり限られる。勿論、その実から絞り出した果汁を飲める人もね」

「……いったい、何を……?」

 クロエはそう話しながら、赤い液体が入った小瓶の飲み口を指で捻り、小さな音を鳴らして開ける。
 その時、疑問を漏らしていたケイルと傍に立つマギルスは悪寒にも似た感覚を感じ、思わず跳び下がった。

「ッ!?」

「ッ!!」

「――……君達がそう感じるのは正しい。これは普通の聖人や魔族では、決して飲めない危険物しろものだからね」

「な、なんだよソレ……!? その異常な生命力オーラは……!」

「こんな魔力……今まで、こんなの感じた事ない……!!」

 二人は互いに感じられるモノを感じ取り、表情を蒼白とさせながら鳥肌を立たせる。
 横目で二人の様子を見ながら微笑んだクロエは、その赤い液体が入った小瓶をエリクの口元へ近付けた。

 それを見たケイルが、思わず声を荒げて近付く。

「お、おい! まさか、エリクにそんなモンを――……」

「これを飲む為には、幾つかの条件が必要になる」

「条件……?」

「一つ目は、飲む者の『魂』と『精神』、そして『肉体』が一定の進化水準を超えていること。――……例えばエリクさんのような人間なら、『人間』から『聖人』に進化していることが条件だ」

「!!」

「二つ目は、飲む者が死んでいること。瀕死状態でも飲めるないことはないけど、死んでから飲ませるよりも効果が激減するね」

「……!?」

「そして最後の三つ目が、死んだかれの事を心の底から悲しんでくれる者の思いが、存在すること」

「!」

「私の親友はかつて星々を巡る旅で、コレと同じ物をある七名に飲ませて生き返らせた。――……そして彼等は、この星で到達者エンドレスと呼ばれる『神』となった」

 クロエはそう言いながら、死んだエリクの口を左手の人差し指で軽く開け、小瓶の中に居る赤い液体を流し入れる。
 それを飲み終えさせた後、小瓶を収納空間に戻したクロエが話した事に驚きを深めたケイルとマギルスが、更なる変化に気付いた。

 エリクの死体が突如として赤い光を放ち、一秒も経たない間に鎮まる。
 しかしその間に感じられる禍々しくも膨大な生命力オーラと魔力を感じ取ったケイルとマギルスは、身の毛を逆立たせた。

 しかしその後、数秒後にはエリクの胸に掛かっていた黒い霧が消え去ると同時に、空けられていた胸の傷が瞬く間に修復されていく。
 それを見たマギルスは、以前にも似た光景を見た事を思い出しながら呟いた。

「……これ、ケイルお姉さんが死んで生き返った時と一緒だ……!」

「え……?」

「『神兵の心臓レプリカ』でも、死後数時間以内の死者なら蘇らせられるね。――……でも、それで生き返っても到達者エンドレスには至れない」

「お前、まさかエリクを……!?」

到達者かみさまにするの!?」

「それは、彼次第だけどね」

 クロエはそう話しながら微笑む間に、身体中に傷を負っていたエリクの傷が修復されていく。
 それは肉体に元から刻まれていた古傷にも影響を与え、エリクの頬や顎下に残る傷すらも治していった。

 それを見ながらケイルとマギルスは驚愕を浮かべ、それを向けられるクロエは傷を全て治したエリクを見下ろす。
 そして曲げていた膝を立たせながら上を見上げ、鼻で小さな溜息を吐き出した。

「――……さて。厄介なのは、これからだ」

「!」

「!?」

 クロエは上を見ながらそう呟き、マギルスとケイルもやっと上を見て気付く。
 自分達の百メートル以上の上空で、六枚の黒い翼を背負い羽ばたかせた『神』が見下ろしいた事を。

 そして見下ろす『神』は殺意を込めた鋭い瞳でクロエを見ると、影の宿った憤怒の表情で呟いた。

「――……アンタね。私の邪魔をしたのは……ッ!!」

「どうも、ただの管理人さん」

「ッ!!」

 互いにかなりの距離が離れていながらも、まるで呟いた言葉を聞いていたかのように話を交える。
 そして『神』は今までに無い程に最高潮の怒りを露にし、鬼気迫る表情と凄まじい速度でクロエ達が居る場所に向かった。

 こうしてクロエの助力により箱庭の防衛機能システムは止められ、エリクを蘇生できる手段が用いられる。
 しかし自身の目的を阻まれた『神』は、その憤怒と憎悪を武器としてクロエ達に襲い掛かった。
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