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革命編 四章:意思を継ぐ者
共存する意識
しおりを挟む帝都に居る人々の生命を脅迫に用いるウォーリスだったが、それに屈しないアルトリアは自ら逃亡する事を選ぶ。
『魂で成す六天使の翼』を使い帝都の夜空に逃げたアルトリアだったが、転移と浮遊を行使できるウォーリスを振り切れず、それを迎撃する為に戦闘状態に入った。
しかしアルトリアが行使する魔法と秘術は悉く防がれ、更に『魔力』の知識について自分に並ぶ理解を得ているウォーリスに、圧倒的な実力差を見せつけられる。
あまりにも圧倒的なウォーリスの存在に疑問を抱いたアルトリアは、自身の記憶とは異なる様相を示すウォーリスの正体を思わず問い掛けた。
それに答えるウォーリスは、自分の存在が三千年前の第一次人魔大戦時から存在する事を告げる。
そして『ゲルガルド』という名を改めて名乗り、ウォーリスと呼ばれる存在が『器』である事を明かした。
アルトリアはその言葉を聞き、驚きを浮かべながら表情を強張らせる。
その意味を自分なりに解釈したアルトリアは、初めて目の前に居る男が別の存在である事を察した。
「……『ゲルガルド』。それがアンタの、本当の名前……。……そしてその身体は、アンタが乗っ取ってるって事ね」
「乗っ取るか。……それは、少し違うな」
「違う? 何がよ」
「元々、ウォーリスは『私』という存在の『器』として生まれ、そして育った」
「!?」
「厳しい鍛錬と戦闘経験を幼少時から積み重ね、『聖人』に至らせる。更に国を得て『ウォーリス』という名を人々が崇める存在へ昇華させ、万人を超える命を殺めさせた。――……私がこの器を、『到達者』へ至るよう導いたのだ」
「……そんなはずがない! だって、到達者になる条件はまだ――……」
「そう。『到達者』に至れる条件は、もう一つ。……それは、『マナの実』と呼ばれる高密度の魔力薬を摂取すること。確かにこの『器』は、マナの実を摂取してはいない」
「だったら……!」
「だが、『器』が摂取する必要は無い。――……私という存在が摂取していれば、その条件を満たす事になる」
ゲルガルドはそう語り、自身が『到達者』に至れている理由を伝える。
それを聞いたアルトリアは驚きを深めながら目を見開き、ゲルガルドが話す言葉を信じられない様子を見せた。
「それって、まさか……。……三千年前のアンタが、マナの実を取り込んだとでもっ!?」
「……三千年前。第一次人魔大戦時に、地上に存在した『マナの実』を宿す『マナの樹』は消失した。私が仕えていた大帝国を束ねる到達者、『大帝』の手によって」
「!?」
「『大帝』はマナの樹を中心に出現する強力な魔獣や魔族の出現を警戒し、新たな到達者が生まれぬように『マナの実』を地上から排除した。……その時に採取していた『マナの実』から抽出した魔力薬を、『大帝』に仕えた幾多の聖人達に飲ませ、魔族と相対する為の戦力を確保しようとした。……その聖人に、私や『青』も居た」
「……!!」
「だが『マナの実』を食して生き残った聖人は、極僅か。生き残れた者も肉体に再起不能の損傷を受けるか、『大帝』のような到達者に至れず、肉体的な変化や強化は何も起きなかった。……いや。当時はそう誤解され、マナの実による人類の戦力増強は不可能であると判断された。と言うべきか」
「……誤解?」
「『マナの実』は肉体だけに作用し現れるのだと、当時は研究者達の中では思われていた。……しかし『マナの実』は摂取した者の『魂』にも強い影響を及ぼす事を、あの実を摂取した私は後になって実感した」
「!」
「通常、『魂』は自分の肉体を何らかの形で失えば、輪廻に送られ精神や人格が消失する。しかし『マナの実』を摂取した者は『魂』の劣化現象が起こらず、更に輪廻に逝かずに『魂』を入れる為の『器』さえ確保できれば延命できる。当時はその結論に、誰も至る事は出来なかった」
「……じゃあ、アンタの魂が三千年も保たれ続けたのは……!?」
「『マナの実』を摂取した私の魂は、その影響を受けた。……そして本来の肉体を失った私は、ある方法を用いて輪廻に逝かぬように魂を現世へ保ち、現代まで生き永らえる事に成功した」
「……それも、どうせ碌な方法じゃなさそうね」
「その方法も聞きたいか?」
「遠慮するわ。……要するに今のアンタの魂が『神兵』の心臓のような機能を果たして、ウォーリスの身体を乗っ取りながら共和王国の王として信仰を糧に、『到達者』になった。そういう事でしょ?」
「……ふっ、それも少し違うな」
「は?」
嘲笑するような笑みを零すゲルガルドの態度に、アルトリアは怪訝な表情を浮かべる。
その嘲笑を気に食わないのか、アルトリアは怒鳴りながら問い質した。
「何が違うってのよ!」
「乗っ取るという考え方そのものが、そもそも間違っている」
「え……?」
「アルトリア嬢。君は、私がウォーリスの魂と意識を消してこの身体を乗っ取っていると思っているようだが。……だがウォーリスの魂も、そして意思も消えてはいない。この肉体に、今も在る」
「……!!」
「私は『ウォーリス』でもあり、三千年の時を永らえた『ゲルガルド』でもある。――……私達は、この『器』の中で裏表に存在する人格ということだ」
「!?」
ゲルガルドはそう述べ、今まで不可解な様相を見せていた『ウォーリス』という人物に関する違和感が何だったのかをアルトリアに理解させる。
様々な出来事で姿を見せたウォーリスは、今のような圧迫感の有る圧や悪寒を何一つとして感じさせなかった。
実際に半年ほど前にアルトリアが会ったウォーリスも、今現在のような悪寒を感じさせる圧を何一つとして放ってはおらず、まだ人間味を残している。
しかし『ゲルガルド』と名乗る今のウォーリスは、とても人間とは思えぬ気配と悪寒が渦巻いており、このような状態で人前に姿を晒せば、常人ならば息をする事すら困難になるだろう。
そのような状態で一国の国務大臣として政務を務めるなど、ましてや普通の人間として振る舞うことなど出来るはずがない。
そこで器となっている『人間』のウォーリスと、マナの実を食した『異物』のゲルガルドが、一つの肉体に魂を共存させているとしら。
そして状況に応じて『人間』と『到達者』で表層の人格を切り替える事で反映される能力にも差があるのだとしたら、ここまで気配の違いを見せるウォーリスの状況にも納得が浮かぶ。
アルトリアはそこまでの結論にすぐに至ると、また別の結論にも至りながら驚愕する事実を口にした。
「じゃあ、アンタは……いや、アンタ達は……!!」
「『ウォーリス』は『私』という存在にとって、幼い頃から育てた息子と呼べる存在であり、知識を教えた弟子であり、互いに認め合う友でもある」
「!」
「人の肉体とは、実に脆い。本来の肉体に異なる魂を入れてしまえば、その肉体は異なる魂の拒否反応によって自壊し、長く状態を保てない。それは到達者の魂を入れた意思なき肉体であっても、同じことだった。しかし『器』に本来の魂を残したまま別の魂を受け入れれば、二つの魂を共存させられた。……しかしそれは、ウォーリスという特別な『魂』と『器』が在ってこそ、成り立つ事だったが」
「……ウォーリスの身体は、乗っ取られていない。……つまり、今までのアンタ達は……!」
「私とウォーリスは、共に同じ目的を共有する者。故に、私は『ウォーリス=フロイス=フォン=ゲルガルド』として、何ら偽りも無い『存在』だ」
「……!!」
ゲルガルドはそう伝え、自分がウォーリスと目的を共有して『存在』する事を明かす。
それを聞いたアルトリアは表情を更に強張らせ、目の前に居る『存在』が現世にとってどれほど規格外なのかを改めて実感させられていた。
この世において真の規格外と呼ぶべきウォーリスは改めるように青い瞳を見せながら、アルトリアへ言葉を向ける。
「さぁ、君の疑問には幾つも答えた。これで気は済んだだろう?」
「……まだ、聞きたい事は山ほどあるんだけど?」
「それならば、後で答える時間を設けよう。大人しく、私に付いて来ればの話になるが」
「……ッ」
アルトリアはその返答として、表情を強張らせながら六枚の翼から再び羽を散らす。
それを見たウォーリスは呆れるような吐息を漏らし、蔑むような視線でアルトリアを見た。
「……聞き分けの無い子供には、どうやら躾が必要らしい」
「アンタみたいな無責任な親に、子供の躾が出来るはずないでしょっ!!」
アルトリアはそう怒鳴り、展開した周囲の羽を再びウォーリスに襲わせる。
それを見るウォーリスは青く鋭い眼光を僅かに金色に染め、襲い掛かった百以上の白い羽を砕き割った。
「……ッ!!」
「私はどうやら、君を買い被っていたようだ。……アルトリア嬢。君は私が考えていた以上に、弱過ぎる」
「!?」
「魔法力、身体能力、そして精神力。どれも通常の人間を遥かに凌駕しながら、その心の甘さが君自身を弱くしたままだ。……私の下にくれば、その甘さを取り除き、君の強さを『完成』させてやろう」
「……アンタの玩具になるのは、死んでもお断りよッ!!」
それからアルトリアは翼から散らせた羽を全て様々な色合いの光球を変化させ、それをウォーリスに目掛けて襲わせる。
それを払うように右手を薙ぐウォーリスの周囲で、襲って来た光球が全て爆発を起こした。
上空で起きた爆発は、まるで閃光のように帝都の景色を照らす。
それでもアルトリアは必死に抗い、『到達者』であるウォーリスに抗い続けた。
こうして『ゲルガルド』と名乗る人格により、ウォーリスという謎めいた人物の全貌が見え始める。
それは『人間』と『到達者』という二つの意識と魂が、一つの肉体に共存した存在。
更に彼等は同じ目的を共有し、今まさにアルトリアを攫い、ガルミッシュ帝国の人々を混沌の結末へ招待しようとしていた。
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