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7話
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「特別冒険者許可証ですか!? くれるのですか!?」
レオールさんに聞き返したわたしの表情は、あまり褒められたものではなかったと思う。
あれから月日をおいて、今度は一人でやってきたレオールさんは言った。
「リリアーナちゃん、冒険者に興味はないかい?」
「……正直に言えば、あります」
「だと思った。ここに特別冒険者許可証がある。これを使えば隠れて関所を抜ける必要がなくなるし、素材を換金するときに見せれば話が簡単に通るよ?」
「ほしい……でもどうして?」
「ふふ……君の顔に書いてあったからね。外に出たいけど、お父様が許してくれないんだろう?」
レオールさんはわたしの心を見透かしたかのように微笑んだ。ずるい。この冒険者証すごくほしい。
お父様は優しいけど厳しい。外に出る許可だけは出さない。王子との一件もあのあとすごく怒られた。
今までごまかすの大変だった。堂々としたいとまでは言わないけれど、せめて証しさえあれば簡単に話が進む場面には何度も遭遇してきた。
正式な許可がないと素材の換金すらままならないから。
どうしてこの人はわたしの欲しいものがわかったの?
「リリアーナちゃんは『このあたりの』ミノタウルスと言ったね? たぶんお父様に内緒で他の場所でもモンスターと戦った経験があるんじゃないかと思って。違ったかな?」
「…………あたりです」
「あはは、勘だったんだけど。まさか本当だったなんて。君は本当に強くて不思議な子だ。どんなに魔法が得意でも、普通はミノタウルスを燃やせない。物凄い才能だ」
「ごめんなさい。あのときは勢いでやっちゃいました」
「いいんだ。それで、この冒険者証とお父様に許可をとる手助けをするよ。代わりに君にひとつだけお願いがある」
レオールさんは目を輝かせていました。
今になって思えば完全に孔明の罠。
しかしそのときのわたしは目の前にした冒険者証、しかもキラキラした特別冒険者証に意識を奪われていました。
「ひとりの冒険者を一定期間守ってほしい」
「冒険者の護衛ですね。そのぐらいなら大丈夫。わかりました」
「相手とはギルドに登録するときに待ち合わせするといいよ」
「どんな方ですか?」
「格好いい方かな……うん。たぶん。初心者だけどやる気はあるから、色々教えてあげてほしいな」
「なら大丈夫です。じゃあこの冒険者証はもう返さないですから。いいですよね?」
わたしはひったくるようにしてレオールさんから冒険者証を受け取った。
その足でお父様に挨拶。怒られるかと思ったけど、お父様はわたしが冒険者をしたがってたことに気がついてたみたい。
「ついにこのときが来たか……リリィ。怪我だけはするな。くれぐれも悪い男とは付き合うな。あと、毎日お父さんに手紙を書くこと。それと最低でも一週間に二日は帰りなさい。あと……」
「わかったわお父様。許可してくれてありがとう」
「がんばれリリィ。君には才能がある。お父さんが一番知っている」
お父様はわたしを抱き締め泣きながら激励をくれた。
冒険者になるだけ。一生の別れってわけじゃないのに大袈裟なんだから。
そしてレオールさんに一言。
「娘になにかあったら……あなた相手でも許しませんよ」
「肝に銘じました」
「娘をおねがいします」
「きっとよい経験になるでしょう」
こうしてわたしは晴れて冒険者になることができた。
やった、やった!!
嬉しい。とても楽しい。これで堂々と旅をできるのね。
どこへ行こうかな? 嬉しいな!
__そう思っていた時期もありました。
わたしは早速ギルドへと向かった。
ここでは換金や冒険者登録ができる。まず始めの第一歩。持っている許可証を使って有利な条件で登録してもらおう。
入り口までやってくると、壁に寄りかかった小柄な人影に名前を呼ばれる。
頭まですっぽりとフードを被った怪しい人だ。
「やあ、リリアーナ」
聞き覚えのある声だ。
わたしは反射的にきびすを返した。
「帰ります」
「待て。俺はお前と行動を共にする冒険者カイルリートだよろしくな!」
「あなたカイル王子でしょ?」
「ち、違うぜ。俺はカイルリートだ。誰だそのカイルというイケメン王子は?」
ごめん意味わかんない。偽名のつもりなの?
ローブの中で八重歯をのぞかせながらニカッと笑うのは紛れもないカイル王子でした。
わたしは、王子を背後にすたすた歩きながら恨みごとをつぶやきます。
「(レオールさんに騙された。レオールさんに騙された!!)」
「まてよ。ギルドに行くんだろう? 俺が案内するぜ」
「(案内されなくても知ってるしっ)」
「一緒に登録しよう。教えてやるよ」
守る冒険者が王子だったとは……完全な油断。うそつきレオールさん。
結局流されるままになるわたし。約束は約束だし、許可証貰っちゃったし。
カイル王子に腕を掴まれ、ギルドの中に連れていかれました。
どうしよう。許可証を返したらなかったことにできないかな?
「うっ……皆の視線を感じるな」
「そういえば……」
堂々と正面から入っていったのは初めてかもしれない。
わたしはいつも人の目を気にしてこそこそしていた。
悪役令嬢の未来を回避するために動いていたあの頃。まだ身体が幼かったわたしは異常だと思われたくなかったからいつも孤独に過ごしていたんだっけ。
「ひゅ~」
「可愛い嬢ちゃん連れてんじゃねえか!!」
「新参かぁ? 俺が手取り足取り教えるぞこら」
「おちびちゃんたち、ママはどこ? ぎゃははっ」
あら素敵。
いや、こうやってヤジを飛ばしてくる男性たちが素敵なのではなくて。
こういう荒くれものたちの集う場所ってなんだかドキドキするじゃないですか?
しない?
どうなんでしょうか、わたしがおかしいのでしょうか?
ガラの悪い冒険者たちに睨まれ、王子は萎縮している様子。
通せんぼしてくるのね、新人潰しなのかしら?
勇気を出した王子は荒くれものたちに言い放つ。
「俺たちにかまうな。リリアーナが怖がっている。やめてくれないか?」
違います。
怖がっているのはカイル王子の方です。さっきからわたしの手を強く握ってきて、しかも汗ばんで震えています。
カイル王子……まあ今は冒険者登録に来たカイルリートとしておきましょう。カイルリートはわたしの一歩前に出て荒くれものたちの前に立ちはだかる。
すると男たちはあっという間にカイルリートを取り囲んだ。いきなりピンチじゃない新米冒険者君。
「けっ。気に入らねえな細っこいガキが」
「奴隷にして売り飛ばすぞ?」
「お嬢ちゃん。こんなやつより俺らのパーティに入ろうぜ?」
「無礼な輩め。俺の目の前から消え去れ。お前たちは見た目だけでなく心根まで醜いとみえる。そのような相手にリリアーナを決して渡さない」
「……言うねボクちゃん」
「ギルド職員に見えないように囲んでヤろうぜ」
「新人らしくしないと後悔するぜぇ」
囲まれちゃったわね。
はぁ。未来がみえるようだわ。
カイルは王族なので一般人よりは武術を嗜んでいる。だからこの場面でも強気なのだろうけど、相手は新人潰しを楽しみにしている古参の冒険者。はっきり言って分が悪い。
でも、わたしを守るために大人相手に立ち向かってくれたのは評価するわ。
だからわたしは、カイルリートの背後で男たちに向かってにっこりと『笑った』。
「ひ、ひいぃぃぃいぃ……」
「ゆ、許してくれぇっ」
「俺たちが悪かったっ!! すまねえ……手を出す相手を間違えたんだっ」
「お、おいお前ら?」
恐怖に顔を歪めた男たちは蜘蛛の子を散らすように逃げた。
ものわかりがよくて助かります。
ちょっとでも冒険者としてモンスターと戦っているなら、わたしの笑顔が出す空気がわかるでしょう。逆に王子のような初心者にはわからないかもだけど。
王子はキョトンとした顔で固まっている。すこし間をおいて、ほっとしたように息をはき振り返る。
「なんだかわからんが、大丈夫かリリアーナ?」
「ええ。おかげさまで……守ってくださりありがとうございました」
「いや、もっと強くならねば。正直、すこしばかり驚いたな。ほんのすこしだ」
(膝をぷるぷるさせながら言い張るのですね)
やれやれ、わたしはため息をついてカイル王子に言いました。
「だったらわたしも偽名で呼んでくださいな。リリでいいですよ」
「わかった!! リリだな……いや、ちょっとまて。か、カイルリートは本名だっ」
「はいはい。さっさと登録したいので奥に行きましょう」
「うん。わかった」
とりあえず登録を済ませてしまいましょう。
王子の対策はそれから考えることにしました。
レオールさんに聞き返したわたしの表情は、あまり褒められたものではなかったと思う。
あれから月日をおいて、今度は一人でやってきたレオールさんは言った。
「リリアーナちゃん、冒険者に興味はないかい?」
「……正直に言えば、あります」
「だと思った。ここに特別冒険者許可証がある。これを使えば隠れて関所を抜ける必要がなくなるし、素材を換金するときに見せれば話が簡単に通るよ?」
「ほしい……でもどうして?」
「ふふ……君の顔に書いてあったからね。外に出たいけど、お父様が許してくれないんだろう?」
レオールさんはわたしの心を見透かしたかのように微笑んだ。ずるい。この冒険者証すごくほしい。
お父様は優しいけど厳しい。外に出る許可だけは出さない。王子との一件もあのあとすごく怒られた。
今までごまかすの大変だった。堂々としたいとまでは言わないけれど、せめて証しさえあれば簡単に話が進む場面には何度も遭遇してきた。
正式な許可がないと素材の換金すらままならないから。
どうしてこの人はわたしの欲しいものがわかったの?
「リリアーナちゃんは『このあたりの』ミノタウルスと言ったね? たぶんお父様に内緒で他の場所でもモンスターと戦った経験があるんじゃないかと思って。違ったかな?」
「…………あたりです」
「あはは、勘だったんだけど。まさか本当だったなんて。君は本当に強くて不思議な子だ。どんなに魔法が得意でも、普通はミノタウルスを燃やせない。物凄い才能だ」
「ごめんなさい。あのときは勢いでやっちゃいました」
「いいんだ。それで、この冒険者証とお父様に許可をとる手助けをするよ。代わりに君にひとつだけお願いがある」
レオールさんは目を輝かせていました。
今になって思えば完全に孔明の罠。
しかしそのときのわたしは目の前にした冒険者証、しかもキラキラした特別冒険者証に意識を奪われていました。
「ひとりの冒険者を一定期間守ってほしい」
「冒険者の護衛ですね。そのぐらいなら大丈夫。わかりました」
「相手とはギルドに登録するときに待ち合わせするといいよ」
「どんな方ですか?」
「格好いい方かな……うん。たぶん。初心者だけどやる気はあるから、色々教えてあげてほしいな」
「なら大丈夫です。じゃあこの冒険者証はもう返さないですから。いいですよね?」
わたしはひったくるようにしてレオールさんから冒険者証を受け取った。
その足でお父様に挨拶。怒られるかと思ったけど、お父様はわたしが冒険者をしたがってたことに気がついてたみたい。
「ついにこのときが来たか……リリィ。怪我だけはするな。くれぐれも悪い男とは付き合うな。あと、毎日お父さんに手紙を書くこと。それと最低でも一週間に二日は帰りなさい。あと……」
「わかったわお父様。許可してくれてありがとう」
「がんばれリリィ。君には才能がある。お父さんが一番知っている」
お父様はわたしを抱き締め泣きながら激励をくれた。
冒険者になるだけ。一生の別れってわけじゃないのに大袈裟なんだから。
そしてレオールさんに一言。
「娘になにかあったら……あなた相手でも許しませんよ」
「肝に銘じました」
「娘をおねがいします」
「きっとよい経験になるでしょう」
こうしてわたしは晴れて冒険者になることができた。
やった、やった!!
嬉しい。とても楽しい。これで堂々と旅をできるのね。
どこへ行こうかな? 嬉しいな!
__そう思っていた時期もありました。
わたしは早速ギルドへと向かった。
ここでは換金や冒険者登録ができる。まず始めの第一歩。持っている許可証を使って有利な条件で登録してもらおう。
入り口までやってくると、壁に寄りかかった小柄な人影に名前を呼ばれる。
頭まですっぽりとフードを被った怪しい人だ。
「やあ、リリアーナ」
聞き覚えのある声だ。
わたしは反射的にきびすを返した。
「帰ります」
「待て。俺はお前と行動を共にする冒険者カイルリートだよろしくな!」
「あなたカイル王子でしょ?」
「ち、違うぜ。俺はカイルリートだ。誰だそのカイルというイケメン王子は?」
ごめん意味わかんない。偽名のつもりなの?
ローブの中で八重歯をのぞかせながらニカッと笑うのは紛れもないカイル王子でした。
わたしは、王子を背後にすたすた歩きながら恨みごとをつぶやきます。
「(レオールさんに騙された。レオールさんに騙された!!)」
「まてよ。ギルドに行くんだろう? 俺が案内するぜ」
「(案内されなくても知ってるしっ)」
「一緒に登録しよう。教えてやるよ」
守る冒険者が王子だったとは……完全な油断。うそつきレオールさん。
結局流されるままになるわたし。約束は約束だし、許可証貰っちゃったし。
カイル王子に腕を掴まれ、ギルドの中に連れていかれました。
どうしよう。許可証を返したらなかったことにできないかな?
「うっ……皆の視線を感じるな」
「そういえば……」
堂々と正面から入っていったのは初めてかもしれない。
わたしはいつも人の目を気にしてこそこそしていた。
悪役令嬢の未来を回避するために動いていたあの頃。まだ身体が幼かったわたしは異常だと思われたくなかったからいつも孤独に過ごしていたんだっけ。
「ひゅ~」
「可愛い嬢ちゃん連れてんじゃねえか!!」
「新参かぁ? 俺が手取り足取り教えるぞこら」
「おちびちゃんたち、ママはどこ? ぎゃははっ」
あら素敵。
いや、こうやってヤジを飛ばしてくる男性たちが素敵なのではなくて。
こういう荒くれものたちの集う場所ってなんだかドキドキするじゃないですか?
しない?
どうなんでしょうか、わたしがおかしいのでしょうか?
ガラの悪い冒険者たちに睨まれ、王子は萎縮している様子。
通せんぼしてくるのね、新人潰しなのかしら?
勇気を出した王子は荒くれものたちに言い放つ。
「俺たちにかまうな。リリアーナが怖がっている。やめてくれないか?」
違います。
怖がっているのはカイル王子の方です。さっきからわたしの手を強く握ってきて、しかも汗ばんで震えています。
カイル王子……まあ今は冒険者登録に来たカイルリートとしておきましょう。カイルリートはわたしの一歩前に出て荒くれものたちの前に立ちはだかる。
すると男たちはあっという間にカイルリートを取り囲んだ。いきなりピンチじゃない新米冒険者君。
「けっ。気に入らねえな細っこいガキが」
「奴隷にして売り飛ばすぞ?」
「お嬢ちゃん。こんなやつより俺らのパーティに入ろうぜ?」
「無礼な輩め。俺の目の前から消え去れ。お前たちは見た目だけでなく心根まで醜いとみえる。そのような相手にリリアーナを決して渡さない」
「……言うねボクちゃん」
「ギルド職員に見えないように囲んでヤろうぜ」
「新人らしくしないと後悔するぜぇ」
囲まれちゃったわね。
はぁ。未来がみえるようだわ。
カイルは王族なので一般人よりは武術を嗜んでいる。だからこの場面でも強気なのだろうけど、相手は新人潰しを楽しみにしている古参の冒険者。はっきり言って分が悪い。
でも、わたしを守るために大人相手に立ち向かってくれたのは評価するわ。
だからわたしは、カイルリートの背後で男たちに向かってにっこりと『笑った』。
「ひ、ひいぃぃぃいぃ……」
「ゆ、許してくれぇっ」
「俺たちが悪かったっ!! すまねえ……手を出す相手を間違えたんだっ」
「お、おいお前ら?」
恐怖に顔を歪めた男たちは蜘蛛の子を散らすように逃げた。
ものわかりがよくて助かります。
ちょっとでも冒険者としてモンスターと戦っているなら、わたしの笑顔が出す空気がわかるでしょう。逆に王子のような初心者にはわからないかもだけど。
王子はキョトンとした顔で固まっている。すこし間をおいて、ほっとしたように息をはき振り返る。
「なんだかわからんが、大丈夫かリリアーナ?」
「ええ。おかげさまで……守ってくださりありがとうございました」
「いや、もっと強くならねば。正直、すこしばかり驚いたな。ほんのすこしだ」
(膝をぷるぷるさせながら言い張るのですね)
やれやれ、わたしはため息をついてカイル王子に言いました。
「だったらわたしも偽名で呼んでくださいな。リリでいいですよ」
「わかった!! リリだな……いや、ちょっとまて。か、カイルリートは本名だっ」
「はいはい。さっさと登録したいので奥に行きましょう」
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