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第4章 国主編
第93話 シュレースヴィヒの残党 ~フリードリヒ暗殺未遂~
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シュレースヴィヒ公国を共同統治するフリッツ・エストリズセンは前国王アーベル派の残党の貴族たちの抵抗に悩まされていた。
今は亡き前王アーベルと公式宣言を出した24人の貴族達のうちの大半はシュレースヴィヒ公国に領地を持っていた。
その中でもスベン・エストリズセン侯爵は王家に連なる血筋の大物で、彼を中心に貴族たちは武力を集結し、国内で最も堅固な砦であるダーネヴェルク砦を占拠すると、ここを拠点に周辺の小さな砦も攻略し、勢力を拡大しつつあった。
これに対し、アーベルの娘であるゾフィーが説得を続けるが全く受け付けられなかった。彼らはアーベルへの忠誠心ではなく、自らの利益の保身のために立ち上がったに過ぎなかったのだ。
国内で本格的な内戦ともなれば、再びデンマーク王のクリストファーⅠ世に付け入る隙を与えてしまう恐れがあり、フリッツとしては大規模な戦闘は避けたかった。
このため戦線は膠着し、延々と小競り合いが続く。
再びホルシュタイン伯でもあるフリードリヒの助けを求めたいところだが、フリードリヒは同盟国の領主ではあるが、妻ゾフィーの父を殺した仇でもある。
先に攻め込んだのがアーベルで返り討ちにあったのだとはいえ、ゾフィーはフリードリヒに対し割り切れない感情を持っているようだった。
このためフリッツはフリードリヒへの援助要請をためらっていた。
◆
フリードリヒはシュレースヴィヒの情勢は耳にしていたものの躊躇していた。
こちらにしてみればクラーケンが鎮めた船にアーベルが乗り合わせていただけのこと。狙って殺害しようとした訳ではない。
だが、(一国の王を殺すとなるといろいろと影響が大きいのだな)と自分の短慮を後悔し、また(理由はともかく父を殺されれば恨みもあるだろう)と娘のゾフィーに負い目を感じてもいた。
しばらくしたある日。ロスヴィータが深刻そうな顔をしてやってきた。
言いたいことはわかっているのだが…
「あなた。兄を助けてやってもらえませんか?」
「つらい立場にあることはわかっているのだが、相手は仮にも独立国だ。同盟国とはいえ要請もなしに軍隊を入れる訳にはいかない」
「そこはなんとかなりませんの? 私も説得しますわ。」
「無理やり軍隊を入れるとなると、軍事演習の名目くらいしかない。だが、それだと多くても1個中隊程度の数が限度だな」
「少しでも兄の助けになるのなら、それでもお願いします」
「わかった。君からも軍事演習を受け入れるよう手紙を書いてくれ」
「わかりましたわ」
軍事演習には念には念を入れてフィリップ・フォン・リストが隊長を務める暗黒騎士団の第1中隊を派遣することにした。フィリップは元々平民だったが中隊長昇格に伴い男爵に叙せられている。
ロスヴィータの手紙が功を奏したのか、フリッツは見え見えの軍事演習を受け入れてくれた。
「フィリップ。よろしく頼むぞ」
「承知いたしました。ご期待に違わぬよう努力いたします」
フィリップには事前にフリードリヒが考えた作戦も伝授してある。彼ならやり遂げてくれるだろう。
◆
「シュレースヴィヒ公。暗黒騎士団第1中隊のフィリップ・フォン・リストにございます。ただいま到着しましてございます」
「ありがたい。ロートリンゲン公には頭が上がらない」
「早速ではございますが、×××××」
フィリップはフリードリヒから伝授された作戦をフリッツに伝えた。
フリードリヒの作戦はいかにも当然というものだった。少数であれば少数に当たるしかない。要はそれを積み重ねていけばいいのだ。
少なくとも、こちらにしてみれば短期決戦をしなければならない理由は何もない。じっくりと時間をかけて取り組めばよい。
軍事演習をしていた第1中隊は偶然にも貴族軍が占拠している小規模な砦で敵と遭遇し、やむなく撃破した。暗黒騎士団の精兵にしてみれば楽勝だった。この偶然が2度、3度…と続いていく。
一方、貴族軍の方はじわじわと戦力が減っていくことに焦りを感じていた。
不安を感じた貴族が一人、また一人と脱落して敵に投降していく。
「あの小僧め。小癪な真似をしてくれる」
スベンは焦りを露にした。
「相手はたかが1個中隊。こうなったら戦力を集中して一気にけりをつけてくれるわ」
ヨナス・メシュヴィツ男爵がこれを諫める。彼はスベンを軍事面からずっと支えてきた忠臣だった。
「侯爵。いけません。砦同士で連携を取り合いながら点ではなく線で守るのが上策です。
ダーネブルグに兵を集めてしまっては、それこそ敵の思う壺です」
「何を言う。わしの決定に逆らうのか!」
「しかし、…」
「うるさい。貴公は黙ってわしの命令を聞いておればよいのだ」
「承知いたしました」
──これで貴族軍も終わりか…。せめて侯爵には生き残って欲しいのだが…
そうしてスベンはダーネブルグ砦の周りの小砦に分散していた兵力をダーネヴェルク砦に結集し、一大決戦の準備を始めた。
──こうまで思いどおりに動いてくれるとは楽だな…
フィリップはフリッツに対し、予定どおりシュレースヴィヒ公国軍の出動を促した。
公国軍はダーネブルグ砦を包囲すると、敵の補給線を断つ戦術に出た。こちらからは決して攻め込まない。
戦闘力が必ずしも高くないシュレースヴィヒ公国軍でも補給線を断つぐらいは容易にできる。
スベンはヨナスに対応を問うた。
「どうする。こうなったら一気に砦から打って出るか?」
「敵は正面から戦うつもりはありません。のらりくらりとかわすでしょう。その間に手薄になったダーネブルグ砦を奪回されては我々が拠点を失ってしまいます」
「では、どうすればいいのか?」
「敵と交渉しまししょう。完敗していない今なら、シュレースヴィヒ公の寛大な処置も期待できます」
「事実上の降伏ではないか。そんな恥知らずなことはできん」
「ですが、侯爵…」
そのまま1月、2月と時は過ぎ、ダーネブルグ砦からは貴族の脱走が相次いだ。
残る数も当初の3分の1を切っていた。
一方、スベンは現実から逃避するように毎日宴会を開き、酒に逃避する日々を送っていた。
──兵糧を少しでも節約せねばならないというのに…
そんなスベンをヨナスは苦々しい思いで見つめていた。
酒の勢いでスベンが言った。
「こうなったら皆で打って出ようではないか。貴族として名誉ある死に花を咲かせるのだ」
「そうだ。今こそデンマーク貴族のプライドを見せてやりましょうぞ」
──ここまで付いてきた忠臣をみな道連れにするというのか。もはや終わりだ…
ヨナスは覚悟を決めた。
翌日。ヨナスが真剣な表情でスベンを訪ねてきた。
ヨナスの後ろには酒が満たされた小さな盃を載せた盆をもった執事が控えている。
スベンはその意味を察したようだ。
「ヨナス。まさか…」
「侯爵。こうなってはもう我々の勝ち目はありません。公爵の命をもって付いてきた者たちの助命嘆願を願う以外にありません。お覚悟を…」
「いや。まだなにか方法があるだろう。何か見落としていないか?」
「今更命がおしいとおっしゃいますか。昨日は死に花をさかせるとおっしゃっていたではありませんか」
「いや。それは言葉の綾と言うか、何と言うか…」
「ここにあるのは毒酒です。これをお飲みいただければさほどの苦しみなく楽に死ねます」
「いやだ。死にたくない!」
ヨナスが合図をすると控えていた部下たちが逃げようとするスベンを押さえつけ、毒酒を無理やり飲ませた。
毒酒の威力で数秒もするとスベンは絶命した。
──侯爵。タダでは逝かせませぬぞ…
◆
数日後。降伏した貴族たちの引見が行われた。
シュレースヴィヒ公フリッツのほか、後見としてロートリンゲン公フリードリヒが同席することとなった。
何人かの貴族の引見が終わり、ヨナスの番が来た。
「次。ヨナス・メシュヴィツ男爵これへ」
「はっ」
ヨナスは手に桶を抱えている。
引見の部屋に控えていたシュレースヴィヒ公国の重臣たちが小声で話している。
「あれは何だ?」
「侯爵の首の塩漬けらしい」
「何っ! 東の国の蛮族でもあるまいし、そこまでして自分の手柄を見せびらかしたいのか。何と下劣な!」
ヨナスは桶を床に置くと首を取り出す動作を始めた。
と思った次の瞬間、桶に隠してあった鉄砲を素早くフリードリヒに向けて発砲した。
当時普及している鉄砲は丸い鉛玉を込めた単発式の単筒であり、極めて命中精度は低かった。だがヨナスには他にフリードリヒに復讐する手がなかったのである。
アダルベルトがヨナスの動作を見てフリードリヒの前に進み出るが一瞬遅かった。
弾丸はアダルベルトの左頬をかすり弾道が変わった。
不幸にもフリードリヒの眉間めがけて一直線に向かっている。
ちょうどヨナスの待遇についてフリッツに助言をしようと彼に視線を向けていたタイミングだったため、フリードリヒはフリードリヒで避ける動作が遅れた。
すわ命中かと思われたその時、弾丸は消えていた。
気がつくと弾丸はフリードリヒの横に控えていたアスタロトの手の中にあった。
「いつも馬鹿にしておるが、わらわもたまには役に立つであろう。まったく、あんな見え見えな罠に惑わされるとはなさけないのう」
「ああ助かった。君の大切さを思い知ったよ」
アスタロトも本当にやばいときは助けてくれるのだと認識を新たにするフリードリヒだった。
当のヨナスは近くに控えていた衛兵が取り押さえたが、口に含んでいた毒薬で自害してしまった。
「おまえ…さえ…いなければ…」
それが最後の台詞だった。
最後までフリードリヒを呪っていた。ある意味忠臣といえば忠臣だ。
アダルベルトの頬の傷はフリードリヒがヒールの魔法ですぐさま治したが、なぜか傷が残ってしまった。
あの弾丸にはヨナスの呪いでも込められていたのであろうか。
フリードリヒはしばらくの間アダルベルトの傷を見るたびに心が痛んだが、当の本人は忠誠の証だとむしろ誇らしげに自慢していた。
結果、頬に一文字の傷のある赤髪の忠義ある最強騎士として、アダルベルトの名前はヨーロッパ中に知れていくのであった。
今は亡き前王アーベルと公式宣言を出した24人の貴族達のうちの大半はシュレースヴィヒ公国に領地を持っていた。
その中でもスベン・エストリズセン侯爵は王家に連なる血筋の大物で、彼を中心に貴族たちは武力を集結し、国内で最も堅固な砦であるダーネヴェルク砦を占拠すると、ここを拠点に周辺の小さな砦も攻略し、勢力を拡大しつつあった。
これに対し、アーベルの娘であるゾフィーが説得を続けるが全く受け付けられなかった。彼らはアーベルへの忠誠心ではなく、自らの利益の保身のために立ち上がったに過ぎなかったのだ。
国内で本格的な内戦ともなれば、再びデンマーク王のクリストファーⅠ世に付け入る隙を与えてしまう恐れがあり、フリッツとしては大規模な戦闘は避けたかった。
このため戦線は膠着し、延々と小競り合いが続く。
再びホルシュタイン伯でもあるフリードリヒの助けを求めたいところだが、フリードリヒは同盟国の領主ではあるが、妻ゾフィーの父を殺した仇でもある。
先に攻め込んだのがアーベルで返り討ちにあったのだとはいえ、ゾフィーはフリードリヒに対し割り切れない感情を持っているようだった。
このためフリッツはフリードリヒへの援助要請をためらっていた。
◆
フリードリヒはシュレースヴィヒの情勢は耳にしていたものの躊躇していた。
こちらにしてみればクラーケンが鎮めた船にアーベルが乗り合わせていただけのこと。狙って殺害しようとした訳ではない。
だが、(一国の王を殺すとなるといろいろと影響が大きいのだな)と自分の短慮を後悔し、また(理由はともかく父を殺されれば恨みもあるだろう)と娘のゾフィーに負い目を感じてもいた。
しばらくしたある日。ロスヴィータが深刻そうな顔をしてやってきた。
言いたいことはわかっているのだが…
「あなた。兄を助けてやってもらえませんか?」
「つらい立場にあることはわかっているのだが、相手は仮にも独立国だ。同盟国とはいえ要請もなしに軍隊を入れる訳にはいかない」
「そこはなんとかなりませんの? 私も説得しますわ。」
「無理やり軍隊を入れるとなると、軍事演習の名目くらいしかない。だが、それだと多くても1個中隊程度の数が限度だな」
「少しでも兄の助けになるのなら、それでもお願いします」
「わかった。君からも軍事演習を受け入れるよう手紙を書いてくれ」
「わかりましたわ」
軍事演習には念には念を入れてフィリップ・フォン・リストが隊長を務める暗黒騎士団の第1中隊を派遣することにした。フィリップは元々平民だったが中隊長昇格に伴い男爵に叙せられている。
ロスヴィータの手紙が功を奏したのか、フリッツは見え見えの軍事演習を受け入れてくれた。
「フィリップ。よろしく頼むぞ」
「承知いたしました。ご期待に違わぬよう努力いたします」
フィリップには事前にフリードリヒが考えた作戦も伝授してある。彼ならやり遂げてくれるだろう。
◆
「シュレースヴィヒ公。暗黒騎士団第1中隊のフィリップ・フォン・リストにございます。ただいま到着しましてございます」
「ありがたい。ロートリンゲン公には頭が上がらない」
「早速ではございますが、×××××」
フィリップはフリードリヒから伝授された作戦をフリッツに伝えた。
フリードリヒの作戦はいかにも当然というものだった。少数であれば少数に当たるしかない。要はそれを積み重ねていけばいいのだ。
少なくとも、こちらにしてみれば短期決戦をしなければならない理由は何もない。じっくりと時間をかけて取り組めばよい。
軍事演習をしていた第1中隊は偶然にも貴族軍が占拠している小規模な砦で敵と遭遇し、やむなく撃破した。暗黒騎士団の精兵にしてみれば楽勝だった。この偶然が2度、3度…と続いていく。
一方、貴族軍の方はじわじわと戦力が減っていくことに焦りを感じていた。
不安を感じた貴族が一人、また一人と脱落して敵に投降していく。
「あの小僧め。小癪な真似をしてくれる」
スベンは焦りを露にした。
「相手はたかが1個中隊。こうなったら戦力を集中して一気にけりをつけてくれるわ」
ヨナス・メシュヴィツ男爵がこれを諫める。彼はスベンを軍事面からずっと支えてきた忠臣だった。
「侯爵。いけません。砦同士で連携を取り合いながら点ではなく線で守るのが上策です。
ダーネブルグに兵を集めてしまっては、それこそ敵の思う壺です」
「何を言う。わしの決定に逆らうのか!」
「しかし、…」
「うるさい。貴公は黙ってわしの命令を聞いておればよいのだ」
「承知いたしました」
──これで貴族軍も終わりか…。せめて侯爵には生き残って欲しいのだが…
そうしてスベンはダーネブルグ砦の周りの小砦に分散していた兵力をダーネヴェルク砦に結集し、一大決戦の準備を始めた。
──こうまで思いどおりに動いてくれるとは楽だな…
フィリップはフリッツに対し、予定どおりシュレースヴィヒ公国軍の出動を促した。
公国軍はダーネブルグ砦を包囲すると、敵の補給線を断つ戦術に出た。こちらからは決して攻め込まない。
戦闘力が必ずしも高くないシュレースヴィヒ公国軍でも補給線を断つぐらいは容易にできる。
スベンはヨナスに対応を問うた。
「どうする。こうなったら一気に砦から打って出るか?」
「敵は正面から戦うつもりはありません。のらりくらりとかわすでしょう。その間に手薄になったダーネブルグ砦を奪回されては我々が拠点を失ってしまいます」
「では、どうすればいいのか?」
「敵と交渉しまししょう。完敗していない今なら、シュレースヴィヒ公の寛大な処置も期待できます」
「事実上の降伏ではないか。そんな恥知らずなことはできん」
「ですが、侯爵…」
そのまま1月、2月と時は過ぎ、ダーネブルグ砦からは貴族の脱走が相次いだ。
残る数も当初の3分の1を切っていた。
一方、スベンは現実から逃避するように毎日宴会を開き、酒に逃避する日々を送っていた。
──兵糧を少しでも節約せねばならないというのに…
そんなスベンをヨナスは苦々しい思いで見つめていた。
酒の勢いでスベンが言った。
「こうなったら皆で打って出ようではないか。貴族として名誉ある死に花を咲かせるのだ」
「そうだ。今こそデンマーク貴族のプライドを見せてやりましょうぞ」
──ここまで付いてきた忠臣をみな道連れにするというのか。もはや終わりだ…
ヨナスは覚悟を決めた。
翌日。ヨナスが真剣な表情でスベンを訪ねてきた。
ヨナスの後ろには酒が満たされた小さな盃を載せた盆をもった執事が控えている。
スベンはその意味を察したようだ。
「ヨナス。まさか…」
「侯爵。こうなってはもう我々の勝ち目はありません。公爵の命をもって付いてきた者たちの助命嘆願を願う以外にありません。お覚悟を…」
「いや。まだなにか方法があるだろう。何か見落としていないか?」
「今更命がおしいとおっしゃいますか。昨日は死に花をさかせるとおっしゃっていたではありませんか」
「いや。それは言葉の綾と言うか、何と言うか…」
「ここにあるのは毒酒です。これをお飲みいただければさほどの苦しみなく楽に死ねます」
「いやだ。死にたくない!」
ヨナスが合図をすると控えていた部下たちが逃げようとするスベンを押さえつけ、毒酒を無理やり飲ませた。
毒酒の威力で数秒もするとスベンは絶命した。
──侯爵。タダでは逝かせませぬぞ…
◆
数日後。降伏した貴族たちの引見が行われた。
シュレースヴィヒ公フリッツのほか、後見としてロートリンゲン公フリードリヒが同席することとなった。
何人かの貴族の引見が終わり、ヨナスの番が来た。
「次。ヨナス・メシュヴィツ男爵これへ」
「はっ」
ヨナスは手に桶を抱えている。
引見の部屋に控えていたシュレースヴィヒ公国の重臣たちが小声で話している。
「あれは何だ?」
「侯爵の首の塩漬けらしい」
「何っ! 東の国の蛮族でもあるまいし、そこまでして自分の手柄を見せびらかしたいのか。何と下劣な!」
ヨナスは桶を床に置くと首を取り出す動作を始めた。
と思った次の瞬間、桶に隠してあった鉄砲を素早くフリードリヒに向けて発砲した。
当時普及している鉄砲は丸い鉛玉を込めた単発式の単筒であり、極めて命中精度は低かった。だがヨナスには他にフリードリヒに復讐する手がなかったのである。
アダルベルトがヨナスの動作を見てフリードリヒの前に進み出るが一瞬遅かった。
弾丸はアダルベルトの左頬をかすり弾道が変わった。
不幸にもフリードリヒの眉間めがけて一直線に向かっている。
ちょうどヨナスの待遇についてフリッツに助言をしようと彼に視線を向けていたタイミングだったため、フリードリヒはフリードリヒで避ける動作が遅れた。
すわ命中かと思われたその時、弾丸は消えていた。
気がつくと弾丸はフリードリヒの横に控えていたアスタロトの手の中にあった。
「いつも馬鹿にしておるが、わらわもたまには役に立つであろう。まったく、あんな見え見えな罠に惑わされるとはなさけないのう」
「ああ助かった。君の大切さを思い知ったよ」
アスタロトも本当にやばいときは助けてくれるのだと認識を新たにするフリードリヒだった。
当のヨナスは近くに控えていた衛兵が取り押さえたが、口に含んでいた毒薬で自害してしまった。
「おまえ…さえ…いなければ…」
それが最後の台詞だった。
最後までフリードリヒを呪っていた。ある意味忠臣といえば忠臣だ。
アダルベルトの頬の傷はフリードリヒがヒールの魔法ですぐさま治したが、なぜか傷が残ってしまった。
あの弾丸にはヨナスの呪いでも込められていたのであろうか。
フリードリヒはしばらくの間アダルベルトの傷を見るたびに心が痛んだが、当の本人は忠誠の証だとむしろ誇らしげに自慢していた。
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