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第4章 国主編
第95話 ロンギヌスの槍 ~槍は独り歩きする~
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ロンギヌスの槍の取扱いについてフリードリヒは迷っていた。
が、(今まで長い間宝物庫でひっそりと眠っていたのだから、また宝物庫の中で死蔵しても寂しいだろう)と思い、玉座の間に他の宝物などとともに飾ることにした。
ザクセン家はオットー大帝の弟の家系が代々続いたもので300年近い由緒ある家柄である。
そのため、玉座の間には王位を権威付けする事物が多く飾られていたので、その中にひっそりと紛れ込ませれば目立たないだろうと思ったのだ。
しかし、その認識は甘かった。
ミカエルも言っていたではないか「何某かの神秘的な力は宿している」と…
最初に気づいたのは軍務卿のレオナルト・フォン・ブルンスマイアーだった。
「閣下。見慣れない槍がありますが、あれは?」
──早速目をつけられたか…
しかし、聖墳墓教会から黙って失敬してきた、早い話が盗んできたとは言えない。
「あれは冒険者時代に某所で発見したものだ。何やら由緒ありそうなものなので一緒に飾ってやろうと思ったまでだ。死蔵しておくのも可哀そうだからな」
「由緒あるものでしたか、確かに神秘的な力を感じます…」
さすがにブルンスマイアー卿は鋭い。ちょっと目立ってしまったかな…
その後も臣下の中に(槍に神秘的な力を感じる)と言うものが続出した。
そのうちに噂が独り歩きしはじめた。
「あの槍は本物のロンギヌスの槍で、これを入手したことを切っ掛けにロートリンゲン公は破竹のような昇進を遂げたのだ。そうでなければこんな前代未聞の昇進はあり得ない」
──確かに。物語としては面白いが…
しかし、冒険者時代に入手したと言ってしまった手前、手に入れたのはつい最近などと本当のことは言えない。
こんなこともあった。
ケルン大司教からの使者を引見していたところ、従者の一人が突然、恍惚とした状態となり、気を失ってしまった。
その者の話によると聖ロンギヌスを幻視したという。
確かに厳しい修行を経て霊格を高めている僧侶ならば、そういうこともあり得るかもしれない。
ロンギヌスは白内障を患っていたが、槍を刺した際に滴ったイエスの血がその目に落ちると視力を取り戻し、それを契機として彼は洗礼を受け、後に聖者聖ロンギヌスと言われるようになったという。
この話が伝わると、私も聖ロンギヌスを視たとか、何某かの神秘体験をしたと言い出すものが続出した。
──人の思い込みというものは恐ろしいものだな…
時代は聖遺物信仰の最盛期である。
かいばおけ、十字架などのイエスの生涯の出来事に関連する遺物や聖人の骨、髪、頭蓋骨、四肢などの遺物が崇敬され。これを求めて巡礼者たちが列をなしていた。
そのうちに巡礼者たちがロートリンゲン公の槍を見たいと言い始め、これに耐えきれなくなった教会がフリードリヒに申し入れてきた。
常に手元に置いておく必要がある物でもないので、フリードリヒはナンツィヒの大聖堂に飾り、巡礼者に公開することにした。
しかし、こうなってくると窃盗などの心配がある。それなりの番人が必要だ
宝物の番人と言えばあいつか…
「グリュンキント。いるか」
フリードリヒはスプリガンのグリュンキントを呼んだ。ゼウスのダンジョンを自主的に守っていた例の奴だ。
「主様。急なお召し。どうされました?」
「おまえに守ってもらいたい宝がある。この世に二つとない宝だ」
「ほう。それはぜひやらせてくだされ」
こうしてグリュンキントとその手下のスプリガンたちがロンギヌスの槍を守ることとなった。
大聖堂の者は、皺だらけで醜く体が小さい老人を見て「このような者で大丈夫なのですかな?」と無理もない反応を示したが、大公の命令だということで渋々受け入れた。
大聖堂に展示した効果はすぐに表れた。
巡礼者が多数訪れ、その中に神秘体験をしたという者が出始めると、評判が評判を呼び、ナンツィヒの大聖堂には巡礼者が殺到した。結果、ナンツィヒは一大観光スポットにもなることとなった。
◆
これに対し、皇帝は無視を決め込んだ。
確かにフリードリヒは一言もロンギヌスの槍だと言ったことはなく、あくまでも噂が独り歩きしているだけだからだ。
そんなことにいちいち反応していては皇帝の権威に関わる。
だが、ローマ教皇庁は違った。
正式な調査団を派遣してきたのだ。
ホノリウスⅢ世は血眼になってロンギヌスの槍を探している。藁にも縋りたい気持ちなのだろう。
調査団から質問を受ける。
「世間ではナンツィヒの大聖堂にある槍はロンギヌスの槍だと評判だが本当なのか?」
「あれは冒険者時代に某所で発見したものです。本当かと言われても私には判断しかねます」
「某所と言うのは?」
「聖墳墓教会です」
質問をしている使者の顔色が変わった。
「ほう。では本物の可能性もあるということか?」
「ただ、あれは槍というか、聖墳墓教会に落ちていた赤錆の塊だったのです。
教会の者に『記念に持ち帰りたい』と言ったところ、『そのようなガラクタは好きにして良い』と言われました。
持ち帰ってから大きさ的に槍の穂先にちょうどいいと思い槍に加工したまでです」
使者の顔が落胆に変わる。
「しかし、あれを見て神秘体験をしたという者が多数おるが?」
「赤錆といっても、長年にわたり聖墳墓教会に置かれていたものです。それで若干の聖属性を帯びたのではないでしょうか」
「そうかもしれん。しかし教皇の命令なのでな。いちおう見分はさせてもらう」
「どうぞ。ご存分に」
調査団が調査を始めた。
「この拵えは?」
「拵えと鞘はごく最近整備したものです。持ち帰ったのは穂先だけですね」
調査団の注目は穂先に集まる。
だが、大きさも小さいし、鉄の質も悪い。調査団の表情は失望に変わった。
「こんな見すぼらしい槍がロンギヌスの槍であるはずがない。もう良い。わかった。」
──馬鹿なやつ。聖槍は聖槍として作られたものではなく、イエスを刺したから聖槍となったのだ。物としては千年以上前のローマの一般兵の槍だから見すぼらしいのはあたりまえなのに…
調査団の結論は「ロートリンゲン公の槍は聖槍ではない」というものだった。教皇庁はその旨を公式に発布した。
それを受けて一時巡礼者の数が減ったが、程なくしてもとに戻った。
何しろ本物の聖槍なのだ、その後も神秘体験をしたという者は後を絶たない。それが何よりの証拠となった。
◆
ある日。
ベルゼブブがフリードリヒに言った。なにやらいたずらっぽい目をしている。
「主殿。実は主殿に会いたいという御仁がおるのだが、お会いになるか?」
「誰だ。その者は?」
「有名な方ですから、会えばわかります」
「有名な方? よかろう。許す」
すると魔法陣が床に浮き上がり、黒い霧が立ち込めるとその中から見目麗しい男性が姿を現した。背中には12枚の羽を生やした天使の姿をしている。
「地獄の主。ルシファー様です」
ベルゼブブが紹介する。
──堕天して地獄に落ちてから醜くなったという説もあるが嘘だったか。ミカエルの兄弟というだけあって面影が似ているな。
「我の仲間が其方に可愛がられていると聞いてな。ご機嫌伺いに来た」
「それはご丁寧にどうも…」
先ほどからラジエルの書で得た知識を使って使役することを何度も試みているがレジストされている。
当のルシファーは涼しい顔だ。
──くそっ。半人前の神では地獄の主は使役できないってか…
「では、可愛がってくれたお礼をしよう」
ルシファーは剣を抜くといきなり切りかかってきた。
咄嗟にオリハルコンの剣を抜き受け流した。
──これは久しぶりに強そうな敵だな。
フリードリヒは精神を集中して半眼になると気で身体強化する。
直後、凄まじい剣の打ち合いが始まる。
ルシファーは12枚の羽を使って器用に防御してくるので剣撃が全く通らない。
オリハルコンではだめか、ならば…
フリードリヒはルシファーからいったん距離をとると、マジックバッグからエクスカリバーとイージスの盾を取り出して構えた。
ちょっとだけ期待したがイージスの盾に取り付けられているメデューサの石化はレジストされる。
「ほほう。面白い武器を持っているな。そうでなければつまらない」
フリードリヒがエクスカリバーを鞘走ると炎の柱が立ち上がる。
が、ルシファーは少しも怯むところがない。
再び凄まじい剣の打ち合いが始まる。
しかし、エクスカリバーでもルシファーの羽は傷つけられない。
こうなったら魔法か。
フリードリヒは光魔法のライトジャベリンを百本まとめて打ち込んだ。
だが、ルシファーの羽を少しも傷つけられない。
こうなったら周りの被害などかまっていられない。
フリードリヒは光の極大魔法ホワイトノヴァを最大の魔力をこめて放った。
眩い閃光が辺りを包む。
が、それでもダメだった。
──万事休すか…
フリードリヒが諦めかけた時、ある物が頭にうかんだ…というか呼ばれたという感じだ。
──こういう時こそのあれではないか。
フリードリヒは物体引き寄せでロンギヌスの槍を引き寄せた。
ルシファーの顔色が変わる。
「それは…ロンギヌスの槍…」
普段はあまり使用しないが、フリードリヒは小さい頃から槍の訓練もしている。
攻撃してみると、ルシファーの羽にも攻撃が通るではないか。
──少しバカにしていたが、ごめんな。
こと悪魔に対しては大した威力ではないか。
ルシファーの羽がだんだんとボロボロになっていく。
さて、これから本格的にボディも攻撃するかと思った時…
「はっはっはっはっ」
ルシファーがいきなり笑い始めた。
「まいった。降参だ。それにしてもロンギヌスの槍にまで選ばれているとはな。誤算だった」
「選ばれる?」
「なんだ。其方。知らぬのか。ロンギヌスの槍は使い手を選ぶのだ。並みの者では槍に拒否されて手にすることもできない」
──そうなんだ。拒否されないからぜんぜんわからなかった。
「いやあ。愉快。愉快。地上にこの私を負かす者がいるとは思わなかった」
「だから主殿を侮るなと申し上げたでござろう」
とベルゼブブが言う。
「まったくだ。愉快ついでに、この私を部下にしてくれぬか。地獄にばかりいては退屈でな。少しは面白い経験ができそうだ」
──確かに。こんなに強い部下がいたら心強くはあるが、ラジエルの書で使役できないのはどうもな…
「それはやぶさかではないが…」
「なんだ。使役できないことを気にしているのか。では誓約紋を刻むがよい。レジストしないから」
誓約紋とは黒魔術の呪いの一種で、誓約を違えた場合にその者の命を奪うものだ。
「わかった。そうさせてもらう」
ルシファーが服を脱ぐと、ローマ時代の銅像のような均整の取れた体つきにちょっとだけドキリとした。
フリードリヒは気を取り直して、ルシファーの左胸に誓約紋を刻む。本人がレジストしないので簡単だった。
「これで君は私の部下だ」
「ああ。よろしくな」
◆
その後。
人族に変化したルシファーに城を案内しているとミカエルに出会った。
──そういえば兄弟なんだった。真っ先に案内すべきだったか…
「あ、兄上!?」
「ミカエルなのか? おまえなんでこんなところに?」
「わらわはここにいる旦那様の愛妾をやっておる」
「愛妾って、おまえ意味をわかって…」
ミカエルは自慢そうに大きくなったおなかを擦っている
「おまえ…俺の妹にあんなことやこんなことまでしたうえに、子供まで孕ませるとは…」
ルシファーはフリードリヒを睨んで拳を握っている。
フリードリヒの顔を冷汗がつたう。
だが、ルシファーはふと冷静になった。
──待てよ。だがなぜ神の怒りを買わないのだ…
(不思議な男だ)とルシファーはますますフリードリヒに興味が湧くのだった。
が、(今まで長い間宝物庫でひっそりと眠っていたのだから、また宝物庫の中で死蔵しても寂しいだろう)と思い、玉座の間に他の宝物などとともに飾ることにした。
ザクセン家はオットー大帝の弟の家系が代々続いたもので300年近い由緒ある家柄である。
そのため、玉座の間には王位を権威付けする事物が多く飾られていたので、その中にひっそりと紛れ込ませれば目立たないだろうと思ったのだ。
しかし、その認識は甘かった。
ミカエルも言っていたではないか「何某かの神秘的な力は宿している」と…
最初に気づいたのは軍務卿のレオナルト・フォン・ブルンスマイアーだった。
「閣下。見慣れない槍がありますが、あれは?」
──早速目をつけられたか…
しかし、聖墳墓教会から黙って失敬してきた、早い話が盗んできたとは言えない。
「あれは冒険者時代に某所で発見したものだ。何やら由緒ありそうなものなので一緒に飾ってやろうと思ったまでだ。死蔵しておくのも可哀そうだからな」
「由緒あるものでしたか、確かに神秘的な力を感じます…」
さすがにブルンスマイアー卿は鋭い。ちょっと目立ってしまったかな…
その後も臣下の中に(槍に神秘的な力を感じる)と言うものが続出した。
そのうちに噂が独り歩きしはじめた。
「あの槍は本物のロンギヌスの槍で、これを入手したことを切っ掛けにロートリンゲン公は破竹のような昇進を遂げたのだ。そうでなければこんな前代未聞の昇進はあり得ない」
──確かに。物語としては面白いが…
しかし、冒険者時代に入手したと言ってしまった手前、手に入れたのはつい最近などと本当のことは言えない。
こんなこともあった。
ケルン大司教からの使者を引見していたところ、従者の一人が突然、恍惚とした状態となり、気を失ってしまった。
その者の話によると聖ロンギヌスを幻視したという。
確かに厳しい修行を経て霊格を高めている僧侶ならば、そういうこともあり得るかもしれない。
ロンギヌスは白内障を患っていたが、槍を刺した際に滴ったイエスの血がその目に落ちると視力を取り戻し、それを契機として彼は洗礼を受け、後に聖者聖ロンギヌスと言われるようになったという。
この話が伝わると、私も聖ロンギヌスを視たとか、何某かの神秘体験をしたと言い出すものが続出した。
──人の思い込みというものは恐ろしいものだな…
時代は聖遺物信仰の最盛期である。
かいばおけ、十字架などのイエスの生涯の出来事に関連する遺物や聖人の骨、髪、頭蓋骨、四肢などの遺物が崇敬され。これを求めて巡礼者たちが列をなしていた。
そのうちに巡礼者たちがロートリンゲン公の槍を見たいと言い始め、これに耐えきれなくなった教会がフリードリヒに申し入れてきた。
常に手元に置いておく必要がある物でもないので、フリードリヒはナンツィヒの大聖堂に飾り、巡礼者に公開することにした。
しかし、こうなってくると窃盗などの心配がある。それなりの番人が必要だ
宝物の番人と言えばあいつか…
「グリュンキント。いるか」
フリードリヒはスプリガンのグリュンキントを呼んだ。ゼウスのダンジョンを自主的に守っていた例の奴だ。
「主様。急なお召し。どうされました?」
「おまえに守ってもらいたい宝がある。この世に二つとない宝だ」
「ほう。それはぜひやらせてくだされ」
こうしてグリュンキントとその手下のスプリガンたちがロンギヌスの槍を守ることとなった。
大聖堂の者は、皺だらけで醜く体が小さい老人を見て「このような者で大丈夫なのですかな?」と無理もない反応を示したが、大公の命令だということで渋々受け入れた。
大聖堂に展示した効果はすぐに表れた。
巡礼者が多数訪れ、その中に神秘体験をしたという者が出始めると、評判が評判を呼び、ナンツィヒの大聖堂には巡礼者が殺到した。結果、ナンツィヒは一大観光スポットにもなることとなった。
◆
これに対し、皇帝は無視を決め込んだ。
確かにフリードリヒは一言もロンギヌスの槍だと言ったことはなく、あくまでも噂が独り歩きしているだけだからだ。
そんなことにいちいち反応していては皇帝の権威に関わる。
だが、ローマ教皇庁は違った。
正式な調査団を派遣してきたのだ。
ホノリウスⅢ世は血眼になってロンギヌスの槍を探している。藁にも縋りたい気持ちなのだろう。
調査団から質問を受ける。
「世間ではナンツィヒの大聖堂にある槍はロンギヌスの槍だと評判だが本当なのか?」
「あれは冒険者時代に某所で発見したものです。本当かと言われても私には判断しかねます」
「某所と言うのは?」
「聖墳墓教会です」
質問をしている使者の顔色が変わった。
「ほう。では本物の可能性もあるということか?」
「ただ、あれは槍というか、聖墳墓教会に落ちていた赤錆の塊だったのです。
教会の者に『記念に持ち帰りたい』と言ったところ、『そのようなガラクタは好きにして良い』と言われました。
持ち帰ってから大きさ的に槍の穂先にちょうどいいと思い槍に加工したまでです」
使者の顔が落胆に変わる。
「しかし、あれを見て神秘体験をしたという者が多数おるが?」
「赤錆といっても、長年にわたり聖墳墓教会に置かれていたものです。それで若干の聖属性を帯びたのではないでしょうか」
「そうかもしれん。しかし教皇の命令なのでな。いちおう見分はさせてもらう」
「どうぞ。ご存分に」
調査団が調査を始めた。
「この拵えは?」
「拵えと鞘はごく最近整備したものです。持ち帰ったのは穂先だけですね」
調査団の注目は穂先に集まる。
だが、大きさも小さいし、鉄の質も悪い。調査団の表情は失望に変わった。
「こんな見すぼらしい槍がロンギヌスの槍であるはずがない。もう良い。わかった。」
──馬鹿なやつ。聖槍は聖槍として作られたものではなく、イエスを刺したから聖槍となったのだ。物としては千年以上前のローマの一般兵の槍だから見すぼらしいのはあたりまえなのに…
調査団の結論は「ロートリンゲン公の槍は聖槍ではない」というものだった。教皇庁はその旨を公式に発布した。
それを受けて一時巡礼者の数が減ったが、程なくしてもとに戻った。
何しろ本物の聖槍なのだ、その後も神秘体験をしたという者は後を絶たない。それが何よりの証拠となった。
◆
ある日。
ベルゼブブがフリードリヒに言った。なにやらいたずらっぽい目をしている。
「主殿。実は主殿に会いたいという御仁がおるのだが、お会いになるか?」
「誰だ。その者は?」
「有名な方ですから、会えばわかります」
「有名な方? よかろう。許す」
すると魔法陣が床に浮き上がり、黒い霧が立ち込めるとその中から見目麗しい男性が姿を現した。背中には12枚の羽を生やした天使の姿をしている。
「地獄の主。ルシファー様です」
ベルゼブブが紹介する。
──堕天して地獄に落ちてから醜くなったという説もあるが嘘だったか。ミカエルの兄弟というだけあって面影が似ているな。
「我の仲間が其方に可愛がられていると聞いてな。ご機嫌伺いに来た」
「それはご丁寧にどうも…」
先ほどからラジエルの書で得た知識を使って使役することを何度も試みているがレジストされている。
当のルシファーは涼しい顔だ。
──くそっ。半人前の神では地獄の主は使役できないってか…
「では、可愛がってくれたお礼をしよう」
ルシファーは剣を抜くといきなり切りかかってきた。
咄嗟にオリハルコンの剣を抜き受け流した。
──これは久しぶりに強そうな敵だな。
フリードリヒは精神を集中して半眼になると気で身体強化する。
直後、凄まじい剣の打ち合いが始まる。
ルシファーは12枚の羽を使って器用に防御してくるので剣撃が全く通らない。
オリハルコンではだめか、ならば…
フリードリヒはルシファーからいったん距離をとると、マジックバッグからエクスカリバーとイージスの盾を取り出して構えた。
ちょっとだけ期待したがイージスの盾に取り付けられているメデューサの石化はレジストされる。
「ほほう。面白い武器を持っているな。そうでなければつまらない」
フリードリヒがエクスカリバーを鞘走ると炎の柱が立ち上がる。
が、ルシファーは少しも怯むところがない。
再び凄まじい剣の打ち合いが始まる。
しかし、エクスカリバーでもルシファーの羽は傷つけられない。
こうなったら魔法か。
フリードリヒは光魔法のライトジャベリンを百本まとめて打ち込んだ。
だが、ルシファーの羽を少しも傷つけられない。
こうなったら周りの被害などかまっていられない。
フリードリヒは光の極大魔法ホワイトノヴァを最大の魔力をこめて放った。
眩い閃光が辺りを包む。
が、それでもダメだった。
──万事休すか…
フリードリヒが諦めかけた時、ある物が頭にうかんだ…というか呼ばれたという感じだ。
──こういう時こそのあれではないか。
フリードリヒは物体引き寄せでロンギヌスの槍を引き寄せた。
ルシファーの顔色が変わる。
「それは…ロンギヌスの槍…」
普段はあまり使用しないが、フリードリヒは小さい頃から槍の訓練もしている。
攻撃してみると、ルシファーの羽にも攻撃が通るではないか。
──少しバカにしていたが、ごめんな。
こと悪魔に対しては大した威力ではないか。
ルシファーの羽がだんだんとボロボロになっていく。
さて、これから本格的にボディも攻撃するかと思った時…
「はっはっはっはっ」
ルシファーがいきなり笑い始めた。
「まいった。降参だ。それにしてもロンギヌスの槍にまで選ばれているとはな。誤算だった」
「選ばれる?」
「なんだ。其方。知らぬのか。ロンギヌスの槍は使い手を選ぶのだ。並みの者では槍に拒否されて手にすることもできない」
──そうなんだ。拒否されないからぜんぜんわからなかった。
「いやあ。愉快。愉快。地上にこの私を負かす者がいるとは思わなかった」
「だから主殿を侮るなと申し上げたでござろう」
とベルゼブブが言う。
「まったくだ。愉快ついでに、この私を部下にしてくれぬか。地獄にばかりいては退屈でな。少しは面白い経験ができそうだ」
──確かに。こんなに強い部下がいたら心強くはあるが、ラジエルの書で使役できないのはどうもな…
「それはやぶさかではないが…」
「なんだ。使役できないことを気にしているのか。では誓約紋を刻むがよい。レジストしないから」
誓約紋とは黒魔術の呪いの一種で、誓約を違えた場合にその者の命を奪うものだ。
「わかった。そうさせてもらう」
ルシファーが服を脱ぐと、ローマ時代の銅像のような均整の取れた体つきにちょっとだけドキリとした。
フリードリヒは気を取り直して、ルシファーの左胸に誓約紋を刻む。本人がレジストしないので簡単だった。
「これで君は私の部下だ」
「ああ。よろしくな」
◆
その後。
人族に変化したルシファーに城を案内しているとミカエルに出会った。
──そういえば兄弟なんだった。真っ先に案内すべきだったか…
「あ、兄上!?」
「ミカエルなのか? おまえなんでこんなところに?」
「わらわはここにいる旦那様の愛妾をやっておる」
「愛妾って、おまえ意味をわかって…」
ミカエルは自慢そうに大きくなったおなかを擦っている
「おまえ…俺の妹にあんなことやこんなことまでしたうえに、子供まで孕ませるとは…」
ルシファーはフリードリヒを睨んで拳を握っている。
フリードリヒの顔を冷汗がつたう。
だが、ルシファーはふと冷静になった。
──待てよ。だがなぜ神の怒りを買わないのだ…
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