転生ジーニアス ~最強の天才は歴史を変えられるか~

普門院 ひかる

文字の大きさ
125 / 215
第4章 国主編

第107話 謎の錬金術師 ~サンジェルマン伯爵~

しおりを挟む
 最近、薔薇十字団ローゼンクロイツァーの動きを聞かない。
 いくらなんでも、そろそろ動きがないとおかしい。

 幸いに、今日はローテーションが休みの日。
 奴に問いただしてやろう。

 案の定、フリードリヒの部屋の窓をたたく者がいる。
「アリーセか?」
「はい」

 ──えっ! てっきりエリーザベトかと…

 窓を開けてあげるとアリーセは身軽な動作で部屋に入ってきた。

「どうしたアリーセ? 何か情報か?」
「いえ。閣下にお願いがあって来ました。
 もう、エリーザベトに会うのはおやめください。彼女は危険です。もし閣下に何かがあったらと思うと私は…」

「もちろん油断したりはしない。エリーザベトは薔薇十字団ローゼンクロイツァーの貴重な情報源なのだ」
「警備の者がいる前で普通に謁見えっけんすればいいではありませんか。なぜプライベートでお会いになるのです?」

「彼女の目的は私の体だからな。普通に謁見えっけんは無理だと思うが…」
「でも…私は我慢ならないのです」

 そういうとアリーセはフリードリヒの胸に飛び込んできた。

「私にできることは何でもいたします。ですから…」
「女の子が『なんでもする』なんて言っちゃだめだ。あんなことや、こんなことをされてしまうぞ。自分を大切にせねば」

「閣下にならあんなことや、こんなことでも…喜んでいたします」

 アリーセは淡々と冷静に仕事をこなすイメージがあったが…

 ──また今回も俺が鈍かったということか…

「君の気持ちは理解した…」

 そこで、横から声がかかった。
「ちょっとお二人さん。あたしが来ているっていうのに、見せつけてくれるねえ」

 いつの間にかエリーザベトが来ていた。

「アリーセ。悪いが今日のところは…」
「閣下…」
 アリーセは今にも泣きだしそうだ。

「本当にすまない。この埋め合わせは後で必ず…」
「わかりました」
 そう言うと彼女は素早く部屋から姿を消した。
 さすが隠密の訓練をしているだけある。

「どうやらあたしの体を気に入ってくれてるみたいだねえ」
 エリーザベトが少し皮肉を込めた口調で言った。

「そうではない。薔薇十字団ローゼンクロイツァーの情報が聞きたいだけだ」
「またあ。強がっちゃって…顔に『やりたい』って書いてあるよ」

 半ば図星なだけに赤面してしまうフリードリヒ。

「その話は後だ。で、どうなのだ? 薔薇十字団ローゼンクロイツァーの方は?」
「けっ。つれないねえ。薔薇十字団ローゼンクロイツァーの方はダーリンにことごとく邪魔されるんで、狙いをフランスに変えたみたいだねえ」

「具体的にどういうことだ?」
「さあ。あたしはフランス語ができないから直接かかわってはいないのさ。もし荒事あらごとがあれば駆り出させるだろうけどねえ」

「そうか…」
 ブランシュのことが心配だが、これだけの情報を伝えても心配させるだけだろう。もう少し情報収集が必要だ。

「ところでぇ。ちゃんとしゃべったんだからサービスしてよね。ダーリン」
「ああ。わかっている」

 その日はエリーザベトの要求が一段と激しかった気がするが、気のせいか…

 一方、アリーセの方は、彼女の気持ちに応えて愛妾あいしょうにすることにした。
 身近なところからのライバル登場に妻・愛妾あいしょうたちは驚きを隠せなかったようだった。

    ◆

 フィリップ・ユルプルは、フランス王フィリップⅡ世と3番目の妃アニェス・ド・メラニーの息子であるが、その結婚は無効とされたため、息子フィリップも当初庶子とされた。
 母の死後、教皇庁により実姉マリーとともに嫡子と認められたものの王子としての地位は不安定であった。

 彼は、ブローニュ、モルタン、オマール、ダンマルタンの女伯であったマティルド・ド・ダンマルタンと結婚し、妻の共同統治者としてこれらの伯位を得た。

 兄のルイⅧ世が早世し、一時期は王位を期待したが、結局王位は息子のルイⅨ世のところに転がり込み、その母のブランシュが摂政せっしょうということになった。
 この事態にフィリップは不満だった。

「ブローニュ伯などといっても所詮は閑職ではないか」
 共同統治者といってもマティルドに実質的な権限があり、フィリップは多分にお飾りの要素が強かった。
 その状況に余計にフィリップは不満を募らせていた。

 そんな時、臣下の一人がフィリップに進言した。
 サンジェルマン伯という不思議な人物がフランスに来ているので一度招いみてはどうかというのである。

「そのサンジェルマン伯とやらはどのような者なのだ?」
「聞くところによると、恐ろしく博学な人物で、錬金術に関する知識は他に並ぶ者がなく、黄金や不老長寿の薬まで造っており、そのうえ途方もない大金持ちということで、社交界の台風の目となっているとか…」

「それは面白そうな人物だな。一度会ってみよう」
「承知いたしました」

    ◆

 フリードリヒのもとにアリーセが報告に来た。
「パリにサンジェルマン伯という謎の錬金術師が滞在しており、社交界でもてはやされているようです。何でも黄金や不老長寿の薬まで作っているとか…」

 サンジェルマン伯といえば、前世の記憶によると謎の錬金術師として名高い男だったはずだ。自らは4千歳と豪語し、キリストやシバの女王と親しくしていたとか、アレクサンダー大王がバビロンの都に入場するのを目撃したという話をしては人々をけむに巻いた。実際、革命前にマリー・アントワネットに手紙を送ったなど時代を越えた目撃証言も多々あり、現在でも生きていると信じる者がいるほどである。

 また、実際にサンジェルマン伯を40年前に目撃したという人物もあらわれた。その姿は現在と少しもかわらず、小柄で40代半ばの洗練された物腰の美男子だったという。

 だが、前世の記憶によると、サンジェルマン伯は、薔薇十字団ローゼンクロイツァーともつながりのあるフィクサーだったという説もある。警戒するに越したことはない。

 ブランシュとの文通は政治の話はしないことが不文律となっていたが、このときばかりは彼女へ「サンジェルマン伯という人物には気を許さないように」という手紙を書いた。

 ──エリーザベトの話もあるし気になる。薔薇十字団ローゼンクロイツァーがサンジェルマン伯を使って何かをたくらんでいるということなのか…

    ◆

 翌日の夕刻。薄暗い中、人目を忍んでサンジェルマン伯爵のもとを訪れる男がいた。薔薇十字団ローゼンクロイツァーのヴェルンハルトである。

「首尾はどうなっているのだ」
「十分な餌は撒いてある。今は獲物が食いつくのを待っているところだ」

「団長も首を長くして待っておられる。我慢にも限度というものがあるぞ」
「大物を釣り上げるには忍耐も必要だ。そのようなこともわからないのか?」

「そのようなことを言ってけむに巻こうとしても無駄だ。とにかく目に見える成果をだすことだな」
「成果ばかり求めおって、雅のない男だな」

「とにかく頼んだぞ」
「是非もない」

    ◆

 この日。サンジェルマン伯はフィリップ・ユルプルのもとを訪ねていた。
「これはよく来てくれた。待ちかねたぞ」

 サンジェルマン伯は、次の瞬間、ポケットに手を突っ込むとひとつかみのダイヤモンドをテーブルの上に無造作にばら撒いてこう言った。
「どうぞお納めください。殿下への贈り物です」

 フィリップは目を見張った。
「いったいどこでこんな素晴らしいものを?」

 サンジェルマン伯は素っ気なく答える。
「私が造ったものです」

 フィリップは感動した。しかも「ブローニュ伯」ではなく、わざわざ「殿下」という敬称を用いたということは、フィリップの王位継承権を認めているという証拠だ。

 ──この男をうまく使えば王位も夢ではないかもしれない…

 フィリップは、長い間抑圧してきた欲望が沸々とたぎってくるのを抑えきれなくなっていた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜

橘 霞月
ファンタジー
異世界へと転生した有名料理人は、この世界では最強でした。しかし自分の事を理解していない為、自重無しの生活はトラブルだらけ。しかも、いつの間にかハーレムを築いてます。平穏無事に、夢を叶える事は出来るのか!?

35年ローンと共に異世界転生! スキル『マイホーム』で快適5LDK引きこもり生活 ~数学教師、合気道と三節根で異世界を論破する~

月神世一
ファンタジー
紹介文 「結婚しよう。白い壁の素敵なお家が欲しいな♡」 そう言われて35年ローンで新築一戸建て(5LDK)を買った直後、俺、加藤真守(25歳)は婚約者に捨てられた。 失意の中、猫を助けてトラックに轢かれ、気づけばジャージ姿の女神ルチアナに異世界へと放り出されていた。 ​「あげるのは『言語理解』と『マイホーム』でーす」 ​手に入れたのは、ローン残高ごと召喚できる最強の現代住宅。 電気・ガス・水道完備。お風呂は全自動、リビングは床暖房。 さらには貯めたポイントで、地球の「赤マル」から「最新家電」までお取り寄せ!? ​森で拾った純情な狩人の美少女に胃袋を掴まれ、 罠にかかったポンコツ天使(自称聖騎士)が居候し、 競馬好きの魔族公爵がビールを飲みにやってくる。 ​これは、借金まみれの数学教師が、三節根と計算能力を武器に、快適なマイホームを守り抜く物語。 ……頼むから、家の壁で爪を研ぐのはやめてくれ!

過労死コンサル、貧乏貴族に転生す~現代農業知識と魔法で荒地を開拓していたら、いつの間にか世界を救う食糧大国になっていました~

黒崎隼人
ファンタジー
農業コンサルタントとして過労死した杉本健一は、異世界の貧乏貴族ローレンツ家の当主として目覚めた。 待っていたのは、荒れた土地、飢える領民、そして莫大な借金! チートスキルも戦闘能力もない彼に残された武器は、前世で培った「農業知識」だけだった。 「貴族が土を耕すだと?」と笑われても構わない! 輪作、堆肥、品種改良! 現代知識と異世界の魔法を組み合わせた独自農法で、俺は自らクワを握る「耕作貴族」となる! 元Sランク冒険者のクールなメイドや、義理堅い元騎士を仲間に迎え、荒れ果てた領地を最強の農業大国へと変えていく、異色の領地経営ファンタジー!

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...