転生ジーニアス ~最強の天才は歴史を変えられるか~

普門院 ひかる

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第4章 国主編

第130話 第6回十字軍(3) ~後始末~

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 皇帝フリードリヒⅡ世のエルサレム王戴冠後、イタリアにおいて教皇グレゴリウスⅨ世は破門皇帝に対する十字軍を宣言し、軍隊を神聖帝国に侵攻させたため、皇帝フリードリヒⅡ世はアッコンなどに代官をおいて帰国の途についた。

 帰国した皇帝フリードリヒⅡ世は、都市を占領していた教皇派の軍隊を攻撃する。

    ◆

 フリードリヒは憤慨していた。

 無血でエルサレムが返還されたのだから、これ以上のことはないではないか。
 それなのに教皇グレゴリウスⅨ世は己の権力の伸長に固執し、攻め入ってくるとは…

 フリードリヒは今回の十字軍はアイユーブ朝との本格的な戦闘は想定していなかったので、暗黒騎士団《ドンクレリッター》ではなく、領軍の第6・第7騎士団を伴ってきていた。

 しかし、領軍とてフリードリヒ式のドS訓練で鍛えられているうえ、自動小銃も装備しているのだ。並みの軍隊では歯が立つものではない。

 それに相手が神の権威を振りかざすのであれば、こちらも相応の手段で報いてやろうではないか。

 教皇派の軍隊との戦いに際し、フリードリヒはいつもどおり水魔法を使って日暈《ひがさ》を出現させた。

 その神秘的現象に敵味方双方からどよめきがあがる。

「神の加護を受けているのはどちらなのだ?」

 そして急遽《きゅうきょ》ミカエルを呼び寄せると降臨させる。
 中空にミカエルが多数の天使を伴って現れ、その背からは眩《まばゆい》後光を放っている。

「我は大天使ミカエル。
 無血でエルサレムを返還させた十字軍に刃を向けるとはなにごとぞ。
 汝《なんじ》らは大天使ミカエルが加護を与えた十字軍によって打ち滅ぼされるであろう。
 悔《く》い改《あらた》める者は武器を置いて直《ただ》ちに立ち去るがよい」

 教皇派軍の中からは「おお! 何と言うことだ」、「神の怒りを買ってしまった」などと動揺の声が聞こえる。

 武器を置いて降伏の姿勢を示す者も出始めた。

 教皇派軍の指揮官は必死にこれを押さえようとする。

「あれは敵の幻術だ! 本物であるものか。

 弓隊! 偽物を打ち落としてしまえ!」

 矢の雨がミカエルたち天使を襲う。

 しかし、フリードリヒの時空反転フィールドによってことごとく跳ね返され、逆に教皇派軍を襲った。

 教皇派軍は自軍の矢にやられ、あちこちから悲鳴が上がる。

「あれはやっぱり本物だ…矢が跳ね返えされるなんてあり得ない」

 武器を置く者が更に増えていく。

 この様子を見た皇帝は命を下した。

「敵が怯《ひる》んだ今が好機だ。全軍。突撃《アングリフ》!」

 例によって最右翼に陣取っていたフリードリヒは指示を出す。

「右翼から敵を包囲撃滅する。突撃《アングリフ》!」

 フリードリヒの騎士団は全員が騎馬である。
 その早い展開スピードに教皇派軍はついていけずにあっという間に包囲された。

「自動小銃構え。撃てファイエル!」

「なんじゃこりゃ。魔法なのか?」
 見えない何かに次々と攻撃される教皇派軍は、戸惑いを隠せない。

 程よく教皇派軍を削り、陣形が乱れたところで、突入する。

「敵を蹴散らす。全員抜刀し、我に続け! 突撃《アングリフ》!」

 教皇派軍は騎馬軍団の無停止攻撃にあっという間に蹴散らされてしまう。これが2度、3度…

 ロートリンゲン軍が相手にした教皇派軍は、散り散りになって逃走していった。

 他の戦場でも波に乗った皇帝軍が有利に戦いを進め、戦いは皇帝軍の圧倒的勝利で終わった。

 また、ミカエルの降臨により、教皇の権威に疑いを持つ者が続出した。

    ◆

 戦いに勝利した皇帝フリードリヒⅡ世は、教皇グレゴリウスⅨ世を威嚇しつつ和議を提案した。

 チュートン騎士団の仲介と皇帝側の譲歩の結果、サン・ジェルマノの和約が成立し、フリードリヒの破門が解除された。
 講和では同時に港湾都市ガエータのローマ帝国への編入などが認められ、教皇側には屈辱的な結果に終わった。

 以後、ローマ教皇の権威は徐々に衰退していくことになる。
 これは、その序曲と言ってよかった。

    ◆

 ナンツィヒに帰還したフリードリヒは、早速に妻・愛妾《あいしょう》たちから吊し上げを食っていた。

 リリムという妖艶な美女を連れ帰ったのだ、当然の帰結といえばそうだ。

 ヘルミーネが口火を切った。
「あなた! わざわざエルサレムまで行って、結果は女漁《おんなあさ》りですか?」
「もちろん、それが目的で行った訳ではない。アイユーブ朝との同盟の証《あかし》としてやむを得なくだな…」

「これ以上聞く耳は持ちません。そこにしばらく正座して反省なさい!」
「はい…」

 ──なんだか最近力関係が妻・愛妾《あいしょう》たちの方に傾いてきている気がする。

 これも数の力なのだろうか?

    ◆

 教皇ホノリウスⅢ世を暗殺したアズラエルは行き場のないまま無為にナンツィヒでの時を過ごしていた。

 フリードリヒはアズラエルのところに顔を見せた。

「君はやはり暗殺教団の人間だったのだな」
「何っ! どこでそれを?」

「アル=カーミルのところで黒衣の人物から聞いた」
「ああ。やつか。それならば仕方ない」

「ところで身の振り方は決まったのか」
「いや。まだだ」

「ならば私の食客《しょっかく》にならないか? 暗殺教団の者であれば、その資格は十分にある」
「『しょっかく』とはなんだ?」

「私が武芸などの才能のある者を客人として養う。その見返りとして有事の際は私を助ける。そういう者のことだ」
「なるほど。それもいいかもしれないな。考えておこう。
 だが、暗殺を期待しているのであれば、それはお門違いだ。暗殺の成否は教団として行う下準備で九分九厘決まる。個人としての技量など二の次だ」

「それもそうだろうな。ならば教団ごと私が召し抱えてもよいが…」
「そんな話に山の長老が乗るはずがないだろう」

「もちろん今すぐにとは言わない。だが放っておくと、いずれ暗殺教団はイル・ハン国に滅ぼされることになるだろう」
「そんなはずはない。鷲の巣城アラムートは難攻不落だ」

「モンゴル帝国を舐《な》めないことだ。圧倒的物量の前に鷲の巣城アラムートはすり潰《つぶ》されるぞ」
「そんなことって…」

「君には暗殺教団とのパイプ役をやってもらいたいと思う。考えておいてくれ」
「しかし、説得は至難の技だぞ」

「まあ。状況がひっ迫すれば考えも変わるだろう。機が熟するのを気長に待つさ」
「確かに教団が滅ぶのは私の本意ではないが…」

 結局、アズラエルはフリードリヒの食客《しょっかく》となることで落ち着いた。

    ◆

 ここは暗殺教団が拠点とするカスピ海南部のペルシャ北部にある山塞で通称を鷲の巣城アラムートという。

 暗殺教団の長老は言った。
「そうかアズラエルは捕まったか…しかし、なぜ自害せぬ?」
「そこは計りかねます」

「アズラエルから秘密が漏れるとまずいことになるな」
「容易に口を割るとも思えませぬが…消しますか?」

「いや。生きていればこそ手駒に使える可能性もある。当面は様子を見よう」
「承知いたしました」

「ロートリンゲン公フリードリヒか…それにしてもよくわからぬ男だな。教皇とつるんでいるという話も聞かぬし…」
「義侠心《ぎきょうしん》からやったということでしょうか?」

「そうやもしれぬ。とにかくロートリンゲン公の身辺を探ってみよう。できるか?」
「ローリンゲンの首都ナンツィヒにはイスラム商人が出入りしております。そこに配下のものを潜ませれば可能かと…」

「では、そうせよ」
「はっ」

 そのタイミングで使いの者がやってきた。
「黒衣卿からの親書にございます。お納めください」
「なに。黒衣卿から…」

 黒衣卿の正体はリリスである。その姿から周囲からは「黒衣卿」と呼ばれていた。
 親書には「今後対モンゴルのためロートリンゲン公フリードリヒと同盟を組む」旨が書かれていた。
 長老の顔が驚きの表情に変わる。

「長老。どうされました」
「黒衣卿が対モンゴルのためロートリンゲン公フリードリヒと同盟を組んだそうだ」

「またロートリンゲン公ですか」
「ここにきてロートリンゲン公の存在感が増しているな。調査を急がせよ」
「はっ」

    ◆

 フリードリヒのもとにアリーセが報告に来た。
「ナンツィヒに暗殺教団の手の者が入り込み。閣下のことを探っているようです」
「ほう。早くもきたか…では、奴らの様子をしっかり見張っておいてくれ。
 そうだな…仮にも相手は暗殺教団だ。何人かを眷属化して探ってくれ」

「よろしいのですか? 閣下は眷属化を嫌っておいででしたが…」
「相手が相手だからな…今度ばかりは仕方がない」

「承知いたしました。閣下も身辺にはくれぐれもご注意を」
「ああ。わかっている。私自身も気をつけるが、頼もしい警護もいるからな。大丈夫だ」

 状況は情報戦の様相を呈してきた。ここは後手に回る訳にはいかない。

 だが、初めての本格的な情報戦にし少しワクワクしているフリードリヒだった。
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