転生ジーニアス ~最強の天才は歴史を変えられるか~

普門院 ひかる

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第5章 皇帝編

第192話 暗殺教団の救出(2) ~ゲリラ戦~

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 フルシャーはフリードリヒが呼び寄せた軍隊を見て、若干失望した。

「亜人の軍隊ですか…」

「山岳戦となれば、五感に優れた亜人騎士団の十八番おはこです。この辺りの地形を知り尽くした貴軍とともに、不意を突いて一撃離脱のゲリラ戦を繰り返し奴らに嫌がらせをしてやりましょう」
「なるほど…そういうことですか。亜人の軍隊などとあなどって申し訳ない」

「それがメインですが、ほかにも…詳しくは軍議の席にて話します」
「それは軍議が楽しみですな」

 早速に鷲の巣城アラムートの幹部たちとの軍議が開かれ、フリードリヒは、その場において亜人たちの能力を活かした作戦を披露ひろうした。

 作戦は多岐にわたるが、メインはフルシャーに離した通り急峻な山岳地形を活かしたゲリラ戦だ。
 彼我ひがの戦力差は大きいものがあるが、山岳においては大軍を展開できるようなスペースはない。必然的に軍隊は山道にそった長蛇のような縦に長い戦列とならざるを得ない。

 その横腹部分を不意を突いて食い破り、速やかに離脱する。これを延々と繰り返すのだ。
 地の利を生かした作戦としてはこれが上策だろう。

「それでは今晩は仕込みがあるので、作戦実行は明日からにしましょう」
「了解した」

 フリードリヒは、軍議が終わると早速にアークバンパイアで亜人騎士団第二騎士団長のローザ・シュミットを呼びだした。
「ローザ。いつもどおり仕込みを頼む」
「わかったわ。そのかわり後でご褒美をちゃんとちょうだいね」

 ローザは舌なめずりを死ながら、フリードリヒの目を覗き込んだ。
 ──ご褒美って…わかってはいるが当然あれのことだよな…それとも血を吸わせろとか…まあいいや。

「わかっている。ご褒美のことは心配するな」
「そうこなくっちゃ。あなた」

    ◆

 これまでの交渉で鷲の巣城アラムート側は停戦を望んでいることはモンゴル軍に知れており、敵も昼夜を問わず激しく攻め立てるというようなことはしていなかった。
 昼間のみの戦闘で圧力をかけることで十分と考えていたのである。

 夜明けとともに戦闘は開始された。

 まずは、厄介な投石器トレビュシェットを潰しておかないと城が危ない。

「ポリュペーモス。まずは敵の投石器トレビュシェットを潰すのだ。やれ!」
御意ぎょい

 ポリュペーモス率いるサイクロプス中隊の者たちはマジックバッグから巨石を取り出すと、投石器トレビュシェットに向かって巨石が雨あられと降り注ぎ、たちまち粉砕してしまった。

「なんてことだ…」

 モンゴル軍の指揮官は顔を青くした。
 城からの攻撃に必死に耐えながら設置した投石器トレビュシェットが一瞬のうちに破壊されたのだ。これらを設置するためにどれだけ多くの犠牲が出たか…

 しかし、そんなことは言っていられない。
 投石器トレビュシェットが破壊された後も、巨石はどんどんと降ってくる。

 城壁の上という高所から投げ下ろされる巨石はとんでもない破壊力があり、これは防ぎようがない。しかも、巨石は地上に命中してからも山の傾斜にそって転げ落ちていき、モンゴル兵に二次被害を与えていく。

 また、転がり落ちた巨石は周囲の岩石を巻き込み、あちらこちらでがけ崩れを発生させていた。このがけ崩れに巻き込まれて多くのモンゴル兵が死傷した。

「撤収!撤収だ。急げ!」

 モンゴル軍の指揮官は慌てて命令を下すが、いっこうに軍は動けない。
 モンゴル軍は長蛇の列で展開しているため、最後尾まで命令が伝わらないと前にいる者は撤収できない。しかも、道はがけ崩れにより寸断されており、伝令も用意には通れない。

「撤収だってのに後ろは何をやってるんだ。俺たちを殺す気か!」
「うるせえ!もっと後ろの奴らに言いやがれ!」

 イラついたモンゴル兵たちは、仕方がなく道なき道を下り始めた。
 しかし、これこそ亜人騎士団にとっては思う壺なのだった。

    ◆

 山岳の道なき道に逃れたモンゴル兵たちは、数名程度の集団に分かれて山を下っていた。

「な、なんだ体が動かねえ!」
「俺もだ。ちくしょう!」

 ふと振り返ると恐ろし気な顔をした悪霊が凄まじい力で手足を押さえつけているのだった。
 その姿を見たモンゴル兵は絶叫した。

「ひえ~っ!!」

 しかし、恐怖はそれで終わらない。
 押さえつけられた男たちの前に、大型の白虎が現れたのだ。
 モンゴル兵たちは恐怖で喉が引きつり、もう叫び声も出ない。

 ヘルルーガは容赦なくモンゴル兵たちに襲いかかり、次々と食い殺していった。

 人虎のヘルルーガに食い殺された者の霊は倀鬼ちょうきというヘルルーガの配下となる。
 こうして倀鬼ちょうきはその数を増やしていくのだった。

    ◆

 人狼のイヴァン率いる第3中隊とドラゴニュートのエドゥアルト率いる第4中隊は、各小隊に分かれ、山中を彷徨うモンゴル兵たちをその死角から襲うと次々と屠っていった。

「ぐうっ!」

 後ろのモンゴル兵のうめきき声が聞こえたかと思うと、先行して歩いていたモンゴル兵が振り返った時には、その者は倒れて血を流している。

「おい!どうした!?」

 慌てて駆け寄り、抱き起してみるが、襲われた者は既に絶命していた。

「ううっ!」

 すると前方からまたうめきき声が聞こえる。
 急いでそちらを見るが、やはり別のモンゴル兵が倒れていた。おそらく絶命しているであろう。

 今度は、黒い影のような者が走り去っていくのが見えたような気がしたが、それも朧気おぼろげである。

 モンゴル兵は更に不安が増して辺りを見回すが何の気配も感じられない。
 が、突然に背中に焼けるような痛みがあったかと思うと、胸から剣が生えてきた。

「ぐうっ!」

 何が起こったか理解が追い付かないままモンゴル兵は絶命した。
 イヴァンの剣が背後からモンゴル兵の心臓を貫いたのだった。

    ◆

 亜人騎士団長のアリエル、ケンタウロスのフランツィスカ率いる第1中隊とローザ率いる第2中隊、そして鷲の巣城アラムートの兵たちは、崖の上から隠れて長蛇の列の中ほどのモンゴル軍の様子を探っていた。

「おい。行軍が止まってからずいぶん経つぞ。いったいどうなっているんだ」
「さあな。大方お偉いさんが休憩でも取っているんだろう」

 どうやら最前線の様子はここまで伝わってきていないようだ。
 行軍が止まり油断しきっている今がチャンスだ。

 アリエルは指示を出す。

「ローザ。例のやつを頼む」
「わかった」

 ローザと第1中隊のヴァンパイアたちは、昨夜、モンゴル軍の陣中に忍び込み、兵たちに次々と魅了魔法をかけていたのだった。
 今ここでそれを発動するのである。

 突然にあるモンゴル兵が他のモンゴル兵に切りかかった。

「何を…血迷ったか…」

 切りつけられたモンゴル兵は絶命した。

 それを合図にしたかのように、あちこちでモンゴル兵どうしの同士討ちが始まり、モンゴル軍は混乱の極致に陥った。

 すかさずアリエルは命令をだす。

「今だ。突撃アングリフ!」

 騎馬したアリエルを先頭にケンタウロス騎兵が続き、モンゴル兵を次々と蹴散らしていく。
 これに続くヴァンパイア歩兵と鷲の巣城アラムートの兵たちが打ち漏らしの兵に攻撃を加える。

 混乱のさなか、モンゴル軍の指揮官は声をからして指示を出した。

「焦るな!落ち着いて陣形を再編しろ!」

 奇襲による混乱が収まり、モンゴル軍が陣形を整えた頃には、既に亜人騎士団と鷲の巣城アラムートの兵たちは風のように立ち去った後だった。

 アリエルは場所を変え、何度も奇襲を行ったが、ことごとく成功裡に終わった。モンゴル軍の指揮系統は混乱しきっており、敵の奇襲の情報は全く伝わっていないだった。

    ◆

 モンゴル軍の撤収がほぼ終わったのは、その日の夜になってからだった。それでもまだ山中を彷徨っている兵たちは多くいるようで、かろうじて生き残った者が三々五々帰還してくる。

 鷲の巣城アラムート攻撃軍の指揮官の報告を聞き、フラグは激怒した。

「何たる醜態だ!」
「申し訳次第もございません」

「おのれフルシャーめ。停戦をチラつかせながらこの仕打ちとは!大方戦術的な有利を勝ち取ってから有利な条件での講和を狙っているのだろうが、そうはいかぬ。殲滅せんめつしてくれるわ」
「しかし、何らかの対策を立てませんと我が軍の犠牲が増えるばかりです」

「わかっておる。対策については、其方に任せる。とにかく急いでやるのだ」
「はっ」

 モンゴル軍は巨石を避けるための巨大な盾を何枚も作り、並行して、敵の奇襲を警戒しながら崩れた道の修復工事を行った。
 フラグに急かされる中、作業は急ピッチで進められたが、準備が整うのに2週間を要した。

「よし。直ちに出立せよ。今度しくじったら許さぬからな」
「はっ」

 鷲の巣城アラムート攻撃軍の指揮官は緊張を新たにした。

 モンゴルの攻撃軍は、しんちょうのうえにも慎重を期して鷲の巣城アラムートへの道を進めた。
 また、いつどこから奇襲されるかもわからない。行軍中は緊張しっぱなしである。

 しかし、途中何の攻撃もない。

 ──いや。敵は狡猾だ。何かの罠かもしれぬ。

 いよいよ鷲の巣城アラムートが見えてきた時、指揮官は唖然とした。
 なんと城は焼き払われ、放棄されているではないか。

「くそっ。逃げられたか」
 指揮官は、怒りに歯を食いしばって命令を出す。

鷲の巣城アラムートには、老人や女子供もいたはずだ。そう遠くには行っていないはず。探せ!」
「はっ」

 探索を続ける一方、指揮官は直ちにフラグへの報告に戻った。

「申し訳ございません。城は焼き払われ。奴らは逃走した後でした。今、方々を探索しております」
「何っ!必ず見つけ出せ。フルシャーも、他の者も皆殺しだ」

 捜索は方々の山に手を広げて1ヵ月にわたり続けられたが、手掛かりは全く得られなかった。

「手掛かりはないのか?」
「申し訳ございません。本当に雲のように消えたとしか思えませぬ」

 フラグはイラついた表情で言った。
「もう良い。これでも勝利には違いない。無視して軍を先に進めるぞ」
「はっ」

 モンゴル軍は勝利したものの極めて後味の悪いものとなった。
 しかも、鷲の巣城アラムートの兵は多数が生き残っている。

 モンゴル兵たちは、またどこかから鷲の巣城アラムートの兵が奇襲してくるのではないかと怯えながら行軍を続けるのだった。

    ◆

 その頃。エジプトの山岳地帯に鷲の巣城アラムートを模した山城軍が着々と建設されていた。フリードリヒ配下の悪魔たちが動員されたので、完成もまじかである。

 その山城軍を見上げながらフルシャーは愉快そうに言った。

「モンゴル軍の奴らは今頃泡を食っているでしょうな」
「おそらくは鷲の巣城アラムート攻略のために少なからぬ経費と労力を費やされたうえ、必死に辺りを探しているのだろうな。少なからぬ敵を見逃したとなっては、いつどこから奇襲されるかもわからぬからな。しばらくはその亡霊に怯えながらの行軍となる訳だ」とフリードリヒはすまし顔で答える。

「陛下もお人が悪い…」
「何を言う。一矢を報いたいと言ったのは貴殿だぞ」

「しかし、あのような嫌がらせ行為。我らには到底及びがつきませぬ」
「あれぐらいやらないと奴らには薬にならぬからな」

「確かに…
 それはともかく、この度の件は感謝の念に絶えませぬ。異教徒故に忠誠を尽くすとは言えませぬが、ご用の向きがございましたら全力で協力させていただきます」
「それは有難い。助けたかいがあるというものだ。よろしく頼む」

    ◆

 その日の夜。
 フリードリヒの部屋をノックする者がいる。

「アズラエルか?」
「はい」

 アズラエルは部屋に入ると、フリードリヒの目を真っ直ぐに見つめて言った。

「陛下。この度の件。誠にありがとうございました」
「おまえのためということもないではないが、暗殺教団の技術が惜しくてやっただけだ。気にすることはない」

 アズラエルは一瞬ホッとした表情をしたが、意を決したように言った。

「陛下。お願いしたいことがあるのです」
「何だ。暗殺教団に戻りたいか?」

 アズラエルは少しがっかりした様子だ。

「いえ。そうではなくて…私を陛下のお傍にずっと置いておいて欲しいのです。受けたご恩は一生かかっても返せるものではありませんが、全力を尽くして陛下にお仕えしたいです…」

 アズラエルは顔を真っ赤にして続ける。
「…それにご奉仕の方も…」
「そ、そうか…」

「陛下…」と言うとアズラエルはフリードリヒの胸に顔を埋めた。
 それをフリードリヒは優しく抱きしめる。

 そして…

 フリードリヒは朝までアズラエルと過ごしたのだった。
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