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第五話:耳栓と、二百五十ポイントの価値
しおりを挟む鑑定スキルによって発見した、銀貨五枚の価値を持つお宝『マンドラゴラ』。だが、その鑑定結果は同時に、致命的なリスクをも俺に突きつけていた。『引き抜く際に絶叫を上げ、聞いた者を麻痺させる』――。
(ただのお宝じゃない。これは、知識と準備を怠った者に牙を剥く、一種のトラップだ)
森からの帰り道、俺は拾った薪を背負いながら、五歳の子供らしからぬ顔つきで思考を巡らせていた。
問題点は明確だ。あの絶叫を聞かなければいい。ならば、答えは一つしかない。
(耳栓……。それも、ただの布切れを詰めるだけでは不十分だろう。あの甲高い絶叫とやらが、どれほどの音量と特殊効果を持つか分からない以上、対策は万全を期すべきだ)
前世のブラック企業で、俺は嫌というほどリスク管理の重要性を学んだ。準備不足によるプレゼンの失敗。確認を怠ったがためのシステムトラブル。その度に、上司の怒声が俺の耳を貫いた。もう、あんな思いはごめんだ。
家に帰ると、俺は母さんのもとへ駆け寄った。
「かあさん、お願いがあるんだけど」
「なあに、ルークス?」
「古い布のきれっぱし、少しだけもらえないかな?マキナに、ちいさな人形を作ってあげたいんだ」
妹のため、という言い訳は効果てきめんだった。母さんは「まあ、感心ね」と目を細め、裁縫箱の底から、何度も繕われ、もう着られなくなった服の端切れを大事そうに何枚か取り出してくれた。
その夜、俺は家族が寝静まった後、月明かりを頼りに一人、耳栓の試作に取り掛かった。
まず、布をできるだけ固く、密に丸める。そして、それを自分の耳の穴の大きさに合わせて、何度も形を調整していく。単純な作業だが、俺は異常なまでの集中力でそれに取り組んだ。少しでも隙間があれば、そこから絶叫が侵入してくるかもしれない。
(もっと固く……。いや、固すぎると耳を傷つけるか。密度と柔軟性の両立……。そうだ、少し水で湿らせてから丸めれば、乾燥した時に形が崩れにくくなるはずだ)
俺は、前世で培った様々な雑学知識を総動員し、試行錯誤を繰り返した。そして数時間後、ようやく納得のいく一対の耳栓が完成した。
翌日、俺は完成した耳栓の性能テストを行った。畑仕事をする父さんの背後で、こっそりと耳に栓をする。
(……どうだ?)
世界から、音が半分ほどになったような感覚。父さんが鍬を振るう音も、遠くで鳴く鳥の声も、くぐもって聞こえる。俺は、父さんから少し離れた場所で、できるだけ大きな声で彼を呼んでみた。
「とうさーん!」
父さんは、全く気づく様子がない。よし、これならいける。俺は確かな手応えを感じていた。
◇
準備は整った。俺は再び薪拾いを口実に、森へと足を踏み入れた。前日に刻んだ、自分にしか分からない複数の印を頼りに、迷うことなく例の樫の木へとたどり着く。
あった。昨日と変わらぬ姿で、人の形にも似た不気味な葉を茂らせるマンドラゴラが。
俺はごくりと唾を飲み込んだ。これが、俺の人生で最初の「攻略」ミッションだ。心臓が、ドクドクと大きく脈打っている。
(落ち着け、俺。シミュレーションは完璧だ。あとは、実行するだけ)
俺は懐から、丹精込めて作り上げた布製の耳栓を取り出し、両耳の奥深くまで、しっかりとねじ込んだ。
途端に、森の音が遠ざかる。風が木々を揺らす音も、虫の羽音も、まるで分厚い壁の向こう側から聞こえてくるようだ。静寂が、俺の集中力を極限まで高めていく。
俺はマンドラゴラの前に膝をつくと、その歪な葉の根元を、両手でがっしりと掴んだ。ひんやりとした、妙に生々しい感触が伝わってくる。
覚悟を決め、息を止める。そして、全身の体重をかけて、一気に真上へと引き抜いた!
ズボッ、と鈍い抵抗と共に、マンドラゴラが地面から姿を現す。その根は、まるで眠っている赤ん坊のような、奇怪な人型をしていた。
そして、次の瞬間。
マンドラゴラの口のように見える部分が、カッと大きく開いた。
音は、聞こえない。だが、俺は“見た”。空気が水面のように歪み、地面の小石がカタカタと震えるのを。周囲の木々から、まるで何かに撃ち落されたかのように、鳥たちが混乱しながら飛び立っていく。鼓膜が内側から強く圧迫され、鼻の奥にツンと鉄の匂いのような錯覚が走った。
(これが……絶叫か……!)
耳栓がなければ、今頃俺は地面に倒れ伏し、麻痺していたことだろう。背筋に、冷たい汗が流れた。
やがて振動が収まると、手の中のマンドラゴラは、ぐったりとただの植物に戻っていた。
「……やった……!」
俺は、震える声で呟いた。安堵と興奮で、膝が笑っている。俺は、自分の知識と準備で、リスクを乗り越え、お宝を手に入れたのだ。
俺はすぐさま、手にした人型の根に【鑑定】スキルを使った。
【マンドラゴラの根】
【強い魔力を秘めたまま、休眠状態に入っている。高品質なポーションの材料となる。】
【売却時の参考価格:銀貨5枚】
(間違いない……!銀貨5枚のお宝だ!)
だが、ここで新たな問題が浮上する。どうやってこれを換金する?五歳の子供が、いきなり銀貨五枚の価値がある薬草を持って街の薬屋に行けば、どう考えても騒ぎになる。最悪、盗品だと疑われて取り上げられるかもしれない。
(くそっ、換金手段がなければ、ただの根っこじゃないか……。いや、待てよ)
俺の脳裏に、ポイントシステムの機能一覧が浮かび上がった。俺は今まで、このリストを「ポイントを使って何かを得る」ためのものだとしか考えていなかった。だが、もし逆はできないのか?
(この世界のアイテムを、ポイントに変換することは……)
俺は、祈るような気持ちで、手の中のマンドラゴラの根を握りしめ、強く念じた。
(このアイテムを、ポイントに変換したい!)
すると、目の前に、今まで見たことのない新しいウィンドウが表示された。
【アイテム・ポイント変換システム】
【対象アイテムをポイントに変換しますか?】
【対象:マンドラゴラの根】
【参考市場価格:銀貨5枚(500銭貨相当)】
【基本換算レート:5%】
【獲得予定ポイント:250 pt】
「……にひゃくごじゅっ……ポイント!」
俺は、思わず声を漏らした。ウィンドウに表示された内容を、興奮で何度も読み返す。銀貨五枚の価値に対して、二百五十ポイント。
(レートは確かに5%と低い。だが、これはとんでもないことだ!)
一瞬、レートの低さに思考が止まりかけたが、俺の頭脳は即座にその真の価値を弾き出していた。
五歳の子供が、換金所までの移動時間や手数料、何より誰かに怪しまれるという最大のリスクを全て無視して、即座にこれだけのポイントを手にできるのだ。前世のポイントサイトなら、これだけ稼ぐのにどれだけのアンケートをクリックしなければならなかったか。この“リスクと手間の全カット”こそが、この変換システムの最大のメリットだ。
(そうだ、これはビジネスモデルの確立だ。一度やり方さえ覚えてしまえば、この森でマンドラゴラを探し、採取し、ポイントに変換する、というサイクルを延々と繰り返せる。これは、俺にとっての最初の『安定した収入源』になる!)
俺は、迷わなかった。目先の銭貨よりも、将来への投資となるポイントの方が、今の俺には遥かに価値がある。
【変換を実行しますか?】
【YES / NO】
俺が【YES】を選択した瞬間、手の中にあったマンドラゴラの根が、淡い金色の光の粒子となって、キラキラと空中に消えていった。
そして、俺のステータスが更新される。
【現在の所持ポイント:251 pt】
「……よしっ」
俺は、森の中で、静かに、しかし強く拳を握りしめた。
手にしたポイントは、二百五十。これは俺が初めて「知識」と「戦略」で稼いだ、価値あるポイントだ。
(次のスキル取得までは、まだ遠い。だが、道筋は見えた)
俺はスキルリストを呼び出し、次なる目標である『識別』や『薬草知識』の必要ポイントを再確認する。道のりは長い。だが、確実な一歩を踏み出した高揚感が、俺の全身を駆け巡っていた。俺のスローライフ計画は、今、確かな資金源の確保という、新たなフェーズへと移行しようとしていた。
【読者へのメッセージ】
第五話、お読みいただきありがとうございました!
ルークスの知恵と勇気が、ついに大きな成果に繋がりました!彼が手にした「価値」は、ポイントだけではなかったようです!
「主人公、堅実で賢い!」「この地道な感じが好き!」と思っていただけましたら、ぜひ下の評価(☆)や感想、ブックマークで応援をお願いいたします!
安定収入の道を確保したルークスの次なる一手とは?次回もご期待ください!
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