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第百十三話:錆びついた偽証と、白亜に香る柑橘の風
しおりを挟む王城「白亜の離宮」。
その中心に位置する「謁見の間」へと続く長い回廊を、俺たちは歩いていた。
足音が、やけに大きく響く。
磨き上げられた大理石の床は、まるで鏡のように俺たちの姿を映し出している。天井は遥か高く、一定間隔で並ぶ巨大な柱には、歴代の英雄たちを模した彫刻が施されていた。
その威圧感たるや、ただ歩いているだけで肺の中の空気が少しずつ抜けていくようだ。
(……うわぁ、すげぇな。この床の大理石、たぶん一枚で俺の家の畑全部買ってもお釣りがくるぞ)
俺、ルークス・グルトは、そんな場違いなことを考えながら、必死に胃の痛みをごまかしていた。
視界の端にチラつくシステムウィンドウで、周囲の調度品を勝手に「鑑定」しては、その桁外れのポイント換算額にめまいを覚える。
シャンデリア一つで「城が建つレベル」、飾られた絵画一枚で「村が三回救えるレベル」。
ここは、俺のような貧乏農民が土足で踏み入っていい場所ではない。それは痛いほど理解している。
だが、隣を歩く男の背中が、俺に「前を向け」と語りかけていた。
騎士団長ギデオン。
今日の彼は、戦場での荒々しさとは打って変わり、儀礼用の純白のマントを羽織っていた。しかし、その身から発せられる空気は、冷たく、鋭く、研ぎ澄まされている。
「氷の騎士」――その二つ名通りの、絶対零度の静謐。
彼が歩くたびに、周囲の空気がピリリと引き締まるのを感じる。彼の迷いのない歩調が、震える俺の膝を支えてくれていた。
そして、その先頭を行く辺境伯レオナルド様。
背筋を伸ばし、堂々と前を見据えるその姿には、一点の曇りもない。
「無実の罪を着せられた被疑者」として呼び出されたはずなのに、その風格はまるで凱旋将軍のようだ。
「……行くぞ」
レオナルド様の短く、力強い言葉と共に、目の前の巨大な扉が、重々しい地響きを立ててゆっくりと開かれた。
「――辺境伯レオナルド・フォン・シルバーストーン、ならびに騎士団長ギデオン、そして……参考人の農民、ルークス・グルト。前へ!!」
式部官の甲高い声が、広大なホールに響き渡る。
一歩、足を踏み入れた瞬間。
数百、いやそれ以上の視線が、物理的な圧力となって俺たちに突き刺さった。
「……あれが、噂の?」
「なんと薄汚い。農民連れとはな」
「野蛮な辺境の者どもめ。ここをどこだと思っている」
「反逆者め。よくものうのうと顔を出せたものだ」
ホールを埋め尽くすのは、この国の権力を握る大貴族たちだ。
絹やベルベットの豪奢な衣装、宝石を散りばめた装飾品。彼らは扇子で口元を隠しながら、あるいはあからさまに眉をひそめながら、俺たちを値踏みしている。
その視線に含まれているのは、侮蔑、嫌悪、そして「自分たちは安全圏にいる」という優越感。
まるで、見世物小屋の珍獣を見るような目だ。
(……ふん。いい服着てても、根っこは腐ってるな)
俺は内心で悪態をつきながら、農民特有の「観察眼」を発動させた。
よく見れば、彼らの服の裾は少し汚れているし、化粧の下の肌は荒れている。野菜不足だな。ビタミンCが足りてない。
俺の畑のトマトを食べさせてやりたいところだが、あいにく今日は「掃除用具」しか持ってきていない。
俺たちは赤い絨毯の上を進み、玉座の前で片膝をついた。
玉座には、若き国王リアム陛下が座っていた。
その表情は硬い。
彼は以前、俺の作ったプリンを絶賛してくれた気さくな王様だが、今は「国家の最高権力者」としての仮面を被っている。私情を挟むことは許されない。その苦悩が、眉間の微かな皺から読み取れた。
そして、その玉座のすぐ傍らに、宰相オルコが立っていた。
恰幅の良い体に、これみよがしな勲章をジャラジャラとぶら下げた古狸。
その口元には、隠しきれない勝利の笑みが、べったりと張り付いている。獲物を追い詰めた狩人の、残酷で下卑た笑みだ。
「陛下! これ以上の議論など時間の無駄でございます!」
俺たちが頭を下げるより早く、オルコが大声を上げた。その声は、広間全体に朗々と響き渡るように計算されている。
「辺境伯領にて密造された『呪いの剣』。その証拠品はすでに押収しております。辺境伯は、蛮族である獣人どもと結託し、この神聖なる王都を火の海にせんとする反逆者! このような男に弁明の機会など不要! 即刻、断頭台へ送るべきかと!」
ワァッ……と、貴族たちがざわめく。
「やはり噂は本当か」
「呪いの武器などと、おぞましい」
「獣人と手を組むとは、人族の風上にも置けぬ」
心無い言葉が、さざ波のように広がり、増幅していく。群集心理というやつだ。誰も真実など見ていない。ただ「流れ」に乗って、安全な場所から石を投げたいだけなのだ。
その喧騒の中、レオナルド様が静かに、しかしよく通る声で口を開いた。
「……陛下。私の首を差し出すのは構いません」
その潔い言葉に、場が一瞬静まり返る。
だが、辺境伯は続けて、鋭い眼光でオルコを射抜いた。
「しかし、我が領民と騎士たちの名誉を汚すことだけは、断じて容認できません。彼らは、極寒の北の地で、魔物の脅威からこの国を守る『盾』です。その盾に泥を塗るような行為……そして、その『証拠』とやらの捏造。これこそが国家への反逆ではありませんか?」
「なっ……! 往生際が悪いぞ、レオナルド!」
オルコが顔を紅潮させて叫ぶ。
「捏造だと? 王都警備隊が命がけで確保した証拠品を、愚弄するか! 自らの罪を認めるどころか、忠臣である私を愚弄するとは……! おい、あれを持て!」
オルコの合図で、数名の兵士が、重そうな木箱を運んできた。
見覚えのある木箱だ。昨日、俺たちが第三倉庫で忍び込んだ、あの箱だ。
赤い布が恭しく取り払われると、謁見の間に緊張が走る。
そこには、黒く澱んだ輝きを放つ、十数本の剣が収められていた。
禍々しい紫色の紋様が浮かび上がり、見る者に生理的な嫌悪感を催させる。
「見よ! この禍々しき剣の数々を!」
オルコが両手を広げ、演劇のような大げさな身振りで叫ぶ。
「これぞ、辺境の鍛冶師ゴードンの刻印が刻まれた、動かぬ証拠! この剣には『使用者の精神を蝕み、狂戦士へと変える』呪いがかけられているのです! 辺境伯はこれを王都にばら撒き、内側から国を崩壊させようと企んだのだ!」
「ひぃっ……」
「なんてことだ……」
貴族の女性たちが悲鳴を上げ、男性たちが顔を青くする。
完璧な演出だ。恐怖を煽り、敵意を誘導する。前世のブラック企業で、パワハラ上司が俺をスケープゴートにした時の手口とそっくりだ。
俺はチラリと、隣のギデオンさんを見た。
彼は微動だにしていない。
ただ、その青い瞳だけが、獲物を狙う鷹のように細められ、静かに木箱を見つめている。
彼の中で、怒りはすでに通り越し、冷徹な殺意へと昇華されているのが分かった。
「……オルコ殿」
ギデオンさんが、低く、重い声を発した。
それは決して大声ではない。だが、騒ぐ貴族たちの声を一瞬で押し黙らせるほどの「重圧(プレッシャー)」を含んでいた。
「それが『証拠』だと言うのなら、その剣を抜いて見せていただきたい」
オルコが眉をひそめる。
「なんだと?」
「我ら辺境の騎士にとって、剣は魂だ。そして、我が友ゴードンは、その魂を打つ男だ。……もしそれが、本当にゴードンの打った剣ならば、その刀身には一点の曇りもないはず。たとえ呪いと呼ばれようと、その鉄の輝きだけは、嘘をつかない」
ギデオンさんは一歩前に踏み出し、オルコを真っ直ぐに見据えた。
「抜いて、その輝きを陛下にお見せすればよい。……抜けるものなら、な」
最後の言葉には、明確な挑発が含まれていた。
オルコは顔を歪め、鼻で笑った。
「ふん、よかろう。死に急ぐか。自らの作った呪いの剣で、その首を刎ねられる気分を味わわせてやる。……誰か、その剣を抜け! そして皆の者に、そのおぞましき刀身を見せてやれ!」
近くにいた近衛騎士の一人が、緊張した面持ちで進み出た。
彼の手が、木箱の中の一本に伸びる。
黒い鞘。紫の紋様。
騎士はその柄を握りしめた。
ゴクリ……。
誰かが唾を飲み込む音が聞こえた。
数百人の注目が集まる中、騎士は腰を落とし、気合いと共に一気に剣を引き抜こうとした。
「はっ!!」
鋭い呼気。
そして、誰もが予想した「シャリィン」という金属音を待ち構えた。
その瞬間だった。
**ズリュッ……バキキッ……!!**
耳障りな、何かが砕けるような鈍い音が、静寂なホールに響き渡った。
金属が擦れ合う音ではない。まるで、乾燥しきった枯れ木を無理やりへし折ったような、あるいは腐ったビスケットを握りつぶしたような、不快で頼りない音。
「な……?」
剣を抜いた騎士が、呆然と自分の手元を見つめている。
彼の手にあるのは、柄だけだった。
そして、鞘の口からは、赤茶色の粉がボロボロとこぼれ落ち、美しい大理石の床を汚していく。
「……え?」
騎士が慌てて鞘を逆さにする。
ドサッ。
中から滑り落ちてきたのは、刀身ではなかった。
原型を留めないほどに朽ち果て、穴だらけになり、赤黒く変色した――ただの鉄屑だった。
それは床に落ちた衝撃で、さらにボロボロと崩れ去り、哀れな残骸へと姿を変えた。
「な、なんだこれは!?」
オルコが素っ頓狂な声を上げる。その目は飛び出さんばかりに見開かれている。
「おい! 別の剣だ! その剣は管理が悪かったのだ! 別の剣を抜け! 早くしろ!」
怒号に弾かれたように、他の騎士たちが木箱に群がり、次々と剣を手に取る。
だが、結果はすべて同じだった。
バキンッ!
グズッ……。
ボロッ……。
ある剣は途中で折れ、ある剣は抜くことさえできずに鞘ごと砕け、ある剣はまるでウエハースのようにボロボロと崩れ落ちた。
かつて「呪いの剣」と呼ばれた黒い鉄塊の山は、一夜にして見る影もない「赤錆のゴミ山」へと変わり果てていたのだ。
シン……と、謁見の間が静まり返る。
誰も言葉を発せない。
あまりにも予想外の光景に、思考が追いつかないのだ。
その沈黙の中、ふわりと場違いな香りが漂った。
爽やかな、甘酸っぱい香り。
太陽の光をたっぷり浴びたオレンジや、もぎたてのレモンを思わせる、強烈な柑橘系の香りだ。
腐敗した鉄の臭いを中和するように、その清涼な香りがホールを満たしていく。
「……おい、なんだこの匂いは?」
「柑橘……? 誰か香水をこぼしたのか?」
「いや、これはもっと……鼻にツンとくるような……」
ざわつく貴族たち。
その中で、俺は小さく深呼吸をして、一歩前へ出た。
農民らしく、帽子を胸に当てて深々と一礼をする。
「おそれながら、陛下。……僭越ながら、農民である私がご説明させていただいてもよろしいでしょうか」
玉座のリアム陛下が、興味深そうに身を乗り出す。その瞳には、すでに事態の真相を察したような理知的な光が宿っていた。
「許す。申せ、ルークス」
「はっ。……皆様、その香りにお気づきでしょうか。それは、ある種の『洗剤』の香りです」
「せ、洗剤だと? 農民風情が何を訳のわからぬことを!」
オルコが顔を真っ赤にして怒鳴る。「神聖な謁見の間で、洗剤の話など……!」
俺はオルコを無視して、貴族たちに向かって語りかけた。あくまで穏やかに、まるで畑の土の質を説明するかのように。
「辺境の鍛冶師ゴードンは、剣の仕上げに必ず『リーフ・ナッツ』という木の実から採れる、特製の植物油を使います。それは非常に強力な保護膜を作り、数十年経っても剣を錆から守ります。彼の剣は、いわば『生きた油』に守られているのです」
俺は床に散らばる赤錆の山を指差した。
「ですが、この剣に使われていたのは、安物の鉱物油でした。廃油を精製しただけの、ただ黒光りさせるためだけの油です。……そこで私は、昨晩、少し『お掃除』をさせていただきました。この、油汚れを強力に分解する『柑橘エキス』を使って」
俺はポケットから、空になったスプレーボトル(**ポイント交換品:業務用強力オレンジクリーナー**)を取り出し、振ってみせた。
カラカラ、と軽い音が響く。
「ゴードンさんの本物の剣なら、この程度のエキスをかけたところで、ビクともしません。表面の汚れが落ちて、より輝きを増すだけです。……ですが」
俺はニコリと笑った。
かつてブラック企業のプレゼンで、競合他社の欠陥商品を指摘した時のような、丁寧かつ容赦のない営業スマイルで。
「不純物だらけの粗悪な鉄に、見せかけの鉱物油を塗っただけの偽物はどうなるか? 油膜が分解された瞬間、その粗悪な鉄は空気中の水分と反応し、嘘のように急速に酸化……つまり、錆びて朽ち果てるのです。ちょうど、嘘で塗り固められたメッキが剥がれるようにね」
「き、貴様ぁぁぁっ……!!」
オルコがわなわなと震え出す。その顔は、剣の錆と同じような土気色になっていた。脂汗が滝のように流れ落ちている。
貴族たちの視線が変わる。
「……偽物、ということか?」
「たった数日で錆びるような剣が、あの武名高い辺境伯家の武器なわけがない」
「じゃあ、この証拠というのは……捏造か?」
「オルコ様、これは一体どういうことですか?」
囁き声は、今やオルコへの疑念と軽蔑へと変わっていた。
風向きが変わった。完全に。
そこで、ギデオンさんが動いた。
彼は自らの腰に佩いた剣――十年以上、ゴードンさんに打ち直してもらい続けてきた愛剣を、静かに引き抜いた。
**シャリィィィン……ッ!**
澄んだ、あまりにも美しい金属音が、謁見の間の空気を震わせた。
シャンデリアの光を反射し、その刀身は鏡のように美しく輝いている。刃文には、本物の「槌と葉」の刻印が、誇らしげに刻まれていた。
柑橘の香りなどものともせず、その鋼は冷たく、強く、そこに存在していた。
「陛下」
ギデオンさんが剣を掲げ、朗々と告げる。
その姿は、まさに騎士の理想像そのものだった。
「これが、ゴードンの剣です。雨風に晒され、魔物の血を浴び、十年使い続けてもなお、この輝きを失わぬもの。……あのような赤錆の屑と一緒にされては、迷惑です」
その一言が、決定打だった。
本物と偽物。その差は、誰の目にも明らかだった。
錆びた鉄屑と、輝く名剣。言葉など不要なほどの説得力が、そこにはあった。
「……オルコよ」
リアム陛下の声が、低く、重く響く。
それは、若者の声ではなく、王としての威厳に満ちた裁定者の声だった。
「釈明はあるか? なぜ、王家の管理する倉庫にあった証拠品が、一夜にして錆び崩れたのか。……いや、そもそもなぜ、これほど粗悪な品を『証拠』として提出したのか」
「そ、それは……! 何かの間違いで! 部下が! 部下が勝手にやったことで……! 私は知らぬ! 私は騙されたのだ!」
オルコが裏返った声で叫び、なりふり構わず周囲の貴族に助けを求める。
「公爵! 伯爵! 助けてくれ! これは陰謀だ! 辺境伯の罠だ!」
だが、先ほどまで彼に媚びへつらっていた貴族たちは、一斉に目を逸らし、蜘蛛の子を散らすように彼から距離を取った。
冷たい視線。蔑みの目。
権力が失墜した瞬間、彼らは残酷なまでに背を向ける。それが、この王都という場所のルールなのだ。
「見苦しいぞ」
陛下の短い命令と共に、近衛騎士たちがオルコを取り囲む。
かつて彼がアゴで使っていた騎士たちだ。その彼らに腕を掴まれ、オルコは絶叫した。
「離せ! 私は宰相だぞ! 国の柱だ! 農民ごときに嵌められたのだ! ルークス! 貴様だけは許さん! 呪ってやるぅぅぅッ!!」
断末魔のような叫び声を残し、オルコは謁見の間から引きずり出されていった。
後に残ったのは、床に散らばる赤錆の山と、爽やかな柑橘の香りだけ。
「……ふぅ」
俺は小さく息を吐き、肩の力を抜いた。
終わった。
昨夜支払った5万ポイント(5万円相当)。貧乏性の俺には胃が痛くなる出費だったが、この結末を見られたなら、まあ良しとしよう。
少なくとも、ギデオンさんの誇りと、ゴードンさんの名誉は守られたのだから。
「ルークス」
陛下が玉座から降り、俺たちの前に歩み寄ってきた。
周囲の貴族たちが慌てて平伏する中、陛下は真っ直ぐに俺を見て、ニカっと笑った。
「見事であった。……そなたの知恵が、無実の忠臣を救ったのだ」
「もったいないお言葉です。私はただ、農具の手入れと同じように、汚れたものを洗っただけにすぎません。……まあ、汚れがひどすぎて、崩れちゃいましたけど」
「ふっ、謙虚だな。……だが、その香りは悪くない。長年淀んでいた王宮の空気が、少し浄化されたようだ」
陛下は悪戯っぽく笑い、ギデオンさんの肩を叩いた。
「ギデオン、苦労をかけたな。辺境伯領への疑いは晴れた。……そして、ゴードンという職人にも、よろしく伝えてくれ。『国一番の鍛冶師の剣、しかと見届けた』とな」
ギデオンさんは、深く、深く頭を下げた。
「……はっ! 必ずや」
その震える声と、目元が少し赤くなっているのを、俺は見逃さなかった。氷の騎士の氷が、少しだけ溶けた瞬間だった。
謁見の後。
城の大門を出た俺たちを、まぶしい真昼の太陽が照らしていた。
王都の空気は相変わらず排気ガス……ではなく、馬車の埃っぽい匂いがするが、今はそれさえも清々しく感じる。
「……やったな、ルークス殿」
「ええ、やりましたね。ギデオンさん」
俺たちは顔を見合わせ、堰を切ったように笑い合った。
「さあ、帰りましょう! 宿でフェンが腹を空かせて待ってますよ。あいつ、高級な干し肉じゃないと怒るからなぁ……。昨日の夜、散々働かせたし」
「ははは、違いない。今日の晩餐は、私が奢ろう。……王都一番のステーキハウスでどうだ? もちろん、特大サイズで」
「えっ、マジですか!? やったー! ゴチになります!」
俺はガッツポーズをした。
ポイントは激減したし、寿命も縮んだけど、その分、美味しいお肉が食べられるならトントンだ。……いや、やっぱりポイントも惜しいけど! あとでこっそり、辺境伯様に「必要経費」として申請書を出してみようかな。
こうして、王都を揺るがした「呪いの剣騒動」は、一人の農民と騎士、そして一本の「強力洗剤」によって、鮮やかに幕を下ろしたのだった。
だが。
(……さて、これで一件落着。……と思ったら大間違いだよね、ジルヴァさん?)
俺はふと足を止め、雑踏の影――路地裏の暗がりを睨んだ。
『気配察知』スキルが、微かな、しかし粘着質な視線を感じ取っていた。
オルコはただの操り人形。本当の黒幕である「あの男」は、まだどこかで笑っているはずだ。
奴にとって、今回の騒動もただの「暇つぶし」か「実験」に過ぎないのかもしれない。
「ルークス殿? どうした?」
「いえ、なんでもないです。……さあ、肉です肉! ステーキが俺を呼んでいる!」
俺は笑顔を作り、ギデオンさんの背中を押した。
今はいい。
今は、この勝利の味と、これから食べるステーキの味を噛み締めよう。
守るべき日常を守れた。今日はそれだけで十分だ。
俺たちのスローライフへの道は、まだまだ前途多難そうだ。
でも、まあ悪くない。隣には頼れる仲間がいるのだから。
**【読者の皆様へ】**
いつも熱い応援、本当にありがとうございます!
ついに「ざまぁ」成る!
描写を大幅に増量し、謁見の間の緊張感と、カタルシスの瞬間をじっくりとお届けしました。
「サビだらけの剣」というビジュアル的な崩壊と、「柑橘の香り」という嗅覚への訴えかけ。
そして何より、ギデオンさんの騎士としての誇りが輝く瞬間を楽しんでいただけましたでしょうか?
次回は、いよいよ物語が大きく動く「幕間」を挟み、新たなる展開へ!
影で笑う転生者ジルヴァの動向、そしてルークスに忍び寄る「獣人族」の影……。
スローライフ(仮)は、まだまだ終わりません!
「スカッとした!」「ギデオンさん最高!」「ステーキ食べて!」と思った方は、
ぜひ**【ブックマーク】**と**【評価(★★★★★)】**で、ルークスの胃袋を満たしてあげてください!
皆様の応援が、次の物語を生み出す原動力になります!!
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