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下唇がふっくらした大きな口で、食べるように何度も甘いキスをされた。
だからこそ怖かった。
一晩限りのオトナの遊びだとはっきり言われたら、傷付かない自信はない。
どんなに単純だって言われても、私は彼のことが好きなのかも知れない。
抱き合ったからって、そこまでよく知りもしない相手に、こんな風に思いを寄せるのは馬鹿げてるだろうか。
「ねえ、香澄ちゃん」
「なんですか」
「香澄ちゃんは、きっとそんな器用なタイプじゃないわよ。好きな人としか、そういうこと出来ないと思う」
「チョロすぎませんか」
「不用心で危なっかしいとは思うけど、人を好きになるのに時間の長さは関係ないし、好きになっちゃったなら仕方ないんじゃないかな」
「でも、もう彼に会うことはないですから」
「頑なだなあ」
「それが現実ですよ」
そう、それが現実。
例えこの先、スタッフと顧客として再会することがあったとしても、あの晩みたいなことがそうそう起こる訳じゃない。
あれはあの晩、たまたま色んな偶然が重なって、出会うはずもない人と、お互いに受け入れた上でのことだった。
恋が始まるはずなんかなくて、一晩限りのことだったんだから忘れてしまおう。
真理恵さんは諦めないで連絡を取ってみろと、何度も説得するみたいに私に言ったけど、私と彼が釣り合うとも思えない。
馬鹿なことをしたなって反省はするけど、もう彼を追い掛けようなんて考えはなくなった。
パーソナルジムへのヘルプを断り続けることは出来ないけど、必ずしも彼に会うとも限らないし、会ったら会ったで、平然としていようと決めた。
それに引っ越しが決まれば、彼と出会う切っ掛けになった中華屋さんにも、もう行くこともない。
真理恵さんと解散して帰宅すると、シャワーから出たら友梨さんからメッセージが届いてた。
そういえば、明日は休みだから友梨さんの家を見に行く約束をしてたんだっけ。
待ち合わせ時間と駅が書かれたメッセージに了承の返信を送ると、髪を乾かすのも面倒臭くなって、そのままベッドに倒れ込む。
「ああ、なんか、楽しいことないかな」
呟いたら、なんでか分からないけど涙が出て来た。
本当は分かってる。たった数時間、たわいない話をしただけだし、どこまでが彼の本当の姿かなんて分からない。
だけど私だって、見た目がカッコいいからとか、そんな程度の理由であっさり身体を許すほど身持ちは軽くない。
確かに美咲の結婚のことで、それなりのショックはあったけど、彼と話して人となりに触れて、この人なら良いかなって思った。
「アホくさ」
結局、割り切れもしないのに身体を許すなんて、私にそんな器用なことが出来るはずもなかったんだ。
「髪、乾かさないと」
なんとかベッドから起き上がって重たい体を引きずるようにバスルームに移動すると、洗面所でドライヤーを使って髪を乾かす。
こんな時、誰も居ないしんと静まり返った部屋は結構堪える。
「友梨さんの実家って、どれくらい広いんだろ」
庭付きの一軒家とは聞いてるけど、今のこの部屋ですら一人の時間を持て余してるのに、一軒家なんて寂しくて一人でやっていけるんだろうか。
家の管理のために人の出入りがあるとは言ってたけど、私が引っ越したとしても、誰かの出入りがあるってことだろうか。
「明日、色々と聞いてみないとな」
ごわついた髪にヘアオイルを馴染ませると、手を洗ってリビングに移動してテレビをつける。
このままじゃなんだか眠れそうにないので、寝酒に梅酒をグラスに注いで、ソファーに座ってスマホでSNSを流し見しながら、適当にリアクションを返していく。
みんなの日常はこんなに動いてるのに、自分だけ時間が止まってるような気がして虚しくなった。
だからこそ怖かった。
一晩限りのオトナの遊びだとはっきり言われたら、傷付かない自信はない。
どんなに単純だって言われても、私は彼のことが好きなのかも知れない。
抱き合ったからって、そこまでよく知りもしない相手に、こんな風に思いを寄せるのは馬鹿げてるだろうか。
「ねえ、香澄ちゃん」
「なんですか」
「香澄ちゃんは、きっとそんな器用なタイプじゃないわよ。好きな人としか、そういうこと出来ないと思う」
「チョロすぎませんか」
「不用心で危なっかしいとは思うけど、人を好きになるのに時間の長さは関係ないし、好きになっちゃったなら仕方ないんじゃないかな」
「でも、もう彼に会うことはないですから」
「頑なだなあ」
「それが現実ですよ」
そう、それが現実。
例えこの先、スタッフと顧客として再会することがあったとしても、あの晩みたいなことがそうそう起こる訳じゃない。
あれはあの晩、たまたま色んな偶然が重なって、出会うはずもない人と、お互いに受け入れた上でのことだった。
恋が始まるはずなんかなくて、一晩限りのことだったんだから忘れてしまおう。
真理恵さんは諦めないで連絡を取ってみろと、何度も説得するみたいに私に言ったけど、私と彼が釣り合うとも思えない。
馬鹿なことをしたなって反省はするけど、もう彼を追い掛けようなんて考えはなくなった。
パーソナルジムへのヘルプを断り続けることは出来ないけど、必ずしも彼に会うとも限らないし、会ったら会ったで、平然としていようと決めた。
それに引っ越しが決まれば、彼と出会う切っ掛けになった中華屋さんにも、もう行くこともない。
真理恵さんと解散して帰宅すると、シャワーから出たら友梨さんからメッセージが届いてた。
そういえば、明日は休みだから友梨さんの家を見に行く約束をしてたんだっけ。
待ち合わせ時間と駅が書かれたメッセージに了承の返信を送ると、髪を乾かすのも面倒臭くなって、そのままベッドに倒れ込む。
「ああ、なんか、楽しいことないかな」
呟いたら、なんでか分からないけど涙が出て来た。
本当は分かってる。たった数時間、たわいない話をしただけだし、どこまでが彼の本当の姿かなんて分からない。
だけど私だって、見た目がカッコいいからとか、そんな程度の理由であっさり身体を許すほど身持ちは軽くない。
確かに美咲の結婚のことで、それなりのショックはあったけど、彼と話して人となりに触れて、この人なら良いかなって思った。
「アホくさ」
結局、割り切れもしないのに身体を許すなんて、私にそんな器用なことが出来るはずもなかったんだ。
「髪、乾かさないと」
なんとかベッドから起き上がって重たい体を引きずるようにバスルームに移動すると、洗面所でドライヤーを使って髪を乾かす。
こんな時、誰も居ないしんと静まり返った部屋は結構堪える。
「友梨さんの実家って、どれくらい広いんだろ」
庭付きの一軒家とは聞いてるけど、今のこの部屋ですら一人の時間を持て余してるのに、一軒家なんて寂しくて一人でやっていけるんだろうか。
家の管理のために人の出入りがあるとは言ってたけど、私が引っ越したとしても、誰かの出入りがあるってことだろうか。
「明日、色々と聞いてみないとな」
ごわついた髪にヘアオイルを馴染ませると、手を洗ってリビングに移動してテレビをつける。
このままじゃなんだか眠れそうにないので、寝酒に梅酒をグラスに注いで、ソファーに座ってスマホでSNSを流し見しながら、適当にリアクションを返していく。
みんなの日常はこんなに動いてるのに、自分だけ時間が止まってるような気がして虚しくなった。
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