初恋は溺愛で。〈一夜だけのはずが、遊び人を卒業して平凡な私と恋をするそうです〉

濘-NEI-

文字の大きさ
17 / 65

6-1

しおりを挟む
 お盆前で夏休みの時期も手伝ってか、ラッシュの時間を過ぎても元気な子どもたちの姿が目に入る。
 この時期は、担当してるスイミングクラスの子どもたちも、お祖父ちゃんお祖母ちゃんの家に帰省するなんて話をよく聞く。
 そして私は、友梨さんの家を見せてもらう約束の今日、集合時間よりも二十分ほど前に駅に到着し、高級住宅街として有名な駅の雰囲気に早くも呑まれていた。
 この日は粗相のないように、ノースリーブの白いリボンタイブラウスと、ボトムはネイビーのクロップドパンツを合わせて、足元もチャンキーヒールの無難な黒いローヒールパンプス。
 こんなオフィスカジュアル風の格好をするのは、本社に顔を出す時くらいだろうか。
 手持ち無沙汰で意味もなくスマホを覗いては、ニュースサイトを流し見して画面をスクロールさせて、表示される時間を見ながら暇を潰す。
 すると何気なく見ていたサイトの乗換案内に、乗ってきた地下鉄でダイヤが乱れているニュースが出ていて、早めに到着するのを見越して準備してきて良かったと、ホッと胸を撫で下ろした。
 友梨さんも多分地下鉄で来るだろうから、もしかすると遅延の影響を受けて遅れて来るかも知れない。
 自販機でスポーツドリンクを買うと、外のぬるい空気が吹き込んで来る待ち合わせ予定の改札口近くで、すぐさまスポーツドリンクを飲み、扇子を取り出して少し涼む。
 友梨さんのことだから、遅れるならメッセージが来そうだとスマホを握り締めていると、画面に気を取られてるうちに本人が現れた。
「香澄ちゃん? だよね」
「友梨さん! ご無沙汰してます」
「本当に久しぶりね。あら髪伸ばしてるの? 雰囲気変わったわね。それよりごめんね、お待たせしちゃって」
「大丈夫ですよ。ダイヤが乱れてたみたいですね」
「そうなのよ。この暑さじゃない? 気分悪くて倒れた人が運ばれていったの初めて見たわ」
 どうやら友梨さんが乗っていた車両の人が倒れたらしく、車内が騒然としたのだと持参してたらしいお茶を飲みながら、少し興奮気味に話してくれる。
「香澄ちゃん、飲み物持ってるの」
「さっきこれ買いました」
 パンパンに膨れ上がったショルダーバッグから、さっき買ったばかりのスポーツドリンクを取り出して見せると、友梨さんが安心したように水分取らないとねと頷いた。
 そして駅を出るとあまりに強い日差しに、友梨さんと二人して顔を顰めてから笑い合う。
「歩いて十分も掛からないんだけど、大丈夫? タクシー拾おっか」
「いや、日傘持ってますし。友梨さんが大丈夫なら、道順も覚えたいので歩けますよ」
「じゃあ行こっか」
「はい」
 折りたたみの日傘を広げると、ジリジリと肌が焼けるほどの日差しの下を、友梨さんの案内で歩き始める。
「ごめんね、こんな暑いと思わないしさ。家に行ったらすぐに換気して冷房入れないとね」
「そんな、お気遣いなく」
「熱中症で倒れちゃうから気にしないで。普段は管理をお任せしてる人が、空気の入れ替えとかをしてくれてるんだけど、今日はその日じゃなくて。ごめんね」
「いえいえ、大丈夫ですよ。でも管理をお任せするって凄いですね」
「無駄に広いから維持と管理がね。そういうことだから、香澄ちゃんが住むことになっても、他の部屋の掃除なんかは気にしなくて良いからね」
「なんだか申し訳ない気がしますね」
「いや、家を見ればなんとなく分かるわよ」
 駅からの順路を確認しつつ、世間話をしながらしばらく歩くと、大きな公園を通り過ぎて住宅街に向かって行く。
 やはり夏休みだからか、あちこちで子どもの姿を見かける。
「そういえば友梨さん、今日はお子さんは大丈夫だったんですか」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

妖狐の嫁入り

山田あとり
恋愛
「――おまえを祓うなどできない。あきらめて、俺と生きてくれ」 稲荷神社の娘・遥香(はるか)は、妖狐の血をひくために狐憑きとさげすまれ、ひっそり生きてきた。 ある日、村八分となっている遥香を探して来たのは怨霊や魔物を祓う軍人・彰良(あきら)。 彼は陰陽師の名門・芳川家の男だった。 帝国陸軍で共に任務にあたることになった二人だったが、実は彰良にもある秘密が――。 自己評価は低いが芯に強さを秘める女が、理解者を得て才能を開花させる!   & 苦しみを抱え屈折した男が、真っ直ぐな優しさに触れ愛を知る! 明治中期風の横浜と帝都を駆ける、あやかし異能ロマンス譚です。 可愛い妖怪・豆腐小僧も戦うよ! ※この作品は、カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

腹黒外科医に唆された件~恋人(仮)のはずが迫られています~

有木珠乃
恋愛
両親を亡くし、二人だけの姉妹になった一ノ瀬栞と琴美。 ある日、栞は轢き逃げ事故に遭い、姉の琴美が務める病院に入院することになる。 そこで初めて知る、琴美の婚約者の存在。 彼らの逢引きを確保するために利用される栞と外科医の岡。 「二人で自由にならないか?」を囁かれて……。

身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される

絵麻
恋愛
 桐島花は父が病没後、継母義妹に虐げられて、使用人同然の生活を送っていた。  父の財産も尽きかけた頃、義妹に縁談が舞い込むが継母は花を嫁がせた。  理由は多額の結納金を手に入れるため。  相手は二十五歳も歳上の、海軍の大佐だという。  放り出すように、嫁がされた花を待っていたものは。  地味で冴えないと卑下された日々、花の真の力が時東邸で活かされる。  

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

僕の姉的存在の幼馴染が、あきらかに僕に好意を持っている件〜

柿 心刃
恋愛
僕の幼馴染で姉的な存在である西田香奈は、眉目秀麗・品行方正・成績優秀と三拍子揃った女の子だ。彼女は、この辺りじゃ有名な女子校に通っている。僕とは何の接点もないように思える香奈姉ちゃんが、ある日、急に僕に急接近してきた。 僕の名は、周防楓。 女子校とは反対側にある男子校に通う、ごく普通の男子だ。

不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました

入海月子
恋愛
有本瑞希 仕事に燃える設計士 27歳 × 黒瀬諒 飄々として軽い一級建築士 35歳 女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。 彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。 ある日、同僚のミスが発覚して――。

祖父の遺言で崖っぷちの私。クールな年下後輩と契約結婚したら、実は彼の方が私にぞっこんでした。

久遠翠
恋愛
広告代理店で働く仕事一筋のアラサー女子・葉月美桜。彼女の前に突きつけられたのは「三十歳までに結婚しなければ、実家の老舗和菓子屋は人手に渡る」という祖父の遺言だった。崖っぷちの美桜に手を差し伸べたのは、社内で『氷の王子』と噂されるクールな年下後輩・一条蓮。「僕と契約結婚しませんか?」――利害一致で始まった、期限付きの偽りの夫婦生活。しかし、同居するうちに見えてきた彼の意外な素顔に、美桜の心は揺れ動く。料理上手で、猫が好きで、夜中に一人でピアノを弾く彼。契約違反だと分かっているのに、この温かい日だまりのような時間に、いつしか本気で惹かれていた。これは、氷のように冷たい契約から始まる、不器用で甘い、とろけるような恋の物語。

お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜

Adria
恋愛
仕事ばかりをしている娘の将来を案じた両親に泣かれて、うっかり頷いてしまった瑞希はお見合いに行かなければならなくなった。 渋々お見合いの席に行くと、そこにいたのは瑞希の勤め先の社長だった!? 合理的で無駄が嫌いという噂がある冷徹社長を前にして、瑞希は「冗談じゃない!」と、その場から逃亡―― だが、ひょんなことから彼に瑞希が自社の社員であることがバレてしまうと、彼は結婚前提の同棲を迫ってくる。 「君の未来をくれないか?」と求愛してくる彼の強引さに翻弄されながらも、瑞希は次第に溺れていき…… 《エブリスタ、ムーンにも投稿しています》

処理中です...