30 / 65
9-1
しおりを挟む
とりあえず樹貴さんには私の部屋で過ごしてもらうことにして、泣きじゃくる美咲を家に迎え入れると、冷えた麦茶をグラスに注いでダイニングテーブルに向かい合って座る。
「ちょっとは落ち着いた?」
「ごめん香澄。突然押し掛けて来て」
「それは気にしなくて良いよ」
「でも玄関に男物の靴があった」
「そういうのは見てんのね」
私の部屋に樹貴さんが居ることを断ってから、別の場所で話すなら出掛けても良いと切り出すと、美咲は大丈夫だと答える。
「突然押し掛けて来てごめん。今日休みだったら良いなと思って、とりあえず来てみたの。でも香澄にしか相談出来なくて」
口を開いたかと思えばまた泣き始めた美咲にティッシュを箱ごと渡すと、落ち着くのを待ってどうしたのかと理由を尋ねてみることにした。
「私にしか相談出来ないって、出産のことで何かトラブル? それとも石井くんとケンカでもしたの」
ゆっくりで良いよと付け足して、まだ啜り泣きする美咲の顔を覗き込む。
「赤ちゃんは元気だよ、心配させてごめん」
「ならやっぱり石井くんと揉めたの」
「 徳明が隠れて元カノと会ってて、しかもその元カノが妊娠してるって話を聞いちゃって」
「は? それって石井くんの子どもってこと?」
「分かんない。徳明に説明しろって言ったんだけど、お前が気にすることじゃないってその一点張りで。もう、訳が分かんなくて」
「なにそれ。説明もないってこと」
「こんな状態で、結婚なんて無理だよ」
美咲はそう言うとまた号泣し始めた。
ことの発端は美咲の夫である石井くんが会社の飲み会に参加したことで、元カノはどうやら会社の同僚らしく、別れてからも友だちだとか気楽な関係で付き合いが続いていたそうだ。
男女の友情については、他人が自分の倫理観で強く肯定も否定も出来ないのが難しいところで、別れて他人になったからこそ深まる絆もあるのかも知れない。
擁護するつもりはないけど、別れた二人が、まして同じ職場なら、気まずい関係よりも友情に昇華した方が、お互いに気が楽だったパターンなんだろうか。
とりあえず話を本題に戻すと、会社の飲み会を切っ掛けに、石井くんは元カノから相談事と称して二人きりで会うことが増えたのだと言う。
美咲がそれを知っているのは、石井くんの友だちで、美咲とも仲が良い梅原くんが心配して打ち明けてくれたからだそうだ。
私からしたら、本質が不明瞭なのに不安を煽ることをするんじゃないよと怒りが込み上げるけど、梅原くんからしてみれば、元カノと内緒で会ってる石井くんを見過ごせなかったのだろう。
元カノが妊娠してる可能性があるなら尚更、美咲にそれを黙ってる石井くんのことが理解出来なかったのかも知れない。
「だからね、徳明にウメから聞いたって言ったんだけど、そんなんじゃないからって。理由も言う必要ないとしか言わなくて」
「そうだったんだ」
私と美咲は高校が違うし、石井くんとは最近になってから関わったから、彼の本質をそれほど知ってる訳じゃないけど、浮気や二股を器用にこなせるタイプだとは思えない。
だけどそれを今の美咲に言ったところで、他に行き場がない彼女が納得して頷くとも思えない。
「それで、石井くんは他には何か言ってなかったの」
「そんなに信用出来ないのかとか、めちゃくちゃ逆ギレされて。もうあんな奴と一緒に住むとか無理」
「ああ、大ゲンカしちゃったんだね」
「香澄はどう思う」
「どうって」
「浮気されるような私が悪いのかな」
「いやいや。まず本当に浮気なのかどうかも分からないんだし、もう少しちゃんと話は出来ないのかな」
「だって、徳明すぐキレるんだもん」
「石井くんって、そんな人なの」
「後ろめたいから怒るんだよ。絶対浮気してる」
興奮した美咲がダイニングテーブルを叩きつけて、大きな音が部屋に響く。
そりゃ確かに石井くんの反応は怪しさ満点だけど、いくら授かり婚とはいえ、既に籍も入れた嫁が居るのに、平然と他所で子作りするような人だろうか。
「ちょっとは落ち着いた?」
「ごめん香澄。突然押し掛けて来て」
「それは気にしなくて良いよ」
「でも玄関に男物の靴があった」
「そういうのは見てんのね」
私の部屋に樹貴さんが居ることを断ってから、別の場所で話すなら出掛けても良いと切り出すと、美咲は大丈夫だと答える。
「突然押し掛けて来てごめん。今日休みだったら良いなと思って、とりあえず来てみたの。でも香澄にしか相談出来なくて」
口を開いたかと思えばまた泣き始めた美咲にティッシュを箱ごと渡すと、落ち着くのを待ってどうしたのかと理由を尋ねてみることにした。
「私にしか相談出来ないって、出産のことで何かトラブル? それとも石井くんとケンカでもしたの」
ゆっくりで良いよと付け足して、まだ啜り泣きする美咲の顔を覗き込む。
「赤ちゃんは元気だよ、心配させてごめん」
「ならやっぱり石井くんと揉めたの」
「 徳明が隠れて元カノと会ってて、しかもその元カノが妊娠してるって話を聞いちゃって」
「は? それって石井くんの子どもってこと?」
「分かんない。徳明に説明しろって言ったんだけど、お前が気にすることじゃないってその一点張りで。もう、訳が分かんなくて」
「なにそれ。説明もないってこと」
「こんな状態で、結婚なんて無理だよ」
美咲はそう言うとまた号泣し始めた。
ことの発端は美咲の夫である石井くんが会社の飲み会に参加したことで、元カノはどうやら会社の同僚らしく、別れてからも友だちだとか気楽な関係で付き合いが続いていたそうだ。
男女の友情については、他人が自分の倫理観で強く肯定も否定も出来ないのが難しいところで、別れて他人になったからこそ深まる絆もあるのかも知れない。
擁護するつもりはないけど、別れた二人が、まして同じ職場なら、気まずい関係よりも友情に昇華した方が、お互いに気が楽だったパターンなんだろうか。
とりあえず話を本題に戻すと、会社の飲み会を切っ掛けに、石井くんは元カノから相談事と称して二人きりで会うことが増えたのだと言う。
美咲がそれを知っているのは、石井くんの友だちで、美咲とも仲が良い梅原くんが心配して打ち明けてくれたからだそうだ。
私からしたら、本質が不明瞭なのに不安を煽ることをするんじゃないよと怒りが込み上げるけど、梅原くんからしてみれば、元カノと内緒で会ってる石井くんを見過ごせなかったのだろう。
元カノが妊娠してる可能性があるなら尚更、美咲にそれを黙ってる石井くんのことが理解出来なかったのかも知れない。
「だからね、徳明にウメから聞いたって言ったんだけど、そんなんじゃないからって。理由も言う必要ないとしか言わなくて」
「そうだったんだ」
私と美咲は高校が違うし、石井くんとは最近になってから関わったから、彼の本質をそれほど知ってる訳じゃないけど、浮気や二股を器用にこなせるタイプだとは思えない。
だけどそれを今の美咲に言ったところで、他に行き場がない彼女が納得して頷くとも思えない。
「それで、石井くんは他には何か言ってなかったの」
「そんなに信用出来ないのかとか、めちゃくちゃ逆ギレされて。もうあんな奴と一緒に住むとか無理」
「ああ、大ゲンカしちゃったんだね」
「香澄はどう思う」
「どうって」
「浮気されるような私が悪いのかな」
「いやいや。まず本当に浮気なのかどうかも分からないんだし、もう少しちゃんと話は出来ないのかな」
「だって、徳明すぐキレるんだもん」
「石井くんって、そんな人なの」
「後ろめたいから怒るんだよ。絶対浮気してる」
興奮した美咲がダイニングテーブルを叩きつけて、大きな音が部屋に響く。
そりゃ確かに石井くんの反応は怪しさ満点だけど、いくら授かり婚とはいえ、既に籍も入れた嫁が居るのに、平然と他所で子作りするような人だろうか。
1
あなたにおすすめの小説
妖狐の嫁入り
山田あとり
恋愛
「――おまえを祓うなどできない。あきらめて、俺と生きてくれ」
稲荷神社の娘・遥香(はるか)は、妖狐の血をひくために狐憑きとさげすまれ、ひっそり生きてきた。
ある日、村八分となっている遥香を探して来たのは怨霊や魔物を祓う軍人・彰良(あきら)。
彼は陰陽師の名門・芳川家の男だった。
帝国陸軍で共に任務にあたることになった二人だったが、実は彰良にもある秘密が――。
自己評価は低いが芯に強さを秘める女が、理解者を得て才能を開花させる!
&
苦しみを抱え屈折した男が、真っ直ぐな優しさに触れ愛を知る!
明治中期風の横浜と帝都を駆ける、あやかし異能ロマンス譚です。
可愛い妖怪・豆腐小僧も戦うよ!
※この作品は、カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
腹黒外科医に唆された件~恋人(仮)のはずが迫られています~
有木珠乃
恋愛
両親を亡くし、二人だけの姉妹になった一ノ瀬栞と琴美。
ある日、栞は轢き逃げ事故に遭い、姉の琴美が務める病院に入院することになる。
そこで初めて知る、琴美の婚約者の存在。
彼らの逢引きを確保するために利用される栞と外科医の岡。
「二人で自由にならないか?」を囁かれて……。
身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される
絵麻
恋愛
桐島花は父が病没後、継母義妹に虐げられて、使用人同然の生活を送っていた。
父の財産も尽きかけた頃、義妹に縁談が舞い込むが継母は花を嫁がせた。
理由は多額の結納金を手に入れるため。
相手は二十五歳も歳上の、海軍の大佐だという。
放り出すように、嫁がされた花を待っていたものは。
地味で冴えないと卑下された日々、花の真の力が時東邸で活かされる。
天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、
自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。
……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!?
「転ばないで」
「可愛いって言うのは僕の役目」
「固定回復役だから。僕の」
優しいのに過保護。
仲間のはずなのに距離が近い。
しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。
鈍感で頑張り屋なリィナと、
策を捨てるほど恋に負けていくカイの、
コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕!
「遅いままでいい――置いていかないから。」
僕の姉的存在の幼馴染が、あきらかに僕に好意を持っている件〜
柿 心刃
恋愛
僕の幼馴染で姉的な存在である西田香奈は、眉目秀麗・品行方正・成績優秀と三拍子揃った女の子だ。彼女は、この辺りじゃ有名な女子校に通っている。僕とは何の接点もないように思える香奈姉ちゃんが、ある日、急に僕に急接近してきた。
僕の名は、周防楓。
女子校とは反対側にある男子校に通う、ごく普通の男子だ。
不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました
入海月子
恋愛
有本瑞希
仕事に燃える設計士 27歳
×
黒瀬諒
飄々として軽い一級建築士 35歳
女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。
彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。
ある日、同僚のミスが発覚して――。
祖父の遺言で崖っぷちの私。クールな年下後輩と契約結婚したら、実は彼の方が私にぞっこんでした。
久遠翠
恋愛
広告代理店で働く仕事一筋のアラサー女子・葉月美桜。彼女の前に突きつけられたのは「三十歳までに結婚しなければ、実家の老舗和菓子屋は人手に渡る」という祖父の遺言だった。崖っぷちの美桜に手を差し伸べたのは、社内で『氷の王子』と噂されるクールな年下後輩・一条蓮。「僕と契約結婚しませんか?」――利害一致で始まった、期限付きの偽りの夫婦生活。しかし、同居するうちに見えてきた彼の意外な素顔に、美桜の心は揺れ動く。料理上手で、猫が好きで、夜中に一人でピアノを弾く彼。契約違反だと分かっているのに、この温かい日だまりのような時間に、いつしか本気で惹かれていた。これは、氷のように冷たい契約から始まる、不器用で甘い、とろけるような恋の物語。
お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜
Adria
恋愛
仕事ばかりをしている娘の将来を案じた両親に泣かれて、うっかり頷いてしまった瑞希はお見合いに行かなければならなくなった。
渋々お見合いの席に行くと、そこにいたのは瑞希の勤め先の社長だった!?
合理的で無駄が嫌いという噂がある冷徹社長を前にして、瑞希は「冗談じゃない!」と、その場から逃亡――
だが、ひょんなことから彼に瑞希が自社の社員であることがバレてしまうと、彼は結婚前提の同棲を迫ってくる。
「君の未来をくれないか?」と求愛してくる彼の強引さに翻弄されながらも、瑞希は次第に溺れていき……
《エブリスタ、ムーンにも投稿しています》
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる