初恋は溺愛で。〈一夜だけのはずが、遊び人を卒業して平凡な私と恋をするそうです〉

濘-NEI-

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 うちのマンションから一番近い樹貴さんのお店に移動すると、事前に連絡をしてくれていたからか、レンタル用の浴衣を幾つも用意してくれていて、選ぶのに苦労した。
 そして着付けとヘアメイクを整えてもらうと、私は紺色で星座が描かれた変わったデザインの浴衣に水色の帯をして、美咲は白地に金魚の浴衣に臙脂の帯。
 二人で仕上がりにはしゃいでいると、着付けとヘアメイクを終えた樹貴さんが登場して、美咲と二人で息を呑む。
「そんなに変かな」
「いえ、逆です」
「はは。お気に召したなら何よりだよ」
 樹貴さんは黒いデニム生地の浴衣に紺色の帯を締めて、片側の横髪を編み込んでハーフアップにしてある。
「ちょっと、香澄の彼氏さんカッコ良すぎない」
「本当。私なんかが彼女で大丈夫なのかな」
「いやいや、自分のお店に堂々と連れてくるんだから、香澄を自慢したいんだよ。なんで素敵なオジサマなんだろうね。私にまで優しいし、スパダリじゃん」
 スタッフと何かやり取りする樹貴さんを見つめながら、美咲と二人でそんなやり取りをしていると、用事を終えたらしく、笑顔を浮かべた樹貴さんが私たちを迎えに来た。
「じゃあ行こうか」
「はい」
 スタッフさんたちに挨拶を済ませると、ヘアサロンを出て再び車に乗り込んだ。
 移動中は私と美咲がいつから仲良くなったのか、どうしてルームシェアをすることになったのか、懐かしい話をして楽しく過ごし、会場まではあっという間のドライブになった。
 そして近場の駐車場になんとか車を停めると、樹貴さんがいつの間にかトートバッグを肩に掛けていることに気が付いて、どうしたのかと聞いてみる。
「樹貴さん、荷物持ってましたっけ」
「ああ、これ? 店からレジャーシート借りて来た。場所が取れたらだけど、座って見られた方がいいでしょ」
「すみません。全然思い付かなかった」
「そうだろうと思ってた」
 可笑しそうに肩を揺らしながら、美咲が危ないからと私たち二人を一緒に歩かせて、樹貴さんはさりげなく後ろからついてくる形で、混雑したお祭り会場を歩いていく。
 しばらく歩くと視界が開けて、座って花火を見ることが出来そうな場所を見付けたので、樹貴さんが用意してくれたレジャーシートを早速広げて場所を確保する。
「ここまで来たら、飲み物とか食べ物も欲しいよね」
「そうですね。美咲は何食べたい?」
「焼きそばとかお好み焼きみたいなやつが恋しい」
「分かる」
「じゃあ、俺が適当に買ってくるよ」
 樹貴さんは、私と美咲はここで待つように座っててと言ってその場を離れようとしたけど、美咲がそれを引き留める。
「私が留守番しておくので、香澄と一緒行ってください。短い時間ですけど、せっかくだから浴衣デート楽しんでください」
 美咲に促されて樹貴さんと目を合わせると、行こうかと差し出された手を取った。
「じゃあ留守番しててね。迷ったら電話する」
「迷わず帰って来てね、寂しいから」
 手を振ってその場を離れると、屋台が並ぶ場所まで引き返して樹貴さんと一緒に色々露店を見て回る。
「俺は運転があるし、お友だちも妊婦さんだから飲めないよね」
「そうですね。私も明日は仕事だし、ソフトドリンクにします」
 美咲のリクエストに応えるべく、焼きそばとお好み焼きの他にたこ焼きと、串焼きや焼き鳥なんかも買って、最後にジュースを買ってから、人でごった返す通路をゆっくり進む。
 こんな人混みの中でも、やっぱり樹貴さんは目立つのか、すれ違う人の中には、ポーッとした様子で樹貴さんに見惚れてる女性もチラホラ見掛けて、チリッと胸が痛む。
「どうしたの」
「いや、樹貴さんに見惚れてる女の人が居たので」
「そうなの? 俺には香澄ちゃんのうなじしか目に入ってない」
 そう言って身を屈めると、人混みなのを良いことに耳元に囁くふりをして首筋にチュッとキスされた。
「ちょっと、樹貴さん」
「今日はお友だちが来たから、途中でお預け喰らって我慢してるんだよ、これでも」
「それは、私もです」
「あれ。いつもみたいに怒らないんだ」
「私はいつも素直ですよ」
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