初恋は溺愛で。〈一夜だけのはずが、遊び人を卒業して平凡な私と恋をするそうです〉

濘-NEI-

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 家に帰ると、美咲が使っていた部屋に客用の布団を敷いて、疲れたからそのまま眠るというので、おやすみを言って部屋を出た。
「お疲れ様。彼女もう寝るって?」
「はい。あれだけ泣いたから疲れたんじゃないですかね。それに旦那さんと電話してるみたいです。多分ですけど」
「そっか。落ち着くと良いね」
「そうですね」
 ソファーに座る樹貴さんの隣に腰掛けると、何を話すでもなく樹貴さんにもたれかかって肩に頭を置く。
「どうしたの」
「なんでもないんです。でも美咲の気持ちがなんとなく分かるというか」
「その旦那くんが浮気してるってこと?」
「それも含めて、好きな人に隠し事されるのは辛いなって思ったんです」
「そっか」
「樹貴さんは私より大人ですし、色んな経験があったのも、頭では理解してるんです。あえて言う必要がないことがあるってことも」
「俺のことを知りたくなった?」
「少なくとも、他の誰かから聞かされるのは堪えるだろうなって思います」
「隠してることはないけど、話してないことならまだまだあるからね。それは香澄ちゃんも同じじゃないかな」
「そうですね。そうかも知れません」
 落ち着かせるような手つきで頭を撫でられると、樹貴さんの全てを知りたいような知らなくても良いような複雑な気分になる。
 どうしたって人生経験の長さが違うんだから、知りたくない過去の恋愛についても、樹貴さんなら色々と抱えているだろう。
 全てが終わったことだと言っても、美咲じゃないけど、樹貴さんの今までの相手がどんな人か分かってしまったら、勝手に凹むだろうし傷ついてしまう気がする。
「香澄ちゃん、そう言えば明日は仕事なんだよね」
「はい。樹貴さんもお仕事ですよね。何時に起きますか」
「昼からだから、ゆっくりで大丈夫なんだけど、香澄ちゃんは朝からだよね」
「いえ、明日は遅番なんで、お見送り出来ますよ」
「そうなんだね。じゃあ夜更かししても問題ないワケだ」
「夜更かし? そうですね、お酒飲みますか」
 言葉の意図がよく分からないまま笑顔を向けて、お酒を取りに立ちあがろうとした手を掴まれて、ちょっと強引に抱き寄せられる。
「うわっ」
「まさか夜更かしって、朝までカード遊びとか、そういうことだと思ってないよね」
「えっと」
「それとも、お友だちが家に帰るまでは、ずっとお預けなのかな」
 耳元に囁かれて一気に顔が赤くなる。
 普通に考えたら分かりそうなものなのに、美咲が居るからと安心しきってたけど、樹貴さんはどうやら私とは違う考えだったらしい。
「でも、部屋もそんなに離れてませんし」
「声抑えてみたらどう」
「どうと言われましても」
「そんなに嫌なの」
「嫌っていうか、普通に気恥ずかしいですから」
「そうか、なるほどね。じゃ、とりあえずはお酒飲もうか」
 納得してくれたのか、樹貴さんは私の手を握ったままソファーから立ち上がると、私の手を引いてキッチンに移動する。
 さすがに美咲が居るのに、平然とオトナの空気に持ち込むのは恥ずかしい気持ちがある。
「そう言えばせっかく浴衣なのに写真撮りそびれたね」
「私はちゃっかり樹貴さんの浴衣姿撮影しましたよ」
「そうなの?」
「ええ。隙を見てしっかりと」
「でもせっかくだから二人で撮らない? ベランダとかでも良いし」
「二人でですか」
「そう。せっかくデートだったワケだし」
 少し濃い目のハイボールを作って、お互いにグラスを手にリビングからベランダに出ると、樹貴さんは提案通りスマホを持って私にピタッと体を寄せる。
「グラス持ってて」
「はい」
 グラスを受け取ると肩を抱かれて、夜空を背景に何枚か写真を撮る。
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