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仕事が忙しすぎて癒しが欲しい。
可愛い恋人に会うことすらままならないのは、大口の仕事を引き受けたことが大きな原因で、その他にも四半期決算を前に、普段は人任せにしてる事務仕事が増えたせいもある。
「嫌われたのかな」
既読がつく様子がないスマホのメッセージ画面を見つめていると、情けない独り言がつい口から溢れて小さく首を振る。
「樹貴くん」
「なに? 今度はどうしたの」
それに原因はもう一つ。多分彼女ことが可愛い恋人の耳にも入ってしまったのかも知れない。
「ごめんね、樹貴くん。仕事忙しいんでしょ」
「大丈夫だよ。お前だって他に頼れる相手は居ないんだから。俺にくらい甘えて良いんだよ」
「でも」
「ほら、また体調崩したら赤ちゃんにも負担が掛かるんだから。喉乾いたのか? とりあえずベッドで休んでろ」
身重の彼女を宥めると、寝室のベッドに寝かせてから、キッチンでオレンジジュースを炭酸で割って、彼女が飲みやすいと言ったドリンクを作る。
元村 遥香。
彼女と俺の関係は少し複雑で、しかも彼女が今置かれている立場も微妙であり、肉親や頼れる相手さえも失った遥香の力になってやりたいと思うのは、妙な責任感だろうか。
遥香は昔、俺の親父が不倫して出来た異母妹で、親父の不倫相手は病気で既に他界してる。
成人するまでは親父が養育費を渡してたようだけど、親戚からは不倫の末に産んだ子だと、白い目を向けられて育って来たようだ。
「ほら、これ飲んで」
「ごめんね、樹貴くん」
実の父親である俺の親父は、結局のところお袋を一番愛していたのか、うちの家庭は崩壊を免れたけど、遥香にとってはそうじゃない。
遥香の母親が病弱だったこともあり、うちのお袋も寛容な人で、小さい時は友梨も一緒に兄妹で遊んで過ごすこともあった。
だけど思春期を迎えた頃になると、当然だけど友梨は親父と遥香を嫌悪するようになり、俺たちが兄妹揃って顔を合わせる機会はなくなった。
「切迫流産しそうになったんだ。無理しないでゆっくり寝てろ」
「うん。ありがとう、樹貴くん」
遥香からグラスを受け取ると、布団を掛け直してやってキッチンに戻る。
親父から頼まれてるというのもあるが、ただでさえ不倫の末に生まれ、片親だけの環境で育ち、その母親も体が強くないせいで既に他界。
その上、婚約者を交通事故で亡くして、絶望の淵に立たされて自殺未遂を図った遥香が、片方とはいえ血が繋がった妹が哀れで、可哀想だと同情してしまうのかも知れない。
グラスを洗って片付けると、物置きに使ってた納戸に移動して、広げたマットレスの上に寝転ぶ。
「あの電話、聞いてたんだろうな」
相変わらず既読がつかず、電話をしても出る気配がない恋人との間に生まれた軋轢。
仕事帰りに、たまたま見つけてふらっと寄った中華屋で、隣に座る彼女を見つけた時は、正直言って目が釘付けになった。
スッと背筋が伸びていて、今時珍しくカラーも入れていない健康的な黒い髪。
洒落っ気のないポニーテールは、毛先が肩甲骨の辺りで揺れていて、一人で食べに来ているのになんだか堂々としてる姿が凛として映った。
ビールを豪快に呷るのに、しゃっくりが止まらない様子があまりにも可愛くて、思わず自分から声を掛けてしまった。
彼女はこんなオッサンの俺相手でも嫌な顔をすることなく、あんまり可愛く笑うから、離れがたくて飲みに誘った。
目の前の彼女のことが知りたくて名前すら聞いてないことに気付きもしないで、劣情に任せて彼女を抱いてしまった俺を待っていたのは、一人で目覚める朝だった。
確かに俺は、親父の不倫のこともあって、愛情なんてものを信用してなかったし、この歳になるまで相手に困ることもなかったから好き勝手に生きてきた。
可愛い恋人に会うことすらままならないのは、大口の仕事を引き受けたことが大きな原因で、その他にも四半期決算を前に、普段は人任せにしてる事務仕事が増えたせいもある。
「嫌われたのかな」
既読がつく様子がないスマホのメッセージ画面を見つめていると、情けない独り言がつい口から溢れて小さく首を振る。
「樹貴くん」
「なに? 今度はどうしたの」
それに原因はもう一つ。多分彼女ことが可愛い恋人の耳にも入ってしまったのかも知れない。
「ごめんね、樹貴くん。仕事忙しいんでしょ」
「大丈夫だよ。お前だって他に頼れる相手は居ないんだから。俺にくらい甘えて良いんだよ」
「でも」
「ほら、また体調崩したら赤ちゃんにも負担が掛かるんだから。喉乾いたのか? とりあえずベッドで休んでろ」
身重の彼女を宥めると、寝室のベッドに寝かせてから、キッチンでオレンジジュースを炭酸で割って、彼女が飲みやすいと言ったドリンクを作る。
元村 遥香。
彼女と俺の関係は少し複雑で、しかも彼女が今置かれている立場も微妙であり、肉親や頼れる相手さえも失った遥香の力になってやりたいと思うのは、妙な責任感だろうか。
遥香は昔、俺の親父が不倫して出来た異母妹で、親父の不倫相手は病気で既に他界してる。
成人するまでは親父が養育費を渡してたようだけど、親戚からは不倫の末に産んだ子だと、白い目を向けられて育って来たようだ。
「ほら、これ飲んで」
「ごめんね、樹貴くん」
実の父親である俺の親父は、結局のところお袋を一番愛していたのか、うちの家庭は崩壊を免れたけど、遥香にとってはそうじゃない。
遥香の母親が病弱だったこともあり、うちのお袋も寛容な人で、小さい時は友梨も一緒に兄妹で遊んで過ごすこともあった。
だけど思春期を迎えた頃になると、当然だけど友梨は親父と遥香を嫌悪するようになり、俺たちが兄妹揃って顔を合わせる機会はなくなった。
「切迫流産しそうになったんだ。無理しないでゆっくり寝てろ」
「うん。ありがとう、樹貴くん」
遥香からグラスを受け取ると、布団を掛け直してやってキッチンに戻る。
親父から頼まれてるというのもあるが、ただでさえ不倫の末に生まれ、片親だけの環境で育ち、その母親も体が強くないせいで既に他界。
その上、婚約者を交通事故で亡くして、絶望の淵に立たされて自殺未遂を図った遥香が、片方とはいえ血が繋がった妹が哀れで、可哀想だと同情してしまうのかも知れない。
グラスを洗って片付けると、物置きに使ってた納戸に移動して、広げたマットレスの上に寝転ぶ。
「あの電話、聞いてたんだろうな」
相変わらず既読がつかず、電話をしても出る気配がない恋人との間に生まれた軋轢。
仕事帰りに、たまたま見つけてふらっと寄った中華屋で、隣に座る彼女を見つけた時は、正直言って目が釘付けになった。
スッと背筋が伸びていて、今時珍しくカラーも入れていない健康的な黒い髪。
洒落っ気のないポニーテールは、毛先が肩甲骨の辺りで揺れていて、一人で食べに来ているのになんだか堂々としてる姿が凛として映った。
ビールを豪快に呷るのに、しゃっくりが止まらない様子があまりにも可愛くて、思わず自分から声を掛けてしまった。
彼女はこんなオッサンの俺相手でも嫌な顔をすることなく、あんまり可愛く笑うから、離れがたくて飲みに誘った。
目の前の彼女のことが知りたくて名前すら聞いてないことに気付きもしないで、劣情に任せて彼女を抱いてしまった俺を待っていたのは、一人で目覚める朝だった。
確かに俺は、親父の不倫のこともあって、愛情なんてものを信用してなかったし、この歳になるまで相手に困ることもなかったから好き勝手に生きてきた。
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